事業承継の株価対策とは、相続税・贈与税や後継者の株式取得コストの計算基礎になる自社株式の評価額を、法令の範囲内で適切な方法によって引き下げる取り組みを指します。
「こちらから切り出すのも何か違うような気がします」。将来の承継を意識し始めた後継者の中には、株価や税金の話を自分から言い出しにくいと感じる方も少なくありません。
本記事では、自社株の評価方法の基本から、株価対策として使われる代表的な方法、メリットとデメリット・注意点、対策をどこまで進めるべきかを見極める判断軸までを整理します。
持株会社化や金庫株といった個別スキームの詳しい税務・手続きにはあえて深入りせず、税務会計を専門とする立場から、事業承継全体の中で株価対策をどう位置づけるかという視点に絞って解説します。
経営の正解は、一つではありません。 まずは出口戦略の『選択肢』を可視化する診断ツールを手に取り、 次なるステージへの展望を具体化する準備を始めてください。 プロの目利きで自社の『真価』を知ること。それが、後悔のない決断への第一歩です。


事業承継の株価対策とは|自社株の評価額を下げる目的から理解する
事業承継の株価対策を検討するにはまず、株価評価の考え方を理解しておく必要があります。
なぜ事業承継で自社株の評価額を下げる必要があるのか
非上場会社の株式には市場価格がないため、相続や贈与のたびに財産評価基本通達に基づいて評価額を算定します。
この評価額は相続税・贈与税の課税価格の基礎になるだけでなく、後継者が株式を買い取る形で承継する場合には取得資金の負担にも直結します。
実務上は、業歴が長く利益を積み上げてきた会社ほど評価額が高くなりやすく、後継者の税負担や資金負担が想定より大きいことに気づいてから、株価対策の必要性を意識する経営者も少なくありません。
評価額を適切に引き下げておくことは、税負担そのものを軽くするだけでなく、後継者が無理なく株式を引き継げる状態を整える準備でもあります。
事業承継そのものの流れ・方法・税金までの全体像を確認したい方は、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継とは|方法・進め方・税金までの流れをまとめて理解できるガイド』
株価対策と事業承継税制はどう関係するか
株価対策と事業承継税制は、どちらも自社株式の承継に伴う税負担を軽くするための手段ですが、役割は異なります。株価対策が評価額そのものを引き下げる取り組みであるのに対し、事業承継税制は一定の要件を満たした株式について贈与税・相続税の納税を猶予・免除する制度です。
実務では、株価対策で評価額をある程度抑えたうえで、残る税負担に事業承継税制を組み合わせて検討するケースが一般的です。評価額が高い会社ほど事業承継税制の使い勝手も上がるため、両者は競合するものではなく補完し合う関係にあると捉えておくとよいでしょう。
事業承継税制の仕組みや要件の全体像については、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継税制とは?納税猶予の仕組みと特例措置をわかりやすく解説』

事業承継における自社株の評価方法|株価評価・株価計算の基本
株価対策の効果を理解するには、まず株価評価・株価計算の基本を押さえておく必要があります。非上場株式の株価計算は、株主の立場によって使う方式が変わります。
類似業種比準方式とは
類似業種比準方式は、事業内容が類似する上場会社の株価をもとに、評価する会社の一株当たりの配当金額・利益金額・純資産価額(簿価)という3要素を比較して株価を算定する方法です(国税庁の財産評価基本通達に基づく)。
上場会社の株価水準を土台にするため、業績や配当の状況によって評価額が変動しやすいという特徴があります。
実務上、利益額が大きく配当を抑えている会社ほど、純資産価額方式よりもこの方式のほうが評価額を抑えやすい傾向にあります。
純資産価額方式とは
純資産価額方式は、会社の総資産・負債を相続税評価の考え方で洗い替え、そこから法人税額等相当額を差し引いた残りの金額をもとに株価を算定する方法です(国税庁の財産評価基本通達に基づく)。
含み益のある土地や有価証券を保有している会社ほど、この方式では評価額が高く出やすくなります。
業歴の長い会社や資産を多く保有する会社では、類似業種比準方式よりも純資産価額方式のほうが評価額を押し上げる要因になりやすいというのが実務上の実感です。
会社の規模や株主の立場によって評価方式が変わる
どちらの方式を使うか、あるいは両方式を組み合わせるかは、従業員数・総資産価額・取引金額(売上高)をもとに区分される会社の規模によって変わります。
大会社に近いほど類似業種比準方式の比重が高まり、小会社に近いほど純資産価額方式の比重が高まる仕組みです(要出典確認・具体的な区分の数値基準は国税庁の最新の通達で確認する必要があります)。加えて、経営に関与する同族株主とそれ以外の少数株主とでは評価方式そのものが異なり、少数株主には配当金額をもとに評価する配当還元方式が使われます。
実務では、あえて「大会社」に該当するよう企業規模そのものを引き上げていく提案をすることもあります。
企業規模が上がるということは、それだけ収益力や体制が整った会社になっていくことも意味するため、評価方式が変わるだけでなく、後継者にとって承継しやすい会社になるという副次的な効果も期待できます。株価対策を検討する際は、自社がどの区分に当たるかを最初に把握しておくことが欠かせません。

事業承継の株価対策で株価を下げる主な方法
ここでは、事業承継の株価対策として株価を下げるために使われる代表的な方法を紹介します。いずれも単独で使うこともあれば、複数を組み合わせて使うこともあります。
役員報酬・役員退職金を活用する方法
最も基本的な株価対策は、社長交代のタイミングで先代経営者に役員退職金を支給する方法です。
「事業承継のタイミングで経営者・社長を退任される際に、退職金を受け取っていただく形」は、株価対策の入り口としてよく使われる基本形です。
役員退職金の支給は、その事業年度の利益と純資産をともに圧縮する効果があるため、類似業種比準方式・純資産価額方式のいずれでも評価額を引き下げる方向に働きます。
ただし退職金の金額が功績倍率などから見て過大と判断されると、超過分が損金として認められない可能性があるため、金額の設計自体を事前に専門家と詰めておく必要があります。
生命保険を活用する方法
生命保険は、納税資金や自社株買いの資金を準備する手段として広く使われています。
銀行預金で同じ金額を積み立てるよりも、解約返戻金という形で早く資金化できる点が実務上のメリットです。
かつては保険料の損金算入を通じた評価額の引き下げ効果も期待できましたが、全額損金型のような保険の税務上の取り扱いが見直された結果、現在は積立金型が主流になり、株価評価上の節税メリットはほとんどなくなったといえます。
「節税に保険を使うという発想は、今はほとんどゼロに近い」というのが実務上の実感です。
むしろ解約返戻金が積立金を上回る局面では、その差額が含み益として評価額に反映されてしまう可能性がある点には注意が必要です。
資金繰り面のメリットは今も有効なため、株価対策そのものというより、納税資金・買取資金の準備手段として位置づけるほうが実態に近いといえます。
資産管理会社・持株会社を活用する方法
資産管理会社や持株会社を設立し、株式や事業を移転することで評価額の圧縮を狙う方法もあります。
ただし規模の大きい対策になるため、単純な評価額の引き下げ効果だけでなく、経営者が複数の会社を管理する実務負担を理解し、納得したうえで進められるかどうかが判断の分かれ目になります。
資金を伴う株式買取り型のほか、株式交換・株式移転という会社法上の組織再編を使い、資金をかけずに持株会社化する選択肢もあり、どちらが自社に合うかは比較検討が必要です。
持株会社を活用した事業承継の仕組みやメリット・デメリットについては、こちらのコラムもおすすめです。
『持株会社化による事業承継のメリット・デメリットと向き不向きが分かる』
金庫株(自社株買い)を活用する方法
会社自身が株主から株式を買い取る自社株買い(金庫株)も、株価対策の選択肢の一つです。
分散した少数株主から株式を買い取る場合は、買取り代金の一部が配当とみなされて課税される「みなし配当課税」の論点が関わってくるため、実行前に必ず確認しておく必要があります。
一方、相続税の納税資金を確保するために相続人が保有する株式を会社が買い取る場合には、通常より使い勝手のよい特例が用意されています。
自社株買いの実務や、みなし配当課税を含めた注意点については、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継の金庫株(自社株買い)で分散株式を集約する方法とみなし配当の注意点』
高収益部門を分社化する方法
複数の事業を営む会社では、利益率の高い部門を会社分割や事業譲渡で切り離し、残る会社の評価額を抑える方法も選択肢になります。
ただし組織再編を使った株価対策には、税務上のリスクが伴う点を理解しておく必要があります。
この点は次の章で扱います。

事業承継の株価対策のメリット
相続税・贈与税の負担を抑えられる可能性がある
自社株の評価額、つまり株価を下げられれば、その分だけ贈与や相続の際にかかる税金の計算基礎が小さくなり、結果として相続税・贈与税の負担を抑えられる可能性があります。
評価額が高い会社ほど、対策による軽減効果も大きくなる傾向があります。
後継者が株式を取得しやすくなる
評価額が下がれば、暦年贈与の非課税枠(110万円)や相続時精算課税の特別控除枠(2,500万円)を使って移転できる株式数も相対的に増えます。
実務上は、評価額が高いままだと非課税の範囲で渡せる株数がごくわずかになり、移転に十年、二十年という長い期間がかかってしまうケースも珍しくありません。
株価対策によって評価額を抑えておくことは、後継者が無理のない形で株式を取得できる状態をつくることにもつながります。

事業承継の株価対策で注意したいデメリット・リスク
行き過ぎた株価対策には、見過ごせないデメリットやリスクもあります。
行き過ぎた対策は税務上のリスクにつながる可能性がある(要出典確認)
株価対策のための組織再編が、税負担を減らす目的だけで行われたと判断されると、税務上のリスクにつながる可能性があります。
「株価対策のためだけにやった、という見え方をされると、株式の評価そのものを別の方法でやり直されることになりかねません」。
このリスクを避けるためには、株価対策のためだけに組織再編をするのではなく、事業運営上の合理的な理由と税負担の軽減効果をあわせて実行することが重要です。
実務では、地域別に会社を分割する、非効率な重複事業を統合するといった、事業運営そのものに理由のある再編として設計するケースが目立ちます。
税務調査で問題視されるかどうかの具体的な判断は個別の事情によって変わるため、実行前に必ず税理士など専門家に相談し、最新の取り扱いを確認することが欠かせません(要出典確認)。
会社の資金繰り・経営の安定性に影響する場合がある
役員退職金の支給や資産管理会社の設立、株式の買取りにはまとまった資金が必要になる場合があり、本業の資金繰りや投資判断に影響を与える可能性があります。
特に持株会社化を融資でまかなう場合、返済原資は事業会社側のキャッシュフローに依存するため、金融機関もそのキャッシュフローを見て融資の可否を判断します。
評価額を下げる効果だけに目を向けず、実行後の資金繰りまで含めて検討する必要があります。
後継者以外の家族との公平感に配慮が必要な場合がある
生前贈与によって株価対策と株式移転を同時に進める場合、後継者以外の子どもなど、他の家族との間で財産の公平感が損なわれる場合があります。
株式の評価額が下がったタイミングで後継者にだけ多くの株式を渡すと、他の相続人が受け取る財産とのバランスが崩れやすくなるためです。
株価対策の実行そのものだけでなく、家族全体でどう納得感をつくるかという視点も欠かせません。

事業承継の株価対策を進めるかどうかを見極める判断軸
株価対策には複数の方法があり、どれをどこまで実行するかは会社ごとに異なります。行き過ぎた対策を避けるためにも、次の軸で自社の状況を整理しておくことをおすすめします。
軽減される税負担の規模と会社の状況
まず確認したいのは、現在の評価額に対して対策によってどの程度の税負担軽減が見込めるか、そして自社が資産超過か債務超過かという基本的な状況です。実務上は、評価額がそれほど高くない会社や資産よりも負債が多い会社では、無理に対策を実行する必要性は高くありません。
対策が経営の実態・資金繰りに与える影響
生命保険の加入や資産管理会社の設立が、会社の資金繰りや本業の経営判断にどう影響するかも確認しておく必要があります。評価額を下げる効果だけを見て実行を決めると、後になって資金繰りの負担に気づくことになりかねません。
税務上の妥当性
対策が事業運営上の目的や実態を伴ったものかどうかも重要な軸です。形式だけを整えた対策は、税務上のリスクにつながる可能性がある点は前章で触れたとおりです。
後継者・家族間の公平性
後継者以外の家族がいる場合は、株式の承継や評価額の変動について、どのように配慮し納得を得るかも欠かせない軸になります。
事業承継の方向性との整合性
将来的に親族内承継・従業員承継・第三者承継(M&A)のいずれを選ぶ可能性があるかによっても、株価対策の内容は変わってきます。
極端に評価額を下げる対策を実行した後にM&Aへ方針転換すると、譲渡価格の算定や譲受先への説明で想定外の対応が必要になる場合もあります。
自社株・株式の承継全体をどう進めるかについては、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継の株式・自社株の承継|贈与・相続・譲渡の選び方と株式集約』

事業承継の株価対策は誰に相談すればいいか
株価対策の具体的な設計や税務上の妥当性の判断は、税理士に相談するのが基本です。
税理士に相談するメリットと注意点
「義父という間柄で、専門家に相談するのも気が引けてしまう」と感じる後継者も少なくありませんが、株価対策には専門的な判断が伴うため、実務上は早い段階で相談したほうが選択肢を広く保てます。
税理士に相談する際のメリットや費用の目安については、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継を税理士に相談するメリットと費用|できること・できないこと』
承継の方向性から中立的に相談できる窓口
株価対策は、事業承継の方向性が固まった後に検討する各論の一つです。
親族内承継・従業員承継・第三者承継のどれを選ぶかがまだ定まっていない場合は、株価対策から入るよりも、承継の方向性そのものを中立的に整理できる窓口に相談したほうが、遠回りにならずに済みます。
自社に合った相談先の選び方については、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継は誰に相談すべき?相談先の種類と選び方をわかりやすく解説』

【まとめ】事業承継の株価対策は方法と注意点を理解したうえで進める
事業承継の株価対策は、類似業種比準方式・純資産価額方式という評価の仕組みを理解したうえで、役員退職金や生命保険、資産管理会社化、自社株買いといった方法の中から、自社の状況に合ったものを選んで実行するものです。
評価額を下げる効果だけに注目するのではなく、税務上の妥当性や資金繰りへの影響、後継者以外の家族との公平感まで含めて判断することが、後悔のない対策につながります。
経験上、まずは自社株の評価額がどの水準にあるかを確認し、そのうえで税理士など専門家に相談しながら、実行するかどうか、実行するとしてどの方法をどこまで使うかを決めていくことをおすすめします。
税務会計と経営コンサルティングを一気通貫で担う船井総研あがたFASでは、株価対策そのものの要否だけでなく、事業承継の方向性や税制の活用可否まで含めて、中立的な立場で一緒に整理し、実行まで伴走しています。
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【業界専門コンサルタントが担当】「出口戦略」診断で自社の価値を正しく守る。ベストな承継を実現するための第一歩。


よくある質問
Q. 事業承継における株価対策とは何ですか?
事業承継における株価対策とは、相続税・贈与税や後継者の取得コストの計算基礎になる自社株式の評価額を、法令の範囲内で適切に引き下げるための取り組みです。役員退職金の支給や生命保険の活用、資産管理会社化など複数の方法があり、会社の状況に応じて組み合わせて検討します。節税だけを目的にした形式的な対策は税務上のリスクにつながる場合があるため、事業運営上の合理的な理由とあわせて実行することが重要です。
Q. 事業承継で自社株の株価を下げるにはどうすればよいですか?
代表的な方法として、社長交代のタイミングで役員退職金を支給する方法、生命保険の解約返戻金を資金準備に活用する方法、資産管理会社や持株会社を設立する方法、自社株買い(金庫株)を行う方法、高収益部門を切り離す方法などがあります。会社の規模や利益の状況によって効果的な方法は異なるため、複数の方法を組み合わせて検討するのが実務上一般的です。
Q. 類似業種比準方式と純資産価額方式の違いは何ですか?
類似業種比準方式は、類似する業種の上場会社の株価をもとに、評価する会社の一株当たりの配当金額・利益金額・純資産価額の3要素で比準して算定する方法です。純資産価額方式は、会社の総資産・負債を相続税評価の考え方で洗い替えて算出した価額をもとに評価する方法です。国税庁の基準では、会社規模が大会社に近いほど類似業種比準方式の比重が高まり、小会社に近いほど純資産価額方式の比重が高まります(要出典確認)。
Q. 事業承継の株価対策はすべての会社が行うべきですか?
事業承継の株価対策は、すべての会社に一律で必要というわけではありません。自社株の評価額が高く、後継者の納税資金や取得コストの負担が大きいと見込まれる会社ほど、検討する必要性が高まります。反対に評価額がそれほど高くない会社や、資産より負債が多い会社では、無理に対策を実行する必要性は高くありません。
Q. 事業承継の株価対策にはどのくらいの費用がかかりますか?
対策の実行費用は方法によって幅があり、一律の金額を示すことは難しいのが実情です。前提として必要になる自社株式の評価だけでも数十万円程度が目安とされ、規模の大きな会社でも100万円に達することはあまり多くありません。役員退職金の原資や資産管理会社の設立費用など、対策そのものにかかる費用は個社ごとに専門家へ確認する必要があります。