上場企業経営から「経営者保証なき経営」を学ぶ
- M&Aコンサルティングレポート
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はじめに
上場と耳にすると、サラリーマンの筆者はもちろん、非上場企業の経営者の方の多くにおいても非現実的なもの・遠い世界のワードと感じてしまうのではないでしょうか。
2019年9月には東証一部上場企業である株式会社ZOZOの創業者・前澤友作氏がヤフーからのTOB(公開買付け)に賛同して傘下入りし、代表取締役を勇退するとともに、数千億円という天文学的な株式売却益を手にする…というニュースもありましたが、数字を見せつけられるとますます身近な出来事とは思えなくなります。
前澤氏は保有株の一部を銀行に担保提供していたという話もあったのでこの限りでないにしても、経営者として成功を収めたのちにリタイヤし、次の夢に向かう十分な元手も得て、上場企業の役員という重責から解放されるというシナリオは、まさに資本主義下の成功像と言えるでしょう(※)。
ところで、経営者責任という観点では、上場・非上場に関係なくその責任の重さは変わりがないのではと考えます。公共性の高さ・知名度の観点では上場企業が圧倒的ですが、多くの場合上場企業経営者は、上場時に金融機関からの「経営者保証」を解除しており、この観点では多くの場合保証債務をもって経営している非上場企業経営者の方が、圧倒的に重責を抱えているとも言えるでしょう。
いざ企業が傾いた際には、上場であればあらゆる資金調達の手段を取ることができても、非上場企業の最終責任者は常に「経営者(≒オーナー)」です。
また2013年12月には「経営者保証に関するガイドライン研究会」(以下、「ガイドライン」)では、中小企業経営者の経営者保証を、条件を満たせば柔軟に金融機関が解除するよう対応する方針が発表されましたが、下記【資料2】の通り取組開始~2019年3月までの「政府系金融機関での新規融資に占める経営者保証に依存しない融資の割合」は30%未満であり、10人に7人の経営者は依然として保証を抱えているとも言えます。
【資料1】全国銀行協会「経営者保証に関するガイドライン」
https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/adr/sme/guideline.pdf
(2019年9月23日時点・全国銀行協会ホームページより引用)
【資料2】中小企業庁「政府系金融機関(※1)における「経営者保証に関するガイドライン」の活用実績」https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/keieihosyou/jisseki.html
(2019年9月23日時点・中小企業庁ホームページより引用)
どのようにすれば、上場企業のように経営者保証なしで取引を継続することができるのか。
言い換えれば、上場企業の「どこ」を学べば、理想的な企業を目指すことができるのか。
今回はガイドラインを紐解きながら、このテーマに関して考えたいと思います。
(※)
もちろん、ZOZOがここまで来るには経営の難局・会社を手放す際の苦渋の決断・従業員への想いといった、想像を絶するドラマがあったのは想像に難くないところで、まずはいち企業人としてその姿から学び取れる部分を大事にしたいと思います。
ポイントは「ガラス張り経営」 上場企業IRより学ぶ
非上場企業に絶対的になくて上場企業は必然と持っているもの、これは言わずもがな経営の透明性です。上場企業は一般株主(=企業への出資者)に対する権利を保全するために、四半期ごとに必ず業績を開示しなければならないルールがあるだけではなく、経営に影響がある重大情報に関しても即座に開示する責任を持っています。
筆者が所属する船井総合研究所の親会社である船井総研ホールディングスもまた上場企業であり、IRサイトを設けて適宜、役員の就任や業績説明のための動画が更新されています。
【資料3】船井総研HD「IRニュース」
https://hd.funaisoken.co.jp/ir/ir_news.html
(2019年9月23日時点・船井総研ホールディングスホームページより引用)
実は、2013年12月から前述のガイドラインが発信している「中小企業のあるべき姿」も、まさにこうしたガラス張りの経営であることは、ご存知でしょうか。
たとえば、ガイドラインが主張する「主たる債務者及び保証人」に対するチェック項目として、
①法人と経営者との関係の明確な区分・分離
②財務基盤の強化
③財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保
という3項目が明記されていますが、これはまさに上場企業、あるいは上場を目指す企業が目指すべき理想的な姿そのものであり、つまり上場を目指せば目指すほど、経営者保証に依存しない企業へと進化できると言えるのです。
(「経営者保証に関するガイドライン研究会 (1)主たる債務者及び保証人における対応 4~5頁参照
https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/adr/sme/guideline.pdf
(2019年9月23日時点・全国銀行協会ホームページより引用))
もう少し身近な話に落とし込むと、
皆様は以下のような経営ができているでしょうか。
①試算表は月末締め、翌月上旬にはすぐに完成し、経営陣で財務情報を即時共有している。
②自社でKPI(目標)としている数字はリアルタイムに管理しており、現状把握ができる。
③金融機関、主要取引先に対して経営状況を適切な資料を添えて説明できる。
④社内の役員クラスは自社の経営状況に関して数字ベースで把握している。
これらは一見レベルの高いことのように見えますが、上場企業が当然のように日々取り組んでいるレベルの業務とも言うことができます。
経営者保証解除を目指すため、あるいはその先に見える上場という1つの大きな手段に向かって、これらを実行・実現していくのはいかがでしょうか。
まとめ:上場も成功の先にある「地続きの場所」
今回は、上場企業が当たり前のように取り組んでいる情報の即時開示、あるいは適切な財務状況把握といった行動が、実は非上場企業の経営者の多くが抱えている経営者保証をなくす1つのキーワードになっている、という話を取り扱いました。
もうお気づきかもしれませんが、実は自社が仮に上場を目指す意向のない企業だったとしても、経営者保証の解除、事業承継・M&Aによる会社存続、あるいはホールディングス化といった組織再編を目指すうえで、これら取り組みは当然のようにできるべきことです。上場企業を1つの理想的なモデルとして経営・財務管理を行うことが、ひいては今後の事業展開の選択肢を増やす一手となるはずです。
取組みには、財務・税務・労務・法務…あらゆる知識を駆使する必要も出てくるため、時には自社内のリソースだけではなく、専門家への外注も必要となってくるかと思います。
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2004年船井総合研究所に中途入社。以降、成熟産業を中心に事業再生案件に従事。金融円滑化法や金融支援に伴う再生支援実績は40件を超す。M&Aでは3件の法的整理(会社更生法2社・民事再生法1社)に伴うスポンサー募集をはじめ、中規模以上のアドバイザリー業務に従事。不採算事業売却や成熟事業売却などのM&Aを得意とする。一般社団法人日本ターンアラウンド・マネジメント協会準会員。
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