葬儀・葬祭業界のM&A動向とは?
- 葬祭業 M&Aレポート
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M&Aとは
M&A(エムアンドエー)とは「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」の頭文字をとった略称です。「法人の合併・買収」を表します。「法人と法人が合併すること」もしくは「他の法人や事業の買収すること」を表します。つまり、法人または事業の移転取引を指します。一般的には「法人もしくは経営権の取得」を意味します。
葬儀業界のM&Aマーケットの時流
葬儀業界のM&Aは2015年ごろから徐々に件数が増えてきています。現在もM&Aは活発化しています。
2015年ごろのM&Aは、超高齢化社会に向けた数少ない成長マーケット。
そのような期待がありました。
ファンドが葬儀業界へ投資するケースが多くありました。
もしくは、他業種からの新規参入のためのM&A等が多くありました。
その後、2018年頃からは事業承継型のM&Aが増えています。
当時はオーナー経営者の親族内に承継者がいらっしゃらず、株式譲渡・事業譲渡を検討するという傾向が増えてきました。
当時の譲渡企業のオーナー経営者の年齢は60歳前後というのが一般的でした。
そして、2022年現在、少し潮流が変わり、売主のオーナー経営者様の年齢が若年化しています。
40歳~50歳ぐらいのオーナー経営者様が譲渡を決断されるというケースが増えてきているのが実情です。
その理由は、葬儀業界が必ず直面する2040年問題にあります。
(※2040年問題は船井総研が提唱する造語となります。)
葬儀業界が関わる2040年問題とは
2040年問題とは「死亡人口が減少していく」タイミング
現在、40~50代のオーナー経営者のご子息・ご息女のほとんどが10代であることが多いです。
そのご子息・ご息女に経営権を譲ることを検討するタイミングが正に「2040年前後」に来ることになります。
つまり、これから業界が確実に縮小していくタイミングで、「子供達に苦労させるべきなのかどうか?」ということをオーナー経営者は悩み始めることとなります。
当然ですが、その時には将来性が乏しい業界と見なされ、企業価値がつきづらくなってきますので、2040年前後のタイミングで譲渡しようとしても、中々価値がつかないということもあります。
そうであるならば、早めに「株式譲渡」、もしくは「事業譲渡」を行いオーナー資産の最大化を行っておくことが最善の策であると考え、譲渡を決断される方も多くなってきています。
葬祭業界のM&A件数の推移
葬祭業界のM&Aの件数は公表されることは少ないので、あまり世の中に出回りませんが、船井総研の葬祭業コンサルタント調べによりますと、年10件前後のM&Aが実行されていると推測されます。
また、その中の半数以上のM&Aは船井総研が携わっております。
葬祭業におけるM&Aの種類・スキーム
M&Aは様々な種類があります。大きく分けると、「合併」と「買収」の二つに分かれますがそれぞれ意味が違います。「合併」と「買収」に関しては狭義のM&Aと言われることが一般的です。M&Aを広義でとらえると「資本提携」「業務提携」までを含みます。
葬祭業のM&Aにおいては、「株式譲渡」「新設分割」「事業譲渡」の3つのスキームで行われるケースが多く見られます。
以前は、上場を目指す会社の「株式交換」というスキームもよく見受けられましたが、ここ3年間は見られません。
①株式譲渡
株式譲渡は、葬祭業のM&Aで一般的に用いられる方法の一つです。譲渡企業の株式を譲り受け企業に譲渡するスキームです。譲り受け企業は譲渡企業に対して対価を支払います。(すべての発行済み株式を譲渡する場合もあれば、何回かに分けて段階的に譲渡する場合もあります)
②事業譲渡
事業譲渡は、譲渡企業の事業のすべて、もしくは一部を譲り受けるスキームです。事業の譲り受けとなりますので、事業価値としての対価を支払います。譲り受け企業としては簿外債務などを引き継がなくてよいという点でリスクが軽減されるメリットもあります。
③新設分割
新設分価値は、譲渡企業の一部事業を切り分けて、新設する会社に承継します。譲渡企業は対価として新しく設立された会社の株式を取得します。
(稀にある)株式交換
株式交換は、譲渡企業の全ての発行済み株式を譲り受け企業に集約します。売主は対価として譲り受け企業の株式を取得することとなります。譲り受け企業から現金もしくは株式等を取得します。
とで提携関係を明確にすることが一般的です。
葬祭業M&Aのメリット・デメリット
譲り受け(買収)企業のメリット
・時間を買い、リスクを軽減できる
一から新規エリアに出展して認知を広げ成長させるのは時間だけでなくコストを要します。またしっかりと地域の方々へとブランドが浸透し成功するかどうかが不明瞭というリスクもあります。一方で、現状すでに立ち上がっている葬儀社を買収することは、譲渡企業側の会員をそのまま引き継げたり、ブランドの認知がある状態で新規エリアに進出することができるため、立ち上げまでのタイムラグがなく、事業計画が非常に立てやすいという大きなメリットがあります。
・規模の拡大=生産性の向上、スケールメリット
葬祭業の場合、M&Aで拡大する際に一番のメリットは、件数がアップ×人的交流を行うことによって生産性の向上が得られる点です。葬祭業は件数によって大きく人時生産性が異なってきます。生産性を高めることで営業利益率を格段にアップさせることができ、他社との競争力を高めることができます。また、お互いの企業のノウハウ(仕入れも含め)を共有しあうことで更なる成長スピードアップにつなげることができます。
譲り受け(買収)企業のデメリット
・簿外債務が出てくる可能性
M&Aではよく買収成立後に貸借対照表に載っていない「簿外債務」が判明することがあります。特に葬祭業のM&Aにおいて論点になる代表的な項目は「退職給付引当金」「残業代の未払い」「建物のアスベスト」等です。このようなリスクを回避するために、買収監査(デューデリジェンス)をしっかりと行い、法務リスク、労務リスク、財務リスク、環境リスク等の洗い出しを行う必要があります。
・社員が離反してしまうリスク
各葬儀社ごとに企業文化やオペレーションなども異なってきます。M&A後すぐに強引なオペレーション改善等に着手するのは危険とも言えます。お互いの企業文化を認めつつ、お互いの良さ、考えをすり合わせしながら同じ方向を向いたうえでの改革が必須となります。
譲渡(売却)企業・オーナーのメリット
・創業者利益を得ることができる
葬儀社は地域密着で運営されてきている企業が多いのが実情です。長年、先祖代々営業をしてきており親族内承継するのが一般的な業界でもあります。
親族内で承継する場合は、贈与税・相続税を支払うことで株主の異動ができましたが、M&Aで第三者に株式を譲渡する際は、株主がその対価を手にすることで初めて成立します。
また、株価に関しては税務上の株価とは異なり、のれん代(営業権)を付けて譲り渡すことになります。つまり、税務上の株価よりも譲渡対価は高くなる傾向にあります。
創業者一族(株主)は株を第三者に譲り渡すことで、元来、現金化するのが難しかった株を現金化し、創業者利益を得ることができるのがM&Aの一つのメリットとされています。
・後継者問題を解決することができる
後継者問題、2040年問題を解決することができるのがM&Aの一つのメリットです。その場合は、新たな株主が後継者を探してくることに力を貸してくれます。大きな会社であれば、社内人材から御社にとってベストな人材を連れてきてくれる可能性もあります。
また、後継者はいるものの2040年の下り坂のエスカレーターになる前に、
しっかりとした他社資本の元に参入することで、後継者が頭を悩ますことなく未来を築いていける可能性が高くなります。
・個人保証が外れる
葬儀社は式場を建設する際に銀行から借入を起こして、建設するのが一般的でした。ゆえに、銀行からの借入に対して、個人保証に入っているというオーナー経営者様も多いのではないでしょうか?
M&Aで第三者に株を譲り渡す際には、この個人保証が外れることが一般的です。
・譲渡後も経営者を継続できることもある
第三者に株を譲渡したからといって、経営者ではなくなるわけではありません。
あくまでも株主が変わるだけですので、その後経営者を引き続き行うかどうかは、譲り受け先様との交渉で決まっていきます。
もし、株は譲っても、経営者を継続したいという方がいれば、最初からそのような条件を提示して交渉に臨むことで、経営者続投を実現する可能性を広げることができます。
譲渡(売却)企業・オーナーのデメリット
・一人ですべての判断ができなくなる
オーナー経営者である場合は、経営者一人の判断で色々なことを決断することができました。しかし、株主が別の方に変わることによって、株主の意向も踏みながら決断をしていかなければなりません。そのため一人で全て物事が決められるわけではなります。
・社員が離散してしまう場合がある
こちらは譲り受け側のデメリットと同じになります。が、オーナーが変わり、経営者も変わるとなると、従業員様のストレスは少なからずあります。引継ぎをうまくすることができず、従業員様のストレスが大きくたまってしまうと退職を決断する社員が出てくる場合もあります。
葬祭業のM&Aの成功事例・失敗事例
葬祭業M&Aの成功事例
船井総研はM&Aの成功の定義を「M&A後、譲渡した企業・事業が成長しているかどうか」をひとつの物差しとしています。
その観点から見ると、船井総研がM&Aの仲介を行い成約まで導いた葬儀社のほとんどは、「M&A後、業績アップ」に繋がっています。
例えば、上場企業に譲渡した会社様の例でいうと、M&A後、3年で売上が2.5倍になった葬儀社、1年で葬儀施行件数が2倍になった葬儀社などあります。
上記の両者ともオーナー経営者様は株を譲渡した後も経営者として留任し、しっかりと自社の経営を行なわれています。
M&Aをすると会社がなくなってしまうと思われる方も多くいらっしゃいます。しかしそんなことはなく、前述の2社は「会社名」・「屋号」・「社長」は全て残ったまま、株主だけが変更されたという形になります。
それ以外にも葬儀社が墓石企業を買収したことにより、相互のお客様の紹介をしあうこと。それによって葬儀の売上、墓石の売上共に向上したという事例もあります。M&Aをただ売った、買ったの話で終わらせてはいけません。そうではなく、M&A後どのように企業が発展していくのか、にも着目してM&Aという手段を一つの成長戦略としてとらえることが大切です。
葬祭業M&Aの失敗事例
上記のデメリットにも記載した通り、M&Aはオーナー様にとってのストレスも多いものですが、何よりも従業員様にとってのストレスも大きいのも事実です。
離反を起こさずしっかりと相乗効果を生み出していくためには、譲渡側のオーナー様と譲り受け側のオーナー様がしっかり手綱を握って進行していかなければなりません。
引継ぎ期間は最低3か月、長い場合は2年程度見ても長すぎるわけではありません。ですので、しっかりとお互いの価値観をすり合わせながら引継ぎを行っていきましょう。
※船井総研では、この辺りのM&A後のお手伝いもさせて頂けますので、ご安心ください。
葬儀社をM&Aをする際に注意するポイント
葬儀社をM&Aする際に気を付けなければならないポイントは主に3つあります。
①労務関係が法を遵守しているか
②建物が法を遵守しているか
③将来の見込み顧客はどの程度いるのか(会員数・現状の受注内訳)
各ポイントの詳細解説
①労務関係を遵守しているか
葬儀社は24時間365日営業を行なわなければならない業種です。そのため、残業代や休みが規定通り、あるいは法を遵守しているかどうかということはチェックしなければなりません。
もし守られていない場合、株式譲渡後に労働裁判等に発生した場合、さかのぼって残業代をしはらわなければなりません。
M&Aで争点になるのは、この残業代を誰が支払うのか?という点になります。
一般的には、表明保証という形で、もし労働裁判になり支払が命じられた際は、前オーナーが保証することになります。
デューデリジェンス(買収監査)を通してどの程度のリスクがあるのかを見極める必要があります。かつ、しっかりと株式譲渡契約書の中には表明保証の内容を盛り込む必要があります。
事業譲渡契約の場合は、雇用契約に関してまき直しとなるため、過去の労働問題に関しては過去所属していた会社が支払うことになるので、リスクは減ることとなります。
②建物が法を遵守しているか
葬儀場の用途は集会場になります。集会場の用途で申請されているか、確認申請書があるか、検査済み書があるか、など建物自体の法を遵守しているかチェックする必要があります。
「今まで営業してきているのだから良いじゃないか?」と思われる方も多いのですが、大手企業になるとこの辺りを守っていない建物があることを嫌がります。
万が一、式場内で事故が起きた場合、建物が法を遵守していないとなると非常にリスクが高くなります。
譲り受け手によっては、この辺りを気にしない会社もあります。
が、先ずは自社の建物の用途が集会場になっているかを確認しましょう。また確認申請を行っているか、検査済書があるかも確認しましょう。消防完了検査等、今一度建物が法を遵守しているかをチェックしましょう。
③将来の見込み顧客はどの程度いるのか(会員数・現状の受注内訳)
譲り受け企業にとって重要なこととは何でしょうか?
それは譲り受けた後に事業として成長ができるかどうかという点もあります。
葬儀社において重要な点は、既存の会員数が何世帯あるのか、という点です。
会員数が多ければ多いほど、将来の施行件数も安定してくる傾向にあります。
現状の施行件数内訳で、会員施行が何%なのか?
非会員施行が何%なのか?
ポータルの紹介件数が何%なのか?
病院や施設からの紹介が何%であるか等をしっかり抑えましょう。
そしてどの程度は安定的に施行が入ってくるかの予測をたてましょう。
その上で、会員を集めるためのマーケティング計画が重要です。かつ、新たな出店ができる地域制なのかどうかなどを分析していくことが大切です。そして将来の売上予測を立てていくことも重要です。
葬儀社M&Aのまとめ
以上、葬儀社のM&Aについて詳しく解説してきました。しかし本来もっとお伝えしたいことがたくさんございます。
もしご希望があればお問い合わせいただけましたら、もっと詳しくお伝えいたします。お気軽にお問い合わせください。
今後、「2040年問題」に向けてM&Aが活発化してくることが予想されます。
特に2028年ごろまでは売り手市場になります。
そして企業価値がつくことが予想されます。
しかし、今後2028年以降になってくると買い手市場となります。そして企業価値がつきにくくなることが予想されます。
経営を長期的な視点で見つめていくことが重要です。これは貴社が譲り受け手に回る場合、譲渡に回る場合を問わず、です。
そしてM&Aをどのように活用していくかを見極めることが大切となります。
船井総研入社後は専門サービス業の経営コンサルティング部門の統括責任者として多数のM&Aを経験。現在は、M&A部門の統括責任者をつとめる。買って終わり、売って終わりではなく、M&A後の企業成長を実現するマッチングに定評がある。過去経営支援を行ってきた企業は200を超える。
光田 卓司の紹介ページはこちら 船井総研のM&Aの特徴とM&Aに関する解説ページはこちら