事業承継とM&Aの違いについて、「別々の話のようで、実は同じ話ではないか」と迷ったことはないでしょうか。
M&A仲介会社から届いた資料を見て、「要は乗っ取りということでいいのでしょうか」と身構えた経営者の声も少なくありません。
答えを先に整理すると、事業承継とM&Aは対立する別物ではなく、M&A(第三者承継)は事業承継を実現するための一つの手法です。
本記事では、この包含関係を中立の立場で整理し、「買収」という言葉との視点の違いや、自社がどちらを検討すべきかまで解説します。
事業承継全体の流れを先に押さえておきたい方は、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継とは|方法・進め方・税金までの流れをまとめて理解できるガイド』
経営の正解は、一つではありません。 まずは出口戦略の『選択肢』を可視化する診断ツールを手に取り、 次なるステージへの展望を具体化する準備を始めてください。
プロの目利きで自社の『真価』を知ること。それが、後悔のない決断への第一歩です。


事業承継とM&Aの違いは?結論は「別物」ではなく「一手法」という関係
事業承継とM&Aの違いを一言でいうと|M&Aは事業承継の手法の一つ(第三者承継)
事業承継とM&Aの違いを一言でいうと、両者は同じ階層に並ぶ別物ではなく、事業承継という大きな枠の中にM&Aという手法が含まれるという関係です。
事業承継には、子や親族に引き継ぐ親族内承継、役員・従業員に引き継ぐ従業員承継、そして社外の会社や個人に引き継ぐ第三者承継という3つの方法があります。
M&Aは、この第三者承継を実行するための取引の形にあたります。
実務上は、事業承継のタイミングでM&Aという言葉だけが単独で使われることが多く、この構造がかえって見えにくくなっています。
実務では「廃業を考えたら、まず一度M&A(第三者承継)を検討してみるとよい」という言い方がされることもあり、廃業か承継かの二択で悩む前に、事業承継の選択肢の一つとして位置づけて考える視点が役立ちます。
「乗っ取りでは」と感じてしまう理由|M&Aと事業承継が別物に見える誤解の正体
「M&A仲介会社から届いた資料を見て、要は乗っ取りということでいいのでしょうか」。こうした警戒の声は珍しくありません。
かつては、会社を譲渡することに対して「一族がどう見られるか」という不安が強く、経営者仲間から「会社を売ってしまったのか」と言われることを恐れる声も聞かれた時代がありました。
現在はM&Aに対する見方が変わってきています。
買収されるというより、既存の会社のグループに入り共同で成長を目指すという前向きな捉え方が一般化してきました。
経営者の中には、上場企業グループの一員になることを「実質的に上場したのと近い状態」だと前向きに受け止めるケースも見られます。
事業承継だけの話ではなく、M&Aは事業拡大や事業成長の手段として、承継のタイミング以外でも普段から行われている取引です。
この背景を知っておくと、「乗っ取り」という言葉が連想させる一方的な支配権の奪取とは、仕組みがまったく異なることが見えてきます。

事業承継とM&Aの違いを理解するための2つの言葉の意味
事業承継とは|経営権・資産・理念を次の世代へ引き継ぐこと
事業承継とは、経営者が持つ経営権・資産・理念を次の世代へ引き継ぐことの総称です。
引き継ぐ対象は、株式や事業用資産といった目に見える資産だけでなく、技術やノウハウ、取引先との信頼関係、そして創業者の考え方や事業への姿勢も含まれます。
引き継ぐ相手によって、親族内承継・従業員承継・第三者承継という3つの方法に分かれます。
M&Aとは|株式譲渡・事業譲渡などで会社や事業の経営権を移す取引の総称
M&Aとは、株式譲渡や事業譲渡、会社分割といった手法を使って、会社や事業の経営権を移す取引全般を指す言葉です。
合併・買収(Mergers and Acquisitions)の略称で、当事者が譲渡側・譲受側のどちらであるかを問わず使われます。
事業承継の場面に限らず、既存事業の拡大や新規事業への参入を目的として、日常的に行われている取引でもあります。
事業承継とM&Aの違いが分かりにくいのは、M&Aが承継以外の場面でも使われる言葉だから
事業承継とM&Aの違いが分かりにくい最大の理由は、M&Aという言葉が事業承継以外の場面でも広く使われているからです。
大企業同士の資本提携や、成長企業による新規事業の買収など、後継者問題とは無関係な文脈でM&Aという言葉を目にする機会は多くあります。
そのため、中小企業の経営者が自社の後継者問題を考えるときにM&Aという言葉に出会うと、「自社には関係のない、大企業の話」だと感じてしまいやすくなります。
現場では、この言葉の使われ方の広さこそが、事業承継とM&Aを別物だと誤解させている構造だと捉えています。

事業承継と買収の違い|視点の違いで見るとさらに分かりやすい
買収は買い手側の言葉、事業承継は引き継ぐ側(経営者・後継者)の言葉
事業承継と買収の違いは、同じ取引をどちらの立場から見ているかという視点の差です。
買収は、経営権を取得する譲受側(買い手)の視点から使われる言葉です。
一方の事業承継は、会社を託す譲渡側、つまり経営者や後継者の視点から使われる言葉になります。
第三者承継(M&A)という一つの取引を、買い手側から見れば買収、譲渡側から見れば事業承継と呼んでいるにすぎず、行為そのものが別物というわけではありません。
事業承継における第三者承継(M&A)は「会社を託す」という視点が中心になる
経験上、「買収される」という言葉に強い抵抗を感じる経営者は少なくありません。
買収という言葉には、一方的に取られてしまうという響きがあるためです。
事業承継という文脈で第三者承継(M&A)を考える場合は、視点を変えて捉え直すことが助けになります。
誰に会社を託すかを自分たちで選び、条件に納得したうえで契約を結ぶという、経営者・後継者側が主体となる取引だという点です。
買収という言葉の響きだけで検討の入り口を閉ざしてしまう前に、事業承継の一手法として第三者承継を捉え直してみる価値があります。

事業承継とM&Aの違いを踏まえて、自社はどちらを検討すべきか
親族・従業員に後継者がいる場合と第三者承継(M&A)を検討する場合の見分け方
事業承継とM&Aの違いを理解したうえで、自社がどの方法を検討すべきかを見分けるには、いくつかの視点があります。
まず確認したいのは後継者の有無です。親族や社内に、承継の意思と適性を持つ人材が今のところ見当たらないのであれば、第三者承継(M&A)が選択肢に入ってきます。
次に確認したいのが、M&Aという言葉のイメージと実態のギャップです。「乗っ取り」「大企業の話」というイメージと、中小企業でも広く使われている手法だという実態との差を、自分の中で一度整理しておく必要があります。
最後に、検討にかけられる時間です。廃業を決めてしまう前に、事業承継の選択肢の一つとしてM&Aを検討する余裕が残っているかどうかも、見分ける材料になります。
なお、あがたFASが特定の手法へ誘導しているわけではありません。
判断軸はあくまで、読者自身が状況を整理するための材料として提示しています。
後継者がいなくても廃業以外の選択肢が事業承継の中にあること
「後継者がいない会社は、やはり廃業になるのでしょうか」。こうした不安を持つ経営者や、その会社で働く従業員は少なくありません。
事業承継を親族・社内への引き継ぎだけだと思い込んでいると、第三者承継(M&A)という選択肢自体が視界に入らず、後継者不在イコール廃業という結論に短絡してしまいがちです。
実際には、後継者不在の中小企業を、取引先や関心を持つ企業がグループ会社として引き継ぎ、事業と雇用を存続させた例は以前から存在しています。
後継者不在の現状と、廃業以外にどのような選択肢があるかについては、こちらのコラムもおすすめです。
『後継者不在率の現状と対策|最新データと廃業回避に向けた選択肢がわかる』
3つの方法を判断軸に沿って一つずつ比較したい方は、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継の方法3類型を比較|親族内・従業員・M&Aの違いと選び方ガイド』

事業承継でM&A(第三者承継)を選んだ場合の流れの概要
相談・準備から成約・引き継ぎまでのおおまかな流れ
事業承継とM&Aの違いを理解したうえで第三者承継を選んだ場合、実務は相談・準備の段階から始まります。
おおまかには、相談先への意向確認から始まり、相手先の探索、条件交渉、基本合意、デューデリジェンス(買収監査)、最終契約、そして成約後の引き継ぎという順序で進みます。
経験上、この一連の工程には数か月から数年単位の時間がかかることが多く、思い立ってすぐに完了する取引ではありません。
相手先を探す方法は、M&A仲介会社に依頼する方法だけではありません。
事業承継・引継ぎ支援センターなどの公的窓口や、マッチングサイトを使う方法もあります。
実際に、後継者不在に悩んだ末に第三者承継を選び、約2年半をかけて事業と雇用を残す形で成約に至った中小企業の例も報告されています(出典:埼玉縣信用金庫キャピタルのウェブサイトに掲載された北進モーター販売株式会社のインタビュー記事)。
相談から成約、そして引き継ぎまでの詳しい流れと、後継者の探し方の比較については、こちらのコラムもおすすめです。
『第三者承継(M&A)とは|会社売却の流れと後継者の探し方を中立に解説』。
後継者を探す手段そのものを比較したい方は、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継のマッチングサイトとは|後継者募集の使い方とメリット・注意点』

【まとめ】事業承継とM&Aの違いを理解したら、次は中立な相談から
事業承継とM&Aは対立せず、選択肢の一つとして中立に検討できること
ここまで見てきたとおり、事業承継とM&Aの違いは、対立する2つの概念の違いではありません。M&A(第三者承継)は、事業承継という大きな枠の中にある一つの手法であり、買収という言葉が持つ響きも、視点を変えれば「会社を託す」事業承継の一場面として捉え直せます。
この関係を理解したら、次に取るべき行動は、自社の後継者の有無や検討にかけられる時間を整理し、手法を絞り込む前の段階で、中立に相談できる窓口に現状を話してみることです。
事業承継の相談先の選び方について詳しく知りたい方は、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継は誰に相談すべき?相談先の種類と選び方をわかりやすく解説』
船井総研あがたFASでは、親族内承継・従業員承継・第三者承継のいずれか一つに手法を絞り込まず、税務会計と経営コンサルティングを一気通貫で見る立場から、事業承継とM&Aの関係を整理する相談を受け付けています。
事業承継とM&Aの関係を踏まえて自社の状況を相談したい方は、『事業承継の無料相談』も選択肢の一つです。
あわせて『事業承継の資料ダウンロード』から、手法を問わない事業承継の全体像も確認できます。
まずは自社の状況を整理し、中立な立場で話を聞ける相談先を探すことから始めてみてください。
経営の正解は、一つではありません。 まずは出口戦略の『選択肢』を可視化する診断ツールを手に取り、 次なるステージへの展望を具体化する準備を始めてください。
プロの目利きで自社の『真価』を知ること。それが、後悔のない決断への第一歩です。
【業界専門コンサルタントが担当】「出口戦略」診断で自社の価値を正しく守る。ベストな承継を実現するための第一歩。


よくある質問
Q. 事業承継とM&Aの違いは何ですか?
事業承継は経営権や資産、理念を次の世代へ引き継ぐことの総称で、親族内承継・従業員承継・第三者承継という3つの方法を含みます。M&Aは株式譲渡や事業譲渡などによって会社や事業の経営権を移す取引そのものを指す言葉です。第三者承継はM&Aという手段で実行されるため、実務上は事業承継の一手法という関係になります。両者は別物ではなく、包含関係にあると考えられます。
Q. 事業承継と買収の違いは何ですか?
買収は主に譲受側(買い手)の視点から使われる言葉で、他社の経営権を取得する行為を指します。事業承継は主に譲渡側、つまり経営者や後継者の視点から使われる言葉で、会社を次の世代へ託す行為全体を指します。第三者承継(M&A)という場面では、同じ取引を買い手側から見れば買収、譲渡側から見れば事業承継と呼んでいるだけで、行為自体は同じです。
Q. 後継者がいなくても事業承継の選択肢としてM&Aを検討すべきですか?
後継者不在は、廃業を決める前に検討する価値がある状況です。第三者承継(M&A)は、親族や従業員に後継者がいない場合でも、社外に会社を託す相手を探す方法として広く使われています。廃業以外の選択肢を確認しないまま結論を急ぐと、残せたはずの事業や雇用を失うことにもつながるため、早めに相談先へ現状を伝えることをおすすめします。
Q. 事業承継でM&A(第三者承継)を選ぶと費用はどのくらいかかりますか?
依頼先によって費用は異なります。M&A仲介会社に依頼する場合は、着手金・中間金・成功報酬を組み合わせた手数料が発生するのが一般的で、成功報酬は譲渡金額に応じて料率が下がるレーマン方式が広く使われています。事業承継・引継ぎ支援センターなど公的窓口であれば相談自体は無料のため、まず無料の窓口で情報収集を始める方法もあります。
Q. 事業承継でM&A(第三者承継)を検討する場合、何から始めればよいですか?
まず自社の現状、財務内容や取引関係、後継者の有無を整理し、手法を限定せずに相談できる窓口に話すことから始めます。事業承継・引継ぎ支援センターや税務・経営の専門家など、中立な立場で整理してくれる相談先を選ぶことが実務上は多いです。M&Aありきで進めるのではなく、親族内承継・従業員承継との比較の中で第三者承継が現実的かどうかを見極める順序をおすすめします。