事業承継計画書に何を書けばいいのか分からず、テンプレートを前に手が止まってしまう経営者は少なくありません。
記載する項目は現状・後継者・承継時期・資産承継・関係者との調整の5つで、書き方のイメージがつかめれば手を動かしやすくなります。
まず押さえておきたいのは、事業承継計画書と税制の特例承継計画はまったく別の書類だという点です。引継ぎが進まないまま代表権だけが先に移り、株式を持たないまま経営を任される状態に不安を抱く方は少なくありません。
計画に落とし込んでおくこと自体が、後々の混乱を防ぐ土台になります。本記事では、事業承継計画書の記載項目と作り方の手順を、一般化した記入例とともに解説します。
経営の正解は、一つではありません。 まずは出口戦略の『選択肢』を可視化する診断ツールを手に取り、 次なるステージへの展望を具体化する準備を始めてください。 プロの目利きで自社の『真価』を知ること。それが、後悔のない決断への第一歩です。


事業承継計画書とは事業承継に向けた中長期の実行計画をまとめた書類
事業承継計画書とは、経営理念や企業概要、現状の経営課題、承継の方向性を1冊にまとめ、事業承継に向けた中長期の実行計画として整理した書類です。
中小企業庁が示す一般的なフォーマットでは、経営理念、企業概要(資本金・従業員数・業種・沿革)、経営課題、現経営者と後継者の情報、事業承継の方針、承継スケジュールといった項目が並びます。
経営理念・企業概要・現状・承継の方向性を1冊に整理する書類
会社の歴史や現状、承継の方向性が1冊にまとまっていれば、経営者本人だけでなく後継者や関係者が同じ情報を共有できます。
実務上は、この「情報を1つにまとめる」という機能そのものが、事業承継計画書の一番の価値だと感じています。事業承継計画書は、事業承継全体の進め方の中では「計画を立てる」段階に位置づけられる書類です。
事業承継の進め方や手続きの流れを先に確認しておきたい方は、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継の進め方・手続きの流れを解説|何から始めるべきか迷わず分かる』
事業承継計画書を作る意義(引継ぎ事項の明確化・関係者との認識合わせ・課題の把握)
事業承継計画書を作る意義は、引継ぎ事項を明確にすること、経営者・後継者・関係者の間で認識を合わせること、そして会社の経営課題を洗い出すことの3点に整理できます。
とくに課題の洗い出しは、後回しにされがちですが、事業承継全体の土台になる作業です。事業承継そのものの方法や進め方、税金までの全体像を先に押さえておきたい方は、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継とは|方法・進め方・税金までの流れをまとめて理解できるガイド』
事業承継計画書は税制の特例承継計画とは別の書類
事業承継計画書という言葉を調べていると、税制の「特例承継計画」という似た名前の書類に行き当たることがあります。
現場では、この2つを混同したまま相談に来る方が珍しくありません。

事業承継計画(中長期計画)と特例承継計画(税制の提出書類)の違い
事業承継計画書は、経営者が自主的に作成する中長期の実行計画です。一方、特例承継計画は、事業承継税制の納税猶予を受けるために都道府県へ提出が義務づけられた書類であり、性質がまったく異なります。
名前が似ているために、税制を使わない親族内承継や従業員承継でも計画書の提出が必要だと誤解してしまう方もいます。事業承継税制の全体像を先に理解しておきたい方は、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継税制とは?納税猶予の仕組みと特例措置をわかりやすく解説』
事業承継税制を使う場合だけ特例承継計画の提出が別途必要になる
事業承継税制の納税猶予を利用しない場合、特例承継計画の提出は不要です。
事業承継税制を使う場合に限り、事業承継計画書とは別に、特例承継計画を都道府県へ提出する手続きが必要になります。
特例承継計画には提出期限が定められているため、税制の活用を検討している場合は早めに期限を確認しておくことをおすすめします。
特例承継計画の提出期限を具体的に知りたい方は、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継税制の期限と特例承継計画の提出期限|いつまでに何をすべきか』

事業承継計画書に記載する項目は現状・後継者・承継時期・資産承継・関係者調整の5つ
事業承継計画書に記載する項目は、現状・後継者・承継時期・資産承継・関係者との調整の5つに整理できます。項目ごとに何を書けばよいかを見ていきます。
現状(会社概要・経営課題)
現状欄には、会社概要と経営課題を書きます。相談の入口で必ず確認するのは、現状で気になっている課題の有無、将来的にどうしていきたいかという意向、そして現状に至るまでの経緯です。
創業からのプロセスや先代の経営スタイルを後継者がどこまで理解しているかまで含めて書き出しておくと、後の「後継者」欄や「関係者との調整」欄を書く際の土台になります。
後継者(候補者の情報・育成状況)
後継者欄には、候補者の情報と育成状況を書きます。
候補者が社内でどのような業務を担当し、どの程度の実務経験を積んでいるかを具体的に書いておくと、育成にどれくらいの時間がかかりそうかという見通しも立てやすくなります。
後継者候補が複数いる場合や、まだ確定していない場合は、検討している人物の範囲を書いておくだけでも構いません。
承継時期(いつ・何を承継するか)
後継者候補が、自分から承継の話を切り出しにくいと感じているケースは珍しくありません。
承継時期欄には、経営権・株式・資産をいつ、どのタイミングで承継するかを書きます。父親が「引き継ぎのタイミング」を「相続」と同一視しているケースもありますが、事業承継と相続は別のタイミングで検討できるものです。
この欄を書く段階で、両者を切り分けて整理しておくことをおすすめします。相続税・贈与税の考え方を具体的に知りたい方は、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継の相続税・贈与税とは|相続時精算課税と暦年贈与の使い分け』
資産承継(株式・事業用資産の引継ぎ方法)
資産承継欄には、自社株式や事業用資産(不動産等)がいつ、どれくらいの規模で動くかを書きます。
実務上は、税務シミュレーション(税額が対応可能な金額かどうか)、不動産であれば売買契約・贈与契約・登記、賃貸物件であれば賃借人への通知・承諾の取得など、手続きが多岐にわたる欄です。
自社だけで完結できない場合は、弁護士・司法書士・行政書士・税理士・会計士といった専門家への依頼が必要になります。
株式の贈与・相続・譲渡の選び方について詳しく知りたい方は、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継の株式・自社株の承継|贈与・相続・譲渡の選び方と株式集約』。
資産承継欄の内容を実際の契約書に落とし込む際の注意点を確認したい方は、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継の契約書|手法別に必要な契約と盛り込む条項がひと目で分かる』
関係者との調整(家族・従業員・取引先への周知)
関係者との調整欄には、家族・従業員・取引先に、いつ・どのような順序で事業承継を伝えるかを書きます。
身内を飛び越えて銀行や税理士などの専門家に相談すること自体に抵抗を感じる方もいます。
この欄は一度で完成させる必要はなく、対話を重ねながら段階的に更新していくものだと捉えておくと、心理的な負担が軽くなります。

事業承継計画書の記入例|項目ごとの書き方イメージ
事業承継計画書のテンプレートを入手しても、実際にどの程度の粒度で書けばよいかがイメージできないという声は少なくありません。
ここでは、項目ごとの書き方を一般化したイメージとして示します。
特定の会社の実例ではなく、書き方の参考としてご覧ください。
現状・後継者欄の記入例(一般化したイメージ)
現状欄では、主要な事業内容と、現在直面している経営課題をセットで書き出す形が実務上使いやすい書き方です。
後継者欄では、候補者が社内でどのような業務を担当し、どの程度の実務経験を積んでいるかを具体的に書くと、後から見返したときに状況がイメージしやすくなります。
承継時期・資産承継欄の記入例(一般化したイメージ)
承継時期欄では、代表権の交代時期と、株式や資産の移転時期を分けて書く形が一般的です。
検討を始めてから実行に至るまでの期間は案件によって幅があり、公開されている承継事例では、数日で初回の面談に至った例から、2年半程度の検討期間を経た例まで報告されています。
資産承継欄では、自社株式であれば贈与か売買か、事業用不動産であれば所有権移転登記や賃借人への通知が必要かどうかを、資産の種類ごとに分けて書いておくと、専門家への相談内容も整理しやすくなります。
関係者との調整欄の記入例(一般化したイメージ)
関係者との調整欄では、家族・従業員・取引先という伝える相手ごとに、どのような順序で周知していくかを書く形が実務上よく使われます。
まず家族内で方向性を共有し、そのあとに社内の幹部、最後に主要な取引先へ伝えるという順序で書くケースが一般的ですが、会社の状況によって適した順序は変わります。
事業承継計画書の作り方は現状把握から計画表作成までの手順で進める
事業承継計画書は、次の4つの手順で作ると迷いにくくなります。

ステップ1.現状を把握する
まず、会社の現状と経営課題を洗い出します。
組織・人材の問題、資金繰りの問題、売上が事業のライフサイクルの後半で伸び悩む問題など、課題の現れ方は会社によって異なります。
どこに問題がありそうかを把握できていないと、この後の優先順位を決められません。
事業承継の課題を後継者不在から自社株評価まで幅広く整理しておきたい方は、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継の課題と問題点|後継者不在から自社株評価まで整理してわかる』
ステップ2.後継者・承継方法を確定する
次に、後継者候補と承継方法(親族内・従業員・第三者)を確定します。
何も決まっていない段階では、後継者候補の社内在籍状況や株式保有比率など、基本的な状況を一から確認する必要があります。
ステップ3.事業承継計画書を作成する
現状把握と後継者・承継方法の確定が終わったら、事業承継計画書そのものを作成します。
経験上、フォーマットに沿って記載するだけであれば大きなハードルはなく、現状をきちんと把握できていれば記入漏れは起きにくいものです。
ただし、計画書には書ききれない「実行計画」を、裏側で別途詳細に作り込む必要があります。
たとえば経営者保証を外したいのであれば、経営者保証ガイドラインに基づいた金融機関との面談・交渉を、裏側の実行計画として並行して進めることになります。
ステップ4.事業承継計画表(年表)に落とし込む
最後に、事業承継計画書の内容を年表形式の計画表に落とし込みます。
経営者・後継者との間でコミュニケーションが取れているかを確認しながら、いつまでに何を実行するのかという詳細なタスクを決めていく作業です。
会社形態によって株式や持分の承継実務が変わる点も踏まえておく必要があります。
有限会社や合同会社など会社形態別の承継実務を確認したい方は、こちらのコラムもおすすめです。
『会社形態別の事業承継|有限会社・合同会社・一般社団法人の違いと進め方』
事業承継計画書は後継者や手法が決まる前の段階から相談してよい
事業承継計画書は、後継者や承継方法が正式に決まってから作り始めるものだと考えている方も少なくありません。
実務上は、決まる前の段階から相談を受けることの方がむしろ多いというのが実感です。

「承継時期」欄で相続との違いに迷ったら早めに整理する
事業承継と相続を同じタイミングのものと捉えてしまうと、承継時期欄の記入で行き詰まりやすくなります。
両者は別のタイミングで検討できるものであり、早めに専門家を交えて整理しておくと、後の資産承継欄の記入もスムーズになります。
「関係者との調整」欄で身内に切り出しにくい場合の考え方
身内に対して事業承継の話を切り出しにくいと感じる場合、まず自分自身で計画書に何を書くべきかを把握しておくという進め方もあります。
誰かに相談する前に全体像をつかんでおけば、話を切り出すタイミングも見極めやすくなります。
「資産承継」欄は税務・法務の視点が必要になりやすい
資産承継欄は、税務・法務の専門知識が関わる場面が多い項目です。
大規模な株価対策として持株会社化を検討する場合も、株価引き下げのメリットだけでなく、複数の会社を経営する実務負担を後継者が担えるかどうかという視点が欠かせません。
持株会社化のメリット・デメリットを具体的に知りたい方は、こちらのコラムもおすすめです。
『持株会社化による事業承継のメリット・デメリットと向き不向きが分かる』。
計画書の作成から特例承継計画の提出、実行までの段取りがずれないよう、税務会計と経営コンサルティングを一体で相談できる窓口を早い段階から確保しておくと安心です。

【まとめ】事業承継計画書は5つの記載項目を埋めることから始まる
事業承継計画書は、現状・後継者・承継時期・資産承継・関係者との調整という5つの記載項目のどこから書き始めても、まず現状の書き出しに立ち返ることが、計画書全体を迷わず完成させる近道になります。
事業承継計画書と税制の特例承継計画は別の書類であるという整理も、記入を始める前に必ず押さえておいてください。
後継者や承継方法が決まっていない段階でも、計画づくりの相談自体は早い時期から始められます。
事業承継は誰に相談すべきか、相談先の種類と選び方を詳しく知りたい方は、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継は誰に相談すべき?相談先の種類と選び方をわかりやすく解説』
税務会計と経営コンサルティングを一気通貫で担う船井総研あがたFASでは、後継者や承継方法が決まる前の段階からでも、事業承継計画書の作成を中立な立場で見渡しています。
経営の正解は、一つではありません。 まずは出口戦略の『選択肢』を可視化する診断ツールを手に取り、 次なるステージへの展望を具体化する準備を始めてください。 プロの目利きで自社の『真価』を知ること。それが、後悔のない決断への第一歩です。
【業界専門コンサルタントが担当】「出口戦略」診断で自社の価値を正しく守る。ベストな承継を実現するための第一歩。


事業承継計画書についてよくあるご質問
Q.事業承継計画書とは何ですか?
A.事業承継計画書とは、経営理念や企業概要、現状の経営課題、後継者の情報、承継の方針とスケジュールを1冊にまとめ、事業承継に向けた中長期の実行計画として整理した書類です。
記載項目は主に現状・後継者・承継時期・資産承継・関係者との調整の5つに分けられ、それぞれを埋めることで引継ぎ事項の記入漏れを防ぎ、関係者との認識合わせにも役立ちます。
Q.事業承継計画書と特例承継計画の違いは何ですか?
A.事業承継計画書は経営者が自主的に作成する中長期の実行計画であり、特例承継計画は事業承継税制の納税猶予を受けるために都道府県へ提出が義務づけられた別の書類です。
事業承継税制を利用しない親族内承継や従業員承継であれば、特例承継計画の提出は不要ですが、事業承継計画書自体は手法を問わず作成しておくことをおすすめします。
Q.事業承継計画書はどのように作成すればよいですか?
A.事業承継計画書は、現状把握、後継者・承継方法の確定、計画書の作成、事業承継計画表(年表)への落とし込みという4つの手順で作成します。
フォーマットへの記入自体に大きなハードルはなく、現状をきちんと把握できていれば記載漏れは起きにくいものですが、計画書には書ききれない実行計画を別途詳細に作り込む必要があります。
Q.事業承継計画書の作成に費用はかかりますか?
A.事業承継計画書そのものを自社で作成する場合、費用はかかりません。
ただし、資産承継欄に関わる税務シミュレーションや不動産の登記手続き、契約書の作成など、専門家に依頼する部分が生じた場合は、依頼する専門家や作業範囲、会社の規模に応じた別途の費用が発生します。
費用だけでなく提供内容の範囲まで比較したうえで依頼先を選ぶことをおすすめします。
Q.事業承継計画書に提出期限はありますか?
A.事業承継計画書そのものには、法律で定められた提出期限はありません。
一方、事業承継税制の納税猶予を利用する場合に必要となる特例承継計画には、都道府県への提出期限が定められているため、税制の活用を検討している場合は、事業承継計画書の作成と並行して早めに期限を確認することをおすすめします。
期限を過ぎると納税猶予を受けられなくなるため注意が必要です。