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ゴルフ場のM&Aの時流と今後

  • サービス業 M&Aレポート
ゴルフ場 M&A

ゴルフ場経営の時流と、ゴルフ場経営の特徴

 経済産業省「令和元年度 商取引・サービス環境の適正化に係る事業(個別スポーツの需要喚起策可能性調査)報告書」によれば、1996年には1兆7600億円であったゴルフ場市場規模は、2018年には、8540億円まで減少しています

 また、ゴルフ場の数も、2002年の2460コースをピークとして減少トレンドにあり、2017年では2257コースまで減少しています。

 ただ、コロナ禍において、3密を回避出来るレジャーとして需要が高まり、これまでゴルフに関心の薄かった若年層や女性層も、積極的にゴルフに参加するようになるなど、業界としては一時的に活性化しているような状況であります。

 ゴルフ場経営の特徴としては、「会員制(メンバーシップ)」と「パブリック」に分類され、会員制が大半であり、また都道府県としては、兵庫、千葉、北海道、茨城が上位を占め、政令指定都市を有する都道府県や、首都圏や近畿圏に、位置することが多いのが現状であります。

(※ 会員制(メンバーシップ)…会員制(メンバーシップ)のゴルフ場で、会員権を保有し、登録された会員(メンバー)がプレーするが、ビジターが利用できる場合もあります。)

(※ パブリック…会員(メンバー)とビジターの区別がなく、誰でもプレーできるコース。)

 また、当該業界においても、DX化を進める企業が出てきており、フロント業務・コース整備の自動化、ダイナミックプライシング導入による収益最大化、ゴルフ場予約からスコア管理までスマホでの一元管理化など、新たなサービスで、若年層等の新たな顧客の囲い込み、コロナによる需要の高まりを、一過性のものにしない取組みを実践する企業が増えてきています

 コロナ禍では、ゴルフ場だけではなく、ゴルフ練習場やゴルフアパレルなど、周辺領域も巻き込んで、大きな潮流を生み出しましたが、今後、アフターコロナを見据え、この流れが続くのか、それともこれまで同様のダウントレンドにまた移行するのか、十分に注視しながら、M&Aを含む各種戦略を検討する必要があるものと思われます。

ゴルフ場のM&Aが注目される3つの理由

 このような中、ゴルフ場のM&Aは、以前から活発に行われておりますが、他の業界にはない以下のような点で、非常に注目されています。

 まず、1つ目は、「大手の寡占化が進んでいる」という点です。

 これは、M&Aでも多くの買収実績を持つ、パシフィックゴルフマネージメント(PGMグループ)や、アコーディアゴルフなどが、M&Aを活用しながら、業界再編を推し進めている現状があります。

 また、これら大手においても、M&Aやファンド間での異動があるなど、今後も業界再編という動きは加速するものと思われますし、この流れは、今後、中堅・中小のゴルフ場運営会社にも波及していくものと考えられます。

 次に、2つ目としては、「異業種からの参入が多い」という点です。

 このような異業種参入については、ゴルフ場業界以外でもM&Aの重要な目的となることが多いのですが、特にこの業界はその動きが活発化しています。

 特に多いのが、パチンコ店等のアミューズメント施設を運営する事業会社による、ゴルフ場の買収事例や、IT・DX関連事業会社が、ゴルフ場事業に参入し、IT・DX技術等を駆使して、顧客満足度の向上を目指し、業績アップを図るような事例が出てきています。

 3つ目は、「ゴルフ場特有の課題を抱えてのM&Aが多い」という点です。

 この業界でも、他の業界と同様に、後継者不在や、選択と集中を企図する中での、M&Aが実行されるケースもございますが、ゴルフ場経営の特有のものとして、預託金返還の課題や、施設の老朽化に対する資金面の不安を抱え、民事再生等の法的手続きとセットで、スポンサーに対して会社・事業を譲渡するというM&Aスキームが以前より多く、これらの課題を抱えたゴルフ場はまだ多く残っており、これら解決の手段として、M&Aを活用するというケースも増加するものと考えられます。

ゴルフ場のM&Aの成功のポイント

 ゴルフ場業界の長年の課題としては、「女性」「若年層」「インバウンド」ゴルファー人口を増やすことが挙げられます。

 投資ファンドなどは、ゴルフ場単体としての内部成長を行いながら、他の投資先が行う別の事業との連携なども取り入れることで、これまでのゴルファー層と違う顧客層にアプローチすることで、ゴルフ場の成長にも繋げていくことを想定しています。

 また、預託金や老朽施設という負の遺産処理を進めながら、壮年男性中心だった施設を、「女性」「若年層」「インバウンド」も意識した施設にリニューアルするための資本投下も行う必要があり、そのために必要な資本力を求めて、M&Aを検討することも必要になってきます

 業界再編が進むこの業界内で、本当に単体で成長していくことが最適なのか、M&Aで自社を売却し、大手資本傘下での共同運営や、M&Aで他社を買収し、スケールメリットを獲得するか、幾つかの選択肢を常に持ちながら、そのカードを切れる状況を作っておくことが重要になってきます。

 その為には、魅力あるゴルフ場運営を継続しておくことが最も重要であることは間違いないのですが、それだけではなく、他社にはない強みを創造しながら、早いタイミングで「M&A」というキーワードでの取り得る選択肢(カード)を把握しておくことが、成功のポイントになります。

 ご自身での情報収集はもちろんのこと、信頼できるM&Aアドバイザーに相談をしてみることも重要になってきます。

ゴルフ場M&A事例

株式会社平和の子会社による「足柄森林カントリー倶楽部(静岡県駿東郡)」の取得

 株式会社平和の連結子会社であるパシフィックゴルフマネージメント株式会社(東京都台東区)が、足柄森林カントリー倶楽部を会社分割のスキームで取得。ゴルフ場名称を「PGM御殿場カントリークラブ」に変更して、2022年12月に運営を開始したことを公表しました。

 パシフィックゴルフマネージメント株式会社は、遊技機メーカー大手の株式会社平和(プライム上場)の連結子会社として、全国で140を超えるゴルフ場の保有またはリース運営を行うほか、ホテル、高速道路のサービスエリア内レストラン事業等、「総合レジャー企業」として多くの事業を組み合わせ、お客様の視点に立ったサービスを追求し、ゴルフ場としての単体成長を高めながら、長期的に安定した収益基盤を構築するとともに、ホスピタリティ事業としてのグローバルリーダーを目指しています。

 株式会社平和は、2011年、当時、投資ファンドの実質傘下であったPGMホールディングス(現:パシフィックゴルフマネージメント株式会社)を、TOBにより連結子会社化するというM&Aを活用して、ゴルフ場事業分野に本格参入し、現在では、グループ内でのセグメント売上の過半を占め、現在も四大都市圏近郊のゴルフ場の積極的取得、ポートフォリオの見直しと入替を随時検討しています。

ソフトバンクグループの投資ファンドによる「アコーディアゴルフグループ」の取得

 ソフトバンクグループであるフォートレス・インベストメント・グループが、投資ファンドを通じて、アコーディアゴルフ(東京都品川区)と、ネクスト・ゴルフ・マネジメントを取得したことを、2021年11月に公表しました。

 アコーディアゴルフは、2002年に創業、2005年からゴルフ場のM&Aに注力、2006年には当時の東京証券取引所第一部上場に至り、2017年に投資ファンドMBKパートナーズの傘下入り、上場廃止となっていました。

 また、ネクスト・ゴルフ・マネジメントは、オリックスグループの1社であった、オリックス・ゴルフ・マネジメントが、2019年同ファンドのMBKパートナーズに買収されていました。

 逆に、フォートレス・インベストメント・グループは、2017年にソフトバンクグループ入りし、不動産投資、ホテル事業投資等を行い、ゴルフ場事業との相乗効果を企図し、報道等によれば、4000億円規模での本件取得を行っています。

 ただ、本コラム執筆時(2023年5月下旬)で、一部報道によれば、ソフトバンクグループがフォートレス・インベストメント・グループを、UAEの政府系ファンド及びフォートレス・インベストメント・グループの経営陣に売却する合意がなされることについて、報道がなされており、今後も注視が必要であります。

 

まとめ

最後に、株式会社船井総合研究所においては、企業運営において、以下の「差別化の8要素」を提唱しています。

  • 立地
  • 規模
  • ブランド力
  • 商品力
  • 販促力
  • 接客力
  • 価格力
  • 固定客化力

 

また、上記1~3については、戦略的差別化(=直ちに変更することが出来ない)

 上記4~8については、戦術的差別化(=企業努力で、短期的に変えることが出来る)としており、ゴルフ場のようなコース、クラブハウス等の大型施設を必要とするビジネスにおいては、「1、立地」が、非常に重要な点であることに間違いはありません。

 

 それに加えて、長期目線では、「2、規模」「3、ブランド力」を戦略的に高めていくこと、短期・中期目線では、「4、商品力」「5、販促力」「6、接客力」「7,価格力」「8、固定客化力」を戦術的・戦闘的に高めていく必要もあり、追求すべき理想のゴルフ場運営を、自社単体で行うことが可能なのか、M&Aを活用することで、理想のゴルフ場運営に到達することを目指すのか。「1、立地」を変更することが出来ないゴルフ場ビジネスにおいては、「M&A」も重要な戦略の一つであると考えています。

 その中で、ゴルフ場経営においては、コロナ禍という短期的に膨張した需要が、継続することを期待するだけの経営を行うのか、アフターコロナを見据え、選択肢としての「M&A」をしっかりと検証した経営を行うのか、今後の自社の分岐点となり得る、非常に重要なタイミングであると考えます。

 M&Aを活用した企業経営は、新聞等で報道される大企業だけのものではありません。自社の戦略としても十分に活用することで、自社の「収益性」「永続性」を高め、お客様を含む全てのステークホルダーから求められるゴルフ場経営を目指して参りましょう。

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