親族内承継は、現経営者の子や配偶者、親族が会社を引き継ぐ事業承継の代表的な方法です。
「継いでほしい」と一度も言われないまま、家族だからという理由だけで後を継ぐかどうかを迫られている後継者候補は少なくありません。
事業承継の相談の現場では、継ぐ意味を見いだせずに悩む声や、跡を継ぐ話を自分から切り出せないという相談が繰り返し寄せられます。
親族内承継は選択肢の一つであり、最適な進め方は家庭や会社の状況によって変わります。本記事では、親族内承継を選ぶかどうかで迷っている経営者・後継者に向けて、意思決定に直結する論点に絞って解説します。
メリット・デメリット、税金、進め方はもちろん、家族の中で承継の話をどう切り出すかという、制度解説だけでは触れられにくい実務の視点も扱います。
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親族内承継とは|「相続」と混同されがちな理由
親族内承継とは、現経営者の子や配偶者、兄弟姉妹などの親族が後継者となり、経営権と株式を引き継ぐ事業承継の方法です。実務上は、親族内承継という言葉そのものよりも「相続」という言葉のほうが家庭内では先に使われている場面が多く、両者が混同されやすい点に注意が必要です。
親族内承継の意味と対象になる関係
親族内承継が対象とする関係は、法律上の親族に限られません。子や配偶者はもちろん、兄弟姉妹、娘婿(むこ養子を含む)、甥や姪まで対象になり得ます。株式と経営権の両方を後継者に移す必要がある点が、役職だけを引き継ぐ人事異動と異なります。
「承継」と「相続」は同じではない
後継者候補として働いている方から、現経営者が「引き継ぎのタイミング」を「相続」と同じものと考えている、という相談を受けることがあります。承継は、経営権や自社株式、取引先との関係、許認可などを計画的に引き継ぐ一連の取り組みを指します。相続は経営者の死亡によって法定のタイミングで発生する財産移転にすぎません。相続を待つだけでは、後継者教育や資金準備にあてる時間を失うことになります。
親族内承継・従業員承継・第三者承継(M&A)の違い
事業承継の手法は、大きく親族内承継・従業員承継・第三者承継(M&A)の3つに分かれます。従業員承継では、役員や幹部社員が株式を取得できるかどうかが最初の壁になりやすい傾向があります。日本の中小企業では、欧州の一部企業のように資本と経営の分離が一般的ではなく、「日本はそこまで中小企業の場合に資本と経営の分離というのが一般的になっていなくて、普通は後継者が株式を自分のものとして入手していくことを考えていらっしゃる方が一般的です」という実務上の指摘もあります。第三者承継は社外の企業や個人に経営権を譲渡する方法で、親族内承継とは資金調達の主体も交渉相手もまったく異なります。
従業員承継の具体的な進め方は、こちらのコラムもおすすめです。
『従業員承継(社内承継・MBO/EBO)とは|進め方とメリット・デメリット』
第三者承継(M&A)の具体的な流れは、こちらのコラムもおすすめです。
『第三者承継(M&A)とは|会社売却の流れと後継者の探し方を中立に解説』
親族内承継の典型は「親子承継」|兄弟・娘婿というパターンも
親族内承継の典型は、経営者の子が跡を継ぐ親子承継です。ただし現場では、子に適した人材がいない場合に兄弟姉妹や娘婿が後継者となるケースも一定数見られます。本記事では、以下このいずれのパターンも念頭に置きながら解説を進めます。
親族内承継のうち事業承継全体に関わる基礎知識については、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継とは|方法・進め方・税金までの流れをまとめて理解できるガイド』

親族内承継の割合|中小企業の後継者選びに見る現状
親族内承継が中小企業の後継者選びでどの程度を占めているかは、経営者・後継者の双方が気になるところです。
後継者に占める親族の割合はどう推移しているか
株式会社帝国データバンクが2025年11月に公表した「全国後継者不在率動向調査(2025年)」によると、2025年に代表者交代があった企業のうち、親族が引き継ぐ「同族承継」の比率は32.3%でした。血縁によらない役員・社員が就任する「内部昇格」は36.1%となり、速報値の段階で同族承継を上回っています。
1年前の2024年実績では、同族承継が35.7%で最も高く、内部昇格の35.0%との差は0.7ポイントまで縮んでいました。この推移からは、親族内承継が依然として有力な選択肢でありながら、比率としては他の手法に近づきつつあることがうかがえます。
実務上は、この数字だけを見て親族内承継を避けるべきと判断するのは早計です。会社ごとの後継者候補の有無や意欲を踏まえて検討する必要があります。
親族内承継が選ばれやすい業種・規模の傾向
親族内承継は、オーナー経営の色が強い小規模企業や、地域での信用・許認可が事業継続に直結する業種で選ばれやすい傾向があります。
建設業や農業、地域密着型の小売・サービス業などでは、先代の人脈や信用をそのまま引き継げる親族内承継が現実的な選択肢になりやすいといえます。
一方で、専門人材の確保が事業の成否を左右する業種では、親族に適任者がいない場合に従業員承継や第三者承継へ移行する例も見られます。

親族内承継のメリット|他の手法にはない強み
親族内承継には、従業員承継や第三者承継にはない独自の強みがあります。
後継者教育の時間を十分に確保できる
後継者があらかじめ決まっている場合、経営者としての判断力や業界知識を養う教育期間を、時間をかけて確保できます。
第三者承継のように交渉や譲渡実行のスケジュールに縛られないため、後継者の理解度に応じて計画を調整しやすいという特徴があります。
実務上は、後継者の習熟度を見ながら育成期間を柔軟に延ばせる点が、他の手法にはない利点です。
従業員・取引先の理解を得やすい
先代の子や親族が後継者になる場合、従業員や取引先にとって経営体制の変化が予測しやすく、心理的な抵抗が生まれにくい傾向があります。
先代を長く見てきた取引先ほど、血縁による承継を自然な流れとして受け止めやすい面があります。
相続・生前贈与を活用した税負担の軽減が期待できる
親族間での株式移転は、相続や生前贈与の制度を組み合わせて計画的に進められる点も強みです。暦年贈与の基礎控除や事業承継税制などの制度を活用すれば、第三者への株式譲渡と比べて税負担を抑えられる余地があります。
ただし制度の適用には要件があるため、税理士など専門家の確認が欠かせません。税理士に相談する際に確認しておきたいポイントは、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継を税理士に相談するメリットと費用|できること・できないこと』

親族内承継のデメリット・注意点|見落とされやすい壁
親族内承継には、制度面では見えにくい壁もあります。実務上は、後継者本人の心情に関わる壁のほうが、税制面の壁より解決に時間がかかるケースが多いです。
後継者に適した人材が親族にいるとは限らない
経営者としての適性や意欲を持つ人材が、必ずしも親族の中にいるとは限りません。子が複数いても全員が経営に関心を持っているわけではなく、候補が一人もいないという相談も珍しくありません。
「継ぐ意味があるのか」に後継者自身が迷うケースがある
後継者候補が継ぐこと自体に迷いを抱えるケースも少なくありません。「継いでほしい、継いでほしいということを一言も言われたことがなくて、ただ家族だから継がなきゃいけないんだろうね、というのは後継者の方からよく聞かれました」という声は、事業承継の相談の現場で繰り返し耳にする典型的なパターンです。
負債の状況が思わしくない会社を前に、継ぐ意味そのものを問い直す後継者候補もいます。
こうした迷いは、後継者がサラリーマンとして働きたいのか、それとも自ら経営していきたいのかという働き方の志向を整理することで、判断しやすくなる場合があります。
親族間の遺留分・株式配分をめぐるトラブル
後継者以外の親族に対する遺留分への配慮を欠くと、相続時に株式や財産の配分をめぐるトラブルに発展する可能性があります。
後継者に株式を集中させたい経営者の意向と、他の相続人の権利のバランスをどう取るかは、早い段階で専門家を交えて整理しておく必要があります。
個人保証・債務の引き継ぎ負担
金融債務に付随する経営者保証を後継者に引き継ぐ場面では、後継者本人は「継ぐなら仕方ない」と受け入れても、配偶者から保証の重さについて反発を受けることがあります。
かつては金融機関側も承継時に保証の引き継ぎを求める運用が一般的でしたが、経営者保証に関するガイドラインの考え方が浸透し、保証の引き継ぎは絶対の条件ではなくなってきています。
実務上は、事業の適正な借入水準を試算し、保証なしでも回るキャッシュフローを整理したうえで金融機関と交渉する対応も可能です。

親族内承継を切り出せないときの進め方|先延ばしにしないための考え方
親族内承継は、制度上の手続きより先に「話をどう切り出すか」という壁にぶつかる家庭が少なくありません。
「そのうち相続で」という思い込みが準備を遅らせる
現経営者の下で長く働いている後継者候補が、継ぐ意思はあるのに切り出し方が分からず足踏みしているケースがあります。
現経営者側が「引き継ぎのタイミング」を「相続」と同じものだと考えていると、後継者側からは話を切り出しづらくなり、双方が動かないまま時間だけが過ぎていきます。
「そのうち相続で」という思い込みは、後継者教育や資金準備にあてられる時間を確実に減らします。
後継者側から切り出しづらいときの進め方
家族だけで話し合おうとすると、感情が先に立って議論が進まないことがあります。「親子の感情だけだと喧嘩になってしまうこともあるので、客観性を持った第三者として間に入って話をすることがあります」という対応は、実務の現場でよく取られる進め方です。
税理士や事業承継の専門家など、利害関係のない第三者を介することで、継ぐ・継がないの本音を落ち着いて確認できるようになります。
現経営者から後継者へ伝えるタイミングの目安
後継者教育や株式移転には数年単位の時間がかかるため、経営者の年齢や健康状態を踏まえてできるだけ早く着手することが望ましいとされています。
少しでも迷いがあるなら、先延ばしにせず今のうちに動き出す方が、後々の選択肢を狭めずに済みます。
先延ばしにした結果、家族間の対立や資金準備の遅れにつながった実例は、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継の失敗事例とうまくいかない理由|早期の相談で防げる備え方』

親族内承継の進め方|後継者選定から株式・資産の引き継ぎまで
親族内承継を実行に移す際は、後継者選定から株式・資産の引き継ぎまで、順を追って進める必要があります。
後継者を選び、育成する
まず後継者候補の意欲と適性を確認します。継ぐと決めた場合も、思いだけでなく経営者としてやっていく覚悟が本人の中で腹落ちできているかを確かめることが欠かせません。
育成期間中は、経理・営業・現場管理など複数の部門を経験させ、経営判断に必要な視野を広げていきます。
事業承継計画を策定する
後継者が定まったら、株式移転の方法、時期、税負担の見込みまで含めた事業承継計画を策定します。計画には、従業員や取引先への周知のタイミングも組み込んでおくと、承継後の混乱を抑えられます。
実務上は、株式移転の時期を複数パターン用意し、税負担の変化を比較しておくと判断しやすくなります。
株式・資産を引き継ぐ方法(相続・生前贈与・株式譲渡)
株式や経営者としての地位を一括で渡すか、段階的に渡すかはケースバイケースです。
先代がキャピタルゲインをしっかり確保したいタイプもいれば、会社が存続するなら後継者に負担をかけたくないと考えるタイプもいます。
社長の座は譲っても株式は一族で持ち続けたいという先代も珍しくありません。株式を渡さず経営権だけを移す形は、将来の株主構成が不安定になるリスクも伴います。
「後継社長は最初『社長さえやれれば十分』と言っていましたが、リスクヘッジを考えて信託を活用したプランを提案したところ、『それでやっていきましょう』となりました」という実例のように、信託の仕組みを使って議決権と経済的利益を切り分け、株式を渡した後のリスクに備える設計も選択肢になります。
個人保証を後継者に切り替える
金融機関との保証契約の切り替えは、後継者への引き継ぎの中でも実務負担が大きい工程です。
借入水準や返済実績によっては、保証なしでの契約に切り替えられる場合もあるため、早い段階から金融機関に相談しておくことをおすすめします。

親族内承継でかかる税金と使える制度
親族内承継では、株式や事業用資産の移転に伴って相続税・贈与税が発生します。
相続税・贈与税の基本
生前に株式を後継者へ移す場合は贈与税、経営者の死亡後に移す場合は相続税の対象になります。暦年贈与の基礎控除など、毎年少しずつ移転する制度を使えば税負担を抑えられる余地がありますが、自社株の評価額や移転のタイミングによって最適な方法は変わります。
実務上は、株価評価を毎年確認し、評価額が下がったタイミングで生前贈与を実行する経営者も少なくありません。
株価評価だけでも一定の専門的な費用がかかるため、早い段階で税理士に相談し、自社の株価評価がどうなっているかを把握しておくことをおすすめします。
事業承継税制(納税猶予)の活用と注意点
事業承継税制は、一定の要件を満たせば相続税・贈与税の納税を猶予できる制度です。
あくまで事業継続を支援するための制度であり、後継者が事業を継続していく決意を持てているかどうかが前提になります。
制度を使うと、将来にわたって税務署への報告を継続して提出し続ける必要があり、この負担を重く感じる後継者もいます。
事業承継税制のデメリットや注意点については、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継税制のデメリットと使わない方がいいケース|メリットとの比較』

親族内承継が最適とは限らない|他の承継手法との比較軸
親族内承継は有力な選択肢ですが、どの家庭にも最適とは限りません。本記事では、他の手法と比較する際に押さえておきたい軸を3つに絞って紹介します。
3つの方法を横断して比較したい場合は、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継の方法3類型を比較|親族内・従業員・M&Aの違いと選び方ガイド』
後継者本人の意欲・適性との適合という軸
親族に後継者候補がいても、本人が経営者としてやっていく意欲を持てなければ、無理に親族内承継を進めるべきではありません
。従業員承継や第三者承継も含め、会社にとって最も適した引き継ぎ方を検討する余地を残しておくことが大切です。
税務・法務を一貫して相談できるかという軸
親族内承継の相談内容は、株価対策だけでなく、経営者保証の解消、資金調達、後継者育成まで多岐にわたります
。税務会計と経営コンサルティングを一気通貫で確認できる窓口かどうかは、相談先を選ぶうえで実務的に重要な判断材料になります。
家族間の対話を整理できる体制かという軸
継ぐ・継がないの本音は、家族だけで話し合うと感情的な対立に発展しやすいテーマです。
第三者が間に入って対話を整理できる体制が整っているかどうかも、比較検討の軸として押さえておく価値があります。

親族内承継は「継ぐ意味」を家族で共有してから進める
親族内承継は、経営権や株式を家族内で引き継ぐ事業承継の方法であり、後継者教育の時間を確保しやすい一方、継ぐ意味への迷いや個人保証の負担といった壁も伴います。
制度や手続きを整える前に、まず「継ぐ意味」を家族で共有できているかを確認することが出発点になります。
継ぐか継がないかに迷いがある場合も、家族だけで抱え込む必要はありません。
第三者を交えて論点を整理すれば、後継者本人にとっても現経営者にとっても、納得できる進め方が見えてきます。
親族内承継、従業員承継、第三者承継(M&A)のどれが自社に合っているか判断がつかない場合は、手法を決めつけずに相談できる窓口を早めに探すことをおすすめします。
相談先の選び方は、こちらのコラムで詳しく解説しています。
『事業承継は誰に相談すべき?相談先の種類と選び方をわかりやすく解説』
船井総研あがたFASでは、承継手法を1つに絞らず、税務会計と経営コンサルティングを一気通貫で見る立場から、状況に応じた選択肢を一緒に整理する相談を受け付けています。
経営の正解は、一つではありません。 まずは出口戦略の『選択肢』を可視化する診断ツールを手に取り、 次なるステージへの展望を具体化する準備を始めてください。 プロの目利きで自社の『真価』を知ること。それが、後悔のない決断への第一歩です。
【業界専門コンサルタントが担当】「出口戦略」診断で自社の価値を正しく守る。ベストな承継を実現するための第一歩。


よくある質問
Q. 親族内承継とは何ですか?
親族内承継とは、現経営者の子や配偶者、兄弟姉妹などの親族が会社の経営権と株式を引き継ぐ事業承継の方法です。相続・生前贈与・株式譲渡などの手段を組み合わせて計画的に進める点が特徴で、従業員承継や第三者承継(M&A)と並ぶ代表的な選択肢の一つです。後継者教育の時間を確保しやすい一方、経営者保証の引き継ぎなど検討すべき論点も伴います。
Q. 親族内承継の割合はどのくらいですか?
帝国データバンクの調査(2025年)によると、2025年に代表者交代があった企業のうち、親族が引き継ぐ「同族承継」は32.3%で、血縁によらない「内部昇格」の36.1%を下回りました。2024年時点では同族承継が35.7%で最多でしたが、比率は年々変動しています。最新の状況は公的統計で確認することをおすすめします。
Q. 親族内承継と第三者承継(M&A)にはどのような違いがありますか?
親族内承継は家族や親族が後継者になるのに対し、第三者承継(M&A)は社外の企業や個人に経営権を譲渡します。親族内承継は準備期間を確保しやすい一方で後継者の適性や資金負担が課題になりやすく、第三者承継は経営基盤の強化を期待できる反面、譲渡条件の交渉に時間がかかります。どちらが適しているかは、後継者の有無や事業の状況によって判断が分かれます。
Q. 親族内承継で株式はどのように引き継ぎますか?
親族内承継の株式は、相続、生前贈与、株式譲渡のいずれか、またはこれらの組み合わせで引き継ぐのが一般的です。先代の意向により、一括で移転する場合と複数年かけて段階的に移転する場合があります。税負担や議決権の分散を考慮し、専門家に相談しながら方法を設計することが推奨されます。暦年贈与の基礎控除など、税制を活用できる余地もあります。
Q. 親族内承継では経営者保証を必ず後継者に引き継ぐ必要がありますか?
必ず引き継がなければならないわけではありません。経営者保証に関するガイドラインの考え方が浸透し、金融機関が保証の引き継ぎを一律に求める運用は見直されつつあります。借入水準を見直し、保証なしでも資金繰りが回る体制を整えたうえで、金融機関と交渉する方法もあります。配偶者から保証の重さについて反発を受けるケースもあるため、早めの整理が有効です。