事業承継でまず何をすればいいか分からない、という声は少なくありません。
「後継者がいない会社はやはり廃業になるのでしょうか」という相談も、実務の現場でたびたび耳にします。
事業承継の手続きは、会社の現状把握から始まり、後継者・方法の決定、承継計画の策定、実行、そして承継後の定着という順序で進みます。手法をまだ決めていない段階でも、この順序さえ分かっていれば、次に何をすべきかで迷うことは少なくなります。
本記事では事業承継の進め方を4つのステップに整理し、何から始めるべきかに絞って解説します。各手法の詳しい中身や税金の細目、相談先の選び方は別の記事に譲ります。
事業承継の基本的な考え方や3つの方法の全体像を先に確認したい方は、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継とは|方法・進め方・税金までの流れをまとめて理解できるガイド』
経営の正解は、一つではありません。 まずは出口戦略の『選択肢』を可視化する診断ツールを手に取り、 次なるステージへの展望を具体化する準備を始めてください。 プロの目利きで自社の『真価』を知ること。それが、後悔のない決断への第一歩です。


事業承継の手続きは全体で4つのステップに分かれる
事業承継の手続きを大きく4つのステップに分けておくと、いま自分がどこにいて次に何をすべきかを見失いにくくなります。
経験上、この4つの順番を飛ばさずに踏むことが、手続き全体を滞らせないための基本になります。
ステップ1.現状を把握する
最初のステップは、会社の資産・株式・負債の状況と、後継者になり得る人材の有無を確認する現状把握です。
ステップ2.後継者・承継方法を決める
現状が見えたら、親族内・従業員・第三者(M&A)のどの方法で承継するか、誰を後継者にするかを固めていきます。
ステップ3.事業承継計画を立てる
方針が固まったら、いつ・何を・誰が担うかを時系列に落とし込んだ事業承継計画を策定します。
ステップ4.計画にもとづいて実行する
計画に沿って株式や資産の移転、関係者への周知、契約手続きなどを実行に移します。
実行して終わりではなく、経営体制を現場に定着させる段階もこの先に控えています。

事業承継の手続きでまずやることは会社の現状把握
事業承継の手続きで最初に確認すべきは、資産の棚卸しよりも先に「いつまでに承継を終えたいか」というゴールの時期です。
実務では、承継したい時期がすでに来年・再来年に迫っている経営者に対しては、通常よりも前倒しで多くの対応を並行して進めるよう助言しています。
ゴールの時期が定まっていない場合は、まずそこを経営者自身に確認してもらうところから始めます。
会社の資産・株式・負債を整理する
現状把握の中心になるのが、現金預金や不動産・設備といった資産、自社株式の保有比率、金融機関からの借入や保証といった負債の整理です。
とくに自社株式は、誰がどれだけの割合を持っているかによって、その後の承継方法の選択肢が変わってきます。
後継者になり得る人材の有無を確認する
現場では、何も検討を始めていない会社に対して、後継者となり得る方が社内にどれくらいの期間在籍し、どこまでの実務を任せられているか、株式はいま社長がどれくらいの割合を保有しているか、といった基本情報を一つずつ確認していきます。
この段階でヒアリングが甘いと、後の方針決定でやり直しが生じやすくなります。
経営理念や取引先との関係など「見えない資産」も洗い出す
貸借対照表に載らない要素も現状把握の対象です。
経営理念や取引先との信頼関係、現場に蓄積された技術やノウハウ、従業員の定着度合いといった「見えない資産」は、後継者が引き継いだ後の経営を大きく左右します。
数字には表れにくい分、後回しにされがちですが、早い段階で棚卸ししておくべき項目です。

事業承継の手続きで後継者・方法を決める
現状把握が終わったら、事業承継の手続きは後継者と承継方法を決める段階に進みます。
親族内・従業員・第三者(M&A)の3類型から検討する
承継方法は大きく、親族内承継・従業員承継・第三者承継(M&A)の3つに分かれます。
どれか一つに最初から絞り込むのではなく、現状把握で見えた後継者候補の有無や株式の分散状況をふまえて比較検討することが、後の手続きを円滑に進める前提になります。
3つの方法をより詳しく比較検討したい場合は、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継の方法3類型を比較|親族内・従業員・M&Aの違いと選び方ガイド』
後継者候補との合意形成を進める
方法の方向性が見えてきたら、後継者候補との合意形成を進めます。
実務上は、経営者が「継いでほしい」という意思を自分の言葉で明確に伝えることが、後継者候補の覚悟を固める第一歩になります。
曖昧な言い方のまま時間が過ぎると、後継者候補も自分の意思をどう扱えばよいか分からなくなってしまいます。
承継の方針を家族・関係者と共有するタイミングを決める
後継者・方法が固まったら、いつ・誰に・どこまで共有するかというタイミングを手続きとして整理しておきます。
承継は経営者が元気なうちに計画的に進める取り組みであり、相続とは性質が異なるため、この違いを家族内で共有しておくことも、この段階で済ませておきたい作業の一つです。

事業承継の手続きで承継計画を立てる
後継者・方法が決まったら、事業承継の手続きは計画づくりの段階に入ります。
事業承継計画書に記載する主な項目
事業承継計画書には、会社の現状と将来の方向性、後継者の育成方針、株式や資産をいつ・どのように移転するかというスケジュール、関係者への周知の順序、必要な資金の調達方法などを記載します。
現場では、この計画書づくりを後回しにする経営者が少なくなく、税制の活用を検討する段になって慌てて期限を確認するケースが見られます。
事業承継税制を使う場合は特例承継計画の提出が必要になる
事業承継税制の適用を受ける場合は、都道府県に特例承継計画を提出したうえで、実際の株式の贈与や相続を進める必要があります。
提出期限や適用期限は制度の延長によって変わることがあるため、最新の情報を確認しながら計画に組み込むことが欠かせません。
事業承継税制の基本的な仕組みについては、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継税制とは?納税猶予の仕組みと特例措置をわかりやすく解説』
特例承継計画の提出期限やスケジュールをより詳しく知りたい方は、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継税制の期限と特例承継計画の提出期限|いつまでに何をすべきか』

事業承継の手続きを実行する|手法別の流れ
計画ができたら、事業承継の手続きはいよいよ実行段階に入ります。
実務では、専門家チームを組む入り口は税理士側からの相談だけでなく、金融機関が持株会社化などのスキームを提案し、そこから経営者が相談に訪れるケースもあります。
どちらの入り口であっても、司法書士や金融機関との連携順序をあらかじめ整理しておくことが、実行段階を滞らせない鍵になります。
親族内承継の実行手続き
親族内承継では、株式や資産を贈与・相続・売買のいずれの形で移すかによって、必要な契約書や税務上の手続きが変わります。
代表者の変更にあわせて、法人であれば登記の手続きも必要になります。
親族内承継の具体的な進め方やメリット・デメリットについては、こちらのコラムもおすすめです。
『親族内承継とは|メリット・デメリットと進め方を経営者・後継者向けに解説』
従業員承継の実行手続き
従業員承継では、後継者となる社員が株式を取得するための資金調達が実行段階の中心的な課題になります。
MBO・EBOのスキームを組む場合は、金融機関やファンドとの調整も並行して進めることになります。
従業員承継の資金調達やリスクヘッジの工夫については、こちらのコラムもおすすめです。
『従業員承継(社内承継・MBO/EBO)とは|進め方とメリット・デメリット』
第三者承継(M&A)の実行手続き
第三者承継(M&A)では、相手企業の実態を確認するデューデリジェンス、条件を確定する譲渡契約の締結、資金決済を伴うクロージングという手続きが加わります。
第三者承継(M&A)の具体的な流れや会社譲渡の進め方については、こちらのコラムもおすすめです。
『第三者承継(M&A)とは|会社売却の流れと後継者の探し方を中立に解説』

事業承継の手続きが完了した後に取り組みたいこと
株式や代表権の移転が完了しても、それだけで事業承継の手続きが終わるわけではありません。実務上は、取引先や金融機関への周知を徹底し、後継者と幹部の関係を築く時間を見込んでおくことをおすすめします。
ここでの引き継ぎが不十分だと、経営体制の混乱や古参社員の離職につながることがあります。
承継後に経営体制が混乱した実例や、その回避策については、こちらのコラムもおすすめです
『事業承継の失敗事例とうまくいかない理由|早期の相談で防げる備え方』

事業承継の手続きにかかる期間と相談するタイミング
検討から実行までは数か月〜数年と幅がある
事業承継の手続きにかかる期間は一律ではありません。
中小企業基盤整備機構が運営する「事業承継・引継ぎポータル」で公開されている事例では、地域の業界紙に取り上げられた記事がきっかけで問い合わせが入り、短期間で事業承継を終えたケースが紹介されています。
別の公開事例では、後継者候補の検討をSNSで公表してから譲渡契約の締結まで約5か月を要しています。
こうした事例からは、ゴールまでの期間が短いほど、複数の専門家を同時並行で動かす必要が出てくることがうかがえます。
M&A仲介への警戒がある場合の相談先の考え方
小規模な会社にまで一律に営業の連絡が届くと、その姿勢自体に不信感を抱く経営者は珍しくありません。
第三者承継(M&A)に限らず、特定の手法に強い相談先にまず相談すると、その手法に誘導されているのではないかという不安が残ります。
手法が決まっていない段階では、親族内・従業員・第三者のいずれにも偏らない中立な窓口に、まず現状把握の相談をしてみることをおすすめします。
身内に相談しづらい場合はどう進めればよいか
義理の関係にあたる後継者候補など、身内を飛び越えて銀行や税理士に相談するのを躊躇してしまう場合もあります。
こうしたケースでは、誰かに相談する前に、まず第三者の窓口で手続き全体の流れを把握しておくと、いつ・どのタイミングで身内に切り出すかを自分の判断で決めやすくなります。
事業承継の相談先の選び方をさらに詳しく知りたい方は、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継は誰に相談すべき?相談先の種類と選び方をわかりやすく解説』

【まとめ】事業承継の手続きは早期の現状把握から始まる
事業承継の手続きは、現状把握、後継者・方法の決定、承継計画の策定、実行、そして承継後の定着という順序で進みます。
どのステップでつまずいていても、現状把握に立ち返って会社の資産・株式・後継者候補の状況を数字で確認し直すことが、手続き全体を前に進める近道になります。
手法がまだ決まっていない段階でも、中立な立場で相談できる窓口はあります。
船井総研あがたFASでは、税務会計と経営コンサルティングを一気通貫で見る中立な立場から、手法を決める前の段階でも事業承継の手続き全体を一緒に整理し、実行まで伴走しています。
まずは自社の資産・株式・後継者候補の状況を整理し、承継のゴールをいつに設定するかを決めるところから始めてみてください。
生命保険を含めた資金対策の進め方に迷ったときは、事業承継の無料相談で状況を整理できます。
事業承継の資金対策の基礎を確認したい方には、業種を問わず使える事業承継の資料ダウンロードもご用意しています。
経営の正解は、一つではありません。 まずは出口戦略の『選択肢』を可視化する診断ツールを手に取り、 次なるステージへの展望を具体化する準備を始めてください。 プロの目利きで自社の『真価』を知ること。それが、後悔のない決断への第一歩です。
【業界専門コンサルタントが担当】「出口戦略」診断で自社の価値を正しく守る。ベストな承継を実現するための第一歩。


よくある質問
Q. 事業承継における生命保険の活用とは何ですか?
事業承継における生命保険の活用とは、経営者に万一のことがあった際に受け取る保険金を、相続税・贈与税の納税資金や自社株式の買取資金、死亡退職金・弔慰金、代償分割の原資として使う資金対策です。特定の保険商品を売り込むものではなく、資金の目的に応じて必要な部分にだけ活用するかどうかを判断する考え方です。保険料の負担など制約もあわせて検討する必要があります。
Q. 事業承継に生命保険は必要ですか?
自社株式の評価額が高く、後継者の手元資金だけでは納税資金や買取資金が不足する見通しがある場合には、生命保険が資金準備の選択肢の一つになります。ただし必須の対策ではなく、収益不動産や自社株式の分散・集約など他の方法でも同様の資金需要に対応できる場合があります。自社の状況に応じて、複数の対策を比較したうえで判断することをおすすめします。
Q. 定期保険と終身保険の違いは何ですか?
定期保険は一定期間だけ死亡保障が続く保険で、保険料を抑えやすい一方、満期後は保障がなくなり解約返戻金もほとんど残りません。終身保険は保障が一生涯続き、保険料は高くなりやすいものの解約返戻金が積み上がっていく設計が一般的です。事業承継の資金準備では、資金が必要になる時期の見通しに応じて使い分けが検討されます。
Q. 生命保険の解約返戻金はいつ受け取るのが有利ですか?
解約返戻金は契約からの経過年数によって金額が変動し、保険の種類ごとにピークを迎える時期が異なります。承継を予定している時期と解約返戻金が最も高くなる時期がずれていると、想定より少ない金額しか受け取れないことがあります。契約時にあらかじめ承継予定時期とのタイミングを確認し、返戻率の推移を保険会社に確認したうえで判断することをおすすめします。
Q. 事業承継で生命保険を活用する際はどこに相談すればよいですか?
保険代理店や保険会社だけでなく、保険料が資金計画や自社株式の評価に与える影響まで含めて判断できる税務・会計の専門家にも相談することをおすすめします。承継の方向性がまだ固まっていない場合は、親族内承継・従業員承継・第三者承継を横断して中立的に相談できる窓口を頼る方法もあります。特定の保険商品への誘導がない立場で話を聞ける相手を選ぶことが判断の質を左右します。