事業承継税制の要件は、大きく「会社の要件」「先代経営者の要件」「後継者の要件」の3つに分けて整理できます。
さらに、特例措置と一般措置のどちらを選ぶかによって、対象になる株式の範囲や納税が猶予される割合、満たすべき条件の厳しさも変わってきます。
顧問税理士から事業承継税制を勧められたものの、自社が資産管理会社に該当しないか、後継者が要件を満たせるかどうかが気になっている経営者や後継者の方は少なくありません。
本記事では、制度の仕組みそのものの説明には深入りせず、会社・先代経営者・後継者という3つの立場ごとに要件を整理し、特例措置と一般措置の違い、要件を満たせなくなった場合のリスクまでを解説します。
税務会計を専門とする立場から、相談の現場でよく確認が必要になるポイントに絞って取り上げます。
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事業承継税制とは|要件を確認する前の基本
事業承継税制の要件を理解するには、まず制度の全体像を押さえておく必要があります。
事業承継全体の方法や進め方の流れについては、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継とは|方法・進め方・税金までの流れをまとめて理解できるガイド』
特例措置と一般措置という2つの制度がある
事業承継税制は、非上場会社の株式などを後継者が贈与や相続で引き継ぐ際の贈与税・相続税の納税を猶予し、一定の要件を満たし続けることで最終的に免除する制度です。
対象株式に上限がなく猶予割合も高い「特例措置」と、要件がやや緩やかな分だけ猶予割合が抑えられている「一般措置」の2種類があり、どちらを選ぶかによって満たすべき要件の中身も変わります。
実務上は、要件を一つずつ確認する前に、まず特例措置と一般措置のどちらを軸に検討するかを整理しておくと、その後の確認作業が進めやすくなります。
制度の仕組みやメリット・デメリットの全体像については、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継税制とは?納税猶予の仕組みと特例措置をわかりやすく解説』
事業承継税制の要件|会社・先代経営者・後継者の3つに分けて整理
事業承継税制の要件は、対象会社そのものに関する要件、株式を渡す側の先代経営者に関する要件、株式を受け取る後継者に関する要件という3つの層に分かれています。
どれか一つでも
満たせなければ適用は受けられないため、順番に確認していきます。 
会社の要件
対象となる会社には、非上場の中小企業であること、上場会社等や風俗営業会社に該当しないこと、資産管理会社に該当しないことといった条件が定められています。
資産管理会社とは、株式や不動産、現金といった特定の資産の保有割合が一定以上を占める会社や、その運用による収入が大部分を占める会社を指すとされています。
実務では次のように説明されることがあります。
「持株会社という形だけで判定されるわけではなく、子会社がきちんと事業を運営していて、そこに親族以外の従業員もいるかどうかが判断のポイントになります」。
不動産賃貸業や金融資産の運用が中心の会社は該当しやすいとされる一方、判定は基本的に決算書をもとに行われるため、売上を種類別にきちんと区分して管理できているかどうかが確認の出発点になります。
先代経営者の要件
先代経営者にも、会社の代表者を務めていたこと、後継者を除いた一族の中で筆頭株主であり議決権の過半数を保有していたことという要件があります。
贈与によって事業承継税制を利用する場合は、贈与の時点で代表者を退任していることもあわせて求められます。
相続の場合は、この代表者退任という条件そのものは問題になりません。
先代経営者の要件は後継者の要件と表裏一体になっている部分が多く、株式の保有割合を確認する際は両者をセットで見ていく必要があります。
後継者の要件
後継者の要件は、相続の場合と贈与の場合とで細部が異なるため、家族の中で「相続のつもりでいたら実は贈与の話だった」というようにすれ違いが生じやすい部分です。
共通する要件としては、相続または贈与によって会社の筆頭株主となり、議決権の過半数を保有することが挙げられます。
贈与の場合は、贈与の時点で18歳以上であること、代表者に就任していることが必要です。
年齢要件は2022年の民法改正で成人年齢が18歳に引き下げられたことに伴い、従来の20歳以上から変更されています。
相続の場合は、相続開始の直前に役員であったことが基本の要件とされていますが、先代経営者が60歳未満で死亡した場合はこの限りではないとされています。
役員としての就任期間についても見直しが進んでいます。
従来は贈与の直前まで3年以上継続して役員であることが必要でしたが、令和7年度の税制改正により、特例措置では贈与の直前に役員へ就任していれば足りる形へ緩和されています。
実務上は次のような声も聞かれます。
「役員就任が3年以上必要という要件はなくなってきていますが、一方で一人の株主からの贈与でなければならないという要件は残っています」。
株式がすでに複数の株主に分散している場合は、事前に他の株主から買い戻すなどの調整が必要になるケースもあるため、この点は税制改正の動向とあわせて税理士等の専門家に確認することをおすすめします。 
事業承継税制の特例措置と一般措置の違い
特例措置と一般措置は、対象株式の範囲や納税猶予の割合だけでなく、雇用維持の要件や手続きの負担にも違いがあります。
対象となる株式の範囲
特例措置では、後継者が取得する株式のすべてが対象になります。一方の一般措置は、発行済議決権株式総数の3分の2が上限とされています。
すでに保有している株式を含めて計算されるため、後継者の現在の持株比率によって、一般措置で対象にできる株数は変わってきます。
納税が猶予される割合
猶予される割合は、特例措置が相続税・贈与税ともに100%とされているのに対し、一般措置は相続税が80%、贈与税が100%とされています。
対象株式の範囲が狭いことに加えて猶予割合も限定的になるため、一般措置は特例措置に比べて猶予される税額の総額が小さくなりやすい点に注意が必要です。
対象となる後継者の人数
特例措置では、総議決権数の10%以上を保有する後継者であれば最大3人まで対象にできます。
一般措置は後継者1人が対象です。複数の子どもや親族に経営を分担させたい場合は、この人数の違いが選択の分かれ目になることがあります。
雇用を維持する要件
一般措置では、承継後5年間の平均で雇用の8割を維持することが求められます。
特例措置では、雇用を維持できなかった理由を都道府県へ提出すれば納税猶予が継続できるとされており、実質的に緩和された運用になっています。
人手不足が続く業種では、この雇用要件の違いが特例措置を選ぶ決め手になることもあります。
特例承継計画の提出という追加の要件
特例措置を利用するには、あらかじめ「特例承継計画」を都道府県へ提出しておく必要があります。
一般措置にはこの提出義務がありません。
提出期限はこれまでにも見直しが重ねられており、直近の期限や提出までに必要な準備期間については、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継税制の期限と特例承継計画の提出期限|いつまでに何をすべきか』
事業承継税制の要件を満たせなくなるとどうなるか
事業承継税制は、適用を受けた後も要件を満たし続けなければ猶予が維持できない制度です。
会社や後継者を取り巻く状況が変わったときにどうなるかを、あらかじめ理解しておく必要があります。 
納税の猶予が「免除」になるケース
猶予されていた税額は、先代経営者の死亡や、後継者がさらに次の後継者へ株式を引き継いだ場合など、一定の事由に該当すると最終的に免除されます。
猶予はあくまで「先送り」であり、免除される事由に該当しない限り、納税義務そのものがなくなるわけではありません。
要件を満たせなくなった場合のリスク
会社が資産管理会社に該当してしまった場合や、後継者が代表者を退任した場合など、要件を満たせなくなる事由に該当すると、猶予は打ち切られ、猶予されていた税額に利子税を加えて納付することになります。
資産管理会社の要件については、一時的に該当してしまうリスクもあるため、継続的なモニタリングが欠かせません。
認定後5年間の年次報告書や、その後も続く継続届出書といった手続き面の詳細については、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継税制の5年経過後にすべきこと|年次報告書・継続届出書』
事業承継税制の要件を確認するときの視点
会社が形式的な要件を満たせるかどうかだけでなく、どちらの措置を選ぶべきかという視点も含めて確認しておくと、後々の判断がしやすくなります。
特例措置と一般措置のどちらが自社に合うかを見極める視点
税制の効果という点では、対象株式の範囲や猶予割合が大きい特例措置に優位性があるとされています。
実務上は、後継者が事業を継続する決意を固められているか、制度への納得感を持てているかどうかが、特例措置を選ぶかどうかの判断材料になります。
何も提案を受けないまま検討の機会を逃すよりは、一般措置も含めて選択肢として比較したうえで判断した方がよい、という考え方もあります。
将来の事業計画(M&Aや組織再編の可能性)を踏まえた視点
将来的にM&Aや大規模な組織再編を検討する可能性があるかどうかも、要件を確認する段階であわせて整理しておきたい視点です。
事業承継税制は後継者が株式を持ち続けて事業を続けることを前提にした制度であるため、将来の選択肢をどこまで残しておきたいかによって、要件を満たす意味合いも変わってきます。
事業承継税制の要件で迷ったときの相談先
自社が要件を満たせるかどうかの判断は、経営者自身だけで完結させるのは難しく、早い段階で専門家に確認しておくことが遠回りに見えて近道です。 
税理士に相談するメリットと費用
会社・先代経営者・後継者それぞれの要件を満たせているかどうかの確認や、特例措置と一般措置のどちらが有利かのシミュレーションは、税理士に相談するのが基本です。
事業承継案件の実績がある税理士であれば、要件を満たすための株式集約や役員就任時期の調整まで見据えた提案を受けられます。
事業承継を税理士に相談する際のメリットや費用の目安については、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継を税理士に相談するメリットと費用|できること・できないこと』
承継の方向性から中立的に相談できる窓口
事業承継税制は、あくまで承継を進めるための手段の一つです。
親族内承継・従業員承継・第三者承継のどれを選ぶかという、より大きな方向性が固まってから税制の要件を確認する順序の方が、結果的に無駄な調整を減らせます。
特定の承継方法や税制の活用に偏らず、自社の状況を中立的な立場で整理したい場合は、複数の選択肢を横断して相談できる窓口を頼るのも一つの方法です。
自社に合った相談先の選び方については、こちらのコラムもおすすめです。
『事業承継は誰に相談すべき?相談先の種類と選び方をわかりやすく解説』
【まとめ】事業承継税制の要件を理解して次の一歩を判断する
事業承継税制の要件は、会社・先代経営者・後継者という3つの立場それぞれに定められており、特例措置と一般措置のどちらを選ぶかによって満たすべき中身も変わります。
後継者要件のうち役員就任期間のように税制改正で見直される部分もあるため、要件を自己判断だけで確定させず、決算書や株主名簿をもとに一つずつ確認していく姿勢が欠かせません。
税務会計と経営コンサルティングを一気通貫で担う船井総研あがたFASでは、事業承継税制の要件確認だけでなく、親族内承継・従業員承継・第三者承継を含めた承継の方向性そのものを、中立的な立場で一緒に整理し、実行まで伴走しています。
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事業承継税制についてよくあるご質問
Q.事業承継税制の後継者の要件は何ですか?
A.後継者の要件は、相続または贈与によって会社の筆頭株主となり、議決権の過半数を保有することが基本です。
贈与の場合は贈与時点で18歳以上かつ代表者に就任している必要があり、相続の場合は相続開始の直前に役員であったことが求められます。
役員就任期間などの細部は税制改正で見直されることがあるため、最新の要件は税理士等の専門家に確認することをおすすめします。
Q.事業承継税制に年齢要件はありますか?
A.贈与によって事業承継税制を利用する場合、後継者は贈与の時点で18歳以上である必要があります。
2022年の民法改正で成人年齢が18歳に引き下げられたことに伴い、従来の20歳以上から要件が変更されました。
一方、相続の場合は年齢要件そのものは設けられていません。
年齢以外にも役員就任の時期や議決権の保有割合といった要件があるため、あわせて確認することが重要です。
Q.事業承継税制の特例措置と一般措置で要件はどう違いますか?
A.特例措置は取得する株式のすべてが対象となり納税猶予割合も高い一方、一般措置は対象株式に上限があり猶予割合もやや抑えられています。
雇用を維持する要件も、一般措置は5年間平均8割の維持が必要とされるのに対し、特例措置は理由書の提出により納税猶予を継続できるとされています。
特例措置を利用するには、あらかじめ特例承継計画を提出しておく必要があります。
Q.事業承継税制の資産管理会社の要件とは何ですか?
A.資産管理会社に該当する会社は、事業承継税制の対象から原則として除外されます。
株式や不動産といった特定の資産の保有割合が一定以上を占める会社や、それらの運用による収入が大部分を占める会社が該当するとされています。
持株会社という形態自体が問題になるわけではなく、子会社が実態のある事業を運営しているかどうかが判定のポイントになります。
Q.事業承継税制の要件を満たしているかはどのように確認すればよいですか?
A.自社の要件確認は、決算書や株主名簿をもとに、資産管理会社に該当しないか、議決権の保有割合が基準を満たしているかを一つずつ照らし合わせることから始まります。
後継者の年齢や役員就任の時期など、タイミングに関わる要件は見落としやすいため、早めに税理士等の専門家へ相談し、確認しておくことをおすすめします。