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矯正歯科M&Aはなぜ難しい?廃業リスクを回避し、前受金を「負債」にしない譲渡の秘訣

この記事では、矯正歯科医院の院長先生が直面する「後継者不在問題」について、一般歯科とは異なる特有のハードル(前受金、技術の属人性)を解説し、廃業せずに患者様と従業員を守り抜くためのM&A出口戦略を提示します。

経営の正解は、一つではありません。 まずは出口戦略の『選択肢』を可視化する診断ツールを手に取り、 次なるステージへの展望を具体化する準備を始めてください。 プロの目利きで自院の『真価』を知ること。それが、後悔のない決断への第一歩です。

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1.矯正歯科のM&Aとは? 技術と患者を引き継ぐ「時間のかかる」事業承継

「そろそろ引退を考えたいが、治療中の患者さんを放り出すわけにはいかない」

矯正歯科を経営される多くの先生方が、このジレンマに頭を悩ませています。

一般歯科であれば、カルテを引き継ぎ治療を継続することもありますが、矯正歯科の場合はそう単純にはいきません。 

一般歯科M&Aとの決定的な違いは「治療期間」と「専門性」 

矯正歯科における事業承継が難しい最大の理由は、治療の長期性と技術の属人性の高さにあります。 


矯正治療は、動的治療だけで2〜3年、保定期間を含めればさらに長いお付き合いになります。患者様は「先生の技術」と「人柄」を信頼して、高額な自費診療契約を結んでいます。 

 M&Aにおいて、単に経営権を譲渡したとしても、治療方針や技術体系が異なるドクターがいきなり引き継げば、現場は混乱します。「前の先生と言っていることが違う」「治療が進まない」といったクレームは、最悪の場合、返金騒動にも発展しかねません。 

そのため、矯正歯科のM&Aは、単なる「売買」ではなく、時間をかけた「技術と信頼のバトンタッチ」と捉える必要があります。 


歯科医院のM&A動向についてより詳しく知りたい方はこちらをご覧ください

歯科M&Aの動向・相場・事例【2026最新】2025年データから導く出口戦略


買い手が見つからない? 矯正歯科特有の「需給バランス」の真実 

「うちは立地も良いし、自費率100%だから高く売れるだろう」

もしそうお考えなら、少し認識を改める必要があるかもしれません。 

現場の実情をお話しすると、矯正歯科を買収したいという企業や医療法人は、実はそれほど多くありません。

理由はシンプルで、引き継げるドクターが圧倒的に不足しているからです。 

一般歯科の分院展開であれば、代診の先生を配置しやすいですが、矯正専門医となると採用ハードルが格段に上がります。 

「買収したはいいが、治療できるドクターがいない」という事態を避けるため、買い手側も非常に慎重になります。 

実際、同業の矯正専門医か、よほど教育体制が整っている大手医療法人グループ以外は、手を出したくても出せないのが「矯正歯科M&A市場」のリアルな現状なのです。 

ご自身の医院の「市場価値」や「買い手がつく可能性」を知りたい方は、まずは業界特化の専門家に無料診断をご依頼ください。

2.矯正歯科M&Aにおける「3つの落とし穴」と対策

矯正歯科のM&A交渉が破談になる原因の多くは、以下の3つのポイントに集約されます。

【財務の壁】数千万円の「前受金」は、買い手から見れば「借金」になる 

ここが最大の難所です。矯正歯科では、治療開始時に総額(例えば100万円)を一括、または分割で受け取ることが一般的です。 

先生の決算書上では、現預金として数千万円が残っているかもしれません。しかし、買い手側によるデューデリジェンス(買収監査)では、このお金は「資産」ではなく「負債」と見なされることがほとんどです。 

なぜなら、お金は既に受け取っているのに、治療という「役務提供」はまだ終わっていないからです。 

もしM&A直後に患者様から「返金してほしい」と言われた場合、その返金義務を負うのは新しい経営者です。 

 そのため、譲渡価格を決定する際には、この「未消化の治療費(前受金)」分を企業価値から差し引いて評価されるケースが多く、「思った以上に企業価値がつかない」という事態が頻発します。 

【技術の壁】「先生じゃないと治せない」という属人性が評価を下げる

「私の技術は特別だから」

その誇りは素晴らしいものですが、M&Aにおいてはリスク要因になります。 

特定の技術や流派にこだわりすぎた治療を行っている場合、一般的な矯正医では引き継ぎが困難だからです。 

「先生がいなくなったら、この医院の価値はゼロになる」と判断されれば、譲渡価格は大きく下がります。 

マニュアル化や、標準的な治療プロセスの導入など、「誰がやってもある程度同じ結果が出せる仕組み」があるかどうかが、高評価の鍵となります。 

矯正歯科の治療器具

【引継ぎの壁】M&A後すぐにリタイアは不可能? ドクターが残るべき期間

「売却して明日からハッピーリタイア」これは矯正歯科ではまず不可能です。 

前述の通り、技術と患者様の引継ぎには時間がかかります。買い手側からも、「最低でも2年は残ってほしい」という条件(ロックアップ)が提示されることが一般的です。 

これはドクターにとっても悪い話ではありません。徐々に診療日数を減らしながら、信頼できる後継者に患者様を託していくプロセスを踏むことで、精神的にも穏やかに引退の準備ができます。 

3.矯正歯科を「負債」にせず、価値ある資産として譲渡する具体的手順 

では、これらの壁を乗り越え、成功するM&Aを実現するにはどうすればよいのでしょうか。


一般的なM&Aの流れと準備するべきステップについて、まずは基礎知識を身に着けたい方はこちらをご覧ください

M&Aの流れ~「売る」までの10のステップ


 譲渡の3年前から準備すべき「カルテ整理」と「収益構造の適正化」

M&Aを思い立ってすぐに相手が見つかることは稀です。 まずは「見せる準備」を始めましょう。

特に重要なのがカルテと契約状況の整理です。 

「どの患者様が、どの治療段階にあり、あとどれくらいの期間とコストがかかるのか」

これらが一覧で管理されているだけで、買い手の安心感は絶大です。 

また、未払い残業代などの労務リスクも、今のうちに清算しておくことを強くお勧めします。 

矯正歯科のカルテ

 良い買い手の条件は「金額」ではない? 「後継獣医師・歯科医」の派遣能力

譲渡先選びで最も重視すべきは、提示金額よりも「人(ドクター)」を手配できる力があるかどうかです。 

いくら高い金額で買ってくれても、派遣されたドクターの技術が未熟であれば、患者様は離れ、残されたスタッフも疲弊します。 

「しっかりとした技術研修制度があるか」「常勤の矯正医を安定して確保できているか」

この点を面談で厳しくチェックすることが、結果として先生の築き上げた医院ブランドを守ることにつながります。 

 従業員への告知タイミング:一斉退職を防ぐ「信頼の承継」プロセス 

M&Aの成約直後にスタッフが一斉退職してしまうと、事業は立ち行かなくなります。

スタッフへの告知は、非常にデリケートな問題です。基本的には、最終契約が終わるまでは秘密保持を徹底します。 

そして発表の際には、新しい経営者と一緒に説明を行い、「雇用条件は変わらない(または良くなる)」「今のやり方を急に変えることはない」と、安心感を与えることが重要です。 

「院長先生が選んだ相手なら安心だ」と思ってもらえるよう、事前の信頼関係構築が何よりの予防策となります。 矯正歯科の歯科助手

4.【まとめ】矯正歯科M&A成功の鍵は「早期準備」と「専門家選び」

矯正歯科のM&Aは、一般企業や一般歯科に比べて難易度が高く、特殊な知識を要します。 

「後継者がいないから廃業するしかない」と諦める前に、まずは選択肢を知ることから始めてください。

前受金の処理や引継ぎ期間の調整など、複雑な課題も、早めに準備を始めれば解決策は必ず見つかります。 

矯正歯科のような専門分野においては、一般的なM&A仲介会社ではなく、医療・歯科業界の商習慣や専門用語を熟知した専門家のサポートが不可欠です。 

ご自身の医院の将来について、弁護士や税理士、そして歯科業界に特化したM&Aアドバイザーにご相談されることをお勧めします。 

まだ具体的な売却を考えていなくても、まずは業界特化の船井総研あがたFASへご相談いただくか、M&A・事業承継に関する資料をダウンロードして、情報収集から始めてみてはいかがでしょうか。

知識を得るだけでは、未来は変わりません。 激変する環境下で、貴院の選択肢が狭まってしまう前に『攻めの出口戦略』を。

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経営者としての集大成を、最も価値ある形で次へ繋ぐ準備は、今、ここから始まります。

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5.矯正歯科のM&Aについてよくあるご質問

Q. 矯正歯科のM&Aで、前受金(治療費)はどう扱われますか?

A. 一般的に「負債(将来の債務)」と見なされます。譲渡価格から未消化分の治療費相当額が差し引かれるケースが多いため、事前の財務整理が重要です。 

Q. 矯正歯科医院の売却相場はどれくらいですか?

A. 「時価純資産+営業権(修正利益の1〜3年分)」が目安ですが、矯正歯科の場合は技術の属人性が高いため、ドクターの引継ぎ期間によって評価が大きく変動します。 

Q. 院長は売却後すぐに引退できますか?

A. 即時引退は困難です。技術と患者様を円滑に引き継ぐため、通常は譲渡後1〜3年程度、非常勤や顧問として診療に関わることが求められます。 

Q. スタッフにM&Aを伝えるタイミングはいつが良いですか?

A. 最終契約の締結後が原則です。早すぎると動揺による離職を招きます。買い手企業と同席し、雇用条件の維持を丁寧に説明することが不可欠です。 

Q. 矯正歯科を買収してくれる相手はいますか?

A. 買い手は限られますが、エリア拡大を狙う矯正専門法人や、自費診療を強化したい大手医療法人などが候補になります


その他歯科のM&Aに関するより詳しい情報は、下記の記事をご参照ください。

1.歯科医院M&AのTOP
2.歯科のM&A事例
3.歯科のM&Aの失敗事例
4.歯科のM&Aのメリット・デメリット
5.歯科のM&Aのポイント
6.歯科のM&Aの特徴
7.歯科のM&Aの譲渡対価の相場観
8.歯科のM&Aの注意点

長谷川光太郎

(株)船井総研あがたFAS チーフコンサルタント

国内大手メーカー勤務を経て、2018年に船井総研に入社。歯科医院の経営コンサルティングに従事し、現在は歯科医院・医療法人の事業承継全般の支援を行っている。医療法人特有の事業承継に関わる知見を有し、譲渡側・譲受側双方からの信頼が厚い。

長谷川光太郎

(株)船井総研あがたFAS チーフコンサルタント

国内大手メーカー勤務を経て、2018年に船井総研に入社。歯科医院の経営コンサルティングに従事し、現在は歯科医院・医療法人の事業承継全般の支援を行っている。医療法人特有の事業承継に関わる知見を有し、譲渡側・譲受側双方からの信頼が厚い。