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物流・トラック運送業界のM&Aの時流について

  • 物流・倉庫業 M&Aレポート
物流 運送 倉庫 M&A

物流・トラック運送を運営されている会社様向けの記事です。業界の時流やM&Aの傾向を記載しております。M&Aが活発化している業界の1つである物流・運送業界でも、成長している企業はどのようなM&A戦略を描き、実践しているのか?そのヒントが見つかります。

物流・トラック運送業界の動向と2024年問題

足元の物流・トラック運送業界の動向は一進一退といった状況です。コロナ下による巣ごもり需要の増加やEC市場拡大を追い風とした宅配事業の拡大などのプラス影響がある一方で、燃料費の高騰やドライバー不足といったマイナス影響も小さくありません。

特にドライバー不足については、高齢化による自然減に加え、それを補えるだけの新規ドライバー確保が困難な状況にあることも影響している思われます。また、2019年の働き方改革の影響によりドライバーの労務管理が厳格化されることが大きな問題となっております。物流・トラック運送業界の場合、5年間の猶予期間があり、2024年が期限となっております(俗に「2024年問題」と言われております。)。

時間外労働の短縮(というよりはルール適用の厳格化)、割増賃金率の上昇、及び有休休暇の指定等が盛り込まれており、ドライバーの労務管理を厳格化することで、配送量の減少や追加的人件費の発生が懸念され、物流・トラック運送業界の経営環境はますます厳しくなることが想定されます。このような経営環境への対策を図る対策として、従前以上にM&Aの活用が注目されているのです。

物流・トラック運送業界のM&Aの目的の変化

従前は「後継者不在」や「事業承継対策」としてM&Aが活用されるケースが大半でしたが、最近ではそればかりではない目的も出てきました。例えば先述の「2024年問題の解決」があります。大手企業の場合、ガバナンスやコンプライアンスが徹底されているケースが多いため、独力では対応しきれない管理面のサポートを得られる可能性があります。

ドライバー不足についても新たな親会社からの派遣等で対応できるケースもあり、ドライバーの労働環境改善、ひいては企業収益力の改善にもつながり得ます。一方、いいことだけではなく、希望通りの譲受企業が見つからないといったリスクもございます。

価額条件が折り合わなかったり、経営ビジョンが異なったりするなど、自身の希望にピッタリ沿う企業はまずありません。また、M&Aの交渉は自社を洗いざらい調査されるため、心身ともに疲弊することもございます。意思の硬さと精神力が肝要です。

加えて、これまで「自分の会社」としてオーナーシップを振るってきたところ、買い手企業の子会社となることで自身のハンドリングは効かなくなります(物流・トラック運送業界に限った話ではないですが・・・)。社長として残る場合、所謂「雇われ社長」としての立ち位置に下ります。

物流・トラック運送業界のM&Aを取り組むにあたり買手が注目するところ

先述の通り、物流・トラック運送業界の大きな問題点の一つに労務管理(勤怠管理、未払残業代など)があります。昨今のM&A業務ではますます労務管理に対する視線が厳しくなり、簿外の未払残業代や退職給付債務を指摘する譲受企業が増えてきている印象です。このため、今の内から改善できることには取り組み、改善しきれないことについては譲渡対価から減額される可能性が高いという意識を持つことが肝要です。「忙しいから仕方ない」は厳禁です。

次いで、車両の老朽化への対処も重要です。古い車両に修繕を重ね、だましだまし利用している運送会社が少なくありません。古い車両を使い続けることにより、修繕がかさむ、燃費が悪い、事故率が上がるなどのデメリットが生じ、譲受企業が見つからなかったり、譲渡価額が引き下げられたりするリスクもあります。「まだ使えるのにもったいない」という考えは改め、車両の新陳代謝を適切に進めることが重要です。

以上については、今売らないとしても、できることからすぐに行うことをお勧め致します。仮にM&Aを行わないにしても、企業を永続させるうえで不可欠です。逆に、これが出来ないようでしたら、独力での企業経営が困難な状況にあるという一つの物差しにもなると思います。

物流・トラック運送業界のM&A相場

中小企業M&Aにおける代表的な株価算定方法としては、「時価純資産法(年買法)」と「マルチプル法」という2つがございます。それぞれの計算方法や、物流・トラック運送業界における相場は以下です。

価純資産法(年買法)

時価換算した総資産(簿外資産含む)から、時価換算した負債(簿外負債含む)を差し引き算出された時価純資産を株価とする考え方です。対象会社の業績によっては、そこに営業利益などの「のれん」を上乗せするケースもあり、この算出方法を「年買法」といいます。物流・トラック運送業界において論点となる項目としては、「車両の時価評価」や「未払残業代などの簿外負債」などで、株価算定の際に留意致します。

マルチプル法

償却前営業利益の4倍前後から正味有利子負債(有利子負債-現預金等)を差し引き算出された額を株価とする考え方です。先述の時価純資産法が「資産」をベースとした算出方法に対し、マルチプル法は「キャッシュ」をベースとした算出方法となります。

なお、最近では「償却前営業利益」については車両更新投資分を控除するケースも少なくありません。業態上、車両の更新投資は必須のため、それを控除したものが本当の意味での成果という考え方です。車両更新投資額の算出方法は「車両運搬具増減額+車両運搬具減価償却費」となります。

「4倍前後」という数字については業界・会社ごとに異なりますが、ここから対象会社の強み(独自のビジネスモデル等)や弱み(荷主の偏り、設備の古さ等)を踏まえ、倍率を増やしたり減らしたりし価額を交渉することとなります。

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