M&Aにおけるクラウンジュエルとは? 買収防衛策としての特徴や条件、リスクを解説します。
- M&Aコンサルティングレポート
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1.クラウンジュエルとは?
クラウンジュエルとは経営陣の同意のない敵対的買収に対する防衛策の一つです。敵対的買収が仕掛けられた場合に、買収対象会社がその保有する財産・資産・事業を第三者や子会社に売り払ったり、分社化したりすることで企業の価値を下げ、買収から逃れる防衛策です。対象企業をクラウン(王冠)、切り離す資産などをジュエル(宝石)に例えており、焦土作戦と呼ばれることもあります。魅力ある王冠(対象企業)から宝石(価値のある資産)を切り離し、魅力を失わせることで買収意欲を削ぐことに由来しています。切り離すのは対象企業のビジネスにとって最も貴重な資産で、部門や営業秘密、貴重な財産、知的財産などがあげられます。
2.クラウンジュエルの条件
1.事業譲渡の場合
会社法467条は、会社の事業の全部(1号)、事業の重要な一部(2号)を第三者に譲渡する場合は株主総会の特別決議によって承認を受けなければならないとしています。また、事業譲渡の承認において、会社法309条では株主総会の株主の3分の2以上の賛成が必要としております。すなわち、会社が事業譲渡をするには株主総会で3分の2以上の賛成を得る必要があります。
また、事業の一部又は全部について、最高裁の見解では、「一定の営業目的のために組織化され、有機的一体として機能している財産の全部または重要な一部」としております。実際、会社にとって価値の高い事業を譲渡することになるため、会社の価値向上によって利益を得ている株主が容易に賛成するとは考えづらく、導入のハードルは比較的高いといえます。
2.重要財産譲渡の場合
会社法362条では、取締役会は重要な財産の処分の決定を取締役に委任することができないとしており、重要な財産の処分は取締役会の決定で行うことができます。事業譲渡のように株主総会の合意は必要ないため、比較的簡単・迅速に対応することができます。また、重要な財産の処分とは、最高裁の見解では「当該財産の価格、その会社の総資産に占める割合、財産の保有目的などを総合的に考慮」するとされています。つまり、会社にとって重要な財産の処分は取締役会のみで決定することができ、事業譲渡に比べて迅速かつ簡単に行えることが特徴といえます。
3.子会社譲渡の場合
敵対的買収に対する防衛策としての子会社売却もクラウンジュエルに含まれます。株式譲渡という形で実行され、敵対的買収者にとっても子会社を譲渡されることは大きな損失となるため、防衛策として機能します。会社法467条によると、子会社の株式又は持分の全部又は一部の譲渡には株主総会の承認が必要とされています。
3.導入におけるリスク
会社の取締役には会社法330条・355条を根拠に善管注意義務と忠実義務が課されています。これらの義務が課されているため、取締役は会社に損害を与えるような職務を行うことが許されていません。クラウンジュエルを実行し、事業や重要財産の処分を行うと、善管注意義務・忠実義務に反してしまう可能性があります。会社の事業や重要財産の処分を行うことは会社にとってはマイナスであり、損害を与えてしまう可能性があるだけでなく、一時的に会社が傾く危険性もあります。そして、損害のしわ寄せは株主に行くことになり、株主が損害を受けることになります。そのため、クラウンジュエルの実行により、株主代表訴訟を提訴されるリスクがあります。
それでもクラウンジュエルを実行する際は、株主との利害関係を一致させる必要があります。つまり、事業や重要財産の売却によって、敵対的買収に対抗することに長期的な利益があることを株主に証明することになります。その上で、会社法規定の人数よりも多数の株主から、承認を得ることが重要です。そのため、導入におけるハードルはかなり高く、あまり現実的な策とは言えないでしょう。
4.クラウンジュエルの事例
・ニッポン放送
2005年、ライブドアは当時ニッポン放送の子会社であったフジテレビの経営権を握ることを目的として、ニッポン放送に敵対的買収を仕掛けました。これに対し、ニッポン放送は子会社であったフジテレビの株式や、ニッポン放送が保有するポニー・キャニオン(フジサンケイグループに所属する大手映像・音楽ソフトメーカー)の株式の売却をちらつかせました。ライブドアによる買収はフジテレビの支配が目的であったため、フジテレビの株式を売却されれば、買収の意味はなくなります。結果的にライブドアが手を引く形で決着がつきました。
・前田道路
最近の事例としては、2020年の前田建設による前田道路の買収があげられます。前田建設は道路舗装事業の更新需要取り込みのための連携強化を目的(真の目的は前田道路の豊富な資金であったといわれている)として、前田道路に対しTOBを実行しました。それに対し、前田道路は総資産の2割に該当する535億円の特別配当の実施を発表しました。
前田道路はその後、ホワイトナイト(友好的な第三者に買収してもらう方法での買収防衛策)も検討しましたが、結果的には前田建設のTOBが成立し、連結子会社化しました。
5.その他の買収防衛策
1.ホワイトナイト
ホワイトナイトとは、敵対的買収を仕掛けられた際に、買収対象企業に友好的な買収者を発見し、買収してもらったり、合併することによって対抗する方法の買収防衛策です。第三者に友好的にTOBをしてもらうことになり、友好的買収者を白馬の騎士、買収対象企業を敵に捕らわれた姫に例えたものです。友好的買収者にとっては本来予定していなかったM&Aを行うことになるため、対象企業に対し、ある程度有利な条件を提示することが一般的です。具体的な施策としては、①敵対的買収者よりも高い金額でTOBをかける、②対象会社の第三者割当増資や新株予約権を引き受ける、③クラウンジュエルの実施の三つがあります。
2.ゴールデンパラシュート
ゴールデンパラシュートとは買収防衛策として、予め役員の退職金を高く設定しておく方法です。敵対的買収者は一般的に、買収した企業の経営陣を解任します。そこで、役員等経営陣の退職金を通常よりも高額に設定しておくことで、買収コストを大幅に上昇させます。それによって、財務的な魅力をなくし、買収に対する意欲を削ぐことが目的です。買収された際に経営陣が買収企業から脱出する手段としてお金をパラシュートに見立てたことが由来です。
6.まとめ
クラウンジュエルとは敵対的買収防衛策の一つであり、対象会社の事業や重要財産を売却することで実行されます。実際は株主総会の同意が必要だったり、株主から訴えられるリスクがあることから、実行は難しいといえます。しかし、頻度は少ないものの過去にクラウンジュエルが話題になったこともあります。また、事業成長の手段としてM&Aが注目されるようになってきているため、いまや敵対的買収はどの会社にも起こり得ることであるといえます。
ゴールデンパラシュートやホワイトナイトなど、クラウンジュエルの他にも買収防衛策は存在します。一つ一つの特徴を理解し、自社に合ったものを導入するのがよいでしょう。
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