学習塾の事業譲渡と株式譲渡は、移転する対象も、契約や負債の引き継ぎ方も、かかる税金も違います。
学習塾の譲渡では実務上、法人ごと引き継ぐ株式譲渡が選ばれるケースが多いものの、個人で営む塾やひとつの教育部門だけを切り出す場合は事業譲渡になります。
どちらを選ぶかで、講師や生徒の契約をどう扱うか、手取り額がいくら残るかが変わってきます。
学習塾の譲渡実務の視点から、2つの手法の違いと、相談からクロージングまでの流れを具体的に整理します。
学習塾の事業譲渡と株式譲渡で迷っている経営者が、自分の塾にどちらが向くかを判断できる状態を目指します。
経営の正解は、一つではありません。
まずは出口戦略の『選択肢』を可視化する診断ツールを手に取り、 次なるステージへの展望を具体化する準備を始めてください。
プロの目利きで自社の『真価』を知ること。それが、後悔のない決断への第一歩です。


学習塾の事業譲渡と株式譲渡——何がどう違うのか
学習塾の事業譲渡と株式譲渡は、同じ「譲渡」でも引き継がれる中身がまったく違います。
会社そのものを渡すのか、事業だけを切り出して渡すのか——この入口の違いが、その後の手続き・契約・税金のすべてに波及します。
ここを最初に理解しておくと、後の交渉でつまずきにくくなります。
移転する対象の違い——会社ごとか、事業だけか
株式譲渡は、会社の株式を引き継いでもらう手法です。法人格はそのまま残り、経営権を握る株主だけが入れ替わります。
塾を運営してきた会社が、看板も契約も従業員もそっくり抱えたまま、新しいオーナーのもとへ移るイメージです。
一方、事業譲渡は、塾という事業の一部または全部を切り出して取引する手法です。
教室・教材・生徒・講師といった資産や契約のうち、引き継ぐ側が欲しいものを個別に選んで移します。
法人格は譲渡側に残るため、複数の事業を持つ会社が学習塾部門だけを手放す、といった切り分けができます。
短くまとめると、株式譲渡は「会社という器ごと」、事業譲渡は「中身を選んで」引き継ぐ手法です。
塾が一社一事業なのか、複数事業を抱える法人の一部門なのかで、どちらが自然かが変わってきます。
契約・負債・許認可の引き継ぎ方の違い
株式譲渡では、会社が結んでいた契約はそのまま続きます。
生徒との月謝契約、講師との雇用契約、校舎の賃貸借契約、FC本部との加盟契約——これらは法人名義のまま変わらないため、結び直しは原則として要りません。
手続きの手間が軽い反面、簿外債務や未払い残業代といった負債も丸ごと引き継ぐことになります。
一方、事業譲渡では、移転する契約を一本ずつ結び直します。
生徒の月謝契約は新しい運営会社との契約に巻き直し、講師とは新会社名で雇用契約を締結し、校舎は家主の承諾を得て賃貸借契約を引き継ぐ側の名義に変えます。
手間はかかりますが、引き継ぐ側にとっては不要な負債を持ち込まずに済む利点があります。
だからこそ、簿外の問題を切り離せる点は、事業譲渡を選ぶ大きな理由になります。
学習塾の運営に行政の許認可は基本的に要りませんが、FC加盟塾はどちらの手法でも本部の許可・承認が必要です。
FC加盟契約には、経営権を第三者へ移す際に本部の承諾を求める条項が含まれていることが多いためです。
本部が承認せず、自ら引き取るか別の加盟者へ引き継がせるケースもあります。
税務上の扱いの違い
税金の負担も、手法によって変わります。株式譲渡で得た譲渡益は、個人株主の場合は申告分離課税となり、所得税・住民税を合わせて一般的にはおよそ20.315%が課税されます。
譲渡対価から株式の取得費を差し引いた金額が課税対象です。
一方、事業譲渡では、対価を受け取るのは法人です。
資産の譲渡益が法人の収益として法人税の課税対象になり、譲渡する資産には消費税がかかるものも含まれます。
その結果、実質的な税負担は株式譲渡より重くなるケースが少なくありません。
譲渡側が株式譲渡を、引き継ぐ側が事業譲渡を好む傾向があるのは、この税務と負債の扱いが背景にあります。
ただし、実際の税額は法人・個人の状況や資産構成によって大きく変わります。
ここでの数字はあくまで一般的な目安として捉え、具体的な税負担は税理士へ確認してください。
学習塾の譲渡で残る手取り額や講師の処遇については、こちらのコラムもおすすめです。
『学習塾の会社売却の税金・メリットと従業員(講師)の扱い』

学習塾では株式譲渡が選ばれることが多い理由
学習塾の譲渡は、実務では株式譲渡が中心です。
一教室だけを切り出しても引き継ぐ側のメリットが薄く、教育業と教育業が法人ごとくっつくケースが大半だからです。
一方で、複数事業を持つ法人が教育部門だけを手放すときには、事業譲渡が選ばれます。
塾の規模や運営形態を見れば、どちらに寄るかはおおむね見えてきます。
一教室だけの引き継ぎは効果が薄い——法人ごとの統合が主流
学習塾の譲受側は、同業者がエリアを広げる水平統合が中心です。
すでに塾を運営している会社が、近隣の塾を引き継いで生徒基盤と教室網を一気に広げていきます。
このとき、ばらばらの資産を選んで引き継ぐより、回っている塾を法人ごと引き継ぐほうが手早く、漏れもありません。
引き継ぐ側からすると、塾の価値は生徒・講師・立地・ブランドが一体になって初めて成り立ちます。
実際、教材だけ、教室だけを切り出しても、塾としては機能しません。
だからこそ、法人格ごと引き継げる株式譲渡が自然な選択になります。
加えて、生徒との月謝契約も講師との雇用契約も巻き直さずに続けられる手続きの軽さも、株式譲渡が選ばれる理由です。
教育部門だけを切り出すなら事業譲渡
株式譲渡が向かない場面もあります。
複数の事業を手がける会社が、学習塾部門だけを手放したいケースです。
会社全体を渡すわけにはいかないため、塾事業に関わる教室・生徒・講師・教材を切り出して引き継いでもらう事業譲渡を使います。
異業種から学習塾へ参入していた会社が教育事業から撤退する、本業に集中するために塾部門を整理する——こうした場面で事業譲渡が選ばれます。
実際、引き継ぐ側にとっても、譲渡側の他事業に紐づく負債を持ち込まずに塾だけを取得できる利点があります。
自分の塾が株式譲渡と事業譲渡のどちらに寄るか判断がつかないときは、塾の運営形態を踏まえて専門家に一度整理してもらうと、その後の交渉の見通しが立てやすくなります。

個人事業主の塾は事業譲渡のみ——契約の結び直しが必要になる
個人で塾を営むオーナーには、引き継いでもらう株式がそもそもありません。
そのため株式譲渡は使えず、事業譲渡が唯一の選択肢になります。法人化していても、同族で株式が分散している場合は全株主の同意が要る点に注意が必要です。
事業譲渡を選ぶと、塾を支える3つの契約を引き継ぐ側で結び直すことになります。
月謝契約・雇用契約・賃貸借契約を結び直す
事業譲渡では、生徒との月謝契約、講師との雇用契約、校舎の賃貸借契約を、引き継ぐ側の名義で締結し直します。
まず生徒との月謝契約は、新しい運営者との契約に巻き直します。
保護者へ運営者の交代と契約の継続を案内し、同意を得る手間が発生します。
次に講師との雇用契約も自動では承継されないため、新会社名で改めて雇用契約を結びます。
ここで待遇を動かすと現場が揺れるため、条件はそのまま引き継ぐのが原則です。
さらに校舎の賃貸借契約は、家主の承諾を得て名義を変えます。
家主が承諾を渋ったり、保証金の積み増しを求めたりすると、引き渡しの時期が後ろにずれることもあります。
手続きは確かに煩雑です。
それでも事業譲渡には、譲渡側が抱えていた不要な負債や簿外のリスクを引き継がずに済むという、引き継ぐ側にとって無視できない利点があります。
手間と引き換えに、引き継ぐ範囲を自分でコントロールできるわけです。
個人塾オーナーが押さえておくべき注意点
個人事業の塾を譲渡するときは、屋号や教室の使用継続を契約でどう扱うかも論点になります。
長年親しまれた塾名を引き継ぐ側がそのまま使うのか、生徒・保護者への告知をどう進めるのかを、譲渡条件に落とし込んでおきます。
税務面でも、事業譲渡の対価は個人事業主の事業所得や譲渡所得として扱われ、株式譲渡の申告分離課税とは計算が変わります。
だからこそ、自分のケースで手取りがどう変わるかは、早い段階で税理士に試算してもらうことをおすすめします。
学習塾の価格がどう決まり、手法によって手取りがどう動くかは、こちらのコラムもおすすめです。
『学習塾の売却相場・企業価値評価』
学習塾の事業譲渡・株式譲渡の手続きと流れ
学習塾の譲渡は、相談から始まり、企業価値評価・マッチング・基本合意・デューデリジェンスを経て、最終契約とクロージングで完了します。
手法が株式譲渡か事業譲渡かで細部は変わりますが、大きな流れは共通です。期間は一般に6か月〜1年が目安で、もともと知り合い同士でマッチングがスムーズな場合は半年程度で成約することもあります。
相談からクロージングまでの5ステップ
学習塾の譲渡は、おおむね次の順で進みます。
まず専門家へ相談し、自分の塾が譲渡に向くか、どの手法が合うかを整理します。
次に企業価値評価で、塾の価格の目安を出します。
学習塾では時価純資産に営業利益の約3年分の営業権を足す年倍法が実務の中心で、最終的にはPL(損益)で判断します。
続いてマッチングで引き継ぎ手の候補を探し、条件のすり合わせに入ります。
候補が固まったら基本合意を結び、デューデリジェンス(引き継ぐ側による詳細調査)へ進みます。
ここで未払い残業代や月謝の前受金、賃貸借契約、FC加盟契約などが点検されます。
問題がなければ最終契約を締結し、対価の支払いと経営権の移転を行うクロージングで一連の手続きが完了します。
期間が前後する要因は、FC本部の承認や複数教室の賃貸借確認といった、塾ならではの手続きにあります。
デューデリジェンスで引き継ぐ側から求められる資料には、業種を問わず共通する部分があります。
準備すべき資料と進め方については、こちらのコラムもおすすめです。
『デューデリジェンス(DD)チェックリスト|売り手が準備すべき資料と進め方』
手法によって手続きはどう変わるか
5ステップの骨格は同じでも、株式譲渡と事業譲渡では各段階の重さが変わります。
株式譲渡は契約を巻き直さずに法人格ごと移すため、クロージングの実務は比較的シンプルです。
デューデリジェンスでは、引き継ぐ負債を見極めるために簿外債務や未払い賃金の調査が重くなります。
一方、事業譲渡は、移転対象を一つずつ特定し、生徒・講師・家主それぞれと契約を結び直す作業がクロージング前後に集中します。
そのため、家主の賃貸借承諾やFC本部の承認に時間がかかると、スケジュール全体が後ろ倒しになりやすい点に注意が必要です。
どちらの手法でも、講師にM&Aを伝えるのは契約締結後とし、「何も変わらない」ことを一人ひとりへ直接伝えるのが望ましいとされます。
学習塾のM&Aの現状・メリット・リスク対策まで全体像を押さえたい場合は、こちらのコラムもおすすめです。
『学習塾のM&Aで知っておくべき全知識(学習塾のM&Aピラー)』

【まとめ】学習塾の手法選びは、契約・負債・税金の3点から逆算する
学習塾の事業譲渡と株式譲渡は、移転する対象、契約や負債の引き継ぎ方、かかる税金が違います。
実務では法人ごと引き継ぐ株式譲渡が多く、個人塾や教育部門だけを切り出す場面では事業譲渡が選ばれます。
事業譲渡では月謝契約・雇用契約・賃貸借契約を結び直す手間がある一方、不要な負債を持ち込まずに済む利点があります。
税金は株式譲渡の譲渡益が個人株主で一般的におよそ20.315%の申告分離課税、事業譲渡は法人税と消費税が絡むため、具体的な負担は税理士への確認が欠かせません。
流れは相談・企業価値評価・マッチング・基本合意・デューデリジェンス・最終契約とクロージングの順で、期間は一般に6か月〜1年、知り合い同士なら半年程度のこともあります。
FC加盟塾は手法に関わらず本部の承認が必要です。
次の一歩は、自分の塾が株式譲渡と事業譲渡のどちらに向くかを、塾の現場と教育業界のM&Aの両方を知る専門家と一緒に見極めることです。
手法の違いは手取り額や講師・生徒の引き継ぎに直結するため、早い段階で相談しておくほど選択肢が広がります。
船井総研あがたFASの学習塾のM&A相談は無料で受け付けています。
自社の塾にどちらの手法が合うか知りたい段階からでも対応できます。手法ごとの税務や手続きをまとめた業種別の資料は こちらダウンロードできます。
経営の正解は、一つではありません。 まずは出口戦略の『選択肢』を可視化する診断ツールを手に取り、 次なるステージへの展望を具体化する準備を始めてください。 プロの目利きで自社の『真価』を知ること。それが、後悔のない決断への第一歩です。
【業界専門コンサルタントが担当】「出口戦略」診断で自社の価値を正しく守る。ベストな承継を実現するための第一歩。


よくある質問
Q. 学習塾の事業譲渡と株式譲渡の違いは何ですか?
株式譲渡は会社の株式を引き継いでもらい法人格ごと経営権を移す手法で、事業譲渡は塾の事業や資産を切り出して個別に移す手法です。株式譲渡は生徒・講師・賃貸借などの契約をそのまま続けられる代わりに負債も引き継ぎます。事業譲渡は契約を一本ずつ結び直す手間がある一方、不要な負債を持ち込まずに済みます。税金も、株式譲渡は個人株主の譲渡益課税、事業譲渡は法人税と消費税が絡む点で異なります。
Q. 学習塾の譲渡では事業譲渡と株式譲渡のどちらが多いですか?
学習塾の譲渡では、実務上は株式譲渡が選ばれるケースが多いです。一教室だけを切り出しても引き継ぐ側のメリットが薄く、教育業同士が法人ごとくっつく統合が大半だからです。生徒や講師との契約を巻き直さずに続けられる手続きの軽さも理由になります。これに対して、複数事業を持つ法人が学習塾部門だけを手放す場合や、個人事業主の塾の場合は、事業譲渡が使われます。
Q. 個人事業主の学習塾でも譲渡できますか?
個人事業主の学習塾も譲渡できますが、引き継いでもらう株式がないため、手法は事業譲渡のみになります。事業譲渡では、生徒との月謝契約、講師との雇用契約、校舎の賃貸借契約を、引き継ぐ側の名義で結び直す必要があります。手続きの手間はかかりますが、引き継ぐ側は不要な負債を持ち込まずに済みます。税務上は事業所得や譲渡所得として扱われるため、手取りの試算を税理士へ依頼すると安心です。
Q. 学習塾の譲渡にはどれくらいの期間がかかりますか?
学習塾の譲渡は、相談開始から成約・クロージングまで一般に6か月〜1年程度が目安です。もともと知り合い同士でマッチングがスムーズな場合は、半年程度で成約することもあります。逆に、FC本部の承認や複数教室の賃貸借契約の確認が必要な案件は、1年以上かかることもあります。手続きの流れは相談・企業価値評価・マッチング・基本合意・デューデリジェンス・最終契約とクロージングの順で進みます。
Q. 事業譲渡では講師や生徒の契約はどうなりますか?
事業譲渡では、講師との雇用契約も生徒との月謝契約も自動では引き継がれず、引き継ぐ側の名義で結び直します。講師には新会社名で雇用契約を締結し直し、待遇は変えないのが原則です。生徒は保護者へ運営者の交代と契約の継続を案内して同意を得ます。校舎の賃貸借契約も家主の承諾を得て名義を変えます。株式譲渡なら法人格が変わらないため、これらの契約は結び直さずにそのまま続きます。