歯科

歯科におけるM&Aの必要性・有用性

歯科にとって、医療法人にとって、先生個人にとってM&Aは果たして必要なのか、有用なのでしょうか。親族内承継、もしくは廃業が一般的だった歯科業界に、M&Aがどう機能するのかを確認していきます。

歯科M&Aで失うもの・得るもの


失うもの得るもの
経営者視点
決裁裁量、法人名・屋号、役員報酬額、目標設定経営負担からの解放、患者様・従業員とのご縁を繋ぐことができる
歯科医師視点
決裁裁量(医療機器の投資判断等)診療に集中できる
マネージャー視点
決裁裁量(採用解雇の最終決定等)マネジメント負担からの解放
事務長視点
決裁裁量(施設基準の取得判断等)事務負担から解放
個人視点
経営者としてのアイデンティティ
経営・マネジメント・事務負担解放、診療に集中できる、ご自身の時間を確保しやすくなる、創業者利益

先生が何を重視するかでM&Aの必要性・有用性は変わる

上図に、一般論的にM&Aによって失うもの、得られるものを「経営者の視点」「歯科医師の視点」「マネージャーの視点」「事務長の視点」「個人の視点」からまとめております。
失うものの中で先生が耐えられないものはございますでしょうか。
あるいは、魅力的に感じる部分は有りますでしょうか。
先生によって価値観は様々ですので、ご自身が何を重視するのかを、上図を一つのご参考に再確認されてみることをお勧めします。

経営者視点

歯科のM&Aで得るものとしては、経営負担からの解放、診療を引き継げること、雇用を守れることが挙げられます。ご自身の引退が医院・法人の引退にならないように事業承継するということは、関係者や地域社会においても有意義なことです。中々事業承継が難しい昨今において、スムーズな事業承継を実現させることは、経営者としてこれ以上ない成功と言えるでしょう。

一方、失うものとしては決裁裁量、法人名や屋号、役員報酬の減額、目標設定権限このあたりが挙げられます。当然譲受側との話し合いによって、このあたりの条件も変わってきますが、経営権を承継するため当然に譲受手側に決裁権が渡ります。今まで経営者として奮闘されてきた御身としては寂しいことかと思いますが、より広い視野で人生を眺めたとき、固執すべきものかどうかはご自身で検討されてみてください。

歯科医師視点

歯科のM&Aで得るものとしては、診療に集中できる環境になることです。目の前の患者さんの悩みを解決したい・ご自身の歯科医師としてのスキルを高めたいが、事務作業やマネジメントに時間をとられて、まともに診療時間を取れずストレスがたまる、そんな先生にとってはとても良いことなのではないでしょうか。

失うものとしては、セミナーや医療機器の投資判断、後継歯科医師の最終決定、診療科目判断などが挙げられるでしょう。ご自身で全て決められるわけではなく、一定程度は譲受側の経営判断を待つ必要があります。

マネージャー視点

歯科のM&Aで得るものとしては、採用、教育、クレーム、評価、給与判断からの解放が挙げられます。特に歯科医師の採用や、歯科衛生士の採用、そして教育に関しては頭を悩ませるところかと思いますので、その悩みから解放されるのは大きなメリットと言えるのではないでしょうか。

失うものとしては、従業員へのセミナー投資判断、クレーム対応差配権限、採用や解雇の最終決定、従業員給与・賞与額の最終決定などが挙げられます。グループイン型M&Aであれば、そのままマネージメントを担うこともありますが、採用や教育・評価の最終的な決定権は譲受側にありますので、そこは理解しておく必要があります。

事務長視点

歯科M&Aで得られるものとして、大量の書類との決別が挙げられます。事務作業や申請作業は、譲受側のバックオフィス部隊に任せられるケースが多く、事務作業からはかなり解放されるので、診療により集中出来たり、休日出勤して事務作業する必要性がなくなります。

失うものとしては、施設基準の取得判断などが挙げられるでしょう。ただ、基本的には事務長の役割を担いたくて担っているわけではないと思いますので、特段事務長の役割がなくなったことで失うものは少ないのではないでしょうか。

個人視点

歯科M&Aで得られるものとして、経営・マネジメント・事務負担からの解放、それによる診療に集中できる環境がととのうこと、事務作業負担が減ることで休日出勤をせずに済みご自身の時間を確保しやすくなること、創業者利益を得られること(運営形態や、医院の状況、譲受側との話し合い次第で、大きく変化する)が挙げられます。

一方で、歯科M&Aで失うものとしては、経営者としてのアイデンティティの喪失が大きいかと思います。領収書が切れなくなる寂しさも、なんとも言えないものがあるかもしれません。

自分が本当は何を望んでいるのか見つめ直す

歯科M&Aが業界にとって必要なものだというのは、後継者不足の最中では明らかではありますが、先生個人にとってM&Aの必要があるのか、有用なものなのかはまた別の話となります。
今までの失うものの中で、受け入れがたいものがあれば、別の出口戦略を探る必要があると思いますし、あるいは譲受側との話し合いを丁寧に行っていく必要があります。得られるものの中で、強烈に引き付けられるものがあれば、一度M&A専門家に相談してみるのも良いかもしれません。
先生のこれからに少しでも寄与できますと幸いです。


歯科のM&Aに関するより詳しい情報は、下記の記事をご参照ください。

1.歯科医院M&AのTOP
2.歯科のM&A事例
3.歯科のM&Aの失敗事例
4.歯科のM&Aのメリット・デメリット
5.歯科のM&Aのポイント
6.歯科のM&Aの特徴
7.歯科のM&Aの譲渡対価の相場観
8.歯科のM&Aの注意点


長谷川光太郎

(株)船井総研あがたFAS チーフコンサルタント

国内大手メーカー勤務を経て、2018年に船井総研に入社。歯科医院の経営コンサルティングに従事し、現在は歯科医院・医療法人の事業承継全般の支援を行っている。医療法人特有の事業承継に関わる知見を有し、譲渡側・譲受側双方からの信頼が厚い。

長谷川光太郎

(株)船井総研あがたFAS チーフコンサルタント

国内大手メーカー勤務を経て、2018年に船井総研に入社。歯科医院の経営コンサルティングに従事し、現在は歯科医院・医療法人の事業承継全般の支援を行っている。医療法人特有の事業承継に関わる知見を有し、譲渡側・譲受側双方からの信頼が厚い。