M&Aを事業承継の選択肢として取り入れる
- 事業承継
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はじめに
事業を子どもに承継するか?右腕社員に承継すべきか?自分の代で整理するか?事業承継は経営者の最後の、そして最大の経営課題です。
この課題に向き合う際、経営者はあらゆる可能性を検討し慎重に決断するべきです。名経営者と言われてきた経営者も、この最後の決断を間違ったばかりに次の代で会社を整理する・・・・・・といったことはよくあるからです。
「経営のプロ」に承継するM&Aで困難な経営課題に対応しやすくなる
事業継承を考える際、私が薦めるのはM&Aによる第三者への承継についても検討し、研究しておくことです。
M&Aというと悪い印象がある経営者も多いかも知れません。しかし、事業承継の現場を見ていると、むしろ良い点が多くあります。
例えば、いわゆる優良企業ほどM&Aでの事業承継に向いています。なぜなら優良企業ほど経営の難易度が高く、身内という限られた選択肢の中では適任者を見つけるのが困難だからです。「M&Aの結果、外部からの経営者が来ることで従業員が不幸になるのではないか?」と心配される経営者も多いですが、実際はむしろ逆です。新しい専門的な知識や経験がある経営者のもとで、事業が安定し、結果として従業員の待遇が改善され、従業員の満足につながることも多いものです。
敵対的M&Aは大企業の話中小企業では友好的であることが多い
またM&Aというと、敵対的買収などといったネガティブなイメージがあるかも知れません。しかし実は、敵対的M&Aが行われているのは大企業です。中小企業のM&Aは
ほとんどが友好的M&Aです。なぜなら、中小企業の場合はオーナー社長、つまり株主と経営者が同一人物であることが多いからです。経営者が心から信頼できない相手からの買収話は断ればよいわけで、敵対的買収のリスクはきわめて低いのです。
事業承継は、ご自身の引退時期や、親子の関係などデリケートな問題のため、先送りになりがちです。いわゆる緊急性は低いが重要性が高い課題の典型です。
だからこそ、まずは選択肢を排除せずM&Aのメリットやデメリットを正しく理解するなど、情報を収集するところからはじめ、その上で一番良い決断をくだすべきなのです。
事業をM&Aで売却する場合、どのように価格は決定されるのでしょうか。
「買う側」が見るのは過去よりも未来
ここに、二つの会社がM&Aの売却候補としてM&A市場にでているとします。一つは過去の実績が素晴らしく名声もあるが、将来の収益性がいまひとつ不透明な会社。もう一つは創業間もなく知名度も低い会社だが、将来の収益見込みが高い会社です。この場合、M&Aで高い評価を受けるのは、後者です。
つまり過去の実績より未来の価値が評価されるのがM&Aの世界です。大変な思いで事業を成功させた経営者にとっては「過去実績」を評価して欲しいとだれもが考えますが、M&Aの世界では、「将来価値」こそ重要なのです。
これは買う側の視点に立てばわかります。例えば、これまでオーナー社長の個人の営業力や技術力、カリスマ性によって業績を伸ばしてきた会社の場合、知名度や歴史があっても社長がいなくなれば業績がどうなるかはわかりません。
一方で、将来まで収益を出し続けられる仕組み(ビジネスモデル)がある企業は、例え現在の知名度や実績が低くても将来の収益が計算できます。そうした企業であれば買う側にとってはリスクが低く、価値が高いのです。
新規参入がしにくい事業環境の場合M&Aの需要が高い
将来価値は業種によっても高く計算されやすい業界があります。そうした業界では当然、M&Aの需要が高い傾向にあります。例えば自動車教習所など、大型の設備や許認可が必要で、新規参入の障壁が高い企業です。社長が交代しても、新規参入がなく需要も見込め続けるのであれば将来の利益が計算できるからです。
また例えば商圏内に既にぱちんこ店が5店あり飽和状態で、マーケットの拡大の余地が少ないような場合も需要があります。買う側にとっては、新店を立ち上げて6店目として参入するよりも、既存のライバル店のいずれかを買収したほうが、失敗リスクも少なく投資も抑えられるからです。
中小企業のM&Aの場合、向こう3~5年でどれだけの収益が得られるかで将来価値を測られることが多いようです。自分の会社や業界がM&Aの際にどれだけ評価されやすい業界なのか、売るとすればいつが一番良いタイミングなのかは研究する必要があります。
M&Aによる事業承継を実際に行う際、経営者が気をつけておくべきことについて説明します。
「売らざるを得ない」状態で売ったら絶対にダメ。日ごろから成長戦略が描けているか?
企業の将来価値を高めることこそが、必要であるということをお話しました。将来価値を高めることは一朝一夕ではできません。M&Aによる事業承継を成功させることを考えると、売らざるを得ないタイミングになってから慌てていては遅いのです。
「M&Aによる企業の売却」を「家の売却」に例えてみましょう。家庭内に事情があってすぐに売る必要があったとします。その場合、不動産屋に相談しても、老朽化して若い人が住みたくないような家では買いたたかれてしまうのがオチです。もし、以前から、適正価格を調べ、正当に評価してくれる買い手を探していれば、買いたたかれることはありません。また売却を念頭にリフォームをするなど手入れをして、魅力的な物件に見せる努力をしていれば相場以上の高い値段で売却することも可能になるのです。
企業でいうと、経営者が突然の事態に陥り、承継する人材がいないので仕方なく手放す、といった事態が一番の問題です。日ごろから成長戦略を描き、将来価値を高め、いざという時の準備をしておく必要があるのです。
親身に成長を願い、将来価値を適正に評価してくれる相談者が必要
準備の次に大事なのは、家を売るにしても事業をM&Aする場合でも重要なのは、信頼できるパートナーです。安い価格で買い叩く仲介業者ではなく、適正な価格算出ができ、理想の買い手を見つけることができる仲介業者の存在は必要不可欠です。
団塊世代が70歳を越えリタイヤする年代になったこともあり、船井総合研究所にも、事業承継に関するご相談が年々増えています。そこで我々もこうしたM&Aがともなう事業承継に充実したサービスが提供できるよう、みらいコンサルティンググループと業務提携を行い、この分野のサービスを強化しています。
残念ながら現在、日本の中小企業向けM&Aに関するコンサルティングは選択肢が少なく、まだまだ劣悪な環境にあると私は認識しています。しかしそのメリットを考えると、「良い準備」と「良い相談者」が確保できれば日本でもM&Aを使った事業承継の成功例が増加し、主流になっていくと確信しています。まずは研究するところからはじめてみてはいかがでしょうか。
税務監査・財務コンサルティングの業務経験に加え、事業承継・事業再生コンサルティングの成功経験を多く持つ。2017年10月に船井総研中途入社後、M&Aコンサルティングにより22件の案件成約を担当。 現在、船井総研における事業承継・M&Aコンサルティングの中核的な役割を担う。
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