この記事では、整骨・接骨・鍼灸院などのいわゆる「治療院」業界のM&Aについて、相場や手続きの流れといった基礎知識から、回数券の会計処理やスタッフ離職防止といった現場のリアルな成功・失敗の分岐点まで、専門家が徹底解説します。読了後には、あなたの院を適正価格以上で譲渡し、次世代へバトンをつなぐための具体的な準備が理解できるようになります。
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治療院M&Aとは? 業界で急増する事業承継のリアル
競争激化と後継者不足:治療院が「譲渡」を選ぶ3つの背景
近年、治療院業界ではM&Aが急速に身近なものとなっています。その背景には大きく3つの要因があります。
第一に、経営者の高齢化と後継者不足です。長年地域医療を支えてきた院長が高齢となり、親族に資格を持つ承継者がいない場合、廃業か第三者承継(M&A)かの選択を迫られています。
第二に、業界の競争激化です。治療院の数は増加の一途をたどり、単独での集客や経営が難しくなっています。大手グループ傘下に入ることで、集客ノウハウや最新機器の導入、採用力の強化を図るケースが増えています。
第三に、「時間を買う」多店舗展開ニーズです。新規出店には物件取得や内装工事、ゼロからの採用と集客が必要ですが、M&Aなら既に稼働している院とスタッフ、患者基盤を一括で引き継ぐことができます。このスピード感を求める買い手企業が増加しているのです。
治療院業界の特徴についてより詳しく知りたい方はこちらをご覧ください
「廃業」と「M&A」の決定的な違い:手元に残る資産と責任
後継者がいない場合、「廃業」を選ぶ院長も少なくありません。しかし、廃業には原状回復工事費やスタッフへの退職金など多額のコストがかかり、最悪の場合、手元に借金しか残らないこともあります。
一方、M&Aで譲渡できれば、「創業者利益」としてまとまった現金を手元に残せるだけでなく、長年苦楽を共にしたスタッフの雇用を守り、患者様にも継続して通院してもらうことができます。M&Aは単なる「身売り」ではなく、院の歴史を未来へつなぐ前向きな選択肢なのです。
整骨院/治療院のM&Aのメリット・デメリットについてはこちらをご覧ください
買い手が「喉から手が出るほど欲しい」治療院の条件

買い手が最も重視するのは、実は「現在の売上」だけではありません。「現場に社長(院長)がいなくても回っているか」という点です。
院長自身のカリスマ性やゴッドハンドで売上を作っている院は、院長が引退した瞬間に売上が激減するリスクがあります。逆に、マニュアルが整備され、幹部スタッフが育ち、院長不在でも運営が回っている組織化された院は、非常に高く評価されます。
採用人数こそが未来の収益指標
さらに、プロの買い手が見ている隠れた重要指標があります。それは「毎年の採用人数」です。
治療家業界において、柔道整復師などの有資格者の採用は年々難易度が増しています。パイが縮小する中で、毎年コンスタントに新卒や中途を採用できている院は、それだけで「魅力的な職場環境」と「教育体制」があることの証明になります。
「人が取れている=将来伸びる可能性がある」。逆に、人が取れていない院は、いくら今の売上が良くても先細りが見えています。買い手は、決算書の数字以上に「人の流れ」を見ているのです。
治療院のM&A相場と譲渡価格の決まり方
一般的な相場算出法(年倍法)と業界特有の評価ポイント
治療院の譲渡価格は、一般的に以下の計算式で算出されます。
譲渡価格 = 時価純資産 + 営業権(のれん代)
営業権(のれん代)は、通常「修正営業利益の1年~3年分」程度です。
ここに、業界特有の補正が入ります。例えば、駅近の好立地、最新の医療機器、そして何より「患者のリピート率」や「スタッフの定着率」が高ければプラス査定となります。また、保険診療だけでなく自費メニューの比率が高い院は、収益性が高いとみなされ評価が上がります。
価格を大きく下げる「回数券・プリペイド」の罠

治療院M&Aにおいて、最もトラブルになりやすく、価格を大きく押し下げる要因となるのが「回数券(プリペイド)」の処理です。
多くの院では、回数券を販売した時点で全額を「売上」として計上し、使ってしまっているケースが散見されます。しかし、M&Aにおいて未消化の回数券は、将来サービスを提供しなければならない「負債(借金)」とみなされます。
未消化分は「売上」ではなく「負債」である
もしあなたの院に、有効期限のない回数券が大量に出回っていたらどうなるでしょうか。新しいオーナーは、一銭も入ってこないタダ働きを強いられることになります。
そのため、買い手はデューデリジェンス(買収監査)で未消化分を厳密に計算し、その分を譲渡価格から差し引くことを要求します。
対策としては、日頃から未消化分を「預かり金」として負債計上しておくこと、そして販売時に必ず「有効期限」を設定し、リスクをコントロールしておくことが必須です。これができていないと、いざ譲渡という段階で「価格がつかない」という事態になりかねません。
院長の「ゴッドハンド」はリスク? 属人性と企業価値の関係
「私の技術がないと、患者さんは来ない」。そう自負する院長も多いでしょう。しかし、M&Aにおいてその「属人性」はリスクとみなされます。
院長が抜けた後に売上が維持できるかが不透明だからです。高値での譲渡を目指すなら、独自の技術をマニュアル化し、スタッフ誰が施術しても一定の効果が出せる仕組みを作っておく必要があります。「院長がいなくても回る院」こそが、最も価値が高いのです。
M&Aを成功させるための具体的な手順と流れ
準備~マッチング~成約までのロードマップ
M&Aは以下の流れで進みます。
意思決定・準備: 自院の財務整理、磨き上げ。
アドバイザー選定: 業界に強い専門家への相談。
マッチング: ノンネームシート(匿名情報)での打診。
トップ面談: 経営者同士の相性確認。
基本合意: おおよその条件での合意。
デューデリジェンス: 買収監査。
最終契約・クロージング: 株式・事業の譲渡と対価の支払い。
PMI: 統合プロセス。
期間は早ければ3ヶ月、長ければ1年以上かかることもあります。特に「準備」の段階で、前述の回数券処理や労務管理を整えておくことが、スムーズな成約の鍵です。
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デューデリジェンス(買収監査)でチェックされる「レセプト」の実態
治療院特有の監査ポイントとして、「レセプト(保険請求)」の適正性があります。「V転がし(付け替え請求)」や「慢性を急性として請求」といった不正、あるいはグレーな請求を行っている場合、買い手はそれを最大のリスクと捉えます。M&A後に不正が発覚すれば、指定取り消しや返還請求を受けるのは買い手だからです。
「バレないだろう」は通用しません。買い手もプロですので、保険売上の比率や部位数を見れば不自然さはすぐに分かります。
業界常識を大きく逸脱していなければトラブルになるケースは非常に少ないですが、心当たりがある場合は、事前に専門家(コンサルタント・仲介会社)にご相談いただくことをお勧めします。
統合後の離職を防ぐPMIの鉄則
M&A成約後、最も恐れるべきは「スタッフの大量離職」です。これを防ぐための鉄則があります。
「1年は何も変えない」が成功への最短ルート
新しいオーナーは、良かれと思って「給与体系の変更」や「新システムの導入」を急ぎがちです。しかし、現場スタッフにとって変化はストレスでしかありません。「前の院長の方が良かった」となれば、雪崩を打って辞めていきます。
成功するPMIの秘訣は、「最初の1年は、現場のことは何も変えない」ことです。変えるのは、税理士や広告運用といった「間接コスト」の部分だけ。現場のオペレーションや待遇は維持し、1年かけて信頼関係を築いた上で、徐々に良い部分を取り入れていく。この「我慢」ができる買い手こそが、M&Aを成功させられます。
失敗事例に学ぶ!治療院M&Aの「落とし穴」と対策
「担当制」の治療院がM&A後に崩壊する理由
「指名料」や「担当制」を導入している院は要注意です。特定のスタッフに患者(ファン)がついている状態だと、そのスタッフが独立や退職をした際、患者を根こそぎ連れて行かれるリスクがあります。これを「のれんの持ち逃げ」と言います。
M&Aを目指すなら、属人性を排除し、「誰が施術しても満足できる」仕組みを作る必要があります。例えば、チーム制の導入や、カルテの共有徹底など、「院」自体にファンがつく体制への移行を、譲渡の1~2年前から進めておくべきです。
異業種(介護・医療)からの参入メリットと現場の摩擦
介護事業者が治療院を譲受する「水平統合」の事例も増えています。リハビリや機能訓練のノウハウを共有できるメリットがある一方、注意点もあります。
例えば、介護施設の利用者は高齢者ですが、治療院のターゲット層とは微妙に異なる場合があります。また、柔道整復師と理学療法士など、異なる資格者が混在することで、プライドのぶつかり合いや文化の摩擦が起きることもあります。互いの専門性をリスペクトし合える土壌作りが不可欠です。
譲渡後のトラブル回避:競業避止義務と引き継ぎ期間
売り手である院長が、譲渡した直後に近隣で新しい院を開業してしまうと、買い手にとってはたまったものではありません。これを防ぐため、契約書には「競業避止義務(一定期間、近隣での同業開業を禁止する)」を盛り込むのが一般的です。
また、院長の技術や患者との関係を引き継ぐため、譲渡後も半年~1年程度は「顧問」や「アドバイザー」として院に残り、徐々にフェードアウトする期間(ロックアップ)を設けることで、患者やスタッフの安心感を醸成できます。
整骨院/治療院のM&A成功事例についてはこちらもご覧ください
【まとめ】治療院M&Aは「準備」と「専門家選び」が9割
治療院のM&Aは、単なる店舗の売買ではありません。患者様という「人」、スタッフという「人」、そして院長が築き上げてきた「想い」をつなぐ、非常にデリケートなプロジェクトです。
成功の鍵は、「早期の準備」にあります。回数券の財務処理、担当制からの脱却、レセプトの適正化など、高く譲渡するための「磨き上げ」には時間がかかります。
そして、業界特有の事情に精通したパートナーを選ぶことも重要です。一般的なM&A仲介会社では、レセプトのリスクや現場の属人性を正しく評価できない可能性があります。
治療院のM&Aは、弁護士や税理士などの士業に加え、業界の商習慣を熟知した専門コンサルタントへの相談が近道です。まずは、あなたの院が客観的にどう評価されるのか、専門家に相談することから始めてみてはいかがでしょうか。
その分野については、M&A専門の弁護士や税理士、あるいは業界特化型のFAS(ファイナンシャル・アドバイザリー・サービス)に相談することをお勧めします。
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治療院のM&Aについてよくあるご質問
Q1. 赤字の治療院でも譲渡可能ですか?
A1. 可能です。立地やスタッフ(有資格者)の質が良ければ、再生案件として評価されます。
Q2. M&Aをスタッフに伝えるベストなタイミングは?
A2. 基本的に「最終契約の直前」です。早期に伝えると不安による離職を招くリスクがあります。
Q3. 院長個人に患者がついている場合、どうすれば高く売れますか?
A3. 譲渡後も一定期間(半年~1年)顧問として残り、引き継ぎを行う条件をつけることで評価を高められます。
Q4. 仲介手数料はどれくらいかかりますか?
A4. 一般的に成約価格の数%ですが、最低報酬額(200万円~など)が設定されているケースが多いので確認が必要です。
Q5. 準備から成約までどれくらいの期間が必要ですか?
A5. 平均して6ヶ月~1年です。財務の磨き上げを含めると、2~3年前から準備を始めるのが理想です。