譲渡をご検討中の方 買収をご検討中の方

M&Aにおける独占禁止法を考える。/独占禁止法の基礎知識・規制対象・リスク・事前届出を解説します。

  • M&Aコンサルティングレポート
M&A 独占禁止法

独占禁止法とは

 独占禁止法こと、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」は、公正かつ自由な競争を促し事業者が主体的に判断し自由な経済活動を実現することを目的とした法律のことであり、公正取引委員会によって運営されています。

 現代の自由主義経済社会において、消費者が自由に財やサービスを選ぶことができるため、事業者は自社の製品やサービスをできる限り多くの消費者に認知され消費されるように活動します。このような競争は本来公正かつ自由に行われることによって市場の調和が保たれるべきですが、カルテルや市場の独占を行うことによって、市場競争を制限したり阻害したりする者も出現してきます。

 独占禁止法は、これら実現のため、自由主義経済社会内で、事業者が経済活動を行う際のルールを定め、公正かつ自由な競争を阻害するような行為を規制しています。

独占禁止法が規制するM&Aとは

 まず、独占禁止法の規制概要は以下の通りです。

(公正取引委員会HPから参照:https://www.jftc.go.jp/dk/dkgaiyo/gaiyo.html

 このように公正取引委員会は独占禁止法により公正かつ自由な競争を促しています。

 M&Aにおいては、赤枠で囲っているような事項が規制の対象となります。なぜなら、M&Aを通じて企業グループにインしたり企業間で結合し事業を開始したりすることによって、市場における支配・占有率が不当に上がることに繋がってしまう可能性を含んでいるからです。

 より具体的な規制内容としては、会社分割・合併・役員兼任・株式取得・共同株式移転・事業譲渡に該当する場合が、独占禁止法の規制対象とされています。

規制対象内容
会社分割に対する規制独占禁止法15条の2において、共同新設分割又は吸収分割によって一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合や、不公正な取引方法によるものである場合には分割を行ってはならないと定められています。
合併に対する規制独占禁止法15条によると、合併によって一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合や不公正な取引方法によるものである場合は合併をしてはならないと定められています。
役員兼任に対する規制独占禁止法13条において、会社の役員又は従業員(継続して会社の業務に従事するものであって、役員以外の者をいう)は、他の会社の役員の地位を兼ねることにより一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合には、当該役員の地位を兼ねてはならないと定められています。
株式取得に対する規制独占禁止法10条は、会社は、他の会社の株式を取得し、又は所有することにより、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合には、当該株式を取得し、又は所有してはならず、及び不公正な取引方法により他の会社の株式を取得し、又は所有してはならないと定められています。
共同株式移転に対する規制独占禁止法15条の3によれば、共同株式移転によって一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合や不公正な取引方法によるものである場合には共同株式移転をおしてはならないと定められています。
事業譲渡に対する規制独占禁止法16条によれば、他の会社の事業の全部又は重要部分の譲り受けや賃借、経営受任などが一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなり、不公正な取引方法になされる場合は行ってはならないと定められています。

独占禁止法に抵触してしまった場合のリスク

 大きく別けて2つあります。

1:M&A自体を行えないことがある。

 一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合や不公正な取引方法によるものである場合、公正取引委員会からの許可が下りないため、M&Aを実現することはできません。

2:M&Aが長期化する可能性がある。

 また、後に記述する届出については、形式的な不備が無ければ届出日付で受理されます。届出を行った会社は、原則「禁止期間」として、受理の日の翌日から起算して30日間おかれています。規制事項が明らかないない場合などには、禁止期間の短縮があり得ますが、万が一二次審査にまで移行する事になってしまえば、約1年掛かってしまうため、長期化にするリスクがあります。

独占禁止法抵触を回避するための事前届出制度

 事前届出規制とは、一定の規模以上の会社がM&Aを行う際に公正取引委員会に対し事前に届出を義務づけるものです。

 具体的な要件は以下の通りです。

株式取得の届出要件

下記の要件(1)に該当する会社が下記の要件(2)に該当する会社の株式を取得しようとする場合において,下記の要件(3)に該当することとなった場合に事前の届出が必要となります。
(1) 株式を取得しようとする会社及び当該会社の属する企業結合集団(注1)に属する当該会社以外の会社等の国内売上高の合計額(以下「国内売上高合計額(注2)」という。)が200億円を超える場合。
(2) 株式発行会社及びその子会社の国内売上高の合計額(注3)が50億円を超える場合。
(3) 株式発行会社の株式を取得しようとする場合において,株式発行会社の総株主の議決権の数に占める届出会社が取得の後において所有することとなる当該株式発行会社の株式に係る議決権の数と届出会社の属する企業結合集団に属する当該届出会社以外の会社等が所有する当該株式発行会社の株式に係る議決権の数とを合計した議決権の数の割合(議決権保有割合)が新たに20%又は50%を超えることとなる場合。
 ただし,合併又は分割により上記要件に該当することがある時は,「合併に関する計画届出書」等の所定の欄に当該事項を記載することにより,「株式取得に関する計画届出書」の提出は不要となります。
(公正取引委員会HP:https://www.jftc.go.jp/dk/kiketsu/kigyoketsugo/todokede/kabu2.htm)

合併の届出要件

合併しようとする会社のうち、いずれか1社に係る国内売上高の合計額(以下「国内売上高合計額(注1)といいます。」)が200憶円を超え、かつ、他のいずれか1社に係る国内売上高合計額が50憶円を超える場合(注2)に事前の届出が必要となります。
(公正取引委員会HP:https://www.jftc.go.jp/dk/kiketsu/kigyoketsugo/todokede/gappei2.html

分割の届出要件

共同株式移転をしようとする会社のうち,いずれか1社に係る国内売上高合計額(注1)が200億円を超え,かつ,他のいずれか1社に係る国内売上高合計額が50億円を超える場合。
(公正取引委員会HP:https://www.jftc.go.jp/dk/kiketsu/kigyoketsugo/todokede/bunkatsu2.html

共同新設分割の届出要件

(1)共同新設分割をしようとする会社のうち,いずれか1社(全部承継会社(注1)に限る。)に係る国内売上高の合計額(以下「国内売上高合計額(注2)」といいます。)が200億円を超え,かつ,他のいずれか1社(全部承継会社に限る。)に係る国内売上高合計額が50億円を超える場合
(2)共同新設分割をしようとする会社のうち,いずれか1社(全部承継会社に限る。)に係る国内売上高合計額が200億円を超え,かつ,他のいずれか1社(重要部分承継会社(注3)に限る。)の当該承継の対象部分に係る国内売上高が30億円を超える場合
(3)共同新設分割をしようとする会社のうち,いずれか1社(全部承継会社に限る。)に係る国内売上高合計額が50億円を超え,かつ,他のいずれか1社(重要部分承継会社に限る。)の当該承継部分に係る国内売上高が100億円を超える場合
(4)共同新設分割をしようとする会社のうち,いずれか1社(重要部分承継会社に限る。)の当該承継の対象部分に係る国内売上高が100億円を超え,かつ,他のいずれか1社の当該承継の対象部分に係る国内売上高が30億円を超える場合
 共同株式移転をしようとする会社のうち,いずれか1社に係る国内売上高合計額(注1)が200億円を超え,かつ,他のいずれか1社に係る国内売上高合計額が50億円を超える場合。
(公取委:https://www.jftc.go.jp/dk/kiketsu/kigyoketsugo/todokede/kyodokabushiki.html)

事業等の譲り受けの届出要件

 国内売上高合計額(注1)が200億円を超える会社(譲受会社)が,
(1) 国内売上高が30億円を超える会社の事業の全部の譲受けをしようとする場合
(2) 他の会社の事業の重要部分(注2)の譲受けをしようとする場合であって,当該譲受けの対象部分に係る国内売上高が30億円を超える場合
(3) 他の会社の事業上の固定資産の全部又は重要部分の譲受けをしようとする場合であって,当該譲受けの対象部分に係る国内売上高が30億円を超える場合
(公正取引委員会HP:https://www.jftc.go.jp/dk/kiketsu/kigyoketsugo/todokede/jigyo2.htm)

まとめ

 ここまで、独占禁止法の概要から始まり、M&Aに関する規制はどのような種類があるのか、また抵触した際のリスク、規制に対する届け出による独占禁止法抵触の回避まで解説してきました。

 M&Aを考える際は、会社法などの基本的な法律ばかりではなく独占禁止法にもフォーカスし、専門家とともに十分に注意を払いながら進めましょう!

PAGETOP