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賃貸管理業界におけるM&Aの時流

  • 不動産賃貸管理 M&Aレポート
不動産 M&A

賃貸管理業界におけるM&Aの時流

買い手の特長

まず考えられるのが、大手企業グループです。大手企業は全国に既に支店や店舗、又は子会社を有していることが多く、譲渡企業近隣の支店・店舗・子会社等からの支援により、譲受後の管理体制やバックアップ体制が整っているといえます。そのため、既に大手企業が進出している(支店・店舗・子会社が近隣にある)地域でのM&Aでは、大手企業グループの子会社が譲受企業となるケースや、事業譲渡・会社分割等の柔軟なスキームによるM&Aが検討されることがあります。反対に、未進出(支店・店舗・子会社が近隣にない)地域においては、大手グループがM&Aを検討する譲渡企業には、グループにおいてその地域の拠点となり得るような、既に強い経営基盤を有し、次期社長候補も対象会社内に想定できる(自走できる)企業がより求められると考えられます。もちろん「地域」という考えは企業によって範囲が異なるため、一概には言えませんが、大手グループ企業との物理的距離はM&Aを検討する際の要因となるでしょう。また、大手グループは資本力・知名度・採用力に長けており、傘下に入ることで、大きな資本をもとにした事業の発展、採用力の強化を期待できます。

次に考えられるのは、地域一番店といわれる中堅・大手企業です。各地方・都道府県において地域一番点といわれる企業があります。全国的な事業展開はしていなくとも、当該地域において多くのシェア・知名度を獲得している企業です。このような企業は、地域において複数の店舗を有していることが多く、譲受後のバックアップ・管理・コンサルティングも十分に行うことができます。また、地域の住民からも特に支持されているケースが多く、譲渡企業の従業員や管理オーナーとの調整をうまく進めているのをよく目にします。譲受企業と譲渡企業のオーナー同士、従業員同士が知人であるケースも多く、スムーズな承継が期待できます。大手グループと比較すると資本力は多少劣るものの、M&Aにおいて懸念されるほどではなく、十分な事業拡大を期待でき、その地域においての知名度・採用力は大手グループに引けを取らないものがあります。

視点を変え、異業種の企業が譲受候補となり得ることもあります。賃貸住宅におけるインフラ・サービスを扱う中堅・大手会社、さらに地域で中堅以上の不動産仲介・住宅建築会社などが挙げられます。ともに不動産売買や建築ではシェアを獲得し、自社を総合住まい産業として発展拡大させるため、または安定したストック事業への進出を狙いとしていることが多くみられます。賃貸管理業界は特にストック収入として他業界からも魅力的であり、他業種からの譲受ニーズは高いといえるでしょう。企業成長には、その事業における市場拡大に合わせて、自社のシェア拡大が基本とされてきましたが、今の成熟した日本の経済状況では、生存手段としてM&Aが重要視されてきています。

 最終的に譲受企業を決定する譲渡オーナーは、M&Aの目的や譲渡後の予定、従業員・管理オーナー・業者との関係等、考慮する要素が多く存在するため、幅広く候補先を検討することが望ましいといえます。また、譲受企業にも譲渡オーナーの考え・目的を理解し、スムーズな承継を心がけなければなりません。高圧的な態度や上から目線での対応では、譲受ニーズが高まっている賃貸管理会社を譲り受けることは難しいといえます。

 船井総合研究所では、賃貸管理会社に対して長年コンサルティングを行っており、全国多数の企業と繋がりを有しています。そのため譲渡・譲受を考える賃貸管理会社にとって幅広い提案が可能でございます。

売り手の場合

まず考えられるのは、後継者問題です。業界問わず、M&Aのきっかけとなる大きな要因ではありますが、賃貸管理業界においても後継者問題は課題といえます。適材の承継者がいない場合、順調に経営を続けている会社であっても、企業価値のあるうちに希望する買い手企業に対して売却し、第二の人生設計を立てるというものです。

M&A(第三者への承継)以外での事業承継は、①親族への承継、②従業員・役員への承継が考えられます。

  • 親族への承継は、ご子息・ご子女がまだ幼い場合、事業を継がないことが明確である場合等、事業承継が困難であることも少なくありません。また、現オーナー社長がご子息・ご子女に承継する考えであっても、当人がそうでない場合、反対にご子息・ご子女が継ぐつもりであっても、現オーナー社長が継がせる気がない場合等、互いの考えが一致していないこともよく見受けられます。特に、不動産業では多額の借入を個人で連帯保証していたり、個人宅を担保にしていたりすることも多くみられますので、こういった場合、同様の責任をご子息・ご子女に承継できるか、よく考えなければなりません。ご子息・ご子女へ承継するつもりのオーナー社長は、互いの考えをよく話し合うことが大切です。
  • 従業員・役員への承継において、課題となるのが資金力です。株式価値は後述する手段によって算出されますが、株式を譲り受けるために、従業員・役員が個人で資金を準備する必要があります。従業員・役員本人にやる気があっても、そのご家族が懸念をされるケースが多数見受けられます。特に過去の利益が積み重なっている会社は、株式価値が高くなりますので、注意しなければなりません。従業員・役員が受け皿となる法人を作り、承継する方法もありますが、現オーナーは、第三者承継(M&A)と比較して譲渡金額が大きく減少する可能性が高いことにも留意しなければなりません。ただ経営者の立場を承継するのではなく、株式という資産を承継するということを意識して、検討する必要があります。

昨今は、経営者ご自身が55歳を超えるあたりから、承継を考えはじめ、60歳前後辺りに何かしらのきっかけ(家族状況、経営状況、体調など)により、現実的にM&Aを選択されるというケースが非常に多くなっています。他にも会社員のご友人から「退職金が~」という話の中から、ご引退を考え始めることもあるようです。ただし、賃貸管理業における創業社長の傾向としては、自身の営業力や個人の繋がりで、会社を牽引してきた方が多く、ご引退時期を逃してしまうことも少なくないかと考えられます。M&Aの株式価値の算出方法は多数ありますが、「○年前であれば、もう少し財務面が良かった…」「○年前の管理戸数の状態であれば…」と、M&Aを検討していなかったことによる後悔をなされるケースも多数目にします。

また昨今増えているのが、40代から、50代の経営者が、大手グループ・地域一番店にグループインし、自身も経営者を継続したまま会社の発展を実現するというケースです。前述した大手グループ・地域一番店の資本力・採用力・知名度を活かし、会社を発展成長させるための戦略として、M&A(グループイン)を選択する、成長戦略型M&Aです。社長自身は雇われ経営者として会社に残るため、従業員からの拒絶反応も少なく、また大手グループ・地域一番店としても経営者人材の確保にもなり、譲渡側・譲受側双方に大きなメリットがあります。譲渡オーナーとしても、個人の連帯保証を解除した上で、大手グループ・地域一番店の資本力を活用して、これまで借り入れできなかった金額をもって事業展開ができます。当然、雇われ経営者としてのプレッシャーはありつつも、連帯保証という金銭的・精神的負担をなくしながら、経営者を継続できる点に魅力があります。

事業承継自体は困っていなくとも、財務力・経営発想等において、自身・自社の領域を出ない事業展開にお悩みを抱えている方は、検討されると良い選択といえるでしょう。

賃貸管理業での売却の実例を多くみてきましたが、今現在の状況にもよりますが、今すぐ売らないとしても、出来ることからすぐに何か行動を起こすことをお勧め致します。仮にすぐに株式譲渡をしなくても、企業を永続させるうえで不可欠です。逆に、これが出来ないようでしたら、独力での企業経営が困難な状況にあるという一つの物差しにもなるといえます。

経営者の年代は限定しなくても、事業の停滞、管理戸数や売上ダウンから、このまま自力で続けていくのが厳しく会社株式譲渡を考える方も増えています。ただし、この場合は、かなり厳しさが続いた後になってしまい、企業価値が大きく下がってしまっているケースもあります。早めの判断が必要といえるのでしょう。

船井総合研究所では無料で企業価値診断を行っています。健康診断のように毎年ご活用いただく方も多数いらっしゃいますので、会社が好調な今、一度企業価値診断をしてみてはいかがでしょうか。

賃貸管理業界のM&A手法

賃貸管理業における、M&Aの手法は複数ありますが、その中で多く(7~8割)を占めているのが株式譲渡です。これは賃貸管理業界のM&Aも、例外ではなく、株式譲渡スキームが大半を占めています。

株式譲渡とは、対象会社の法人格は原則変わらず、株式(及び付帯資産)を譲渡することで新たな株主に経営権を譲渡するスキームです。今までの株主が、経営者として一定期間残るケースもあり、事業戦略はそのままにして、従業員の雇用形態や、取引先と契約関係などもそのままで、いわゆる株主の立場だけが変更となります。手続きが簡易というメリットがある一方、買い手にとっては簿外負債等のリスクも引き受けることになるデメリットもあります。

株式譲渡に次いで多いのが事業譲渡です。こちらは会社の資産、契約、従業員雇用等を一つ一つ譲渡するといったスキームです。株式譲渡と異なり、資産の所有権、契約関係、従業員雇用関係は当然には引き継がれず、一つ一つ確認して譲渡しなければならないため、手続きが煩雑です。一方で、買い手としては簿外債務等の引き受けリスクを軽減することができますし、売り手にとっても例えば他の事業がある場合などは、不動産仲介事業だけ譲渡するといった切り売りができるというメリットもあります。

またメイン事業を譲渡する場合は、会社分割をして新たな会社に資産を残し、別事業を実践する場合もあります。売り手企業の方向性、また買い手企業の要望に合わせた手法を考える必要があります。

賃貸管理業界のM&A相場

中小企業M&Aにおける代表的な株価算定方法としては、「時価純資産法(年買法)」と「マルチプル法」という2つがございます。それぞれの計算方法や、賃貸管理業界における相場は以下です。

1)時価純資産法(年買法)。時価換算した総資産(簿外資産含む)から、時価換算した負債(簿外負債含む)を差し引き算出された時価純資産を株価とする考え方です。対象会社の業績に
よっては、そこに営業利益などの「のれん」を上乗せするケースもあり、この算出方法を「年買法」といいます。

2)マルチプル法。償却前営業利益の4~5倍から正味有利子負債(有利子負債-現預金
等)を差し引き算出された額を株価とする考え方です。先述の時価純資産法が「資産」をベースと
した算出方法に対し、「キャッシュ」をベースとした算出方法となります。
「4~5倍」という数字については会社ごとに異なりますが、ストックビジネスでの未来への利益予測も
鑑みて、需要のある業種として、賃貸管理業界においては昨今5~7倍が許容範囲となっていま
す。ここから、対象会社の強み(独自のビジネスモデル等)や弱み(管理増加戸数・入居率な
ど)を踏まえ、倍率を増やしたり、減らしたりし価額を交渉することとなります。

そのほか、賃貸管理業では、管理委託戸数1戸で売上総利益が10~15万円、営業利益1
~2万円ほど、ストックとして売上維持できると言われています。もちろん、業務内容、単価、エリア
性から、一概には言えませんが、業界独自の目安として、管理委託戸数1戸あたり10万円~20
万円というシンプルな算定方法も言われています。ここに、正式には、上記1)、2)の算定方法を
加味していくとも言われています。

 船井総合研究所では、無料で企業価値診断を行っております。業界ごと・会社ごとに算定方法を検討し、複数の視点から企業価値を査定させていただきます。すぐに譲渡はしなくとも、健康診断のように活用していただければ幸いでございます。

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