「義父という間柄で、税理士に相談に行くのも気が引けてしまいます」。事業承継について調べ始めた後継者候補が、こうした思いを抱えることは少なくありません。M&A仲介からの提案を「乗っ取りに近いのではないか」と警戒する声も見られ、その裏返しとして、日頃から付き合いのある税理士になら安心して話せるはず、という期待が生まれやすい面があります。
税理士は事業承継において最も身近な専門家の一人ですが、実際に何を相談できて、何を相談できないのかは、意外と整理されていません。事業承継を税理士に相談すること自体は、多くの経営者・後継者候補にとって現実的な入り口です。一方で、税理士が対応できる範囲には輪郭があり、費用の相場や、相談しづらいと感じたときの対処法まで押さえておかないと、相談したあとに戸惑う場面が出てきます。本記事では、税理士に頼めること・頼めないことを線引きしたうえで、費用の目安と、身内を飛び越えて相談することへのためらいへの向き合い方に絞って整理します。
経営の正解は、一つではありません。 まずは出口戦略の『選択肢』を可視化する診断ツールを手に取り、 次なるステージへの展望を具体化する準備を始めてください。 プロの目利きで自社の『真価』を知ること。それが、後悔のない決断への第一歩です。


事業承継の相談で税理士に依頼できること
事業承継の相談における税理士の役割は、主に税務まわりの実務に集中しています。自社株の評価、相続税・贈与税の対策、事業承継税制の活用可否、資金調達の相談まで、数字と制度に関わる部分は税理士の得意領域です。
自社株・株価の評価
自社株の評価は、事業承継の相談で最初に着手することが多い業務です。
非上場企業の株価は、類似業種比準方式や純資産価額方式など複数の評価方法を組み合わせて算定します。
自社の株価が現状どの水準にあるかを把握していない経営者は少なくなく、評価方法の見直しが行われるタイミングで対応が後手に回ることもあります。
実務上は、まず現在の株価水準を確認するところから相談が始まるケースがほとんどです。
相続税・贈与税の対策
株式や事業用資産を後継者に移す場合、贈与税または相続税が課税対象になります。生前に計画的に贈与を進めるのか、相続まで待つのかによって、税負担も手続きの進め方も変わります。
家族の間で「引き継ぐタイミング」を巡る認識がずれていることもあり、後継者候補は生前の引き継ぎを望んでいても、現経営者側は承継のタイミングを相続発生時だと考えている、という食い違いが起きることがあります。
税理士に相談すると、こうした認識のずれを数字と制度の面から整理してもらえます。親族内で引き継ぐ場合の具体的な進め方やメリット・デメリットについては、こちらのコラムもおすすめです。
『親族内承継とは|メリット・デメリットと進め方を経営者・後継者向けに解説』
事業承継税制の活用可否の検討
事業承継税制は、非上場株式を後継者に贈与・相続する際の税負担を猶予する制度です。
適用できれば税負担を大きく抑えられますが、認定後も報告義務が続くなど、負担とセットで検討する必要があります。
税理士に相談する際は、自社の状況で本当に活用すべきかどうかを、メリットとデメリットの両面から確認することをおすすめします。
事業承継税制の活用可否については、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継税制のデメリットと使わない方がいいケース|メリットとの比較』
資金調達・資金計画の相談
事業承継では、自社株の買い取り資金や納税資金など、まとまった資金が必要になる場面があります。
税理士は、資金繰りの見立てや金融機関への説明資料の整理といった面で相談に乗ることができます。
ただし、金融機関との交渉そのものや、融資審査を有利に進めるための事業計画の作り込みまで踏み込めるかどうかは、税理士事務所ごとに対応力の差があります。

税理士だけでは対応しきれない領域
税理士の役割は税務を中心とした対応に閉じており、事業承継のすべてを任せきれるわけではありません。
ここに関する認識のずれが、あとになって「思っていた相談と違った」という不満につながります。
実務の現場では、税理士の先生でも事業承継のサポートを引き受けられない、あるいは引き受けたくないという方も一定数いらっしゃいます。
理由は大きく2つです。
ひとつは、税理士業界自体が人手不足で、通常の申告業務以外に時間を割きにくいという事情です。
もうひとつは、事業承継が税務対策だけでなく、後継者が経営者として育っていけるかという経営承継の側面まで含むため、税務の枠を超えた対応力が求められるからです。
相談する際は、「この件について対応していただけますか」と、直接確認を取ることをおすすめします。
買い手探し・マッチング(第三者承継の場合)
第三者に会社を引き継いでもらう場合、譲受先候補を探し出し、条件を交渉する実務が発生します。
この領域は税理士の専門外であることが多く、M&A仲介会社や事業承継コンサルティング会社が担う分野です。
身近な税理士にまず相談したいという気持ちは自然ですが、マッチングや交渉の実務までは税理士に任せきりにできない、という前提を持っておくと、次の相談先を探す判断が早まります。
承継後の経営統合(PMI)や事業成長の支援
株式や資産の引き継ぎが完了したあとも、組織の統合や、後継者が経営を軌道に乗せるまでの支援は必要です。
税理士は決算・申告や税務相談が専門であり、組織づくりや事業戦略といった経営面の伴走を継続的に担うことは、業務範囲として想定されていないことがほとんどです。
事業承継コンサルの選び方・費用相場については、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継コンサルの選び方と費用相場|依頼できることと注意点をわかりやすく解説』
親族内・従業員・M&Aのどれを選ぶかという中立的な検討
親族内承継・従業員承継・第三者承継(M&A)のどれを選ぶかは、税理士だけで判断できる領域ではありません。
顧問税理士との関係が長いほど話しやすい相手ではあっても、手法そのものを中立に比較してくれる立場とは限らない点には注意が必要です。
3つの方法を横断して比較したい場合は、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継の方法3類型を比較|親族内・従業員・M&Aの違いと選び方ガイド』

事業承継を税理士に相談する際に確認したい5つの判断軸
事業承継を税理士に相談する際は、税理士報酬だけでなく実績や対応範囲も含めて相談先を判断することが重要です。
ここでは5つの判断軸を紹介します。
事業承継の実績と専門性
通常の税務顧問業務と、事業承継特有の実務では、必要になる経験の蓄積が異なります。自社株評価や税制適用の判断は場数がものを言う分野であり、事業承継の相談実績があるかどうかを確認しておくとよいでしょう。
税務と経営を一貫して見られるか
自社株評価や税制活用だけでなく、承継後の経営や手法選定まで相談できるかどうかも判断軸になります。税務のみで完結する事務所と、経営面まで踏み込める事務所とでは、対応できる範囲が異なります。
たとえば税務会計と経営を一気通貫で見られる専門家であれば、税理士が対応しきれない領域が出てきた場面でも、話がスムーズにつながりやすくなります。
料金体系の明確さ
スポット相談・顧問契約・業務範囲ごとの費用感が、相談の早い段階で明確に説明されるかどうかも確認しておきたいポイントです。
着手金や成功報酬の有無・金額があいまいなまま話が進むと、後々の費用感のずれにつながりやすくなります。
秘密保持の体制
事業承継を検討していること自体が、従業員や取引先、金融機関に事前に伝わってしまうと、社内外に無用な動揺を招きかねません。
秘密保持契約の締結や、情報管理の体制が整っているかどうかも、事前に確認しておく事項です。
他の専門家との連携
税理士の対応範囲を超えた場面で、弁護士やM&Aの専門家、事業承継コンサルなど、他の専門家に橋渡しできるネットワークを持っているかどうかも重要です。
連携先を持たない事務所だと、税務以外の論点が出てきた時点で相談が止まってしまうことがあります。
事業承継を税理士に相談する費用・報酬の目安
事業承継の相談における税理士費用は、多くの経営者が気にするポイントのはずです。
スポット相談と顧問契約で費用感が変わる
事業承継の相談は、単発のスポット相談で受ける税理士もいれば、顧問契約の範囲内で継続的に対応する税理士もいます。
契約形態によって費用の発生の仕方が変わるため、最初にどちらの形で依頼するのかを確認しておくと、あとの費用感のずれを防げます。
業務範囲(自社株評価・税制適用など)によって費用が変動する
実務上の相場観としては、自社株の評価だけでも少なくとも20万円から30万円程度、会社の規模や財産の内容によっては100万円程度までかかることがあります。
さらに、贈与を毎年行う場合の株価算定や申告など、実行段階の対策まで含めると、数年にわたる累計で数百万円規模になることも珍しくありません。
報酬は高く感じられることもありますが、事業承継がうまくいけば、会社はその先何十年、何百年と事業を続けていくことになります。
長期的に見れば回収できる投資として捉える考え方もできます。

顧問税理士に相談しづらいときの考え方
顧問税理士や税理士法人に事業承継の相談を持ちかけることに、ためらいを感じる場面もあります。
現経営者を飛び越えて相談しづらいと感じるとき
「義父という間柄で、税理士に相談に行くのも気が引けてしまいます」。
後継者候補が現経営者を飛び越えて専門家に接触することへのためらいは、珍しい感情ではありません。
M&A仲介からの提案を警戒する声が出てくる背景にも、身近な専門家となら安心して話せるはずという期待があります。
まずは現経営者を含めた形で、顧問税理士に事業承継の相談をしてみたいという意向を伝えるところから始めると、角が立ちにくくなります。
顧問税理士とは別にセカンドオピニオンとして相談する選択肢
顧問税理士に事業承継の相談を持ちかけても、対応が難しいと言われる場合や、話が思うように進まない場合があります。
実務上、この場合も顧問契約を解消する必要はなく、事業承継に詳しい税理士や税理士法人、事業承継コンサルティング会社に、セカンドオピニオンとして別途相談する選択肢があります。
顧問税理士との関係を保ったまま、事業承継に関する部分だけ専門家の意見を聞く、という進め方も実務上は珍しくありません。
【まとめ】事業承継の相談は、税理士から始めて次の一歩を考える
事業承継を税理士に相談することは、自社株評価や相続税・贈与税対策、事業承継税制の活用可否を検討するうえで、有効な入り口です。
一方で、買い手探しや承継後の経営統合、手法そのものの中立的な選定までは、税理士だけでは対応しきれない領域が残ります。
相談する際は、対応してもらえる範囲を直接確認したうえで、実績・税務と経営の一貫性・料金体系・秘密保持・他の専門家との連携という5つの軸で相談先を見極めることをおすすめします。
顧問税理士に相談しづらいと感じる場合も、セカンドオピニオンという選択肢を持っておけば、無理に一人で抱え込む必要はありません。事業承継全体の進め方については、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継とは|方法・進め方・税金までの流れをまとめて理解できるガイド』。
相談先の全体像を比較したい方は、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継は誰に相談すべき?相談先の種類と選び方をわかりやすく解説』
船井総研あがたFASでは、承継手法を1つに絞らず、税務会計と経営コンサルティングを一気通貫で見る立場から、状況に応じた選択肢を整理し実行まで伴走する相談を受け付けています。
事業承継の進め方に迷う場合は、事業承継の無料相談も活用できます。
あわせて、事業承継の資料ダウンロードから状況の整理に役立てることもできます。
経営の正解は、一つではありません。 まずは出口戦略の『選択肢』を可視化する診断ツールを手に取り、 次なるステージへの展望を具体化する準備を始めてください。 プロの目利きで自社の『真価』を知ること。それが、後悔のない決断への第一歩です。
【業界専門コンサルタントが担当】「出口戦略」診断で自社の価値を正しく守る。ベストな承継を実現するための第一歩。


よくある質問
Q. 事業承継を税理士に相談すると、何を頼めますか?
自社株・株価の評価、相続税・贈与税対策、事業承継税制の活用可否の検討、資金調達の相談などが中心です。税務・会計の専門知識が必要な場面で力を発揮し、自社の株価が今どの水準にあるかを確認するところから相談が始まることも少なくありません。一方で、買い手探しや承継後の経営統合、承継手法そのものの中立的な選定は対応範囲外となることが多く、必要に応じて他の専門家と役割を分けて進めることになります。
Q. 事業承継に強い税理士と、そうでない税理士の違いは何ですか?
事業承継の相談実績があるかどうかが、大きな分かれ目です。通常の税務顧問業務と、自社株評価や税制適用の判断が必要になる事業承継の実務では、求められる経験が異なります。加えて、税務だけでなく承継後の経営や他の専門家との連携まで見据えて助言できるか、料金体系が事前に明確に説明されるかも、判断材料になります。
Q. 事業承継の相談を税理士にすると、費用はいくらかかりますか?
実務上の目安として、自社株の評価だけでも20万円から30万円程度、会社の規模や財産の内容によっては100万円程度までかかることがあります。スポット相談か顧問契約かによっても費用の発生の仕方は変わります。実行段階の対策まで含めると、数年間の累計で数百万円規模になることもありますが、事業承継が成功すれば長期的に回収できる投資として捉える考え方もできます。
Q. 事業承継は税理士に相談すれば十分ですか?
税理士だけでは十分とはいえません。自社株評価や税制活用など税務面は税理士の専門領域ですが、買い手探しや承継後の経営統合、承継手法そのものの中立的な選定は対応範囲外となることが多く、事業承継コンサルティング会社やM&Aの専門家との役割分担が必要になります。人手不足を理由に事業承継の対応自体を引き受けない税理士もいるため、対応してもらえる範囲を直接確認しておくことも欠かせません。
Q. 顧問税理士に事業承継の相談をしづらいときは、どうすればよいですか?
現経営者を含めた形で、事業承継の相談をしてみたいという意向をまず伝えることをおすすめします。対応が難しいと言われた場合や、話が進みにくい場合は、顧問契約を続けたまま、事業承継に詳しい税理士や税理士法人、コンサルティング会社にセカンドオピニオンとして別途相談する方法もあります。顧問関係を壊す心配をする必要はありません。