学習塾の会社売却の税金・メリットと従業員(講師)の扱い|手取りと雇用を守る実務
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学習塾の会社売却の税金・メリットと従業員(講師)の扱い|手取りと雇用を守る実務

学習塾の売却で税金がいくら残るのか、講師はそのまま残ってくれるのか——この2つは、譲渡を考える塾オーナーが最初に直面する不安です。

株式譲渡なら個人株主の譲渡益に約20.315%の申告分離課税がかかり、事業譲渡なら法人税と消費税で実質負担が変わります。

講師の雇用は引き継ぎが原則で、条件を動かさなければ当面はほぼ全員が残ります。

この記事では、塾の現場と教育業界のM&Aの両方を踏まえて、手取り額の考え方と講師の扱いを実務に沿って掘り下げます。

学習塾は、人材こそが価値の源泉となるビジネスです。だからこそ、税金で手元に残る金額と、授業を支える講師がそのまま残るかどうかが、譲渡の成否を分けます。

親記事では全体像を広く扱いましたが、ここではこの2点だけに絞って深く立ち入ります。


経営の正解は、一つではありません。 

まずは出口戦略の『選択肢』を可視化する診断ツールを手に取り、 次なるステージへの展望を具体化する準備を始めてください。 

プロの目利きで自社の『真価』を知ること。それが、後悔のない決断への第一歩です。

学習塾の会社売却にかかる税金——手取りを左右する2つの課税

学習塾を会社売却するとき、税金の出方は手法で大きく変わります。

株式譲渡か事業譲渡かで、誰に・何に課税されるかが違うからです。手取り額を最初に左右するのが、この税金です。

株式譲渡益にかかる税金——個人株主は約20.315%の申告分離課税

法人化している塾を株式譲渡で引き継いでもらう場合、対価を受け取るのは株主個人です。

この譲渡益には、所得税と住民税を合わせて約20.315%(所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%)の申告分離課税がかかります。

給与や他の所得と合算されず、譲渡益だけで税率が決まる仕組みです。

課税の対象になるのは、受け取った譲渡対価のうち利益にあたる部分です。

具体的には、譲渡対価から株式の取得費と譲渡にかかった費用を差し引いた金額が課税対象になります。

取得費は、創業者が会社を設立したときに払い込んだ資本金などが基になります。

そのため、長く続けてきた塾ほど取得費が小さく、対価の大半が課税対象になるケースが多いです。

例えば、創業時の資本金が少額の塾を数千万円で譲渡すれば、対価のほとんどが譲渡益となり、その約20.315%が税金として出ていきます。

残りが手元に残る計算です。総合課税の累進税率と比べて税率が一定で読みやすいことが、株式譲渡が個人オーナーに選ばれやすい理由の一つでもあります。

事業譲渡にかかる税金——法人税と消費税で実質負担が重くなる

個人事業として塾を営んでいる場合や、法人の中の教育部門だけを切り出す場合は、事業譲渡になります。

このとき対価を受け取るのは法人(または個人事業主本人)で、課税の構造が株式譲渡とまったく違います。

まず法人が受け取った対価は、法人の収益として法人税の課税対象になります。

さらに、譲渡する資産の中に消費税の課税対象となるもの(備品・営業権など)が含まれると、その分の消費税も発生します。

その結果、税金の種類が増えるぶん、事業譲渡は株式譲渡より実質的な負担が重くなるケースが多いです。

加えて、法人で課税された後、その資金を個人へ移すと改めて課税される点も、手取りを目減りさせます。

ここで強調したいのは、税額は塾ごとに大きく変わるということです。

法人か個人事業か、資産の構成はどうか、繰越欠損金があるか——条件しだいで結論は変わります。

だからこそ、具体的な税額は必ず税理士へ確認してください。

塾の数字を見ながら手取りを試算してもらうことが、譲渡を判断する前の出発点になります。

手法ごとに税金や雇用の引き継ぎがどう変わるかについては、こちらのコラムもおすすめです。

『学習塾の事業譲渡と株式譲渡|違い・手続き・流れを実務から解説』 


学習塾の会社売却のメリット——手取りだけでなく「残せるもの」を見る

会社売却のメリットは、譲渡対価という現金だけではありません。

税引き後の手取りに目が行きがちですが、塾の譲渡で本当に価値があるのは、廃業では失われるものを丸ごと残せる点です。

廃業との比較で見える、譲渡で守れるもの

廃業を選べば、譲渡対価はゼロです。

それどころか、教室の原状回復、什器の処分、講師への解雇補償といった費用が出ていきます。

在籍する生徒は通う場所を失い、講師は職を失います。

30年かけて地域に築いた信頼も、そこで途切れます。

一方、会社売却なら、税引き後の手取りを受け取りながら、生徒の学習機会と講師の雇用をそのまま残せます。

実際、M&Aに踏み切る塾オーナーは引退を前提にしている方が多く、「自分が抜けても生徒と講師が困らない形で渡したい」という思いが動機の中心にあります。

大切なのは、手取りを最大化することと、託したい相手へ責任を果たすことです。

この両立こそが、廃業にはない会社売却のメリットです。

会社売却を含む事業承継全体の方法や、承継にかかる税金の考え方については、こちらのコラムもおすすめです。

『事業承継とは|方法・進め方・税金までの流れをまとめて理解できるガイド』

手取りを最大化する譲渡前の準備

税金は手法で変わりますが、その前提となる譲渡価格も、準備しだいで動きます。

学習塾は、人材が価値の源泉であるため、講師が定着している塾ほど高く評価されます。

譲渡を視野に入れた瞬間から離職率を下げ、講師との関係を安定させておくことが、結果として手取りを押し上げます。

加えて、直近1年のPL(損益)を整えることも効果を生みます。

接待交際費のような不要な経費を削り、販促を打って生徒数を保ちます。

実際、「1年かけて数字を整える」つもりで数字を作り込んだ塾は、希望価格に近づけやすくなります。

税金の話に入る前に、こうした足元の準備で土台を固めておくと、最終的に手元に残る金額が変わってきます。 

従業員(講師)の扱い——引き継ぎが原則、条件は変えないのが鉄則

ここからが、譲渡側が税金と同じくらい気にする論点です。

講師はどうなるのでしょうか。結論はシンプルで、雇用の引き継ぎが原則であり、当面はほぼ全員が残るのが通例です。

雇用条件はM&Aのタイミングで変えない

学習塾の業績は、授業を担う講師がそのまま残るかどうかで決まります。

だからこそ、引き継ぐ側が最初にすべきは「何も変えないこと」です。

雇用条件をM&Aのタイミングで動かすと、現場の反発を招きます。

待遇の下方修正はもちろん、条件をこの局面で動かすこと自体を避けるのが鉄則です。

方針が違うからといって、アルバイト・非常勤の講師を入れ替えるような対応も避けるべきです。

科目や曜日、担当する生徒ごとに講師が入れ替われば、指導の継続性が崩れ、生徒の満足度に直結するからです。

最初は何も変えません。だから、当面は講師の大半がそのまま残ります。

事業譲渡で講師との労働契約を結び直す場合でも、条件を据え置いて再オファーするのが基本で、「事業譲渡だから離職が多い」と決めつける必要はありません。

とはいえ変化を加えるとしても、信頼関係を築いた上で時間をかけて進めます。

譲り受けた直後にルールや評価制度を変更するのではなく、まず現状を維持して現場の動揺を抑えます。

これが、引き継いだ後の業績を守る順序です。


講師への告知は契約締結後——「講師のための話」として伝える

講師にM&Aを伝えるタイミングは、契約締結後が原則です。

交渉の途中で情報が漏れると、不安から優秀な講師が先に動いてしまうことがあるためです。

締結まで関係者を絞り、確定してから現場へ伝えます。

伝え方も大切です。

経営者が代わると聞けば、講師は「待遇が悪くなるのでは」「自分は切られるのでは」と身構えます。

だから、「これは塾の運営を担う講師のための話だ」という姿勢で向き合います。

具体的には、日々の仕事は何も変わらないこと、そして金銭面の条件は絶対に変えないことを、一人ひとりへ直接伝えます。

この一手間が、引き継ぎ後の動揺を抑え、講師の定着につながります。

経営者が代わるという事実だけが先に独り歩きすると、講師は最悪の想像をします。

「あなたの仕事も給料も変わらない」と当事者の口から伝わって初めて、現場は落ち着きます。 

講師を定着させるPMI——最初の2〜3年で何をするか

講師が当面残るとしても、定着するかどうかは引き継いだ後の進め方しだいです。

学習塾のM&Aで最も失敗しやすいのが、譲り受けた後の統合(PMI)の局面です。鍵になるのはカルチャーフィットです。

コミュニケーションを増やす——最初の2年は顔を合わせる

引き継ぐ側のやり方が現場の講師に合わなければ、講師のモチベーションが下がり、結果として生徒数が落ちることは十分にあり得ます。

逆に、評価制度を前向きにバージョンアップして現場のやる気が上がり、生徒数を伸ばした塾も実在します。

差を生むのは、人と人との関係づくりです。

実際、定着がうまくいく塾では、最初の2年、引き継ぐ側の社長や幹部が現場の幹部とよく顔を合わせています。

懇親の場のようなくだけた場を含めて接点を増やし、お互いの考え方を擦り合わせていきます。こうして積み重ねた接点が信頼を作り、その土台の上でなら制度の見直しも前向きに受け止められます。

逆に、関係ができる前にルールを変えると、現場は反発します。

2〜3年はルールを大きく変えず、待遇は下げない

定着のもう一つの鉄則が、最初の2〜3年はルールを大きく変えないことです。

少なくとも待遇の下方修正はしません。譲り受けた直後は、引き継ぐ側から見れば「もっと効率化できる」と感じる点が目につきます。

それでも、すぐには手をつけません。現場が新しい経営陣を信頼するまでの時間を、あえて確保します。

とはいえ、時間をかけて信頼関係ができた後なら、評価制度や運営ルールに前向きな変化を加えても、現場はついてきます。

だからこそ、待遇を下げないという約束を守り抜くことが、その後の改善を受け入れてもらう前提になります。

講師の定着は、告知の一言で完結するものではなく、譲り受けた後の数年間の振る舞いで決まります。

事業承継として塾を次の世代へ引き継ぐ全体像については、こちらのコラムもおすすめです。

『学習塾の事業承継・後継者問題の解決|第三者承継(M&A)で塾を残す進め方』

学習塾のM&Aの相場・手法・リスク対策まで含めた全体像については、こちらのコラムもおすすめです。

『学習塾のM&Aで知っておくべき全知識|売却・買収・事業承継の流れと価格相場を網羅』


 

まとめ——税理士に手取りを試算してもらうことから始める

学習塾の会社売却で手元に残る金額は、株式譲渡か事業譲渡かで変わります。

株式譲渡なら個人株主の譲渡益に約20.315%の申告分離課税がかかり、事業譲渡なら法人税と消費税で実質負担が重くなりやすいです。

どちらが有利かは、法人か個人事業か、資産構成はどうかで変わるため、塾の数字を見ながら税理士に試算してもらうのが出発点です。

講師の扱いは、引き継ぎが原則で条件を変えないのが鉄則です。

告知は契約締結後に「講師のための話」として伝え、最初の2〜3年は待遇を下げずルールを大きく変えないことが大切です。

コミュニケーションを増やして信頼を築いた上で、必要な変化を少しずつ加えていきます。この順序を守れば、講師は定着し、生徒数も保てます。

次の一歩は、自分の塾を譲渡したらいくら手元に残り、講師の雇用をどう守れるのかを、具体的な数字で確認することです。

手取りの試算は税理士へ、講師の引き継ぎ設計やPMIの進め方は塾の現場を知るM&Aの専門家へ相談すると、判断材料が一度に揃います。

船井総研あがたFASの学習塾のM&A相談は無料で受け付けています。

自社の塾の手取りや講師の扱いをおおまかに知りたいという段階からでも対応できます。業種別の資料は こちらダウンロードできます。


経営の正解は、一つではありません。 まずは出口戦略の『選択肢』を可視化する診断ツールを手に取り、 次なるステージへの展望を具体化する準備を始めてください。 プロの目利きで自社の『真価』を知ること。それが、後悔のない決断への第一歩です。

【業界専門コンサルタントが担当】「出口戦略」診断で自社の価値を正しく守る。ベストな承継を実現するための第一歩。


よくある質問

Q. 学習塾を売却したとき、税金はどのくらいかかりますか?

学習塾の売却益にかかる税金は、株式譲渡か事業譲渡かで変わります。法人の株式を譲渡して個人株主が対価を受け取る場合は、譲渡益に所得税・住民税を合わせて約20.315%の申告分離課税がかかります。事業譲渡では受け取った法人に法人税が課税され、消費税の対象資産も含むため実質負担が重くなりやすいです。法人か個人事業か、資産構成によって税額は変わるため、正確な金額は税理士へ確認してください。

Q. 株式譲渡と事業譲渡では、どちらが手取りで有利ですか?

個人オーナーの手取りという観点では、株式譲渡のほうが有利になるケースが多いです。株式譲渡は譲渡益への課税が約20.315%の申告分離課税で済むのに対し、事業譲渡は法人税に加え消費税の対象資産も生じ、その後に資金を個人へ移すと再び課税されるためです。ただし個人事業の塾は株式がなく事業譲渡しか選べず、資産構成や繰越欠損金でも結論は動きます。手取りの比較は税理士に試算を依頼してください。

Q. 学習塾を売却したら、講師は辞めてしまいますか?

学習塾の売却では、講師の雇用は引き継ぎが原則で、当面はほぼ全員が残るのが通例です。最大の理由は、雇用条件をM&Aのタイミングで変えないことが鉄則とされているためです。待遇の下方修正をせず、アルバイト・非常勤の入れ替えもしません。何も変えない状態でスタートし、契約締結後に一人ひとりへ条件が続くと直接伝えることで、講師の動揺を抑えられます。事業譲渡で契約を結び直す場合も、条件を据え置いて再オファーするのが基本です。

Q. 講師にM&Aを伝えるのはいつですか?

講師への告知は、M&Aの契約締結後が原則です。交渉の途中で情報が漏れると、不安から優秀な講師が先に離職してしまうおそれがあるためです。締結まで関係者を絞り、確定してから現場へ伝えます。伝える際は「これは運営を担う講師のための話だ」という姿勢で、日々の仕事は何も変わらないこと、金銭面の条件は変えないことを一人ひとりへ直接伝えます。この一手間が、引き継ぎ後の定着につながります。

Q. 売却後に講師を定着させるには、どうすればよいですか?

売却後の講師の定着は、最初の2〜3年の進め方で決まります。鍵はカルチャーフィットで、引き継ぐ側の経営陣と現場の幹部が最初の2年でよく顔を合わせ、信頼関係を築くことが土台になります。その期間はルールを大きく変えず、待遇の下方修正もしません。信頼ができてから評価制度などを前向きに見直すと、現場のやる気が上がり生徒数を伸ばした塾もあります。順序を守ることが、講師と生徒の両方を守ります。


中野 宏俊

(株)船井総研あがたFAS 執行役員

財務コンサルティングの業務経験に加え、事業承継・事業再生コンサルティングの支援経験を多く持つ。2017年10月に船井総研入社後、M&Aコンサルティングにより34件の案件成約を担当。 現在、船井総研グループにおける事業承継・M&Aコンサルティングの中核的な役割を担う。

中野 宏俊

(株)船井総研あがたFAS 執行役員

財務コンサルティングの業務経験に加え、事業承継・事業再生コンサルティングの支援経験を多く持つ。2017年10月に船井総研入社後、M&Aコンサルティングにより34件の案件成約を担当。 現在、船井総研グループにおける事業承継・M&Aコンサルティングの中核的な役割を担う。