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医療業界(病院・クリニック)のM&A動向について

  • 医療・介護 M&Aレポート

①医療業界M&Aの動向

近年、後継者不在によるM&A件数が増えており、2021年は公表されているデータだけでも4,200件を超え過去最高件数を記録しました。また、M&Aは株式会社だけではなく医療業界でも対象となります。
病院だと20床以上、診療所(クリニック)では19床以下と定義がなされており、当コラムでは、主にクリニックのM&Aについて解説していきます。
またクリニックでも運営主体が個人事業主としてのクリニックや、医療法人としてクリニックがあることで譲渡方法が異なってきますが後述致します。

②医療業界M&A~売却のメリット~

医師には定年がないため、医師自身が勇退のタイミングを決めるべき時がきます。
また医療法により後継者には「医師であること」が求められるため、承継を希望したタイミングで適切な後継者が出てくるとは限りません。

✓医師(院長)が高齢となった
✓子供が医師にならなかったケース、医師となっても継がずに別の場所で開業・勤務医となっている。
✓診療報酬の改定の影響が強い
✓経営難が続いている
✓建物の大規模修繕が予定され、承継する子供に金銭的に大きな負担となるケース

何らかの事情があっても地域医療のため閉院できないといった事情を優先される方が多く、医師自身の勇退がいつまでも目途が立ちません。また診療の継続が求められている地で、後継者に負担を大きく残さず上記の経営課題を解決する方法としてM&Aが選択されています。

③医療業界M&A~買い手のメリット~

買い手のメリットとして、既存医療拠点がある買い手、開業意欲がある買い手(個人Dr)の譲受のメリットがあります。

✓新規開業よりコストを抑えられる
✓医療スタッフを引き継ぐことができる
✓患者さん、カルテを引き継ぐことができる
✓設備を譲り受けることができる

上記のようなメリットがあり、新規開業におけるスタッフの採用・集患対策を行わずに済み、初期投資費用も抑えることができます。

④医療業界M&A~譲渡スキームについて~

✓持分譲渡…持分あり医療法人に適用。許認可の承継が可能。内部留保を退職金として充てる方法も可能。
事業譲渡…施設のみ譲受を行う。行政届け出関連書類、賃貸借契約、従業員の雇用契約など全ての契約のまき直しが必要。
✓合併…買い手の既存医療法人へ合併を行う。

⑤医療業界M&A~企業価値評価について~

それでは、譲渡の際の計算方法について手法とともにまとめたものが下記の内容となります。

✓持分譲渡
ネットキャッシュ(現預金同等物-負債)+EBITDA(営業利益+正常収益力)3倍前後
※診療科目・立地によってはEBITDA倍率が変動します。

✓事業譲渡
事業譲渡では、企業価値=事業用資産+営業権を指します。
※事業用資産とは、決算書上にある医療用機器含む文字通りの事業を行う上で必要な資産です。一方、非事業用資産とは、会員権など私的なもの含め事業を運営する上で譲受側が必要としないものになります。

✓医科・歯科問わずクリニック譲渡の相場としては下記の通りです。
買い手の目線は、「ゼロからの新規開業費用>M&A費用」、であれば新規での出店をM&Aによって決断します。そのため売り手の譲渡希望価格と買い手の譲渡希望価格の目線が折り合わないケースも多々あります。

その際に参考値としてお考えいただきたいのは、買い手・売り手にとって今、手にできるものと将来発生しうるコストとのバランスです。
買い手は定期的・継続的な患者の集患の難しさ、スタッフの採用、知名度の向上など出店以外でも対応すべき経営課題とその対策として将来的に発生しうるコストは多々あります。
売り手は今売却すると現金が手に入ることと、院長として給与をもらい続けた場合など「手にする現金の価値とタイミング」を重視しがちですが、M&Aではなく閉院にも手間と時間がかかることを検討材料の一つとしてご検討ください。
例えば、廃業時の設備・建物を撤収するにも原状回復費用がかかることや、院長の高齢化に伴って患者の年齢層も高齢となり医業売上の自然減少、財務状況へ悪影響により退職金を受け取れなくなったりすることなど決定を後倒しにするほど選べる選択肢が少なってしまうため勇退のタイミングを慎重に見極めることが重要です。

⑥医療業界M&A~M&A後の対応について~

昨今、特にクリニックの事業承継は後継者に医師免許が求められることからハードルが高くクリニックの廃業件数の増加の対策が打たれています。例えば、大手人材派遣会社により開業希望の医師と空き物件のマッチングや、大手医療法人が若手育成のためにクリニックを譲り受けて拠点を増やしていく事例があります。買い手側の計らいとして前任のベテラン医師と新任ドクターの引継ぎ期間は双方合意の上で希望されることがあります。また売り手側からも患者さんへの責任感から完全引退は気がひけるという声も伺います。双方との相談で詳細条件を定めていきますが、常勤ではなく非常勤として診察に携わるなど譲受後のライフプランは多様です。
こうして譲渡側・譲受側の二人三脚のもと、患者さん、スタッフとの関係構築を図っていきます。

⑦医療業界M&Aのまとめ

次世代へのバトンタッチは重要性が高いものの緊急性が低いため、後回しにされてしまいがちな論点です。
しかしながら昨今、院長の高齢化だけではなく、コロナ禍の影響もありクリニックの譲渡を決断されご相談されることが増えてきています。廃業により、それまでクリニックへ通っていた地域住民の皆様が行き場を失う前に、かかりつけ医として、後継者へ託す用意を始めていただき、ぜひ地域住民の皆様の健康を永く守り続けていただけましたら幸いです。

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