歯科のM&Aのメリットは何か、M&Aに潜むデメリットは何になるのか、気になる歯科経営者の方も多いかと思います。多くの歯科経営者からご質問をいただく歯科M&Aのメリット・デメリットについて解説いたします。
後継者不足の実態と、歯科の出口戦略
ご子息・ご息女の独立開業
ご子息ご息女が歯科医師となられても、そのまま承継されずに独立開業するケースを、最近よくお聞きします。今までの感覚で当然継ぐものだろうと思っていても、いざそのタイミングで話し合うとそんなつもりはないということで、急に後継者不在が顕在化するパターンです。
親族承継が出来れば良いですが、本人と話し合いをしないまま勝手に後継者認定するのは危険です。そういったリスクも想定した上で、貴院に合った出口戦略を早めから検討しておくことが、これからより重要性を増してきます。
歯科の出口戦略は4つ
歯科の出口戦略は下図の4つです。それぞれのメリットとデメリットについて簡単にまとめておりますので、ご確認の上いずれの方向性が貴院にマッチするのか、早めにご検討いただくのが良いです。
| 出口戦略 | メリット | デメリット |
|---|
親族内承継
| ・関係者の理解が得られやすい ・後継者育成に時間が取れる ・相続、贈与などの方法に幅がある | ・後継者の意思、資質次第 ・贈与、相続中心で対価が得づらい ・後継者以外相続人への配慮が必要 |
院内承継
| ・後継者の資質を理解できている ・関係者の理解が得られやすい | ・後継者の資金調達が難しい ・個人保証、親族への配慮が必要 |
M&A
| ・創業者利益が得られ、個人保証も解消される ・外部から後継者を探せる ・グループインにより成長を望める | ・条件設定、候補先の探索など自身だけで進めるには煩雑すぎる ・関係者に対する十分な説明が必要 |
廃院
| ・タイミングの調整ができる | ・医院の資産を廃棄することになる ・廃院コストが別途必要 |
親族内承継
メリット
まず挙げられるのが関係者への説明が大変に容易ということです。院長のご子息・ご息女が医院・法人を承継するというのは誰しも納得感があることです。患者さんや従業員への説明、関係業者への説明、銀行への説明コストが低いことは大きなメリットとして挙げられます。
後継者育成に関しても長い時間をかけて取り組むことができるので、安心して医院を任せることができるケースが多いです。
また、お金ではなく事業という財産を大切なご子息・ご息女に残すことができるので、今までの努力が結実したような達成感を得ることも、心理的メリットとして挙げられます。相続を見据えての対策が取れるのも親族内承継のメリットです。
デメリット
デメリットとしては、当然後継するものと思っていたが、後継者の心変わりや、そもそも後継する気がなく、突然後継者不在状況に陥って慌てるという可能性が大きいことです。最近では、ご子息が独立開業するケースも多く、ご子息・ご息女と話してみたら意外と継ぐ気がなかった、なんてことも起きやすいのが親族内承継の怖いところです。
また、親族に承継する場合、相続を見据えていくため、創業者利益(対価)を得づらいです。
ご子息・ご息女が複数いる場合は、事業以外の財産の分配なども視野に入れて、経営権の承継を考えなければいけないため、思わぬトラブルケースが発生しやすいのも親族内承継のデメリットです。
院内承継(勤務医承継)
メリット
すでに医院で活躍してくれている勤務医への承継になるため、患者さんや従業員の理解を得やすいです。医院のオペレーションや文化の浸透もなされている相手に承継するので、その後の運営を安心して任せられるという、心理的メリットは大きいです。
実際、帝国データバンク社が毎年公表している「全国「後継者不在率」動向調査(2024年11月12日)」では、後継者の属性として内部昇格による就任がTOPで36.4%と、信頼できる従業員への承継が主流になってきていることが明らかになっています。
参考ページ
親族ではないため、一定の創業者利益を得られることも挙げられます。ただ、5000万以上の金額になると院内承継は途端に難しくなりますので、そこは頭に入れておくこと必要があります。
デメリット
医院規模によって、承継にかかる資金調達ができないケースが多いです。特に5000万以上の対価になると難しくなる印象があり、億単位の話となると殆ど見込みはないといえます。
また、仮に融資が可能でも、後継者家族がそれを許容してくれるかといった問題もあり、資金面での難しさが顕著なのがデメリットとして挙げられます。
M&A
メリット
なんといっても外部から後継者を探せることです。親族は継がない、勤務医も適任者がいない、けれども患者さんや従業員のことを考えると、今まで積み重ねてきた医院の歴史のことを考えると、誰かに承継してほしい、そんな時に活用できるのがM&Aです。
相手が外部になるため、ビジネスライクなイメージがありますが、実際はその医院に、院長に魅力を感じたところが手を挙げるため、医院の文化や従業員を大事にしてくれるケースが殆どで、さらに経営力があるところが大半なため、承継後の経営も安心できます。
また、最も創業者利益を得られるのがM&Aです。医院・法人の価値を客観的に測り、のれん代や企業価値を乗せた形で譲渡が行われますので、親族内承継や院内承継と比べると創業者利益を最も得やすい形と言えます。
※債務超過や赤字経営だとこの限りではありません。
デメリット
関係者への説明に壁があるケースがあります。親族は、先生のご努力を近くでご覧になっているため、承継自体に反対されるケースは少ないです。ただ、従業員には丁寧に説明する必要がありますし、融資を受けている銀行やテナントなどへの説明は、契約主体(オーナー)が変わるため同様に丁寧な説明が必要です。また、M&Aのことをあまりご理解されていない関係者の方が何故か猛烈に反対することもあり、心理的負担が起き得ることはデメリットとしてあります。
そして契約を取り交わしていく中で、様々な書類の整理や権利関係の整理をしていく必要があるため、専門家に依頼しないと先生一人では忙殺されてしまいます。早い段階で信頼できるM&A専門家を見つけ、2人3脚で取り組んでいく必要があります。
廃院
メリット
ご自身で引退の時期を決められることです。その時期に合わせて、患者さんや従業員への告知を行うことができ、また資産の整理を順序良く行うことが出来ます。
デメリット
今まで積み重ねてきたものが消滅することです。
また、数年単位で計画的に行わないと税額が高くなり、廃院コストもかかるため、最も創業者利益を得づらい形も廃院の悩ましいところです。
必ずどこかで決断する必要があるテーマ
誰しも出口戦略を避けては通れません。先生が体調不良になり、突然決断を求められるケースにも多く接してきました。出口戦略についてどのような選択肢があるのかを理解し、それぞれにどのようなメリットデメリットがあるのかを把握しておくことは、決して無駄にはなりません。
歯科のM&Aに関するより詳しい情報は、下記の記事をご参照ください。
1.歯科医院M&AのTOP
2.歯科のM&A事例
3.歯科のM&Aの失敗事例
4.歯科のM&Aのメリット・デメリット
5.歯科のM&Aのポイント
6.歯科のM&Aの特徴
7.歯科のM&Aの譲渡対価の相場観
8.歯科のM&Aの注意点
先々のライフプランを見据えて、早めに専門家に御相談することをお勧めします。先生のこれからに寄与できますと幸いです。

