M&Aの歴史と今後の展望
- M&Aコンサルティングレポート
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黎明期におけるM&Aの失敗
高度成長期からバブル好景気の1980年代、そして、バブル好景気の債権処理に追われた1990年代はM&A活用の黎明期と考えられます。どちらかと言えば、今後の教訓に活かされる失敗事例の方が目立つ時期です。一時的に成功したと考えられる事例でも、最終的に、失敗した事例も多くあります。
例えば、M&Aを活用して事業拡大に成功した企業・ダイエー(小売業)です。1970年代よりM&Aも活用し、店舗数を拡大していきます。しかしながら、バブル期の土地評価を担保としたM&A成立スキームであったこともあり、バブル崩壊後の含み損が痛手となりました。バブル好景気前後は金融機関自身も時流を読み誤り、不良債権処理に懸命だったころです。当時のM&Aをサポートした金融機関も、ダイエーの含み損による倒産は読み切れなかったと思われます。また、含み損という括りでは三菱不動産のロックフェラーセンター買収や、松下電器のアメリカのユニバーサル(当時MCA)買収も、同じく大きな含み損を抱えての撤退事例となりました。当時は「アメリカの魂を買った」と言われたM&Aも三菱不動産が約1500億円、松下電器は1600億円の損失を計上しています。
失敗事例が目立ったこの頃は、金融機関が貸付先の業績不振の企業を救う「救済型M&A」が主とも言われる時代です。そして、結果として失敗に着地してしまったのは、投資銀行やM&A仲介のコンサルティング会社をはじめとしたM&A成立をサポートする並走者が不在であったことも要因と考えられます。
M&A成長期を支えた黒子役の存在
バブル期の不良債権処理が一段落し始めた頃、IT企業のM&A活用事例が目立つようになります。ソフトバンクのボーダーフォン買収が2006年。楽天が2000年の店頭公開後にM&Aを活用した事業拡大を進めたのも2000年代以降です。また、アメリカではAmazon等がM&Aを活用した事業拡大を進めたのも2000年代以降になります。例えば、Amazonは2009年にザッポス(靴の通販)を買収。Facebookがinstagramを買収したのは2012年になります。このころからM&Aは「戦略的M&A」が目立つようになりました。
これは企業経営においてM&A活用方法が上手になったことに加えて、投資銀行やM&A仲介のコンサルティング会社が増えたことも要因と考えられます。高額報酬に嫉妬と批判が出がちな投資銀行各社やM&A仲介コンサルティング会社も、こうして歴史を紐解くとその存在は非常に大きいと考えられるのです。
中小企業もM&Aを有効活用する時代へ
前節までは大型案件の事例を取り上げてきました。しかしながら、2010年以降は特に中小企業がM&Aを有効活用するのが時流適応であると考えられる時期になったといえます。事業承継としてのM&Aはその一例です。後継者不在の企業様がM&Aを活用して事業継承を行うというスキームは一般的になりました。経営者としても、経営者業が終身雇用ではなくなったのです。これは非常に大きなことであると言えます。激務を続ける経営者には「事業を売却して経営者業を卒業する」という選択肢が得られたのは非常に魅力的なことだと見ることができるでしょう。
また、経営者が「新規ビジネスへの参入・多角化経営をいち早く実現するためのM&A」や「グループ内再編を実現するM&A」も選択できるようになってきました。例えばですが、新規ビジネスは「自前での新規の立ち上げ」「FC加盟」、そして「M&A」といった選択肢があります。それぞれにメリット・デメリットがあるなか、「M&A」による新規ビジネス参入は「時間」「人的資源」などを買えるのが最大のメリットです。加えて、実績のある企業を買収する場合、投資回収も試算し易いメリットがあります。
一方で、これは個人的な意見になりますが、特に日本の中小企業における海外案件のM&Aは成功しにくい状況が続くとも考えられます。いわゆるカントリーリスクや為替のリスクを日本の中小企業が吸収しきれないと思われるからです。それだけでなく、言葉の壁も大きいと言えます。それらのリスクを冒すよりも、日本国内でのM&A活用に成功することが中小企業の優先事項になると思われます。その経験値が豊富となってから、日本企業による海外案件のM&Aが発展してゆくことになるのではないか、と考えられます。
今後のM&A時流について
今後、M&Aの成約件数は、増加の一途を辿ることになると考えられます。というのも、過去は「乗っ取り」「敵対的買収」「簿外債務を負わされる」といったイメージが先行していたM&Aですが、法整備や各種情報が増えることで有効活用されることが増えてきているためです。中には失敗事例も出てくるでしょうが、中小企業におけるM&A活用はこれからが成長期であると考えられます。「シェアアップ」や「人材育成」等で業績アップを積み重ねていく手法を継続しながら、是非、企業規模にとらわれず、自社の業務拡大において「M&A」という選択肢も有効活用していただければ、と思います。
1996年に新卒で船井総合研究所に入社。1998年よりパチンコ業界のコンサルティングに従事。2019年にパチンコ法人のM&A仲介案件に初めて関わり、その後、パチンコ法人向けM&Aコンサルティングに従事している。著書『マルハンはなぜトップ企業になったか』
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