後継者がいない会社はやはり廃業になるのでしょうか。
事業承継の方法を調べ始める経営者や後継者の多くが、まずこの不安に行き着きます。事業承継の方法には、親族内承継・従業員承継・第三者承継(M&A)という3つの類型があり、親族に後継者がいない場合でも、廃業以外の選択肢は残っています。
一方で、第三者承継(M&A)については「要は乗っ取りということでいいのでしょうか」と身構える経営者も少なくありません。
本記事では、事業承継の方法3類型のどれかに決めつけることなく、後継者の有無・資金・税負担・従業員の雇用維持・スピード・秘密保持という6つの判断軸から中立に比較します。
各手法の詳しい進め方は専用のコラムに譲り、本記事では「自社にとってどの軸を重視すべきか」を整理することに絞って解説します。
経営の正解は、一つではありません。 まずは出口戦略の『選択肢』を可視化する診断ツールを手に取り、 次なるステージへの展望を具体化する準備を始めてください。 プロの目利きで自社の『真価』を知ること。それが、後悔のない決断への第一歩です。


事業承継の方法は主に3類型|親族内・従業員・第三者(M&A)の違い
事業承継の方法は、大きく親族内承継・従業員承継・第三者承継(M&A)という3類型に分かれます。実務上は、この3つのうちどれが優れているという序列はなく、後継者候補の有無や資金の都合によって選べる範囲が変わってくるものと捉えています。
事業承継の種類・3類型は「親族内・従業員・第三者(M&A)」の3つ
事業承継の種類を整理すると、後継者となる相手が誰かによって3つに分類できます。子や配偶者などの親族が継ぐ親族内承継、社内の役員や従業員が継ぐ従業員承継、社外の企業や個人が継ぐ第三者承継(M&A)です。中小企業庁など公的機関の資料でも、この3類型を軸に事業承継の手法が整理されています。
親族内承継とは|子や親族に引き継ぐ方法
親族内承継は、現経営者の子や配偶者、兄弟姉妹などの親族が後継者となり、経営権と株式を引き継ぐ方法です。後継者教育に十分な時間をかけられる一方、後継者候補が継ぐ意味を見いだせずに迷うケースや、経営者保証の引き継ぎを巡って家族内の意見が割れるケースもあります。
親族内承継の具体的な進め方については、こちらのコラムもおすすめです。
「親族内承継とは|メリット・デメリットと進め方を経営者・後継者向けに解説」
従業員承継とは|役員・従業員に引き継ぐ方法(MBO・EBO)
従業員承継は、経営者の親族ではなく、社内の役員や従業員に会社を引き継ぐ方法です。買い手が役員であればMBO、役員以外の従業員であればEBOと呼ばれることもありますが、実務上は両者をまとめて従業員承継として扱うことがほとんどです。日本の中小企業は、欧州の一部企業とは対照的に、資本と経営の分離が一般的ではありません。「日本はそこまで中小企業の場合に資本と経営の分離というのが一般的になっていなくて、普通は後継者が株式を自分のものとして入手していくことを考えていらっしゃる方が一般的です」という実務上の指摘があるとおり、従業員承継では後継者自身が株式取得の資金を用意することが前提になりやすい点が、親族内承継や第三者承継とは異なる特徴です。
従業員承継(MBO・EBO)の詳しい進め方については、こちらのコラムもおすすめです。
「従業員承継(社内承継・MBO/EBO)とは|進め方とメリット・デメリット」
第三者承継(M&A)とは|社外の企業や個人に引き継ぐ方法
第三者承継(M&A)は、社外の企業や個人に経営権を譲り渡す方法です。親族にも社内にも後継者候補がいない場合でも、会社を存続させられる可能性が残るという点で、廃業回避の最後の選択肢としてだけでなく、早い段階からの有力な選択肢としても検討されています。一方で、M&A仲介会社から届く提案資料を見て、「要は乗っ取りということでいいのでしょうか」と警戒する経営者が一定数いるのも事実です。経営権が社外に移ることへの心理的な抵抗は、制度上の話とは別に、根強く残りやすい悩みです。
第三者承継(M&A)による会社売却の詳しい流れについては、こちらのコラムもおすすめです。
「第三者承継(M&A)とは|会社売却の流れと後継者の探し方を中立に解説」
事業承継とM&Aの違い|M&Aは事業承継の方法の一つ
事業承継とM&Aの違いを整理すると、M&Aは事業承継を実現するための方法の一つという位置づけになります。事業承継という大きな目的の下に、親族内承継・従業員承継・第三者承継(M&A)という3つの手段があり、M&Aはそのうちの第三者承継にあたる手法です。「事業承継=M&A」と誤解している経営者も少なくありませんが、後継者候補が親族や社内にいる場合は、M&Aを選ばずに事業承継を進める道も十分にあります。

事業承継の方法を比較する6つの判断軸|迷ったときの視点
事業承継の方法をどれか一つに絞り込む前に、6つの判断軸で自社の状況を整理すると、選択肢の優先順位が見えやすくなります。経験上、複数の軸を同時に満たす完璧な方法は存在せず、どの軸を優先するかを決めることが最初の一歩になります。
後継者の有無で選べる方法は変わる
親族や社内に、承継の意思と適性を持つ人材がいるかどうかで、選べる方法の範囲が変わります。いずれもいない場合は、第三者承継(M&A)が選択肢として残ります。後継者がいないという理由だけで廃業を決める前に、社外まで視野を広げて検討する価値はあります。
資金・税負担の違いを比較する
資金と税負担の面では、3類型で性質がかなり異なります。親族内承継は相続や生前贈与の制度を活用できる一方、従業員承継は後継者自身が株式取得の資金を用意する必要が生じやすく、銀行融資を活用するのが最もオーソドックスな方法とされています。第三者承継は、譲渡側に対価が入る形になり、関係する税目も譲渡益への課税が中心になります。
親族内承継であっても、先代の退職にあわせて会社から退職金を支払う場面は多く、金銭のやり取りが発生するという点では第三者承継と地続きの構造を持っています。実務上は、親族内承継だから対価のやり取りが一切ないという理解は正確ではなく、対価の受け取り方が退職金という形に置き換わっているだけ、と説明することがあります。
なお、親族内承継で活用される事業承継税制は、要件を満たせば納税を猶予・免除できる制度ですが、適用を取り消された場合の納税負担や将来の株価上昇時の扱いなど、慎重に見極めるべき点も少なくありません。制度のデメリットや使わない方がよいケースについては、こちらのコラムもおすすめです。『事業承継税制のデメリットと使わない方がいいケース|メリットとの比較』
従業員の雇用維持を重視する場合
従業員の雇用維持を重視するなら、親族内承継・従業員承継のほうが、経営理念や雇用慣行がそのまま引き継がれやすい傾向があります。第三者承継(M&A)は、譲受側の経営方針によって組織体制が変わる可能性があり、統合の過程で一定の変化が生じることは避けられません。ただし、後継者不在のまま廃業すれば雇用そのものが失われるため、雇用維持という観点だけで第三者承継を消去法的に避けるのは早計です。
検討から実行までのスピード
検討から実行までの期間は、方法によって大きく変わります。親族内承継・従業員承継は、後継者の育成に数年単位の時間をかけるのが一般的で、早めに着手するほど選べる選択肢が広がります。第三者承継(M&A)は、相手先とのマッチング次第で比較的短期に進む場合があり、ある地方の自動車販売会社の事例ではM&Aを考え始めてから成約まで約2年半、あるシステム関連企業の事例では本格的な検討開始から実行まで約16か月というケースも公表されています。もっとも、相手探しが難航すればこの限りではなく、スピードだけを理由に第三者承継を選ぶのは早計です。
秘密保持をどこまで重視するか
秘密保持の観点では、親族内承継・従業員承継は社内で情報を共有しながら進めやすい一方、第三者承継は交渉相手が社外になるため、情報開示の範囲とタイミングの管理がより重要になります。従業員や取引先に検討段階の情報が早く伝わりすぎると、経営が不安定だという誤解を招きかねません。実務上は、秘密保持契約を締結したうえで、開示する情報の範囲を段階的に広げていく進め方が一般的です。

事業承継の3類型のメリット・デメリットを比較する
事業承継の方法ごとのメリット・デメリットを整理すると、次のようになります。
親族内承継のメリット・デメリット
# メリット|経営理念や取引先との関係を維持しやすい
親族内承継は、先代の経営理念や取引先との関係がそのまま引き継がれやすく、従業員や取引先にとって経営体制の変化を受け止めやすいという強みがあります。後継者があらかじめ決まっていれば、育成期間を柔軟に確保できる点も利点です。
# デメリット|後継者の資質や適性を選べるとは限らない
経営者としての適性や意欲を持つ人材が、必ずしも親族の中にいるとは限りません。「継いでほしい」と一度も言われないまま、家族だからという理由だけで継ぐかどうかを迫られる後継者候補も少なくなく、継ぐ意味そのものに迷うケースがあります。
従業員承継のメリット・デメリット
# メリット|社内の事情を理解した人材に引き継げる
従業員承継は、社内の実情や業務内容をすでに理解している人材に引き継げるという分かりやすい強みがあります。取引先や金融機関からも、実務を知る後継者として理解を得やすい傾向があります。
# デメリット|株式取得などの資金負担が後継者にかかりやすい
従業員承継の最大の壁は、株式取得の資金負担です。株式を持たずに代表権だけを引き継ぐ形も可能ですが、「上場企業の社長であれば、業績が良ければ株主総会で辞めさせられることはありません。ただ雇われ社長で株を持っていないと、業績が振るわない時に『社長には向いていなかったね』と株主から退任を求められる可能性はゼロではありません」という指摘のとおり、株式を保有しない代表者には相応のリスクが伴います。
第三者承継(M&A)のメリット・デメリット
# メリット|後継者不在でも会社を存続させられる
第三者承継(M&A)は、親族にも社内にも後継者候補がいない状況でも、会社と雇用を存続させられる可能性を残す方法です。実務上、後継者不在で廃業しかねなかった会社を、取引先の企業がグループ会社として引き継ぎ、事業を継続させた例もあります。
# デメリット|社外に経営権が移ることへの心理的な抵抗が生まれやすい
第三者承継は、社外に経営権が移ることへの心理的な抵抗を感じる経営者が少なくありません。「乗っ取り」という言葉で警戒されることもありますが、実態は経営権の譲渡に対する対価を受け取る取引であり、親族内承継における退職金の授受と構造自体は大きく変わりません。譲受側の審査は年々厳格になっており、事業計画に実行体制が伴っているかを問われる点にも注意が必要です。

後継者がいない・まだ迷っている場合の考え方
事業承継の方法を選ぶ以前に、そもそも継ぐか継がないかで迷っている経営者・後継者候補も少なくありません。
後継者がいなくても廃業以外の選択肢がある
「後継者がいない会社はやはり廃業になるのでしょうか」という不安は、事業承継を調べ始めた段階で抱きやすい問いの一つです。親族にも社内にも後継者候補が見当たらない場合でも、第三者承継(M&A)という選択肢が残っているため、廃業を決める前に一度検討する価値があります。
「継ぐか継がないか」自体に迷っている場合
後継者候補として働いている方の中には、継ぐ意思はあっても「こちらから切り出すのも何か違うような気がします」と、話を切り出せずにいる方もいます。継ぐか継がないかの迷いを抱えたまま時間だけが過ぎてしまうと、後継者教育や資金準備にあてられる期間が狭まっていきます。迷いが少しでもあるなら、結論を急がずとも、まずは選択肢を整理する段階から動き出すことをおすすめします。
結論を先送りにしたまま準備が間に合わず、承継がうまくいかなくなる例も実際にあります。具体的な失敗のパターンについては、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継の失敗事例とうまくいかない理由|早期の相談で防げる備え方』
承継と相続の違いが家族内で共有されていないケースが多い
現経営者が「引き継ぎのタイミング」を「相続」と同じものと考えているケースは珍しくありません。承継は、経営権や自社株式、取引先との関係を計画的に引き継ぐ一連の取り組みを指し、相続は経営者の死亡によって法定のタイミングで発生する財産移転にすぎません。相続を待つだけの姿勢では、後継者教育や資金準備にあてる時間を失ってしまいます。家族内でこの違いが共有されていないと感じる場合は、早い段階で専門家を交え、承継と相続を切り分けて話し合う場を持つことが実務上有効です。
事業承継の方法を決める手順|検討から引き継ぎ実行まで
事業承継の方法を決める際は、次の4つの手順で進めるのが一般的です。
手順1:現状把握と方向性の検討
まず、自社の株価評価や財務状況、後継者候補の有無を洗い出し、親族内・従業員・第三者承継のうちどの方向性が現実的かを大まかに見立てます。この段階では方法を一つに絞り込む必要はなく、複数の選択肢を並行して視野に入れておくことが実務上望ましいといえます。
手順2:後継者・引き継ぎ先の選定
方向性が見えてきたら、後継者候補や引き継ぎ先の具体的な選定に入ります。親族内・従業員承継であれば本人の意思確認と適性の見極めを、第三者承継であれば譲受先候補の選定と交渉を進めます。
手順3:専門家に相談しながら条件を詰める
株式移転の方法、税負担の見込み、経営者保証の扱いなど、条件面を詰める作業は専門知識を要するため、税理士や事業承継の専門家に相談しながら進めるのが実務上の通例です。手法によって関わる専門家の顔ぶれが変わるため、複数の方法を横断して相談できる窓口かどうかも判断材料になります。
手順4:契約・引き継ぎの実行
条件が固まったら、契約を締結し、株式や経営権、資産の引き継ぎを実行します。従業員や取引先への周知のタイミングもあわせて計画し、引き継ぎ後の混乱を抑える工夫が求められます。

【まとめ】事業承継の方法は状況次第|まず中立な相談から
事業承継の方法は、親族内承継・従業員承継・第三者承継(M&A)のいずれか一つが常に正解というわけではありません。後継者の有無、資金・税負担、従業員の雇用維持、スピード、秘密保持という6つの軸で自社の状況を整理すると、どの方向性を優先すべきかが見えやすくなります。
経験上、3つの方法のどれが最適かを経営者一人で判断しきれないケースは多く、手法を限定せずに整理してくれる相談先へ、まずは現状を話してみることをおすすめします。
事業承継全体の方法・進め方・税金までを通して確認したい場合は、こちらのコラムもおすすめです。事業承継とは|方法・進め方・税金までの流れをまとめて理解できるガイド
事業承継の相談先を選ぶ際の考え方については、こちらのコラムもおすすめです。
「事業承継は誰に相談すべき?相談先の種類と選び方をわかりやすく解説」
あがたFASは、税務会計と経営コンサルティングを一気通貫で担う体制を取っており、船井総研グループの業種特化コンサルタントとも連携しています。事業承継の方法を1つに絞り込まず、状況に応じた選択肢を一緒に整理し、実行まで伴走する相談を受け付けています。あわせて、事業承継に関する資料もご用意していますので、気になる方はご活用ください。
経営の正解は、一つではありません。 まずは出口戦略の『選択肢』を可視化する診断ツールを手に取り、 次なるステージへの展望を具体化する準備を始めてください。 プロの目利きで自社の『真価』を知ること。それが、後悔のない決断への第一歩です。
【業界専門コンサルタントが担当】「出口戦略」診断で自社の価値を正しく守る。ベストな承継を実現するための第一歩。


よくある質問
Q. 事業承継の方法にはどのような種類がありますか?
事業承継の方法には、親族内承継・従業員承継・第三者承継(M&A)の3つの類型があります。後継者となる相手が、経営者の子や配偶者などの親族か、社内の役員・従業員か、社外の企業・個人かによって分類されます。中小企業庁など公的機関の資料でも、この3類型が事業承継の基本的な整理として使われており、どの方法を選ぶかによって必要な資金や税負担、準備にかかる期間も変わってきます。
Q. 事業承継で自社株の株価を下げるにはどうすればよいですか?
代表的な方法として、社長交代のタイミングで役員退職金を支給する方法、生命保険の解約返戻金を資金準備に活用する方法、資産管理会社や持株会社を設立する方法、自社株買い(金庫株)を行う方法、高収益部門を切り離す方法などがあります。会社の規模や利益の状況によって効果的な方法は異なるため、複数の方法を組み合わせて検討するのが実務上一般的です。
Q. 親族内承継・従業員承継・第三者承継(M&A)にはどのような違いがありますか?
3つの方法は、後継者となる相手と資金負担の性質が異なります。親族内承継は相続・贈与の制度を活用しやすく、従業員承継は後継者自身が株式取得の資金を用意する必要が生じやすい方法です。第三者承継(M&A)は社外の企業・個人が相手になり、譲渡側に対価が入る形になります。どれが適しているかは、後継者の有無や資金調達の見通しによって変わります。
Q. 事業承継の方法によって、検討から実行までの期間はどれくらい変わりますか?
方法によって期間は大きく異なります。親族内承継・従業員承継は後継者の育成に数年単位の時間をかけるのが一般的で、少なくとも6年程度を見ておくケースが多くあります。第三者承継(M&A)はマッチング次第で16か月から2年半程度というケースも公表されており、相手先が見つかるかどうかによって期間は変動します。
Q. 事業承継は家族に任せなければなりませんか?
事業承継を必ず家族に任せる必要はありません。親族内承継は代表的な方法の一つですが、後継者候補が親族にいない場合や、本人に継ぐ意思がない場合は、従業員承継や第三者承継(M&A)という選択肢もあります。近年は後継者本人のキャリア観の変化もあり、家族以外への承継を選ぶ経営者も増えているため、家族内での承継にこだわりすぎずに検討することが実務上おすすめです。
Q. 事業承継の方法を選ぶとき、最初に何をすればよいですか?
最初に行うべきは、自社の株価評価や財務状況を把握し、後継者候補の有無を洗い出すことです。この現状把握をもとに、親族内・従業員・第三者承継のうちどの方向性が現実的かを大まかに見立てます。方法を一つに絞り込む前に、複数の選択肢を並行して検討できる相談先に、現状を整理したうえで早めに声をかけておくことをおすすめします。