【M&A】デューデリジェンスと在庫評価について、棚卸資産の評価基準を解説
- M&Aコンサルティングレポート
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1.デューデリジェンスとは
M&Aにおいて、買収企業が対象企業の情報や実態を把握し、問題点を洗い出すことは必須の手続きです。これをデューデリジェンス(DD)といい、デューデリジェンスには財務、税務、法務、ビジネスなど様々な領域があり、専門的な知識が必要となります。税務・財務DDは公認会計士や税理士といった専門家が過去の業績データや貸借対照表の内容などを分析するもので、対象会社の収益性や財務状況を把握することを目的に行われます。ビジネスDDでは対象会社の事業内容や市場、競合他社を分析します。税務・財務DDとビジネスDDは事業計画や株式価値評価に反映されます。法務DDは弁護士が対象会社の契約内容や特許、法令順守状況を調査します。デューデリジェンスによって何らかの問題を発見した場合、買収企業は対象企業に対して、表明保証や買収価格の引き下げを要求したりしますが、買収自体が中止される可能性もあります。
2.対象企業の持つ資産・負債の評価
M&Aによって買収企業が対象企業を支配する場合、対象企業の財務諸表を連結処理することになります。このとき、対象企業の持つ資産・負債は時価で計上されます。この処理をPPA(Purchase Price Allocation)といいます。「取得原価の配分」という意味で、貸借対照表に記載された資産・負債において時価評価を行います。通常、資産・負債の価格はデューデリジェンスによって把握されており、棚卸資産の評価を除き、時価評価はほとんど完了していることが多いです。棚卸資産の評価額は想定売価から売却に必要な費用と販売活動に対する利益相当額を控除して算定します。
棚卸資産の評価額 = 想定売価 ー 〔売却に必要な費用 + 利益相当額〕
買収した企業が多額の棚卸資産を保有している場合や粗利率が高い棚卸資産を保有している場合は棚卸資産の評価額によっては会社に大きな影響を与える可能性もあり、特に注意が必要です。
3.期末における棚卸資産と評価方法
事業者が販売することを目的に仕入れ、決済時にも所有している資産のことです。例としては商品、製品、半製品、原材料、仕掛品、不動産業における土地・建物が含まれます。評価方法としては大きく分けて①原価法と②低価法があります。
①原価法:棚卸資産の取得原価をもとに計算する方法で、6種類あります。
・個別法:期末の棚卸資産すべてにおいて個々の取得原価によって評価します。個別管理が可能な資 産のみに有効です。
・先入先出法:先に入れたものが先に払い出されたと評価する方法で、新しく仕入れた棚卸資産が反映されます。
・移動平均法:棚卸資産を取得するたびに、仕入れ価格の平均を算出し棚卸資産の評価価格とします。
・総平均法:期首と期中の棚卸資産の平均単価で評価します。
・売価還元法:期末棚卸資産の販売価額に原価率を乗じて評価します。多種な棚卸資産を有する業種向きで、小売業で主に使われています。
・最終仕入原価法:年度の最後の仕入れ価格を棚卸資産の取得価格とする方法です。
②低価法:棚卸資産の期末時点の時価と帳簿価格を比較し、より低額だった方を評価額とする手法、業績の良くない事業年度の税負担を軽くすることができます。
4.PPAにおける棚卸資産の評価
実務の中で、PPAにおける棚卸資産の評価方法には「時価」で評価するものがあります。時価とは「第三者との取引における公正な評価額」であり、「正味売却価額」から「販売活動に伴う利益」を差し引いて算出します。また、製品、商品、仕掛金については「売却したらいくらになるか?」という観点から、「正味売却価格」で評価するものがあります。「正味売却価額」とは売価から見積追加製造原価と見積販売直接経費を控除した金額のことです。
帳簿価格と時価を比較し、低い方を計上する低額法によって棚卸資産が評価されていた場合でも、PPAの際には時価もしくは正味売却価額で評価されます。正味売却価額を使う場合、貸借対照表の計上額に含み損の分は反映されているため、時価評価によって含み益が発生することになります。含み益が発生することによって棚卸資産の簿価が上昇することで、企業統合後の売上総利益が悪化します。
棚卸資産の評価において正味売却価額を採用することを前提としたケースを数値を使って説明します。
PPA実施前の簿価:60で正味売却価額:80の場合、PPAでは80と評価されます。企業結合後、この資産を売価:100で売却すると、売上総利益に20が計上されます。仮にPPAによる時価評価がなければ、売却による売上総利益は40が計上されていたはずで、20計上されていた含み益の分売上総利益が悪化します。
5.まとめ
企業買収を行う過程で、買収企業は対象企業の状況や業績をデューデリジェンスによって調査します。そこで対象企業の保有する資産・負債は時価評価され、これをPPAといいます。また、対象企業が買収されるまで行っていた棚卸資産の期末評価は原価法・低価法の2種類あります。低価法の評価が行われていて、時価評価と帳簿価格が異なっていても、PPAの処理によって時価評価に修正されます。棚卸資産は評価額によっては会社に大きな影響を与える可能性もあることから、注意が必要です。
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