食品製造業の業界動向、及びM&Aで押さえておくべきポイント
- 食品製造・食品卸 M&Aレポート
食品製造業を経営されているオーナー経営者向けの記事です。食品製造業界のM&Aの動向や、M&Aのメリット・デメリット、そしてM&Aを考え始めた際にオーナー経営者が押さえておくべきポイントを、解説させて頂いています。M&Aが活発化している食品製造業界において、その背景と、成長する企業がどのような戦略を描き、M&Aを実践されているのか、そのヒントを見つける機会になれば幸いです。
コンテンツ
食品製造業の市場規模
経済産業省が実施している工業統計調査の2020年産業別統計表(確報)によりますと、2019年実績における食料品製造業の市場規模は29兆8,572億円で前年比0.3%増、従業員4名以上の企業数は23,648社で前年比3.3%減となっております。市場規模はここ5年、毎年1%前後の伸びを見せていますが、逆に企業数はここ5年間毎年3%強の減少を示しています。この背景には、食品製造業の労働生産性(≒付加価値額÷従業員数)が製造業全体のそれと比較して劣後していることに対する改善が徐々に起きている現れ、とも受け取れます(2019年の食品製造業の労働生産性は9.1百万円/人に対し、製造業の労働生産性は13百万円/人でした:「工業統計調査」に基づく農林水産省作成)。
食品製造業の市場の動向と変化
食品製造業では、底流として、高齢化及び人口減少による国内市場の縮小が進む中、日本食や日本ブランドの評価が高まる中で海外輸出が近年伸長しています。2020年においても、水産物の輸出は落ち込みましたが、日本酒を含む加工食品や畜産品の輸出が伸び、全体の増加傾向を維持しています。
また、新型コロナウイルス感染症により、食料品の消費面で市場は大きく変化しました。外出の自粛や緊急事態宣言等により、業務用食品やお土産関連食品の需要は大きく減少する一方、生鮮食品を含む家庭用食料品の需要は大きく増加し、高止まりしています。
食品製造業におけるM&Aの概観
食品製造業では、国内市場縮小に伴う競争激化や、アフターコロナを見据えた経営基盤の強化、新興国の経済発展を背景とした原材料価格の高騰、また後継者不足等を背景に、業界再編やM&Aが進行しています。2021年においても件数は前年から4割強増加し、その形態も、近隣同業による買収から飛び地の同業買収、異分野の食品製造会社による買収から、全くの異業種による買収、さらに金融投資家による買収まで、多様なプレイヤーによるM&A事例が見られます(レコフデータ参照)。
食品製造業M&Aによる売手/対象会社のメリット
食品製造業界のM&Aにおいて、売手/対象会社側で享受しやすいメリットとしては、販売先の拡充、仕入先への交渉力向上、購買・物流のコストダウン、信用力の向上、品質・経営管理ノウハウの共有、商品開発力や人材の補強、などが具現化されています。
またオーナーや従業員の立場から見れば、雇用の維持や地場産業の堅守、後継者問題の解決や個人保証・担保の解消なども挙げられます。
食品製造業M&Aによる買手のメリット
食品製造業のM&Aで買手が享受しやすいメリットは、(周辺領域の)商品群の拡充、新しい販売チャネルの獲得によるクロスセル、新しい製造拠点・物流拠点の獲得による商圏の拡大、事業基盤の拡大によるスケールメリット、などが挙げられます。
買手から見た食品製造業M&Aのポイント
上記食品製造業のM&Aにおけるメリットを踏まえ、買手が求める譲渡企業のポイントまで少し掘り下げますと、以下の要件を備えている企業を買手は高く評価する傾向があります。
1)商品(開発)力、及びブランド力
消費者に支持されるような商品力やブランド力を有している企業は、比較的販売が安定しており、買手側の販路提供によってさらに売上増加が見込まれます。
また、ブランド力がある場合、買手の他商品とのコラボレーションも組みやすく、買手側の売上拡大も期待できます。
2)新たな販売チャネル
最初の取引を始めるまでが一つのハードルとなっており、買手企業にはない販売チャネルは魅力的です。昨今では、特に海外への販路チャネルを持つ企業の評価は高まる傾向にあります。
3)製造工場の質、及び拠点立地の適合性
食の安全に対する社会的要請はますます高まっており、製造工場が安全衛生面の基準をクリアしているか、また建築基準法にも適合しているか、といった視点は、買手がM&A検討時に見る最重要ポイントの一つとなります。
また、製造設備の更新が適時に行われているか(買収後の追加投資の要否)という点も、買手の譲渡価格の目線に大きな影響を与えるケースがあります。
その他、対象会社の拠点立地と、買手側にとって強化したいエリア及び既存の物流網との適合性といった観点も、買手側の買収判断や評価の高低に影響を与えることがあります。
昨今の食品製造業界におけるM&A事例
栃木屋が七越を完全子会社化
2021年11月に、広島県の創業71年を有する菓子メーカー(有)栃木屋が、富山県の創業68年を有する菓子メーカー(株)七越をM&Aにより子会社化しました。栃木屋は主に豆菓子・ナッツ菓子を製造して全国へ販売しており、同社の全国販路を活かした七越製品(七越焼)の展開や、北陸の七越販路を活かした栃木屋製品の展開を推進。老舗菓子メーカー同士の協業によるブランド力強化に繋げる。
丸大食品がトーラクを完全子会社化
2020年5月に、ハムやソーセージ等の食肉加工会社である丸大食品(大阪府)が、乳加工製品の製造会社トーラクをM&Aにより子会社化しました。
トーラクは神戸を代表するお土産品である「神戸プリン」や、ホイップ済みクリームでトップシェアを誇る「らくらくホイップ」などブランド力のある商品を有する。丸大食品は、双方の販売力、商品力、研究開発力を融合することで、品揃えの強化や新しい価値創造を図る。
亀田製菓がマイセンを子会社化
2019年2月に、「柿の種」「ハッピーターン」などの米菓メーカー亀田製菓(新潟県)が、玄米パンやベジタリアンミート等のグルテンフリー食品製造会社マイセン(福井県)の株式90%を取得しました。。亀田製菓は連結売上高約1,000億円、マイセンは売上高約4億円。
近年のアレルギー対応を含む健康志向食品の需要増加も受け、亀田製菓は米菓以外の食品製造の強化を目的に子会社化を実施。具体的には玄米などを使った新製品の開発を進めるほか、販路や製造ノウハウなども両社で共有する
オーケー食品工業がべジプロフーズを完全子会社化
2017年5月に、味付け油揚げ製造のリーディングカンパニーであるオーケー食品工業(福岡県)は、債務超過で赤字のべジプロフーズ(埼玉県)を子会社化しました。オーケー食品工業は売上92億円、べジプロフーズは業務用味付け油揚げ等の製造会社で売上約7億円。
オーケー食品工業は、今後の業容拡大と取引先への製品供給の円滑化のため、関東圏内に生産拠点を有するべジプロフーズをグループ化したと見られる。
いかがでしたでしょうか。
私たち船井総合研究所には、食品業界専門のコンサルタントも多数在籍しており、M&A実績が豊富なメンバーとも適宜連携しながら、経営者に伴走するアドバイザリー業務を追及しております。もし食品製造業に関するM&Aに関心をお持ちになられた際には、是非船井総合研究所にお問い合わせ下さいませ。
中小企業サポートのエフアンドエムにて個人事業主・法人の支援をした後、雑貨企画販売業のシンシアの財務担当役員として就任。2022年に企業の経営実務を知るコンサルタントとして船井総研M&A支援部に参画。
大西 由訓の紹介ページはこちら 船井総研のM&Aの特徴とM&Aに関する解説ページはこちら