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M&A巧者になり地域コングロマリット化経営を目指す戦略

  • コングロマリット化・ホールディング化
M&A

多角化経営(地域コングロマリット化)を目指す企業に向けたM&A戦略をお伝えします。地域コングロマリット化の中心はM&Aだと考えます。今回は譲り受ける側が、どういった戦略・行動をしていけばより多くの案件の紹介を受け、そこから企業の成長に結びつけることができるのかについてご紹介します。
(船井総研主催「地域コングロマリット化セミナー」の内容をまとめました)

Googleで「アルファベットによる合併と買収の一覧」と検索してみてください。Googleの親会社であるアルファベットは、2001年2月から2021年4月までの20年間で243社をM&Aで買収しているのです。自分たちが独自で編み出したサービスは意外に少なく、さまざまな企業を譲り受けることで成長発展を遂げてきたというのが傾向です。M&Aが成長戦略の1つの柱になっているところは感じて頂けると思います。

また、経済産業省の資料(大企業×スタートアップのM&Aに関する調査報告書内資料)によると、M&Aによる新規事業立ち上げの成功確率は36%に対して、自社でのR&Dによる新規事業立ち上げの成功確率は18%とM&Aの方が2倍以上も高くなっています。

一定の売上と利益が見えた状態で事業を譲り受けるので、ある程度成功確率が高くなるのは必然と言えるでしょう。

M&Aのメリット・デメリット

どのようなビジネスにもメリット・デメリットがありますが、M&Aの場合はどんなことが考えられるのでしょうか。メリットとしては以下です。

①非連続的な成長戦略

右肩上がりで徐々に成長していくのではなく、M&Aによって一気に成長することが可能です。また、新規事業を立ち上げると1からのスタートになり時間もかかりますが、事業を譲り受けることで一気に始められます。時間を買うことができるとも言えます。

②人材が最初から確保できている

新規事業を立ち上げる際は採用活動からのスタートになりますが、M&Aなら多くの場合、人材が最初から確保できています。

③本業とのシナジーが考えられる

譲り受けた企業に本業のお客さまを紹介することでプラスアルファの利益を得ることにも繋がります。

デメリットとして考えられるのは以下です。

①資金が必要

巨額の資金が必要になるケースもあります。

②PMI人材が必要なケースも

M&A後は当然譲り受けた先に人材を派遣したり、会計システムを統合したり、といったことにも力を入れていく必要があります。そういった人材が必要になることを中にはデメリットとして考える方もいらっしゃいます。

③シナジーが得られない場合もある

シナジーを見込んでM&Aしたにも関わらず、取引先が変革を良く思わなかったという事態が起こるケースもあります。

水平統合と垂直統合とコングロマリット化

よく水平統合・垂直統合と言われますが、コングロマリット化は水平ではなく垂直に近いです。水平統合とは同じ業種・業態の会社同士のM&Aです。同じ事業の会社を譲り請けて成長していく、これも1つの正解です。

垂直統合によるコングロマリット化について工務店・住宅会社を例に説明します。

狭義の意味でのコングロマリット化としては、各種設備工場会社や不動産仲介会社をM&Aしていくことで、今まで外注していた部分を内製化できるようになります。また賃貸管理の分野を垂直統合すると、賃貸のお客さまのライフステージが変わって家を建てる際に、グループ会社の工務店がその業務を担うことが可能になります。

広義のコングロマリット化になると、全く別の事業をしていく形になります。住宅会社が自動車販売会社をM&Aしたケースです。お客さまのライフステージが変わると車を買い替えるニーズも出てくると思います。住宅会社で家を建てた顧客の名簿を活用し、車の購入につなげるといったことが期待できます。

M&A巧者になるためには、相手の立場に立って考えることが大事

M&Aの案件が多く入ってくる会社と、なかなか入ってこない会社は当然分かれます。では、入ってくる会社というのはどういう会社なのでしょうか。

それは「相手の立場に立って物事を考えることができる会社」です。

「自分たちの会社が売上を上げていくためにこの会社が欲しい」という感じでは、なかなか案件は入ってきません。会社を譲る側は「あなたに使われたいと思っていない」という気持ちでいます。相手方の感情を考え、相手の立場に立って交渉していく必要があります。

「我々はこういった企業体を作っていきたい」「その中に御社が入ってきていただいたら、御社はこういう風に生まれ変わり、非常に素晴らしい会社になっていけます」といったビジョンをきちんと語ることができなければ、相手の企業から「この企業と一緒にやりたい」と思っていただけないでしょう。

譲渡企業オーナーの本音

①一定規模の会社・地域でも知名度の高い会社

私たちが譲りたいと考えている企業の方によく言われることがあります。経営者の方は、自分が大切に育て上げてきた会社・ご先祖が創業し代々引き継いできた会社を譲り渡すことに非常に後ろめたさがあります。自分の代で終わらせていいのかと。

なので「対外的にきちんと言えるような企業と一緒になりたい」と言われます。一定規模がある会社は譲渡案件がきやすいですが、規模だけではなく地域で知名度が高い・地域に貢献している会社であることも選ばれるポイントです。「あの会社となら一緒になってもいい」と思ってもらえるような企業体を目指すこと大事です。

②シナジーを生むことができる会社

マーケティング力に自信があり、「どんな会社でも伸ばせる力がある」と言える企業にはおそらく多くの案件が入ってくるでしょう。

③高値で買ってくれる会社

高値をつけてくれる会社にはやはり案件が入ってきやすいです。

M&A巧者になるためには、明確なビジョンを指し示す必要があり

M&A仲介会社の本音

①譲渡企業を納得させうる材料が欲しい

②ビジョンにそった提案を持っていきやすい

③案件開拓に協力いただける先は積極的に紹介しやすい

M&A仲介会社の本音としては、事業を譲渡される企業のオーナーを納得させうる材料がほしいのです。譲り受ける側の企業が、どういったところが優れているのか・どんなビジョンを持っているのか、私たち仲介会社が語れないといけません。明確なビジョンを指し示すことが重要です。また、案件を開拓するのに協力していただける会社は紹介しやすいです。仲介会社とはしっかりとコミュニケーションを取っていただきたいと思います。

コングロマリット化の事例

コングロマリット化の事例をお伝えしていきます。

下水処理会社が農業法人をM&A 

下水処理をすると出てくる汚泥は肥料にできます。しかし、そういった肥料を作っている農家は少ないのが現状です。この企業では、これからの時代を見据え、汚泥を肥料にして循環型社会を作っていくことに貢献していきたいと考えました。そこで自分たちで農業を行い実験的に取り組んでいこうと、農業法人をM&Aしました。

葬儀社が霊園・墓石店をM&A 

霊園・墓石店はいま右肩下がりです。そんな中で葬儀社が霊園・墓石店を買収したのはなぜか。霊園やお墓の維持のため利用者は毎年管理料を支払っています。その管理料を支払っている方に対して自分たちの葬儀社をPRすることで、葬儀や納骨のお手伝いに繋げていこうと考えました。この霊園会社は債務超過でしたがきちんと値段がつきました。M&Aは債務超過ではできないと思われるかもしれませんが、シナジーを生むことが明確に見えると債務超過でもきちんと値段がついて売却することが可能です。

結婚式場が写真館をM&A

結婚式場はコロナで一気に売上が下がってしまいましたが、フォトウエディングは右肩上がりに伸びています。結婚式場が写真館をM&Aすることで、フォトウエディング事業も含めて伸ばしていくことに繋がりました。

物流企業がプリン専門店をM&A

店舗M&Aの事例です。コングロマリット化を目指していく上で、仮に物流業が苦しくなった際に備えて、全く関係のない事業をやっていこうという取り組みです。プリン店は以前の会社が運営している時は赤字でしたが、この物流企業はWEBマーケティングが強かったためM&A後には黒字化に成功しています。

M&Aの値決めに関して

中堅・中小企業のM&Aの場合は8割が時価純資産法(コストアプローチ)です。会社の時価純資産価額を算定し、企業価値とする方法のことです。

貸借対照表(BS)の中の純資産を簿価から時価に直します。そして出てきた時価純資産に実体利益を足していきます。実態利益の足し方は業界のライフサイクルによって年数(倍数)は大きく変わります。1倍の業界もあれば、8倍の業界もあります。一般的には3~5年と言われています。実態利益を何倍するかがのれん代といった形でついてきます。時価純資産にのれん代を足したものがM&Aの株価となります。

もう1つは上場企業の株価に合わせて算出するマルチプル法(マーケットアプローチ)です。指標の中にある企業価値EV÷EBITDA(営業利益+減価償却)倍率が出てきます。類似上場企業のその倍率を見て、それに自分たち企業のEBITDAを出した上で自分たちの倍数を掛ける。そこにプラス、ネットキャッシュを足した形で値段が決まってきます。

ただし、最終的には譲り受け企業と譲渡者のお互いが納得する価格で落ち着くことになります。

仲介会社が持ってきた案件が5億円だったとします。高いけれど本当にほしいと思ったら、「3億8,000万円なら出します」といった答え方をしたほうがいいでしょう。きちんと理由を言わないと、値段が下がった時に回ってこないケースがあります。断る際は本当にいらなければきっぱり言っていただいて構いませんが、そうでない場合は「この値段なら」といった話を仲裁会社ときちんとコミュニケーションしておくことを勧めます。

M&Aの一般的な流れ

M&Aは買いたい企業がいても、譲りたい企業がいなければスタートしません。譲渡希望企業から相談を受けた後、企業価値算出、仲介契約締結の流れになります。その後に企業概要書を作成して候補先を選定していきます。

譲渡希望企業側にどの企業に声をかけていいのか確認をしてから、ノンネームシートを皆さん(譲り受け希望企業)にお渡しします。こちらは情報が漏れないよう、企業名は分からない形になっています。皆さんが概要に興味を持っていただければ、譲渡企業の概要を開示します。さらに踏み込んでいけばそこで仲介契約が結ばれます。その後トップ面談などを行い、M&Aが成立します。全体のスケジュール間で約10か月。譲り受け希望企業は半年ほどです。

M&A巧者になるための5つのポイント

まとめると以下の5つがポイントです。

①一定規模の会社・地域でも「良い会社」と知名度の高い会社

②PMIで事業を伸ばすことができるマーケティング力がある会社(高値で買ってくれる会社)

③ビジョンが明確にあり夢を語れる会社

④地域コングロマリット化の第一歩はスモールM&Aもあり

⑤M&A仲介会社の案件開拓に協力していただける企業には積極的に案件を紹介しやすい

・一定規模以上の会社になればおのずとM&Aの案件が来ますが、地域で「良い会社」と言われると、地域のコングロマリットが作りやすくなります。地域に貢献し、「あの会社の社員は生き生きしている」と言われるような企業になっていただきたいです。

・PMIでしっかりと事業を伸ばすことができるという自信がある企業には案件がきやすいです。

・「事業を広げたいから何でも紹介してほしい」では良い案件の紹介は来ません。何でも紹介してほしいと言われると、売主側も納得せず仲介会社は逆に紹介しにくいと感じるでしょう。ここはターゲットを絞って、自分たちのビジョンをしっかり持って未来を描いた上で「こういった企業をお願いしたい」と意思表示することが大切です。

・地域コングロマリット化を目指していく上で、スモールM&Aにも取り組んでほしいと思います。

・M&A仲介会社の案件開拓に協力して頂ける企業には積極的にM&Aの案件を紹介しやすくなります。仲介会社とはしっかりとコミュニケーションを取ることを進めてほしいと思います。

コングロマリット化には様々な方法があります。もちろん、自分たちで新規事業を立ち上げ、興味のある事業に取り組んでいただくことも1つです。しかし、M&Aには多くのメリットがあります。M&Aを通して時間を買うということも含めて検討していただければと思います。

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