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介護業界の動向とM&A

  • 医療・介護 M&Aレポート

今回は介護業界の動向とM&Aに関して情報提供させていただきます。

介護業界の市場動向

介護市場のマクロ的動向としては、おおむね市場規模拡大の傾向にあるかと言えます。その主な要因としては、「高齢社会による需要拡大」があります。『令和元年度介護保険事業状況報告』(厚生労働省)によれば、要介護(要支援)認定者数は6,686千人となっています。前年度の6,582千人よりおよそ1.6%増加しており、10年前(平成21年度)と比較すれば、およそ38.0%もの増加がみられます。長寿大国として知られる日本ではありますが、その分、要介護者数は年々増加しており、今後の増加も明白です。次に介護事業者数に目を向けると、2020年(1∼12月)に全国で新しく設立された「老人福祉・介護事業者」の法人数は、2,746社(前年比10.3%増)となっています。コロナウイルスの影響により6月まで前年を下回る数値となっていましたが、7月以降は増加に転じています。

平成23年以降では、新設法人数は平成25年の3,773社がピークとなっており、2015年度の介護報酬の改定(マイナス方向)の影響により、平成26年から5年連続で減少が続くなど介護業界への参入に足踏みする状況が続いていました。平成30年度以降は、介護報酬の改定(プラス方向)に加え、自立支援や家族介護と関連付けられるデイサービスなどの「通所・短期入所介護事業」の新設法人数が伸びています。また、コロナ禍で介護事業の重要性が再認識されたことも増加の要因であると考えられます。令和3年度の介護報酬の改定(プラス方向)も追い風となり、今後も介護事業者の新設が見込まれます。少子高齢化で介護事業者の重要性が増す中、介護者の採用や離職の防止、より質の高い介護サービスが求められる時代となり、介護業界の再編はさらに加速していくと考えられます。

介護業界においてのM&A

先述したように、介護市場は高齢社会によって拡大傾向にあり、同時に新規法人設立数が増加していることから、業界再編は進んでいくことが考えられます。そのような介護業界において、M&Aという選択がどのように行われ、どのようなメリットがあるのかご紹介します。まずM&Aのメリットとして考えられるのは「顧客の確保」でしょう。これは特に買収側のメリットとなります。要介護(要支援)認定者数の増加率が前年比1.6%に対し、新設老人福祉・介護事業者数の増加率が前年比10.3%となっていることから、1事業者数当たりの要介護(要支援)認定者数は年々減少していることが推測されます。つまり、新規参入が増加している介護業界で淘汰されず生き残っていくためには、「顧客(要介護者)数を囲い込むこと」が重要な課題となっています。

また、顧客数の増加は収入基盤の強化に繋がり、単純な介護収入だけでなく関連商品の収入の増加や、銀行との交渉等についてもメリットが考えられます。M&Aは既に事業を行っている会社を買収するわけですから、その会社が抱えていた顧客をそのまま譲り受けることができます。さらにM&Aによって獲得した顧客に対して、自社の付帯サービスや関連商品を提供することにより売上の拡大、いわゆるシナジーを見込むことができます。自社単体で営業を行い、広告を打ち、顧客拡大の戦略を練るのであれば、一度M&Aを戦略的なものとして検討されてはいかがでしょうか。

次にメリットとして挙げられるのは、「介護人材の確保」です。これは買収側・売却側双方にとって大きなメリットとなり得ます。介護人材の不足は全国的な課題となっていますが、特に中小企業の社長様にとっては常に考えなければならない問題かと推察します。厚生労働省によれば、介護分野における有効求人倍率(有効求人数/有効求職者数:数値が1以下であれば求職者数の方が多い)は平成30年度で3.95であり、「依然として高い水準にあり、全職業より高い水準で推移している。」としています。さらに、『平成29年度介護労働実態調査』によれば、介護サービスに従事する従業員の過不足状況において、不足感(大いに不足+不足+やや不足)を感じている事業所は、全体の66.6%であり、年々増加しています。また同報告によれば、介護人材不足の要因として、「採用が困難である」と回答した事業所が全体の88.5%もおり、さらに採用が困難であることの要因として、「同業他社との人材獲得競争が厳しい」との回答が最も多かったとあります。

M&Aは先述したように、既に事業を行っている会社を買収するため、買収側にとっては、現場の人材を一度に確保することができます。仮に介護業界へ新規参入しようとする会社であれば、「介護事業をしている」という認知度が必要になり、多額の広告宣伝費を捻出する必要があります。また買い手側が既に介護事業をしている場合でも、新しく進出するエリアにおいて、1から人材を採用するのは非常に大変なことかと思います。「自社で出すか、その地域で既に事業をしている会社を買収するか」を天秤にかけ、一度コスト面を比較されてはいかがでしょうか。

売却側としても、規模が大きい会社への売却することで、地域の中小企業では限界があった部分(会社の認知度・待遇など)の改善が見込めます。既存の従業員について、売却することで待遇が悪くなることはありませんしそれどころか待遇が良くなったと喜ばれるケースも多くあります。人材の採用についてお悩みの経営者様も一度売却(大手へのグループイン)を一度検討されることをお勧めします。

M&Aで注意したいポイント

M&Aは戦略的に行えば買収側、売却側ともに、課題解決・規模拡大に非常に効果的な選択となりますが、注意しなければならないポイントをいくつかご紹介します。主要ポイントとして、

・「買収する会社の株価算出」

・「シナジー効果の可能性」

・「買収後・売却後の運営体制」

があります。買収する際には、株価を算出して対価を支払うことになりますが、そのためにはその会社が年間どれだけキャッシュを生み出しているかを正確に判断する必要があります。これはEBITDAといい、営業利益とも違った指標になります。さらにその会社を買収した場合(その会社に売却した場合)、自社の既存事業・商品とシナジー効果は考えられるか(例えば、介護事業であれば獲得した顧客へ付帯サービスを提供できるか等)を考慮し、検討する必要があります。

売却側にとっても、売却対価は非常に重要な項目ですし、双方が納得いくよう客観的に判断しなければなりません。また、忘れがちになりますが、「買収後の運営体制」も買収検討段階で考えておく必要があります。どんな組織か、社長は継続可能なのか、従業員の離職予定はないか、買収側から役員が派遣されるのか、会議はどれくらいの頻度で行うのか、実質的に経営は誰がするのか等互いに細かくヒアリングし、納得いく運営体制を決定する必要があります。

M&Aもつまるところは、「人と人」ですので、「なんか気に入らないからこの会社は嫌だ」等感情的な要素も少なからず存在します。双方の同意がなければ成立しないため、今すぐにM&Aを検討しない場合でも、絶対に譲れない条件や譲歩できる条件などを事前に考えておくことが重要になります。船井総研では、決算書をお預かりし、客観的な視点から無料で簡易的な企業価値評価を行っております。ご関心をお持ちの場合は、一度ご連絡ください。

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