介護業界M&Aのメリット・デメリット
- 医療・介護 M&Aレポート
介護事業におけるM&Aのメリットとデメリットについて、売り手側・買い手側の両視点から情報提供させていただきます。
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介護業界M&A:譲渡(売り手)側のメリット
はじめに、介護業界におけるM&Aの売り手側のメリットとデメリットからお伝えさせていただきます。売り手側のメリットは大きく2つ考えられます。まず1つ目として「大きな資本の傘下に入ることによる安定した経営基盤」があげられます。大手企業の傘下に入ることで、資金力の向上等の財務的利点だけでなく、採用力の強化等の組織的利点も享受することができます。財務面においては、例えば、親子ローンによる低利子での借り入れや、取引先の集約によるスケールメリット等が考えられます。
また組織面においても大手企業の名前による採用力の向上、研修制度の整備、高い雇用条件等が考えられます。2つ目のメリットは「現経営資源の存続」です。経営資源とは、一般的に「ヒト・モノ・カネ・情報」を指しますが、M&Aでは売却後も現経営資源を継続することができます。「ヒト」に関しては、介護人材の不足は全国的な課題となっており、特に中小企業の社長様にとっては常に考えなければならない問題かと推察します。厚生労働省によれば、介護分野における有効求人倍率は平成30年度で3.95であり、「依然として高い水準にあり、全職業より高い水準で推移している。」としています。つまり、介護業界の「ヒト」は買い手としても確保しておきたい経営資源であるということです。
さらにただ従業員を引き継ぐだけでなく、大手企業での雇用条件に引き上げられるケースも多く、従業員の不安を解消することができます。また、経営資源「情報」もM&Aによって存続することができます。「情報」の定義は幅広く、「ヒト・モノ・カネ」以外の経営資源と言われていますが、介護事業においては、会社の知名度や、その地域で介護を必要とする要介護者の顧客情報等が該当すると考えられます。M&Aにより経営資源を譲渡することで、会社の名前(ブランド)だけでなく、その地域の要介護者をそのまま引き継ぐことができ、地域の介護環境を守ることに繋がります。
介護業界M&A:譲渡(売り手)側のデメリット
次に、売り手側のM&Aのデメリットは、「買い手との連携ができるか不安」であることの1点に集約されます。反対に言えば、「買い手との連携ができるか不安」を解消してしまえば、M&Aによるデメリットはほとんどないと言ってもいいでしょう。現オーナー(株主)は、売却後の従業員の待遇や、どのように統合されていくのかが不安であるかと推察します。さらに経営決定権を譲渡することも不安に感じておられる方も多いと存じます。
しかしながら、そういった売却後の運営イメージは、売却する前の社長同士の面談やQ&Aのやり取りを通して納得いくまで確認することができます。さらに言及すれば、M&Aは売り手側オーナー(株主)が納得して売却の意思をもって契約しない限り、売却されることはありません。そのため、売却前に可能な限り売却先を検討し、オーナー自らが不安を解消するため、積極的に質問等していくことがM&Aにおいては重要なポイントになります。
船井総合研究所では、中小企業コンサルティング会社のM&Aチームとして、先述したお悩みを持った売り手側のオーナー(株主)に寄り添ったご提案・サービスを強みとしています。
介護業界M&A:譲り受け(買い手)側のメリット
買い手側のメリットとして2つ列挙させていただきます。まず1つ目は「介護人材の確保」です。『平成29年度介護労働実態調査』によれば、介護サービスに従事する従業員の過不足状況において、不足感(大いに不足+不足+やや不足)を感じている事業所は、全体の66.6%であるとしており、さらに介護人材不足の要因として、「採用が困難である」と回答した事業所が全体の88.5%もおり、採用が困難であることの要因として、「同業他社との人材獲得競争が厳しい」との回答が最も多かったとあります。
そのような人材不足問題を抱えている業界において、一から採用をしていくことは、費用面、工数面において負担が大きいものかと推察します。その点において言えば、M&Aによりその地域において既に介護事業を買収することで、現場の人材を一度に確保することができます。会社内の一新規事業又は新規エリアとして新たに人材を採用するのか、既に事業を行っている会社を買収するのか、どちらのコストが低いのかを考えれば、M&Aは効果的な経営戦略の1つとして検討すべき選択肢かと存じます。
2つ目のメリットは「顧客の確保」でしょう。厚生労働省によれば、要介護(要支援)認定者数の増加率が前年比1.6%に対し、新設老人福祉・介護事業者数の増加率は前年比10.3%となっています。このことから、介護業界全体は需要が伸び続けている一方で、1事業者数当たりの要介護(要支援)認定者数は年々減少していると推測できます。
つまり、新規参入者が多い介護業界において、競合に勝ち、生き残っていくには、「顧客(要介護者)数を囲い込むこと」が重要なポイントと言えます。こちらのメリットにおいても、先述した1つ目のメリット同様、「自身で新しく開拓していくのか、既に事業を行い、顧客を保有している会社を買収するか」を比較し、客観的に判断することが重要です。
また、顧客数の増加は収入基盤の強化に繋がり、単純な介護収入だけでなく、関連商品の収入の増加や、銀行との交渉等についてもメリットが考えられます。また、M&Aによって獲得した顧客に対して、既に自社で展開している付帯サービスや関連商品を提供することによる売上の拡大、いわゆるシナジーを見込むことができます。自社で営業を行い、広告を打ち、採用を行い、出店計画をし、介護事業・新規エリアへの参入戦略を練るのであれば、一度M&Aを戦略的なものとして検討されてはいかがでしょうか。
介護業界M&A:譲り受け(買い手)側のデメリット
次に、買い手側のデメリットについてですが、特にありません。買収にデメリットを感じるようであれば、再考されることをお勧めします。デメリットはありませんが、買収検討時に気を付けたいポイントはいくつかございますので、ご紹介します。
まず、「株価の考え方」です。株価の計算には様々な考え方がありますが、M&Aは経営戦略の一つである以上、費用対効果を考えなければなりません。しかしながら、売り手側が納得する金額でなければM&Aは成立しないため、売り手の希望から極端に離れた金額では調整が困難になります。そのため、M&A時には第三者を仲介業者として、客観的な評価を参考にすることが重要になります。
次に「買収後の運営体制をイメージしておくこと」が重要になります。M&A時には売り手は売却後の待遇・雇用条件・ノルマ等を懸念されているケースが多くあります。買収後のイメージをしっかりと言語化し、売り手に伝えることで、M&A後の「こんな話は聞いていない」を未然に防ぐことができます。M&Aにおいて、「こんな話は聞いていない」は誰しもが最も避けたい結末ですので、買収前に売り手と納得するまで面談・Q&A等を実施し、相互理解をすることが重要になります。
船井総合研究所(船井総研)では、第三者としての客観的な評価から、面談等の設定、各条件の調整等ご提案しております。今すぐに売却・買収する予定はなくとも、是非一度M&Aに関するお話をいただければ、ご希望に沿ったご提案をさせていただきます。
大手地方銀行にて、中小企業コンサルティング業務に従事。本部にて審査部審査役を長らく務め、中小企業の資金調達や財務管理のみならず、金融機関側の与信判断にも知見を有する。2009年から4年間、銀行の医療福祉支援チームに属し、関西エリアのクリニック開業支援や介護福祉施設の設備投資案件等に数多く関わる。それら経験を活かし、現在は医療福祉業界を中心にM&A仲介業務に従事している。
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