M&A後の譲渡企業
会社をM&Aで譲渡後、社長の人生・生活はどうなるか?
「株式を譲渡(会社を売却)したら社長ではなくなる」と思われている方も多いかもしれませんが、実際にはケースバイケースです。
私たちがM&Aの現場でご支援させていただいたケースでは、売主側が「社長として残りたい」と意思表示をすれば、社長として残ることができる可能性が高いです。一方で、「譲渡して引退したい」や「次の事業を行いたい」と意思表示をすれば、その希望も実現する可能性が高くなります。
つまり、M&Aにおいて株式を譲渡した際の現経営者の立ち位置は、ある程度自分の意思で決めることができます。ただし、株主が別の方になるため、M&A後、取締役の任期ごとに選任されないことも稀にあります。
役員報酬に関しては、譲り受け企業側の役員報酬との兼ね合いもあるため下がる場合もありますが、その場合は株価に反映させ譲渡金額を高めることができます。
譲渡により創業者利益(譲渡益)を得て、その後も役員報酬をもらいながら今まで通りの生活を送ることができるのは一つのメリットです。社長継続を望まない場合は、譲渡益を得て役員を退任する形になります。
社長として残った場合のデメリットとしては、今までオーナー経営者として自由に使えた接待交際費等の経費が制限されることがあります。しかし、ある社長は「企業が成長するという目的で譲渡したと考えれば、接待交際費の制限は仕方ない。それに対価をもらっているのだから」と話していました。
オーナー経営者ではなくなるため、全てを一人で決める自由度は少なくなりますが、その代わりに責任が軽くなり、個人保証が外れるなどのメリットもあります。
譲渡企業の従業員への影響
株式譲渡後、オーナーが変わることで従業員は最初は驚き、不安に感じることが多いですが、雇用条件などが突如変更されることは法律で禁じられているため、その点は安心できます。
オペレーション等の変更は譲り受け企業次第で、企業が成長するために親会社からノウハウが注入されることもあります。従業員が引き続き働き続けるかどうかは、元のオーナー経営者の引継ぎが重要です。元オーナー経営者が最低でも2年~3年は会社に残り、親会社と従業員の間を取り持つと、雇用関係がうまく継続できるケースが多いです。 譲渡後すぐに退任するケースでは、従業員が退職する確率が高まります。しかし、上場企業が譲り受け企業であれば、住宅ローンが通りやすくなるなどプライベートにおけるメリットも少なからずあります。
会社を譲渡(売却)する社長のメリット・デメリット
メリット
1. 譲渡対価を受け取ることができる
非上場企業の株式は市場での売買がなされないため、現金化する手法は限られます。第三者への株式譲渡では複数社と交渉し、自社の市場評価額で取引を行えるため、譲渡対価が高くなり手残りが増えます。
2. 個人保証が外れる
銀行からの融資を受ける際、個人保証をいれているオーナー経営者も多いですが、M&Aで株式を譲渡した際には個人保証が外れることが一般的です。これにより、責任が軽くなるというメリットがあります。
3. 後継者問題に悩まなくて済む
後継者が見つからない場合、M&Aによって後継者問題を解決できることもメリットです。適任者がいない場合でも、引き受け企業が人材を送り出してくれる場合もあります。
デメリット
1. 経営の自由度が少なくなる
オーナー経営者と比較すると、経費の使用や接待交際費に制限がかかるなど、経営の自由度が少なくなります。ただし、あくまでもガバナンスの一環であり、経営者としての立ち位置は変わりません。
2. 社内の反発・ハレーションを調整しなければならない
株式譲渡後、社内での反発が生じることがあります。「なぜあの会社に譲渡するのか」「社長だけが良い思いをしてずるい」といった声が上がることもありますが、丁寧に説明を行い、従業員に納得してもらうことが重要です。
会社を譲渡(売却)する従業員のメリット・デメリット
メリット
1. 雇用が維持される
譲渡によって従業員の雇用が維持されます。後継者が見つからず廃業する場合、雇用が失われることがありますが、M&Aによる譲渡ではそのリスクが減ります。
2. 待遇がプラスになる場合がある
譲り受け企業が大きな会社であれば、待遇や福利厚生が充実する場合があります。労働環境も改善されることがあります。
3. 住宅ローンが借りやすくなることがある
譲り受け企業が上場企業である場合、住宅ローンが組みやすくなる副次的なメリットがあります。
デメリット
1. オペレーションの変革を求められることがある
今までの業務の流れを変えなければならないことがあり、従業員にとってはストレスとなることがあります。バックオフィス業務でも変更を求められることがあり、企業成長のためには必要な変革ですが、ドラスティックに変わることがあります。
2. 今までと違う業務をしなければならなくなることがある
稟議の流れやホウレンソウの方法を変更するなど、業務内容を変更しなければならないケースも多くあります。
会社を譲渡(売却)する会社のメリット・デメリット
メリット
1. 企業文化やアイデンティティを守ることができる
譲渡すると企業文化が消えると思われがちですが、成長を前提に企業文化を守ることを価値とする企業もあります。
2. 社名や屋号を守ることができる
株式譲渡の場合、社名や屋号を維持することが可能です。吸収合併などのスキームでは社名が消滅することもありますが、株式譲渡や会社分割では社名が残る傾向にあります。
3. 投資できる資金が多くなる
譲り受け企業が大手資本に代わることで、借入枠が大きくなり、投資予算を増やすことができます。
デメリット
1. 従業員が離散する場合がある
オーナーが変わることで従業員が退職する可能性があります。オーナー社長が譲渡後すぐに経営から離れると、従業員が離散するリスクが高まります。
2. 任期を迎えると退任しなければならない場合がある
経営者として残留したものの、期待した結果が残せない場合、退任を求められることがあります。契約書に「何年間は経営者として残る」という条件を盛り込むことがありますが、この期間が終わると、取締役の任期で選任されない場合もあります。
M&A専門家の役割が重要
譲渡を検討する場合、専門家を介さずに直接知り合いと交渉するケースもありますが、M&Aには多くの交渉が必要です。経営者自身のこと、従業員のこと、社名や屋号のこと、譲渡対価の設定など考慮すべきことは数多くあります。また、表明保証として、もしもの場合に契約違反として訴えを起こされるリスクもあります。
そのようなリスクを避けるためにも、M&Aの専門家と相談しながら進めることが重要です。株主であるご自身、従業員、会社を守るために、M&Aを検討し始めたらまずは経験豊富な専門家に相談することをお勧めします。
船井総研では無料のご相談やセカンドオピニオンサービスなども承っておりますので、お気軽にご相談ください。