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人口12万の街の中古車店がM&Aで大きく成長し、大商圏に進出し売上130億円へ

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佐賀県唐津市で中古車販売事業を行う「唐津カーセンター」は、さまざまなM&Aを実施し、売上を大きく伸ばしてきました。

その後は佐賀市、福岡県福岡市など大きな商圏にも進出し、自動車販売以外の事業も手がけ、2022年の売上は130億円、地域の有力企業へと成長しています。

同社の躍進を支えた理由の1つであるM&Aを、どのように行ってきたかを見ていきます。

自動車販売事業で地域における大きなシェアを獲得した同社ですが、今後の見通しについては厳しいと経営者は考えていました。唐津カーセンターの創業者、岡野俊治氏は次のように語っています。

「都市部一極化の流れもあって、唐津市は毎年1000人ずつ人口が減っています。

人口が1000人減るとは、自動車の保有ベースで言えば700台保有台数が減るということです。唐津市はもともと人口約12万人の小さな街ですから、新しい事業計画を立てても上がる利益には限界がある。せいぜい前年比105%くらいの事業計画しか組めません」

今後の市場縮小を見据えて、唐津カーセンターは事業の多角化、自動車販売以外の事業への進出を決めました。

M&Aによる新規事業で唐津市シェア1位を獲得

新規事業を進めるにあたり、同社が力を入れたのが、M&Aです。2017年、同社は縁があり、地元の中村建築という工務店をM&Aしました。その会社は年間着工棟数が4棟前後で、売上が2億円程度の小さな企業です。

当初はグループ各店のリノベーションや修繕などを付加するだけで黒字化し良しとしていましたが、同社の意向を聞いた船井総研は、建築事業で売上を上げていくことを提案しました。

M&Aの体験談

中村建築の行う事業として船井総研が提案したのが、全国で80社以上の会社で成功していた「超ローコスト住宅」というビジネスモデルです。自動車とローコストな戸建住宅は「ありがとうと言って買ってもらい、新たに顧客候補を紹介してもらう」点では親和性が高く、中古車の購買層と顧客属性が似ていることから、同社でも成果が出ると考え、その実現までを支援しました。

その結果、中村建築は唐津市でローコスト住宅を2020年に30棟受注、提案をしてから1年で、唐津市内のシェアナンバーワンの数字を達成しています。

住宅事業での成果を手にしたことから、唐津カーセンターはその部門を強化すべく、地元の銀行から話をもらった地元ゼネコンのM&Aを検討します。業歴が90年以上あり、無借金経営の企業です。

その話の相談を受けた船井総研は、以下のような話をしました。

その会社は社長が70歳代、社員は40~60代ばかりで、20代も30代の人材もいない会社です。業務内容は橋や県庁を造るといった昔からのものばかりで、新規事業を推進すべく新卒採用に力を入れた結果若い人の入社が増え、平均年齢が低い唐津カーセンターとは合わないのではないかと。

地元経由のM&Aに反対した船井総研は、別のM&Aを提案します。神奈川県の企業で、場所は離れていますが、唐津カーセンターの社風や目指すところと合うと話し、同社はその提案を受け入れます。

買収から1年ほど経っていますが、唐津カーセンターの手法を導入してシナジー効果が生まれているのを、経営者は感じています。

「船井総研のアドバイスがなかったならば、私は地元のゼネコンを買収していた。そのほうが苦労していたでしょう」

 岡野氏は語ります。

M&Aを進めるために「経営者になりたい」学生を採用

M&Aの成功で重要性を増したのが人材採用です。唐津カーセンターは、新しい事業を興すためには若い力が欠かせないと考え、新卒採用体制を整備しました。それにより、新卒で入社する学生の数は年に2、3人ほどから、その後増え2019年は7人、2020年は17人、2021年は16人、2022年が32人になっています。

※グループ全体

幹部候補生と考える学生には「一緒に事業を立ち上げよう」と社長が直接働きかけているのが、優秀な学生が集まるようになっている大きな要因の1つです。

「経営者として一番うれしい変化は『店長になりたい』という向上心のある学生が増えたこと」だといいます。

新卒採用の積極化により、2022年4月現在の社員数375人のうち、60.2%が新卒社員になりました。学生はゼロからの教育が必要ですが、ほかの会社で働いたことがない分、会社のカルチャーや目指すものを素直に吸収してくれることから定着率も高く、離職率は5%(2021年実績)となっています。

優秀な学生の入社が進んでいることで、入社4年目の26歳で店長になる社員が誕生するなど、若い力が会社をけん引しています。

「地元でも一番レベルに優秀な大学を卒業した学生が『経営者になりたい』と入社してくれました。『してあげよう』と言ってしまいましたから(笑)、嘘にならないように、彼ら彼女らにポストを用意できるよう、今後もM&Aの話が来たら引き受けるなどして、事業を拡大していきたいと考えています」(岡野氏)

「移」「食」「住」をトータルで提供する企業を目指して、ホールディング化

M&Aや多角化を進め、事業を拡大する唐津カーセンター。今後のさらなる成長を目指すうえで必要になったのが「リブランディング」です。

新卒採用を進めるにあたり、会社の将来を担う学生に対し、さまざまな事業を展開している会社であることを知ってもらうための形を整える必要が生じました。

また、業種・業態ごとに売上や利益、人員の数や給与体系などもそれぞれですから、一元で管理するのは限界があります。

船井総研はすべての事業を統括するホールディング会社を設立することを提案し、「ヒューベストホールディング」が立ち上がりました。

創業者の子息である岡野晃士氏が代表取締役社長に就任し、創業者の岡野氏が代表取締役会長に就任しました。

唐津カーセンターや中村建築などは、ヒューベストホールディング傘下の事業会社となります。

ホールディング化したことで、新たな事業会社を立ち上げるのが容易になり、今後「経営者になりたい」「新しい事業を興したい」と考える学生に組織やポジションを用意しやすい形を整備しました。

同社が目指すのは「地域の「移」「食」「住」をトータルで提供する企業」です。「食」に関しても農業事業を立ち上げており、今後の収益化を目指しています。

 船井総研は新規事業を興しやすい組織の形や運営の方法などをアドバイスし、M&Aの仲介だけでなく、M&A実現後に成果が出やすくなるためのあらゆることをサポートしています。

会社のさらなる成長について、創業者の岡野氏は次のように語ります。

「社長は息子に譲りましたが、そのあとの代への後継がしやすいような形をつくらなければ、息子の次に譲れない形が起こるなと思っています。儲からない会社で譲ることはできるかもしれませんが、そんなものはつまらないですしね。地域への貢献を忘れずに、ますます発展させていこうと思っています。上場企業ではない個人の企業の相続は、難しいものです。なのでその辺りも含めて、自分が退いたあとも息子が先を見据えて経営してほしいと考えています」

唐津カーセンターは元々、失礼ながら日本中のどこにもあるような一般的な中古車販売店でした。

創業者である岡野氏の「中古車店の経営をよくしたい」という思いは、いわば経営者の「私欲」で、経営者個人の欲は、規模の大きくない会社の原動力として欠かせないものです。

その後会社の規模が拡大し、企業の買収を持ちかけられたりするようになって、その地域の有力企業へと成長しました。

そこまで大きくなると、会社はもはや経営者の「私欲」のみで成り立つものではなくなります。

「地域をよくしたい」「人口が減る街にも新たな雇用を生み出す」「若い人に将来への夢を持ってほしい」

会社成長の原動力は、そのような「公欲」へと変わっていきました。

企業は規模の拡大に伴い「オーナーの所有物」から「公的、パブリックなもの」に変わっていきます。それはパラダイムシフトと言えるレベルの大きな変化で、それにより求められる役割も変わりますが、そのステージに達すると協力してくれる人も増え、成長は加速していきます。

そして、息子さんやグループに入った会社の社長など、公欲を担う人の数も増えています。

事業を拡大し、ホールディング化もするなどして公欲の実現のために成長の歩みを続けるヒューベストホールディングを、これからも船井総研は支援していきます。

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