歯科

資材と機材の高騰から見る歯科M&A

歯科の開業費用の高騰が叫ばれている昨今、どれくらい資材と機材は高騰してきたのでしょうか。そして資材と機材の高騰の影響をそこまで受けないM&Aはどう機能していくのでしょうか。経営戦略上も重要なテーマについて確認していきます。

歯科の開業費用の推移とその背景

年代
開業費用の目安
傾向
1980年代3,000~5,000万円設備や材料のコストが現在より低く、開業費用も比較的抑えられていた
1990年代4,000~6,000万円経済成長と共に設備の高度化が進み、開業費用が増加
2000年代5,000~7,000万円デジタル機器の導入や内装の充実化により、費用がさらに上昇
2010年代6,000~8,000万円高度な医療機器やITシステムの導入が一般化し、開業費用が高止まり
2020年代6,000~10,000万円新型コロナウィルスの影響で衛生機器投資が活発化。ウクライナ情勢による資材供給チェーンの崩壊と、歯科開業大型化も影響

開業費用は右肩上がり

上図をご覧いただくとお分かりになる通り、歯科医院の開業費用は右肩上がりで推移してきました。先生方も痛く実感されているところかと思います。特に2020年代以降は下記の要因から一気に開業費用が高騰してきております。

経営成果を出すための機材投資がマストに

新型コロナウィルスにより、衛生面での機材投資をされた医院様もいらっしゃるのではないでしょうか。そもそも歯科医院の場合、衛生対策を徹底しているところが多いですが、コロナをきっかけにさらなる衛生面での投資を行われたことでしょう。また、口腔内スキャナーを用いて、マウスピース矯正を患者さんに提供する体制が当たり前化してきており、開業時にスキャナーとセファロ含めた機材の大型投資をされるところも一般化してきており、開業費の高騰につながっています。

ウクライナ情勢と経済制裁による資材供給チェーンの崩壊

2022年2月以降は、ウクライナ情勢の不安定化に伴い、ロシアへの経済制裁などを含め、木材や鉄鋼などの建設資材の供給チェーンが崩壊し、資材の高騰につながりました。下記に、一般財団法人建設物価調査会から引用した、1990年~2025年までの建設資材物価指数(紙・木材と鉄鋼)のグラフを掲載します。ご覧の通り、ウクライナ情勢の不安定化以降急激に資材の高騰が見て取れます。
資材の高騰により、歯科の開業費も増大しております。

新規開業の大型化

現在、新規開業においても分院開業においても、チェアを8台以上配管できるキャパシティを条件として物件の選定、立地の選定をされている方が多いです。歯科の経営ノウハウがインターネットやYouTubeで得られやすくなっていること、コンサルティングを受けることが一般化してきていることで、開業時に成功イメージを明確に描けていることが多く、開業する医院の規模感が大きくなってきています。
また、歯科衛生士が活躍しやすいように、メンテナンスユニットを設ける歯科医院は、チェアが多くなり大型化が進む傾向があります。歯科衛生士の活躍が目立つようになってきたのは2010年ごろからであり、今は歯科衛生士に活躍してもらう環境づくりは経営において必須のテーマとなっていることもあり、メンテナンスユニットの増加による歯科医院の大型化はこれからも続くでしょう。

新規開業費用の高騰から見るM&A

新規開業、分院開業するのは財務的に重たい

今まで見てきたように、歯科の新規開業費用は高騰化の一途をたどっています。新しく出てくる機材も数百万の投資が必要になるケースもあり、マウスピース矯正の原価をはじめとする歯科材料も値上げが進んできています。且つ人材の採用コストも年々高まってきています。
そんな中で新規開業で大きな投資を行い、0から軌道に乗せていくのは中々に大変だということで、新規開業や分院展開を諦める方もいらっしゃいます。
一方で、M&Aに活路を見出す方が、歯科でも生まれてきました。

機材、人材、患者さん。決算書を引き継げるM&Aは合理的

歯科の新規開業が年々割に合わなくなってきている中、歯科のM&Aに舵を切る歯科経営者が増えてきました。M&Aでは、機材や建物を引き継げるので資材高騰の影響を受けづらく、スキーム次第ですが人材をそのまま引き継ぐことができ、患者さんにそのまま通っていただけることが出来ます。

言い換えれば決算書を引き継げるようなもので、ローリスクハイグロースな成長戦略と言えます。また、歯科は未曽有の後継者不足です。魅力的な医院・院長でも後継者がおらず、譲受先を探している医院様も今後増えてくるでしょう。そういう歯科医院様と手を組み、譲り受けていくことで、今までにない成長軌道に乗ることが出来ます。

新規開業とM&A。どちらの戦略を採用するか

新規開業の高騰から、M&Aについて眺めてみました。歯科にとっても今後の経営テーマとしてM&Aは欠かせないものとなってきます。今の内から客観的に新規開業とM&Aを眺めてみて、どちらの戦略を主軸におくのか、あるいは両方走らせていくのか、是非ご検討ください。


歯科のM&Aに関するより詳しい情報は、下記の記事をご参照ください。

1.歯科医院M&AのTOP
2.歯科のM&A事例
3.歯科のM&Aの失敗事例
4.歯科のM&Aのメリット・デメリット
5.歯科のM&Aのポイント
6.歯科のM&Aの特徴
7.歯科のM&Aの譲渡対価の相場観
8.歯科のM&Aの注意点



長谷川光太郎

(株)船井総研あがたFAS チーフコンサルタント

国内大手メーカー勤務を経て、2018年に船井総研に入社。歯科医院の経営コンサルティングに従事し、現在は歯科医院・医療法人の事業承継全般の支援を行っている。医療法人特有の事業承継に関わる知見を有し、譲渡側・譲受側双方からの信頼が厚い。

長谷川光太郎

(株)船井総研あがたFAS チーフコンサルタント

国内大手メーカー勤務を経て、2018年に船井総研に入社。歯科医院の経営コンサルティングに従事し、現在は歯科医院・医療法人の事業承継全般の支援を行っている。医療法人特有の事業承継に関わる知見を有し、譲渡側・譲受側双方からの信頼が厚い。