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会社分割による既存事業売却で、転業に成功したパチンコホールの事例

  • ぱちんこ M&Aレポート
パチンコ M&A

かつて、30兆円の市場規模で2万軒を超す店舗が存在したパチンコホールは、2000年頃から始まった遊技機設置台数の規制撤廃以降、資金力のある大手法人の大型店出店や近年主流となったM&Aにより業界再編が進んでいます。

また、2016年12月に可決したIR法案(特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律)は“カジノ法案”とも呼ばれ、国内での民営ギャンブル解禁が可能となるものですが、他方、パチンコホールに対しては、ギャンブル依存防止への取り組みと射幸性抑制を目的とした改正風営法を施行し、パチンコホールに対して大きな影響を与えています。
2万軒を超えていた店舗数は年々減少し、現在の1万軒から今後更に減少する事が予想されています。

業界のライフサイクルの中で成熟期を迎えるパチンコホールは、大型店出店やM&Aなどの投資による成長戦略を目指す企業と、現状維持を目指す企業に今後大きく二分する事が予想されています。
投資による成長戦略を目指す企業は、投資先の選定と今後の事業承継が課題となりますが、他方、成熟市場の環境下で現状維持を目指す企業は、事業承継というよりも、事業転換や財産保全などの出口戦略と今後の従業員雇用が経営課題となります。

会社分割による既存事業売却で転業に成功したパチンコホールの事例を元に、会社分割におけるM&Aとその実務についてお伝えさせて頂きます。

企業概要

ホール事業、飲食事業、不動産事業をおこなうA社は年商200億の企業。
売上の多くをホール事業が占めるが、近年の遊技機購入価格の上昇や、大手チェーンの出店の影響で、一時期赤字に転落。
その後、不採算店閉鎖や業務改善を進め黒字化に成功し、中期経営計画を策定した。

既存事業の売却に至った経緯

中期経営計画策定後、不採算店売却とパチンコホール買収の2つの方針(スクラップ&ビルド)を元に店舗ポートフォリオの再構築に着手したが、不採算店売却の最中に大手法人からホール事業全体の譲受提案を受け、ホール事業の売却を決断した。

売却を決断した理由として、10年後の業界ライフサイクルを予想すると、今後更なる規制強化と寡占化が進むと判断。事業価値が毀損する前の今のタイミングで売却に踏み切る方が得策であるとの経営判断に至った。

会社分割によるM&A

A社はホール事業とは別に、飲食事業と不動産事業があり、会社分割により譲渡対象のホール事業を切り出す必要があった。また、実行スキームは、A社(分割会社)が新設分割により新設会社を設立して
ホール事業を新設会社へ移転。移転後A社が保有する新設会社株式をB社(承継会社)へ譲渡した。

新設分割を選択した理由

会社分割には、吸収分割と新設分割の大きく2つの形態があるが、本件の事例では新設分割により“2段階の手続き“となった。吸収分割なら1回の手続きで分割移転が完了するが、なぜ、2段階の手続きを採用したのか、その理由は大きく2点となる。

1.買手において、買収精査(DD)期間が短かったため、新設会社(新設分割)がワンクションの受け皿(リスクヘッジ)となった。

2.売手において、税制上適格要件をクリアするために、吸収分割よりも新設分割がより安全と判断した。

 

1の手続期間の短縮について、通常、「基本合意調印→買収精査(DD)→実行スキーム検討→最終契約調印→会社分割手続→分割登記・クロージング」の一連の流れが終わるまで最低半年程度を要しますが、今回はその半分の3カ月間で完了する必要がありました。

そのため満足な買収精査(DD)期間を確保する事が難しく、また、最も時間を要する会社分割の手続きを同時並行で進める事が必要となりました。

更に、パチンコホールは会社分割と営業許可引継ぎを都道府県公安員会より許可を取る必要がある事や、売上高200億規模のM&Aは公正取引委員会による事前審査が必要になる事、更に、商標など知財に関する行政手続、附帯飲食施設の保健所届出など、多岐に渡る手続きが発生します。

そのため、基本合意時に合意内容について詰めておく必要がありますが、基本合意調印後の段階から並行して会社分割の手続きに入る必要があるため、買手売手双方のリスクヘッジとなる新設分割を選択する事となりました(最悪ブレイクとなった場合も新設会社に移転する事で売手側のリスクヘッジになる)。

2の税制上適格要件のクリアとは、会社分割は、取引行為ではなく組織再編行為である(非課税取引)という点から求められている税制上の判定要件です。

そのためには、時価移転ではない事や従業員の概ね80%以上が引き続き業務に従事している事などが挙げられます。
また、以前は株式以外の交付はNGでしたが、会社法改正により金銭の交付が認められました。

本件の譲渡対価は数十億円の規模で、移転する店舗数は9店舗(土地建物含む)となりましたので、税制上適格要件をまずクリアする事が必要となりました。

要件がクリアできず非適格と判定された場合、時価による譲渡損益を認識する事が必要となります。

また、土地建物の移転について不動産取得税が発生した場合、本件の試算では1億円を超える税負担が発生する事が判明していました。

「新設分割にて新設会社を設立し、その後、新設会社株式を第三者に譲渡する」
というスキームについて、県税事務所へ概要説明を含む事前照会を実施しました。
会社分割の取り扱いがさほど多くない特に地方の県税事務所では事例が少ない事もあり、適格要件の判定を得るまで数回の説明を要しました。

そして、最終的に適格要件による新設分割が認められ、その後の株式譲渡をもってクロージング完了となりました。

M&A後の譲渡資金の使い道と業種転換

会社分割によるホール事業の譲渡後、譲渡資金を得たA社は、別事業であった飲食事業と不動産事業を存続事業とし、業種転換を実現しました。また、売却前数十億円あった借入金が消え、負債と個人保証のプレッシャーから解放されました。従業員は希望者全員の引継ぎが完了し、ホール業界大手の従業員としてあらたな出発と目標を持たれて活躍されています。

日々の経営の中で、気づけば近視眼的となり、現在の事業環境のみで判断する傾向がありますが、業界ライフサイクルの中で【10年先の自社の姿を想像する】機会になれば幸いです。
10年先も現在の事業で十分やれる自信があればM&Aを成長戦略として取り入れていくべきでしょう。

他方、10年先までやっている自信がない場合は、余力が残ってるタイミングで次なる成長戦略を模索する必要があるかもしれません。
成長戦略としてのM&Aと、出口戦略としてのM&A、いずれもM&Aは目的ではなく“ツール”でしかないので、M&Aの目的をまず明確にして欲しいと思います。

船井総研M&Aでは無料相談を実施しています。お気軽にお問合せください。

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