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社長と社員が幸せになれるM&Aとは?
~成長戦略としてのM&Aを考える~ 株式会社クラスコ×株式会社フロンティアホーム

  • 不動産賃貸管理

執筆:株式会社 船井総合研究所 M&A支援室 ディレクター 松井 哲也

今、中小企業の「成長戦略としてのM&A」が注目されています。今回はM&Aを実行された経営者の方お二人に実際のお話を伺いました。会社の将来を見据えてM&Aを決断した、譲り受け企業、株式譲渡企業、それぞれの経営者の考え方をお聞きください。売る側、買う側、両方の話を聞ける、貴重な機会です。

株式会社クラスコと株式会社フロンティアホームは、共に不動産業で、昨年末にM&Aを実行しました。今回はM&Aを実行した背景や理由を踏み込んでお聞きします。

株式会社フロンティアホーム 代表取締役 中川 潤 氏(写真左)/株式会社クラスコ 代表取締役 小村典弘 氏(写真右)

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<譲り受け企業>

株式会社クラスコ 代表取締役 小村典弘 氏(以下:小村氏)

(本社所在地:石川県金沢市/売上54億9364万円(2021年グループ全体)/従業員数197名:グループ全体)

<株式譲渡企業>

株式会社フロンティアホーム 代表取締役 中川 潤 氏(以下:中川氏)

(本社所在地:埼玉県所沢市/売上10億7363万円(2022年5月度)/従業員数21名)

<聞き手> 船井総合研究所 M&A支援室 松井哲也

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株式会社クラスコの代表取締役小村氏は、1999年に入社、2014年に3代目社長に就任。社長就任時に約8割の社員が退社するという経験をし、その後、ビジネスモデルの更新やテクノロジー及び仕組み、デザインの開発で問題を解決して、今では社員の残業時間もなくし、年間休日も大幅に増やし、売上、利益ともに大きく伸ばしています。不動産管理業界で不動産のリノベーションネットワークや不動産テックのネットワークも手掛けています。

株式会社フロンティアホームの代表取締役の中川氏は2003年にフロンティアホームを創業。埼玉県所沢市を中心に都内も含めた商圏で不動産管理業を展開し、管理戸数は2400戸。特に事業家様や投資家様向けに収益物件のリノベーションや売却、管理・運営を強みとして伸ばしています。昨年末にクラスコに株式を売却して、現在はクラスコのグループの一企業の経営者として運営しています。

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■譲り受け企業の経営者が語るM&A

― 最初にクラスコの小村社長にお話を伺います。会社の歴史からお聞かせいただけますか。

小村氏:弊社は1963年に私の祖父が創業し、私が3代目です。事業の中心は賃貸管理で、現在の管理戸数は1万7000室です。不動産の売買仲介、プロパンガス、注文住宅も扱っており、2010年にはデザイン会社も創業して、ホームページやオフィスのリニューアルなどのビジネスも展開し、アプリやソフトウェアの開発を行う会社も立ち上げております。

株式会社クラスコ 代表取締役 小村典弘 氏

― 社長に就任されたときに社員の方が8割ほど辞めて入れ替わったとお聞きしましたが、そこから何が大きく変わったのでしょうか。

小村氏:私も会社を継ぐにあたり、様々な会社を見させていただきましたが、事業承継のタイミングで改革を始めると、社員が辞める傾向があるように思います。

私自身も社長になった時、割合はどうあれ、辞められるかもしれないという覚悟はありました。

それまで特に指示を出していなくとも業務を行えている部署があったのですが、私から見て明らかに効率が悪いのでビジネスモデルを変えたほうがいいと思い、打ち合わせをしたのですが、その部署の社員は「わかりました、やります」と言いながら、なかなか取り組まない。やがては「辞めます」と言ってきました。今まで上から何も言われなかったのに、そこまで言われるなら辞めるという選択をされる方がいました。

単純に嫌だったから辞めたのか、できなかったから辞めたのかはわかりませんが、離職率が33%になり、それが3年続いて8割近くの社員が辞めました。

社員の退職は、現場も業務を回すのがキツくなりますし、一緒に働いていた社員が去っていくのは、経営者としてとても残念で、苦しいことでしたが、それをきっかけに様々な改革を進めていきました。休日についても以前は83日でしたが、現在は118日まで増やし、残業時間も大幅に減らすことができました。

― 自社の課題と向き合い、改革を進めてこられたのですね。

今回M&Aでフロンティアホームの株式を譲り受けたわけですが、社長は以前からM&A戦略は考えておられたのですか?

小村氏:後継者のいない企業がM&Aで会社を存続させている例も聞いていましたので、私どもでも譲り受けられる会社があれば進めたいという思いはありました。

― そこでフロンティアホーム様から株式譲渡のご相談があったのですね。

小村氏:フロンティアホームさんとは、6年前からリノベーションのフランチャイズ事業でお付き合いがあったので、お話をいただいた時はすごく驚きました。

中川社長も社員の皆さんもよい方ばかりでしたし、当社に声をかけていただいたのはありがたいと思い、お引き受けすることにしました。お互いやっている事業が同じなので、イメージがしやすかったです。

― 実際にM&Aの契約をされて半年ほどたちますが、何か効果を感じられますか。

小村氏:フロンティアホームさんは、私たちが持っていないものをたくさん持っておられます。特に学ばせていただいているのは、社員の方がほとんど辞めない会社であるというところです。社内が一枚岩であるという観点が組織づくりと会社づくりにおいて大切だということなど学ばせていただいています。

事業に関しては物件を買い取ってリノベーションをして再販する事業もやっていますが、リノベーションのアイディアが豊富なので学ばせていただいています。

フロンティアホームさんの様々な強みを取り入れられるのは、本当にありがたいです。M&Aして半年程ですが、これから様々なことが進んでいくと考えています。社員の皆さんは何事にも前向きに取り組んでくれています。

― 一般的なM&Aでは、譲渡側企業の経営者の方は引継ぎだけして退任される方が多いのですが、フロンティアホームは、M&A後も引き続き中川社長に経営していただくことにしたのですね。

小村氏:はい、残ってくださるというお話でしたので、私もできるだけ長く居ていただきたいと考えております。

― 中川社長のことを私も存じ上げておりますが、以前にも増してやる気に満ちておられるように思います。

中川氏:はい、頑張っていきたいです。しばらくは経営のハンドルを握らせていただいて、私の役割や責任は貫きたいと考えています。双方の会社は埼玉と石川で離れていますが、ビデオ会議システムも使って毎週ミーティングをしておりますし、コミュニケーションも取りやすくストレスは全く感じていません。

株式会社フロンティアホーム 代表取締役 中川 潤 氏

― 私もお二人を見ていて距離が近いと感じました。小村社長はフロンティアホームの今後についてどう考えておられますか。

小村氏:創業から着実に業績を伸ばされている会社ですので、私どもが賃貸管理の分野でお役に立てれば、さらに成長していけると感じています。 今後の展望としては、クラスコからDXなどについて提供させていただき、フロンティアホームの強みである物件の再生をさらに伸ばして、よりよくしていきたいです。フロンティアホームは顧客の信頼度が高い会社なので、クラスコが金沢市に展開している店舗のお客様とのパイプができればシナジー効果が生まれると考えています。

■株式譲渡側の経営者が語るM&A

― フロンティアホームの中川社長にお聞きします。ご自身で創業された会社の株を売却されるということで、非常に大きな決断だったと思います。会社のこれまでの歩みからお聞かせいただけますか。

中川氏:弊社は平成15年に埼玉県所沢市にて私1人で創業しました。当時、一棟もの物件のブームが来ていましたので、最初に物件の仲介業を始め、管理やリーシング、物件を買い取ってリフォームして販売することで事業を進めてきました。現在の管理戸数が2400程でこの6年間は売上10億円をキープしています。

弊社は少し変わっていまして、「NOノルマ、NOグラフ」で運営しています。私はこの業界で34年働いていますが、会社の数字を追うことより、お客様に満足していただいてお仕事をいただこうと、そこにフォーカスしてやってきました。

スタッフが増えてくる中で、年齢や性別など分け隔てなく応対する優しい人が私の理想なので、その点はスタッフにも1番のプライオリティとして伝えてきたつもりです。人間関係は社員みんなが大事にしてくれています。

一方で、人数が増えたことで経営よりも営業に重きを置いて運営してしまったので、経営するという観点で見たときに、大事な点が次第に浮き彫りになってきたのだと思っています。

― 中川社長は今年55歳、経営の最前線で取り組まれていますが、次の世代へどう承継するか、いろいろお考えになったようですね。

中川氏:はい、事業継承について3つの選択肢がありました。1つ目は家庭内承継なのですが、私の子どもたちは若すぎるかつ、興味もないので諦めました。2つ目は内部承継です。社内にリーダー的ポジションの社員はいましたが、私の行っている業務すべてを任せられるかと考えると少し心許なく、私が個人保証している金額や株式譲渡などを考えても現実的ではないと判断しました。そして3つ目がM&Aでした。

弊社は船井総研のコンサルタントの方に4年ほど前からコンサルティングに来ていただいていたのですが、会社の5年後、10年後の将来について話し合う中で、M&Aについて考えるようになりました。

当時の私はM&Aどころか株式譲渡の知識も何もなかったですが、担当の方からM&Aに詳しいコンサルタントを紹介いただいてお話を聞きまして、私自身の今後の人生をどうしたいのかを考えるようになりましたし、家族とも毎日様々なことを話すようになりました。

― 社長の中でM&Aに踏み切るきっかけはあったのですか。

中川氏:会社を経営していると次第に人数が増えてくるので、考えなければならないことが多くなります。当時の組織は「文鎮型」で、文鎮のようにあらゆる部門の上に私が位置し、すべての決済を私が行っていて、20名ほどの会社ですから社長の私も営業しなければなりませんでした。

日々忙しく、経営について深く考えずに30代40代と進めてきたところに、新型コロナが流行し、もし私が倒れてしまったら会社はどうなってしまうのだろうと心配になりました。大切な社員とその家族を絶対に路頭に迷わせてはいけないと思ったのです。

― そこで株式譲渡を決断され、その後も経営者として会社を運営されているのですね。

中川氏:自分の人生については、体が健康で会社運営の使命を与えていただけるのであれば継続して働き、社会のお役に立ちたいと考えています。

M&Aをするとすぐに仕事を辞めてしまう方もいますが、私はお客様と共に喜びを感じられるこの仕事が好きですし、今後のスタッフの育成など、先々のことも見ておきたいという気持ちがあります。

― 株式譲渡先をクラスコ様に決めたポイントは何でしたか?

中川氏: 6年前からリノベーションブランドに加盟させていただいて、クラスコさんの金沢の本社にお邪魔したのが大きなきっかけです。私も業界で様々な方にお会いしてお話を聞いてきましたが、小村社長は経営手法や仕組みづくりなどが上手な方だと以前から思っていました。

ですから、M&Aのコンサルタントの方からお話をいただき、小村社長と直接お話して引き受けていただけたときは非常に嬉しかったです。私どもの会社の文化など様々な部分を尊重していただいていますし、私たちに足りない部分をクラスコさんからご享受いただき、私もスタッフもさらに成長していかなくてはという気持ちでまとまっています。

次の社長が社内から出るのかはわかりませんが、社内から出るのであれば後継者をしっかりと育ててバトンタッチをする体制を整えれば、会社を続けていくことができるんだという気づきは非常に大きなものでした。

― 今まで以上に強い会社をつくっていこうと決意されているのですね。

中小企業の経営者の方の中には、事業承継に悩んでおられる方も多いです。その選択肢としてM&Aを考えている方もいると思いますが、経験者である中川社長から伝えたい事はありますか?

中川氏:以前の私のように「元気だからまだ大丈夫」と思っている方もいるかもしれませんが、事業承継に不安があれば、信頼できるパートナーを見つけていただきたいです。

私の場合は、船井総研というパートナーがいて、私の悩みに寄り添ってもらえたこと、そして私の会社の文化などを尊重していただけるクラスコの小村社長とご縁があったことが、M&Aを決めた決定打になっています。

自分が元気なうちにたくさんの情報を得て学び、信頼できるパートナーを見つけて相談をするべきだと思っています。「事業承継を先送りしてしまうのはバックアップを取っていないパソコンのようである」というセンセーショナルな記事を見たことがありますが、元気なうちにアクションを起こしたほうがいいと思います。

― 最後に、両社長にお聞きしたいのですが、今回M&Aされてよかったですか?

小村氏: はい、これから様々な可能性があると実感しています。お客様にも関東圏の物件を紹介できるようになり喜んでいただいていますし、社員と共に学ばせていただきたいと思います。

中川氏:非常に大きな決断でしたし、結論に至るまで様々なことに悩んできましたが、少しも後悔はありません。小村社長には感謝しかありませんし、これからも頑張っていきたいと思っています。

― M&Aは、譲渡側企業や譲り受け側企業様を問わず、成長していくための一つの戦略として活用できるものだと思います。私たちコンサルタントもそのご縁をつなぐお手伝いをしていきたいと思います。本日はありがとうございました。

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