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食品製造・食品卸業を売却する際に検討しておくべき情報【売却の検討前に読むべき書籍無料プレゼント中】

  • 食品製造・食品卸 M&Aレポート
食品卸 M&A

「食品製造・食品卸業を売却する際に検討しておくべき情報」について、前提として食品製造業・食品卸業のM&Aにおける特徴について述べます。その後、相手先の業種(同業他社、他業種)への売却の際に特に注意すべき点を述べ、スムーズに売却を進めるポイントについてまとめます。

1.食品製造業・食品卸業のM&Aにおける特徴

まず、食品製造業・食品卸業の経営上の特徴についてまとめます。

・「食」という人の暮らしにおける必需品を扱っている。

・まったく同じものを扱う会社はない。

・製品自体にも、製造工程の運営にも「安全・安心」が求められる。

・経営幹部も工場長も工員も、近い場所で勤務していることが多い。

・大型の設備を有する。

・郊外に位置することが多い。

・設備投資に伴う資金調達も大きい。

・原料・エネルギーなどの価格変動の影響を受けやすい。

・製品単価、粗利益率は低いことが多い。

・「食」という人の暮らしにおける必需品を扱っている。

「衣・食・住」、「食欲・睡眠欲・性欲」とまとめられるように、「食」は生物の基本的な営みに必須なものであり、古来から嗜好品、楽しみとしても豊かな暮らしにとってかけがえのないものです。なくらない、なくてはならない産業であり、他の産業にも増して、事業を継続する社会的意義があります。

・まったく同じものを扱う会社はない。

例えば、建設業、不動産業、サービス業などでは、地域によって商圏が区切られることが多く、地域が変われば限りなく同じ事業を営んでいる会社があってもおかしくありません。一方、食品製造・卸業においては、最終製品に近づくにつれて、まったく同じ製品を扱う会社はなくなります。もちろん、原料など川上工程の取り扱い品であれば同じ製品が扱われることもありますが、産地・工法の違い等でまったく同じというわけではないことが考えられます。代わりが効かないだけに、後継者不在、業績不振などの理由で廃業するとなると困ってしまう関連業者や消費者が現れます。

・製品自体にも、製造工程の運営にも「安全・安心」が求められる。

「食の安全」が叫ばれて久しいですが、今後もその声が強まることがあっても弱まることはないでしょう。厚生労働省、保健所をはじめとした各省庁、自治体が定める基準の他、HACCP、ISOなど国際的な基準、得意先の要求基準・監査など厳しいチェックの目にさらされており、命に関わるだけに高い水準での説明責任を求められます。

また、製品だけでなく工場の運営においても「安全・安心」は重要です。機械の操作や重い原料・製品の取り扱いなど危険と隣合わせであるため、細心の注意を払った運営が経営者には求められます。

・経営幹部も工場長も工員も、近い場所で勤務していることが多い。

食品製造業が価値を生み出す場所は食品工場です。中小企業においては、食品工場に本社機能が併設していることが多く、経営者も総務部もそこに勤務しています。情報伝達の面では常に指示出し、現場のチェックができる、ともすれば経営者もラインに入って働くことができるというメリットの一方で、来客や会話から従業員に機密情報も伝わってしまうリスクが高いという側面もあります。

・大型の設備を有する。

食品の製造においては古くから機械化が進んでいます。現代では農水産物の生産・収穫・加工から、原料化、最終製品化、それらに伴う計量、配分、包装に至るまで、機械が入らない工程はないと言っても過言ではありません。保有する設備のレベルが、事業の生産性に大きく影響します。そして事業が継続、規模拡大をするにつれて、機械の数は増加、規模は大型化します。それには工場自体や土地も大きくある必要があります。昨今はものづくり補助金や事業再構築補助金など製造業の設備投資を後押しする制度も多数打ち出されているため、それをきっかけに大型の設備投資を進めた企業も多くあります。

・郊外に位置することが多い。

大型の工場・土地を保有するために、地価、周辺環境等の制限あり、都市部ではなく郊外部に工場を立てていることが多いです。食品の品質のためにも、豊かな自然や川上の業種が近く、水のきれいな郊外を選ぶ合理性があります。

・設備投資に伴う資金調達も大きい。

大型の設備投資をするために、自己資金でまかなえない部分は資金調達をする必要があります。直接金融や補助金も手段になりますが、多くの場合は銀行借入によって調達していることでしょう。返済より投資のスピードが早いと、設備の買い替え、追加の度に借入も増加することになります。

・原料・エネルギーなどの価格変動の影響を受けやすい。

生産の材料となる原料や、工場を運営するための水道光熱費、機械、車両運搬具の燃料など、食品製造業が付加価値を生み出すには、多くの資源を必要とします。穀物相場など投機レベルでの資産管理を要する業種もあります。少なくとも昨今の原価高騰、エネルギー価格の上昇において、影響を受けなかった企業はないでしょう。

・製品単価、粗利益率は低いことが多い。

消費者が日々購入する食品を取り扱うだけに、その単価は一部の嗜好品・希少品を除いて低いことが多いです。また、原料・エネルギーをはじめ、自社でできない加工の外注などの外部原価を多量に必要とするため、粗利益率は他業種と比べて一般的に低いです。

ここまで述べた食品製造業・卸業の経営上の特徴は、そのままM&Aにおける特徴・注意点に繋がります。事項以降、業種内、業種外にわけて、その注意点についてまとめます。

2.同業他社への売却の注意点

同じ食品製造業の会社が同業である自社を買収する背景には、様々な理由が考えられます。

・市場の成長が鈍化している。

・原料・資源価格の上昇

・健康ブーム、環境への配慮などニーズの多様化

・市場の成長が鈍化している。

国内人口がピークを迎え年々減少しており、既存の市場だけで事業を営んでいると昨年の売上を保つだけで精一杯という企業は多々あります。既存の販路ではなく新規の販路の開拓のため、既存の商品だけではなく新規の製品を販売するために、新規事業投資ではなく、買収を選ぶことは、立ち上がりのスピード、ノウハウ・技術の獲得、人員・設備の獲得など転移おいて有効だと言えます。

・原料・資源価格の上昇

2023年は大手製糖会社の日新製糖と伊藤忠製糖もがM&Aによって合理化・原価改善に取り組んでいます。危機意識を持って考えると、原料・資源価格が高くなり、国内市場が縮小する中で事業を継続、発展させるために、M&Aは選択肢となりえます。スケールメリットによる調達価格・販売価格の交渉力の強化、クロスセルによる営業効率の上昇などを見込んでの判断となります。

・健康ブーム、環境への配慮などニーズの多様化

市場縮小に伴い競争が激化する中で、各社には独自性のある製品開発が求められます。しかしながらブランドや他社にできない製造技術などは一朝一夕に身に付けられるものではないため、M&Aによる外部からの調達が手段になりえます。健康によい素材を使っている、環境にやさしい工法を用いている企業を買収することで即時にニーズに答える、独自性を生むことができます。惣菜を作るにしても、明治時代創業ながら後継者がいない会社や経営状況が思わしくない会社を買収して、「創業100年」とうたえるとそれは付加価値になります。

同業種M&Aの場合、食品業界の経営上の特徴については買い手企業も把握していると考えられます。その上で特に注意すべきは、何にも増して「情報漏洩の防止」と「シナジー効果の確認」です。

・情報漏洩の防止

-社外への漏洩

情報漏洩の防止は、食品製造業・卸業に限らずM&Aを検討する際の最重要事項と言えます。特に売却を検討している場合、その情報が取引先に伝わることは、経営不振を疑われ今後の取引に悪影響が出るおそれが大いにあります。加えて同業界への売却を考えている場合は、自社のよく知る企業も多数存在するだけに、経営者間の噂として広がるおそれがあります。取引先に有力な買い手となりそうな会社がある場合でも、直接相談、交渉することはおすすめできません。売り手側のフィナンシャル・アドバイザーを通して、買い手候補とは秘密保持契約を結んだ上で交渉すべきです。

-社内での漏洩

前述の通り食品製造業はひとつの工場に、経営者、経営幹部、従業員が勤めていることが多々あります。事務所でM&Aに関する話をすることは御法度であり、会議室でも壁の薄さ等に留意する必要があります。また、来客や資料、電話などにも細心の注意を払うべきです。従業員は思いのほか社長が誰と話しているのか気にしているものです。かかってきた電話や来客の一次対応をするのは事務方の従業員であることが多いことでしょう。ちょっとした社名の確認や名刺交換がM&Aを検討しているという情報の漏洩に繋がります。従業員にとって勤める会社が売られるかもしれないという疑念を抱くことが、働くモチベーションや心理的安全性に悪影響を及ぼすおそれが大いにあります。また情報の機密性を理解していない従業員の場合、安易に同僚や家族に話を広げるおそれもあります。

社長の側近にいる、幹部、家族、税理士、銀行などにも、話す場合は自信と同様の情報管理を求めると厳しく伝えた後にすべきであり、心配されるなら開示しない、開示する段階を決めておくことをおすすめします。

・シナジー効果の確認

食品製造業では1社として同じ製品を製造していく企業はありません。よって、食品製造業としてひとくくりにしてM&Aをすれば経営が効率化する、成長するとは考えられません。例えば、同じ領域の建設をおこなっている企業同士であれば、大阪の企業が奈良の企業を買収すれば営業エリアが拡大して成長が見込みやすいでしょう。食品製造業の場合はそうはいかないため、自社の製品が売却先の販路で売れるのか、自社の取引先と他社の取引先にバッティングはないかなどつぶさに確認する必要があります。

3.他業種への売却の際の注意点

他業種への売却の際に注意すべき点として以下を挙げます。

・食品業界に参入したい理由の確認

・食品業界への理解

・食品製造業・卸業を運営する経営条件の有無

・食品業界に参入したい理由の確認

異業種から食品業界に参入したい理由は様々あります。昨今のトレンドでもあるパーパス経営を背景に、社会における会社の価値を掲げる会社が増えています。そこで社会性のある事業をはじめたり、地域に根差すとしてコングロマリット化(複数業種運営)に乗り出したりするケースも見受けられます。生活と密接に関わる「食」はその対象とされがちです。そのような高い志の目的がある一方で、興味本位で買収をしたがったり、きれいごとを言う経営者もいなくはないので見極める必要はあります。

・食品業界への理解

食品業界の経営上の特徴として、「暮らしにおける必需品である」「安全・安心が求められる」など述べました。認可が必要だったり、既存の業種では想定していないレベルでの品質が求められたりすることがあります。買い手企業が許可の取得や譲り受けなどの対応、衛生基準への対応など求められることが多いため、まずはそれらの理解がある先か確認する必要があります。逆に言うと、自社の運営のために必要な認可や資格者を整理し説明できるようにしておくことは、自社のアピールおよびスムーズな交渉に役立つことでしょう。

・食品製造業・卸業を運営する経営条件の有無

業界の特徴として、「大型の設備を有する」「郊外に位置することが多い」「資金調達も大きい」とも述べました。会社の資産と負債(設備、建物、土地、借入金など)が大きいため、設備の詳細や借入金の条件など買い手候補が気にする情報を整理しておく必要があります。決算書上はほぼ価値が認められていない減価償却が終わった資産なども稼働しているなら価値として認められることもあるので確認が必要です。買い手が異業種参入だと、そのあたりの業界の事業を把握していないことも考えられます。また、継続した投資のための資金力・資金調達力、郊外に位置する工場の管理力なども買い手に求められる条件となり得ます。

4.まとめ

食品製造・食品卸業を売却する際に検討しておくべき点は無数にあります。安易に考えず以下の3点に留意して進められることをおすすめします。

・自社の特徴を把握して外部に伝わるようにしておく

・時間的・経済的に余裕を持った状態で取り組む

・M&Aの専門家に相談する

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