事業承継税制のデメリットと使わない方がいいケース|メリットとの比較
事業承継

事業承継税制のデメリットと使わない方がいいケース|メリットとの比較

後継者がいない会社はやはり廃業になるのでしょうか。

事業承継の方法を調べ始める経営者や後継者の多くが、まずこの不安に行き着きます。事業承継の方法には、親族内承継・従業員承継・第三者承継(M&A)という3つの類型があり、親族に後継者がいない場合でも、廃業以外の選択肢は残っています。

一方で、第三者承継(M&A)については「要は乗っ取りということでいいのでしょうか」と身構える経営者も少なくありません。

本記事では、事業承継の方法3類型のどれかに決めつけることなく、後継者の有無・資金・税負担・従業員の雇用維持・スピード・秘密保持という6つの判断軸から中立に比較します。

各手法の詳しい進め方は専用のコラムに譲り、本記事では「自社にとってどの軸を重視すべきか」を整理することに絞って解説します。


経営の正解は、一つではありません。 まずは出口戦略の『選択肢』を可視化する診断ツールを手に取り、 次なるステージへの展望を具体化する準備を始めてください。 プロの目利きで自社の『真価』を知ること。それが、後悔のない決断への第一歩です。

事業承継税制とは|デメリットを理解する前の基本

事業承継税制のデメリットやリスクを正しく理解するには、まず制度の基本を押さえておく必要があります。事業承継全体の方法や進め方の流れについては、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継とは|方法・進め方・税金までの流れをまとめて理解できるガイド』

事業承継税制の仕組みを簡単に確認

事業承継税制は、非上場会社の株式などを後継者が贈与や相続で引き継ぐ際にかかる贈与税・相続税の納税を猶予し、一定の要件を満たし続けることで最終的に免除する仕組みです。対象株式数に上限がなく猶予割合も高い「特例措置」と、要件が緩やかな分だけ猶予割合が抑えられている「一般措置」の2種類があります。実務で相談を受ける中では、猶予割合の高い特例措置を選ぶケースが大半です。特例措置を利用するには、あらかじめ「特例承継計画」を都道府県へ提出しておく必要があり、提出には期限が定められています。

事業承継税制のデメリット|押さえておきたい6つのポイント

事業承継税制のデメリットは、大きく6つの点に整理できます。贈与税・相続税の猶予は魅力的な制度ですが、その裏側には見過ごせない負担とリスクが伴います。

満たすべき要件が多く、負担が大きい

事業承継税制の適用には、先代経営者・後継者・対象会社のそれぞれに要件が定められています。後継者が代表権を持ち一定の議決権数を確保していること、対象会社が資産管理会社に該当しないことなど、確認すべき項目は一つひとつが独立した審査対象です。実務では、要件を満たしているかどうかの確認だけでも決算書や株主名簿、定款など複数の書類をそろえる作業が発生し、想定より時間がかかることが少なくありません。

認定後も都道府県・税務署への定期報告が必要

認定を受けた後も、報告の負担は続きます。特例承継期間にあたる最初の5年間は、都道府県へ年次報告書を、税務署へ継続届出書を毎年提出しなければなりません。5年が経過した後も、猶予が続く限り3年に一度、継続届出書の提出が必要です。提出すれば終わりだと考えていた経営者が、何年も先まで報告が続くと知って驚く場面は、実務の現場でも少なくありません。

取消事由に該当すると納税猶予が打ち切られるリスクがある

事業承継税制には、猶予を取り消す事由がいくつも定められています。後継者が代表を退任した場合や対象株式を譲渡した場合はもちろん、合併・増資・会社分割といった組織再編を行う際にも、取消事由に該当しないかどうかの確認が欠かせません。会社の重要な意思決定をするたびに、事業承継税制に対応している税理士へ事前に確認を取る必要がある点は、税額の猶予そのものよりも見えにくいコストです。経営判断の自由度が一定の範囲で制約されることは、制度を検討する段階であらかじめ理解しておくべきです。

途中でやめると利子税がかかる

猶予が取り消されると、猶予されていた税額に加えて利子税もあわせて納付することになります。利子税の割合は年ごとの特例基準割合によって変動しますが、猶予を受けていた期間が長いほど負担は積み上がっていきます。特例承継期間を過ぎた後に、業績悪化などの要件を満たしたうえで株式を譲渡する場合は、譲渡対価をもとに税額を再計算し、当初の猶予額との差額分と利子税の一部が免除される仕組みも用意されています。ただし適用のための要件は厳しく、誰にでも使える救済策ではありません。

将来M&Aで会社を譲る際の選択肢が狭まる可能性がある

事業承継税制は、後継者が株式を持ち続けて事業を継続することを前提にした制度です。そのため、猶予期間中に第三者へ株式を譲渡してM&Aを行うと、原則として猶予が打ち切られます。事業承継の実務では、次のように整理されることがあります。「本来の事業悪化ではなく、キャピタルゲインを得たいという使い方になってしまうと、事業承継税制の適用規定に違反することになり、利子税も払うことになります」。将来的にM&Aや大規模な組織再編を選択肢として残しておきたい経営者にとっては、この制約をどう捉えるかが判断の分かれ目になります。親族内承継・従業員承継・第三者承継(M&A)の3つの方法を横断して比較したい方は、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継の方法3類型を比較|親族内・従業員・M&Aの違いと選び方ガイド』

対応できる専門家が少なく、専門家への報酬もかかる

事業承継税制は税務の知識だけでなく、後継者の育成や組織の実態まで踏まえた判断が求められるため、対応できる税理士が限られているのが実情です。人手不足を理由に、事業承継に関する相談自体を受けにくいという税理士事務所も少なくありません。自社株の評価だけでも数十万円規模の専門家報酬がかかり、会社の規模や財産内容によっては百万円程度に達することもあります。継続的な報告支援まで依頼すると、費用はさらに積み上がります。 


事業承継税制のデメリットが問題点として表面化しやすいケース

事業承継税制のデメリットが実際に問題点として表面化しやすいのは、次のようなケースです。

将来的にM&Aや大規模な組織再編を検討している場合

数年先にM&Aで会社を譲る可能性を残しておきたい、あるいは持株会社化などの組織再編を検討している場合、事業承継税制の適用がその選択肢を狭める要因になり得ます。可能性の段階であっても、税制を使う前に将来の事業計画を整理しておくことが望ましいです。

後継者以外の家族との公平感を重視したい場合

後継者だけが自社株の猶予という経済的なメリットを受け取る形になるため、後継者以外の子どもたちとの間で公平感をどう保つかが課題になりやすいです。代償分割や生命保険の活用など、猶予とは別の手当てを組み合わせて検討する経営者も少なくありません。親族内承継における税負担や家族間の公平性の整理については、こちらのコラムもおすすめです。
『親族内承継とは|メリット・デメリットと進め方を経営者・後継者向けに解説』

継続要件を守れる社内体制が整っていない場合

年次報告書や継続届出書の提出、書類の保管といった継続的な事務作業に対応できる体制が社内になければ、報告漏れによる取消のリスクが高まります。実務上、経理担当が一人しかいない中小企業では、この継続対応が特に重荷になりやすいです。税理士との連携体制もあわせて確認しておく必要があります。

該当する項目が一つでもある場合は、税制の要件だけでなく自社の将来計画と照らし合わせて、使うかどうかを検討する価値があります。 


事業承継税制を使わない方がいいかを見極める判断軸

事業承継税制を使わない方がいいかどうかは、単独の要件ではなく複数の軸を組み合わせて確認すると判断しやすくなります。

猶予される税額の規模と会社の状況

実務上は、贈与の段階では事業承継税制を使う必要があるケースが多いのが実情です。ただし相続の段階になると事情は変わります。相続時に他の財産などで相続税を無理なく払える見込みがあるなら、事業承継税制を使わないという選択も十分に成り立ちます。猶予されるべき税額の規模と、手元の資金・財産の状況を照らし合わせずに、一律に「使うべきだ」と決めつけるべきではありません。

将来の事業計画(M&A・組織再編の可能性)

将来的にM&Aや大規模な組織再編を選択肢として残したいのであれば、事業承継税制を使うことでその自由度がどの程度制約されるのかを、事前に確認しておく必要があります。

後継者・家族間の公平性

後継者だけが猶予という経済的な恩恵を受ける形になるため、後継者以外の家族にどう配慮するかをあらかじめ話し合っておくことが、後々の関係悪化を防ぎます。

継続要件を守れる社内体制

年次報告書や継続届出書を期限内に提出し続けられる体制があるかどうかも、判断材料の一つです。経理体制や税理士との連携が整っていなければ、猶予を受けても維持できないリスクがあります。

 事業承継税制のメリットとデメリットを比較して判断する

事業承継税制はメリットとデメリットの両面を並べてはじめて、自社にとっての適否が見えてきます。

メリットは贈与税・相続税の猶予・免除

最大のメリットは、自社株にかかる贈与税・相続税の納税が猶予され、要件を満たし続ければ最終的に免除される点です。後継者は、まとまった納税資金を用意できなくても、株式を引き継いで経営に専念できます。

デメリットは要件対応の負担とリスク

一方のデメリットは、ここまで見てきたとおり、継続的な報告義務、取消時の税額と利子税、将来の選択肢への制約、専門家対応の負担です。実務で相談を受けていると、メリットの大きさだけで即断してしまうケースを見かけます。デメリットに対応し続けられるかどうかをあわせて考える必要があります。メリットだけで判断して後悔する事例は、事業承継の現場でも見られます。典型的な失敗パターンについては、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継の失敗事例とうまくいかない理由|早期の相談で防げる備え方』


事業承継税制のデメリットで迷ったときの相談先

事業承継税制のデメリットをふまえて使うかどうか迷ったときは、早い段階で専門家に相談することが遠回りに見えて近道です。

税理士に相談するメリットと費用

事業承継税制の適用可否や税額のシミュレーションは、税理士に相談するのが基本です。実務上、事業承継案件の実績がある税理士であれば、猶予を受けた後の継続要件への対応まで見据えた提案を受けられます。事業承継を税理士に相談する際のメリットや費用の目安については、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継を税理士に相談するメリットと費用|できること・できないこと』

承継の方向性から中立的に相談できる窓口

事業承継税制は、あくまで承継の手段の一つです。親族内承継・従業員承継・第三者承継のどれを選ぶかという、より大きな方向性が固まってから税制を使うかどうかを検討する順序の方が、結果的に後悔は少なくなります。特定の承継方法や税制の活用に偏らず、自社の状況を中立的な立場で整理したい場合は、複数の選択肢を横断して相談できる窓口を頼るのも一つの方法です。自社に合った相談先の選び方については、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継は誰に相談すべき?相談先の種類と選び方をわかりやすく解説』

【まとめ】事業承継税制のデメリットを踏まえて後悔しない選択を

事業承継税制は、贈与税・相続税の負担を軽減できる有力な制度です。ただし、継続的な報告義務、取消時の税額と利子税、将来のM&Aや組織再編への制約、専門家対応の負担という、無視できないデメリットを伴います。使うべきかどうかは、猶予される税額の規模、将来の事業計画、家族間の公平性、社内体制を踏まえて、会社ごとに判断する必要があります。親族内承継や第三者承継(M&A)だけでなく、従業員承継(社内承継・MBO/EBO)という選択肢も含めて検討したい場合は、こちらのコラムもおすすめです。
『従業員承継(社内承継・MBO/EBO)とは|進め方とメリット・デメリット』

税務会計と経営コンサルティングを一気通貫で担う船井総研あがたFASでは、事業承継税制の適否だけでなく、親族内承継・従業員承継・第三者承継を含めた承継の方向性そのものを、中立的な立場で一緒に整理し、実行まで伴走しています。

まずは自社の状況を整理したい段階でも、事業承継の無料相談を受け付けています。

事業承継やM&Aの基礎を確認したい方には、業種を問わず使える事業承継の資料ダウンロードもご用意しています。


経営の正解は、一つではありません。 まずは出口戦略の『選択肢』を可視化する診断ツールを手に取り、 次なるステージへの展望を具体化する準備を始めてください。 プロの目利きで自社の『真価』を知ること。それが、後悔のない決断への第一歩です。

【業界専門コンサルタントが担当】「出口戦略」診断で自社の価値を正しく守る。ベストな承継を実現するための第一歩。


よくある質問

Q. 事業承継税制のデメリットにはどのようなものがありますか?

事業承継税制の主なデメリットは、認定後も続く報告義務、取消事由に該当した場合の猶予打ち切りと利子税、将来M&Aを行う際の制約、専門家への依存度の高さです。特に、合併や増資など会社の重要な意思決定をする際に事前確認が必要になる点は見落とされがちです。贈与税・相続税の負担を軽減できる一方で、後継者が事業を続ける間、手続きと経営判断の両面で一定の制約を受け続ける点に注意が必要です。

Q. 事業承継税制の報告義務はいつまで続きますか?

認定を受けてから5年間の特例承継期間は、都道府県へ年次報告書、税務署へ継続届出書を毎年提出する必要があります。5年経過後も納税猶予が続く限り、3年に一度継続届出書の提出が必要になり、猶予が終了するまで報告義務は続きます。提出を怠ると猶予が打ち切られ、猶予税額と利子税を一括で納付することになるため、継続的な管理体制が欠かせません。

Q. 事業承継税制のメリットとデメリットの違いは何ですか?

メリットは自社株にかかる贈与税・相続税の納税が猶予され、要件を満たせば将来免除される点です。デメリットは、その猶予を維持するために継続的な報告義務や経営判断の制約を受け入れる必要がある点です。後継者に資金力がなくても事業を引き継げる利点と、認定後も長期にわたって拘束される負担を見比べる視点が欠かせません。猶予される税額の規模と、その先の継続的な負担をあわせて比較したうえで判断する必要があります。

Q. 事業承継税制は使わない方がいいですか?

相続時に他の財産で相続税を無理なく払える見込みがあるなら、事業承継税制を使わなくても問題はありません。贈与の段階で適用が必要になるケースはあっても、相続時まで含めて一律に使うべきだと決めつける必要はありません。将来的にM&Aや大規模な組織再編を検討している場合や、継続的な報告に対応できる体制がない場合は、猶予のメリットより負担が上回ることがあります。使うかどうかは会社ごとの状況で個別に判断すべきです。

Q. 事業承継税制の適用を取り消されないためにはどうすればよいですか?

継続要件を守り、都道府県・税務署への報告を期限内に提出し続けることが基本です。特に合併・増資・会社分割など会社の重要な意思決定を行う際は、事前に税務上の影響を確認しておく必要があります。後継者が代表を退任したり株式を譲渡したりする場合も取消事由に該当するため、経営体制を変更する前の確認も欠かせません。事業承継税制に精通した税理士と継続的に連携する体制を整えておくことが有効です。


植木 諒

(株)船井総研あがたFAS マネージャー

士業事務所でキャリアを歩み、法務・不動産の現場実務に精通。2018年の船井総研入社後は、財務コンサルティングを主軸に数多くの事業承継・再生案件を完遂してきた 。現在はグループの事業承継分野で中核を担う存在である 

土地家屋調査士・行政書士の資格を保持し、「事業・財産・組織」の3つの視点から包括的に支援 。現場実務から承継戦略までをワンストップで解決できる希少なコンサルタントとして、多くの経営者から厚い信頼を得ている。

植木 諒

(株)船井総研あがたFAS マネージャー

士業事務所でキャリアを歩み、法務・不動産の現場実務に精通。2018年の船井総研入社後は、財務コンサルティングを主軸に数多くの事業承継・再生案件を完遂してきた 。現在はグループの事業承継分野で中核を担う存在である 

土地家屋調査士・行政書士の資格を保持し、「事業・財産・組織」の3つの視点から包括的に支援 。現場実務から承継戦略までをワンストップで解決できる希少なコンサルタントとして、多くの経営者から厚い信頼を得ている。