学習塾のM&Aで知っておくべき全知識|売却・買収・事業承継の流れと価格相場を網羅
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学習塾のM&Aで知っておくべき全知識|売却・買収・事業承継の流れと価格相場を網羅

学習塾のM&Aとは、塾の経営権または事業を第三者へ引き継いでもらい、事業を続けてもらう手法です。

価格の目安は「営業利益の約3年分に時価純資産を足した金額」で、知り合い同士なら半年、一般には6か月〜1年程度で成約します。

譲渡する側は廃業せず生徒と講師を守りながら創業者利益を受け取れ、引き継ぐ側は生徒・立地・ノウハウを一括で得られます。

流れは「相談→企業価値評価→マッチング→デューデリジェンス→契約・クロージング」の5段階です。

少子化とオンライン教育の普及が進む中、地域の個人塾から多教室展開の法人まで、学習塾業界のM&Aの件数は増えています。

1980〜90年代の塾ブームで創業した世代が60〜70代を迎え、後継者がいないまま廃業を考えていた経営者が、M&Aで生徒と教育を残す道を選ぶケースが増えてきました。

この先で扱うのは、現状・価格相場・手法・事業承継・税金・リスク対策・仲介会社の選び方です。

学習塾の譲渡支援の実務をふまえながら、競合記事があまり踏み込まない実務の中身まで踏み込みます。


経営の正解は、一つではありません。 

まずは出口戦略の『選択肢』を可視化する診断ツールを手に取り、 次なるステージへの展望を具体化する準備を始めてください。 

プロの目利きで自社の『真価』を知ること。それが、後悔のない決断への第一歩です。

学習塾業界のM&Aの現状——少子化・デジタル化がなぜ譲渡と譲受を加速させるのか

学習塾業界は、少子化と教育デジタル化という2つの構造変化に同時にさらされています。

譲渡を急ぐオーナーが増え、エリア拡大を狙う譲受側も増えています。

この需給の拡大が、学習塾業界のM&Aの件数増加を支えています。実務上は、今後この動きは一段と強まると見られます。

生徒数の減少と個人塾の収益構造悪化

2024年の出生数は70万人を割り込みました。この数字が示す意味は単純です。つまり、10年後の通塾人口がさらに減るということです。

個人塾の収益は月謝に直結します。

生徒が2割減れば売上も2割落ちますが、家賃・光熱費・最低限の人件費は変わりません。

そのため、損益分岐点を割り込む教室が増えています。

加えて、映像授業やAI教材との競合も、個人塾を直撃しています。

月3〜4万円の映像授業で大手予備校と同等の授業が受けられる時代に、対面指導だけで差をつけるのは難しくなりました。

実務上は、生徒数が最盛期の7割を切った時点で譲渡を真剣に考え始めるオーナーが多いです。

人件費上昇と講師確保難が同時発生している

最低賃金の引き上げにより、アルバイト講師の時給は全国的に上がっています。

学習塾のアルバイト講師は大学生が中心ですが、時給のより高い仕事へ流れる動きが目立ちます。

優秀な講師を確保するために時給を上げれば、利益率が圧迫されます。

とはいえ据え置けば講師が集まらず、授業の質が落ちてしまいます。この板挟みが、個人塾オーナーの経営体力を削っています。

採用コストを含めると、1教室あたりの人件費負担は5年前より相当重くなりました。

その結果、講師不足で授業枠を減らさざるを得なくなると、離塾→売上減→講師削減という悪循環に入ります。

物価高騰で利益率が下がり、業界全体で寡占化が進んでいます。

同じ経営を続けるほど利益が目減りする局面に入っており、これが譲渡を検討する経営者を後押ししています。

大手チェーンと同業の譲受意欲が高まっている背景

譲渡側が増える一方で、引き継ぐ側の事情も変わりました。

学習塾の譲受は、同業者がエリアを広げる水平統合が中心です。というのも、新規出店より既存塾を引き継ぐほうが、生徒基盤・立地・講師を一括で得られ、費用対効果が高いからです。

理由はもう一つあります。

ゼロから1教室を立ち上げ、収支ラインに乗せるまでの時間が、昔より相当長くなりました。

自前の出店戦略だけでは拡大のスピードが追いつきません。

だからこそ、すでに運営が軌道に乗っている塾を引き継ぐ選択肢が現実味を増しています。

引き継ぐ側の動機は、まず「スピード」にあります。

一方で、異業種からの参入は、学習塾では多くありません。

塾は外から収益構造が見えづらく、参入のハードルが高いためです。

実際、不動産会社がリソー教育を、ベネッセがデジタルハリウッドを傘下に収めた事例はありますが、これは全国規模の大手や上場企業の話です。

中小規模の学習塾のM&Aでは、同業同士のケースが大半を占めます。

 



学習塾のM&Aのメリット——譲渡側・譲受側それぞれの視点で整理する

学習塾のM&Aのメリットは、譲渡側と譲受側で異なります。一方にとっての利点が、他方の動機と噛み合うからこそ取引が成立します。

譲渡側のメリット——生徒と講師を守りながら創業者利益を手にする

廃業と比べたとき、M&Aには3つの違いがあります。

まず、生徒が学習を続けられます。廃業すれば在籍する生徒は行き場を失いますが、M&Aなら事業が続くため、教育サービスは止まりません。20年・30年かけて地域に根付いた塾の教育を残せます。

次に、講師・従業員の雇用も続きます。

廃業すれば全員が職を失います。一方、M&Aでは引き継ぐ側が雇用を維持するケースが多く、長年塾を支えてきた講師が仕事を続けられます。

そして、廃業では得られない譲渡対価を受け取れます。

創業者が育てた塾の価値が、現金として手元に残ります。M&Aを選ぶ経営者は引退を前提にしている方が多く、「グループに入って自分がさらに伸ばす」というより、生徒と講師を託して退く意思決定として臨むのが実態です。

譲受側のメリット——生徒・立地・ノウハウを一括で獲得できる

新規出店では、教室を借りて内装を整え、生徒を一から募り、講師を採用するまでに相当の時間とコストがかかります。

1教室が単月黒字になるまで1〜2年かかることも珍しくありません。

学習塾のM&Aで既存塾を引き継げば、その日から在籍生徒がいます。講師もいます。立地も確保済みです。初月から売上が立つ状態でスタートできます。

ノウハウの取得も見逃せません。地域の保護者心理や生徒の学習特性に合わせた指導法、長年の口コミで積み上げた信頼、これらは引き継ぐことでしか手に入らない資産です。

 

学習塾のM&Aの価格相場と企業価値評価のしくみ

学習塾のM&Aの価格は、どう決まるのでしょうか。現場で実際に使う算定の考え方と、価格が上振れする要因を整理します。

営業利益の約3年分に時価純資産を足して算定する

学習塾の価格算定では、年倍法という考え方が実務の中心です。

時価純資産(貸借対照表上の純資産を時価で見直した額)に、営業権を足して価格を作ります。

営業権の目安が「営業利益の約3年分」です。

一教室から数教室規模であれば、営業権は営業利益の3倍程度に収まるケースが多く、世の中の一般的な相場感とほぼ同じです。

規模が大きく実績のある法人ほど、この倍率は上がりやすい傾向があります。

ただし母数が多いわけではないため、3倍はあくまで起点と捉えてください。

そのうえで、最終的な判断はPL(損益)で行います。

塾には高単価のモデルも低単価のモデルもあり、生徒数や教室数だけを単独で並べても価値は測れません。立地・口コミ・ブランドが優れていても、それが生徒数を通じてPLに表れていなければ、引き継ぐ側はつきません。

実際、立地や口コミがどれほど良くてもPLが悪い塾は、引き継ぐ側が現れにくいのが実態です。

だからこそ、在籍生徒数・継続率・立地・ブランドは、いずれも「最終的にPLへ反映される要素」として確認します。

倍率を押し上げる付加価値——ブランドと合格実績

倍率を押し上げる最大の要因は、ブランドとネームバリューです。

学習塾で具体的に評価につながるのは合格実績です。

その地域で一番偏差値の高い学校へ毎年多数を送り込んでいる、といった実績は強い価値になります。引き継ぐ側が「ここの実績とノウハウがどうしても欲しい」と判断したとき、価格は通常の算定を超えて動きます。

都内の中学受験は市場が伸びており、高く評価されやすい領域です。価格が伸びる塾には「顧客ニーズが伸びているか」「希少価値があるか」「収益性があるか」という3条件が揃っています。

逆に評価を下げるのが人口動態です。

5年後に子どもの数が半減するようなエリアは、将来の収益が読めません。

そのため、デューデリジェンスでもエリアの将来人口は細かく見られ、特に地方都市では数字が評価を大きく左右します。

実際に、引き継ぐ側がどうしても欲しかった業態・ノウハウ・エリア実績を持つ塾が、売上と同程度の規模の金額で取引された例も業界では知られています。

一方で、売上数億円規模で営業赤字だった教育事業が、引き継ぐ側の戦略的な狙いと噛み合い、十数億円規模で成約した事例もあります。

こうして見ると、価格は算定式だけでは決まらず、引き継ぐ側がどれだけその塾を欲しがるかで大きく変わります。

価格相場の詳細な算定方法については、こちらのコラムもおすすめです。

『学習塾の売却相場・企業価値評価』

 


学習塾のM&Aの手法——事業譲渡と株式譲渡の選び方

学習塾のM&Aで使われる手法は、主に株式譲渡と事業譲渡の2つです。

どちらが有利かは、譲渡側・譲受側の条件によって変わります。

事業譲渡と株式譲渡の基本的な違いと税務上の扱い

株式譲渡は、会社の株式を引き継いでもらう手法です。

譲渡側からは法人格ごと引き渡すイメージで、引き継ぐ側は会社の権利・義務をすべて承継します。

一方、事業譲渡は、事業の一部または全部を切り出して取引する手法です。

特定の資産・契約・生徒・講師だけを移す形で、引き継ぐ側は欲しい資産を選べますが、各種契約は結び直す必要があります。

税務上の扱いも違います。

株式譲渡での譲渡益は、個人株主なら約20%の申告分離課税です。

一方、事業譲渡では法人に法人税が課税され、消費税の対象になる資産も含まれます。

一般には譲渡側が株式譲渡を、引き継ぐ側が事業譲渡を好む傾向がありますが、実際の案件は条件が絡み合うため、税理士への確認が欠かせません。

現場の感覚では、学習塾は株式譲渡が多いです。

一教室だけを切り出しても引き継ぐ側のメリットが薄く、教育業同士が法人ごとくっつくケースが大半だからです。

法人の中の教育部門だけを切り出して譲渡する場合は、事業譲渡が選ばれます。

個人経営の小規模塾に多い手法と注意点

個人事業主として塾を営むオーナーには株式がないため、株式譲渡は使えません。

事業譲渡だけが選択肢になります。

法人化していても同族会社で株式が分散している場合は、全株主の同意が必要です。

事業譲渡では、生徒との月謝契約・講師との雇用契約・校舎の賃貸借契約をすべて引き継ぐ側で結び直します。

手間はかかりますが、不要な負債を引き継がない利点があります。

手法の選び方と手続きの詳細については、こちらのコラムもおすすめです。

『学習塾の事業譲渡と株式譲渡の違い・手続き』

 

学習塾の事業承継——後継者不在を解決する第三者承継の選択肢

後継者不在による廃業は、地域の教育インフラを失わせます。M&Aによる第三者承継は、この課題を解く現実的な手段です。

学習塾の承継は、いま第三者承継が中心になっています。

親族内承継・従業員承継が難しい学習塾の現実

学習塾のオーナーは、60代・70代の創業者が多くを占めます。

本心では子に継いでほしいと考えていても、断られるケースが多いのが現実です。

親族内で継ぐ場合も、創業オーナーから2代目への承継は難しい印象があります。

創業者は圧倒的な牽引力で現場を引っ張ってきたため、2代目が同じだけの推進力を発揮できず、現場がついてこないことがあるためです。

ちなみに、3代目になると組織で回る段階に入り、また事情が変わります。

従業員への内部承継も、業界ではあまり見かけません。

優秀な教室長がいても、数千万円の買取資金を個人で用意できるケースは限られるからです。

そのため、残る現実解が、第三者への承継です。

M&Aによる第三者承継が事業存続の現実解になる理由

第三者承継では、経営権を外部の引き継ぎ手に渡します。

引き継ぐ側が法人であれば、経営基盤の安定した組織に塾が組み込まれます。

廃業との差も大きいです。廃業には原状回復費用・在庫処分・解雇補償などがかかり、しかも譲渡対価はゼロです。

これに対してM&Aなら対価を得ながら事業を残せます。

なお、学習塾でM&Aに踏み切る理由は、ほぼ後継者不足です。

「塾を閉じれば、通っていた生徒も働いていた講師も行き場を失う」という思いから、廃業準備を進めていた経営者が第三者承継へ方針を切り替える例は少なくありません。

事業承継補助金・税制の活用可能性

中小企業庁の「事業承継・引継ぎ補助金」は、M&Aを含む事業承継の費用の一部を補助する制度です。

専門家費用(M&A仲介手数料等)が対象になる場合があります。

補助額や要件は年度ごとに変わるため、最新の公募要領を確認してください。

法人株式の承継では、非上場株式の相続税・贈与税の納税を猶予する「事業承継税制」も検討材料になります。

ただし第三者への株式譲渡(M&A)には適用されないため、これは親族内承継や従業員承継を考える際の参考にとどめてください。

事業承継の手続きと補助制度の詳細については、こちらのコラムもおすすめです。

『学習塾の事業承継・後継者問題の解決』

 


会社売却の税金と従業員(講師)の扱い——手取り額と雇用継続を確認する

学習塾のM&Aで譲渡側が最も気にする点が、手取り額と講師の処遇です。

譲渡で得た利益にかかる税金の種類と概算

株式譲渡で得た譲渡益は、個人株主の場合は申告分離課税となり、所得税・住民税を合わせて約20.315%が課税されます。

譲渡対価から株式の取得費を引いた金額が課税対象です。

事業譲渡では、法人が受け取った対価が法人の収益として法人税の課税対象になります。

消費税の対象となる資産も含まれるため、実質的な税負担は株式譲渡より重くなるケースが多いです。

これらの扱いは法人・個人の状況や資産構成で大きく変わるため、具体的な税額は必ず税理士へ確認してください。

講師の雇用は引き継ぎが原則——条件は変えないのが通例

学習塾は、人材こそが価値の源泉となるビジネスです。

授業を支える講師がそのまま残るかどうかが、引き継いだ後の業績を左右します。

だからこそ、講師の雇用は引き継ぎが原則で、当面はほぼ全員が残るのが通例です。

雇用条件をM&Aのタイミングで変えると、現場で反発を招きます。

待遇の下方修正はもちろん、条件をこの局面で動かすこと自体を避けるのが原則です。

同様に、方針が違うからとアルバイト・非常勤講師を入れ替えるような対応も避けたほうがよいでしょう。

最初は何も変えないため、当面は講師の大半が残ります。

仮に変化を加えるとしても、信頼関係を築いた上で時間をかけて進めるのが実務です。

講師にM&Aを伝えるのは、契約締結後です。

「これは運営を担う講師のための話だ」という姿勢で、何も変わらないこと、金銭面の条件は変えないことを直接伝えます。

この一手間が、引き継ぎ後の安定につながります。

講師の雇用と税金の詳細については、こちらのコラムもおすすめです。

『学習塾の会社売却の税金・メリットと従業員(講師)の扱い』

 

学習塾のM&Aで必ず確認すべき5つのリスクと対策

学習塾固有のリスクは、他業種のM&Aとは性質が違います。

実務で頻出するものを5つ整理します。

在籍生徒数の継続性——成立後の業績変動リスクと対策

在籍生徒数は、引き継いだ後の運営しだいで動きます。

たとえば、引き継いだ側のやり方が講師陣に合わなければ、講師のモチベーションが下がり、結果として生徒数が落ちることは十分にあり得ます。

逆に、評価制度をバージョンアップして現場のやる気が上がり、生徒数を伸ばした塾も実在します。

つまり、成立後の業績を左右するのは、在籍生徒の引き止め策よりも、講師が気持ちよく働ける状態を保てるかどうかです。

だからこそ、鍵はカルチャーフィットです。

引き継ぐ側と塾の文化が噛み合うかを、デューデリジェンスや面談の段階で見極めることが、退塾の連鎖を防ぐ第一歩になります。

加えて、成立タイミングにも注意が要ります。

進学塾では入試直後の2〜3月に成約すると、受験生が卒業して新規募集が始まるまでの空白期間に経営が不安定になりやすく、新学期前後の4月や夏前を成立時期に選ぶ判断もあります。

フランチャイズ加盟塾は本部の承認が必要になる

フランチャイズ(FC)に加盟している学習塾を譲渡する場合、本部の承認が必要になります。

FC加盟契約には、経営権を第三者へ譲渡する際に本部の事前承諾を求める条項が含まれていることが多いためです。

ただし、本部が承認するとは限りません。

実務では、本部自身が引き取るか、別のFC加盟者へ引き継がせるケースもあります。

しかも、承認を得ないまま進めればFC契約の解除事由に該当し、ブランド・教材・システムが使えなくなるリスクがあります。

そのため、M&Aの初期段階でFC契約書を確認し、本部へ早めに相談してください。

本部による審査やロイヤリティの調整で時間がかかることもあるため、スケジュールには余裕を持たせます。

校舎の賃貸借契約——事業譲渡では賃貸人の承諾が必要

学習塾の教室は賃貸物件が大半です。

事業譲渡を選ぶと、教室ごとの賃貸借契約は自動では引き継げません。

賃貸人(家主)の承諾を得て、引き継ぐ側の名義で結び直す必要があります。

この手続きが遅れると、クロージング全体が後ろ倒しになります。

実際、家主が承諾を拒むケース、承諾の条件として保証金の積み増しを求めるケースもあります。

だからこそ、デューデリジェンスの段階で賃貸借契約書を全件確認し、承諾取得のリスクを事前に洗い出してください。

なお、株式譲渡なら法人格が変わらないため、賃貸借契約はそのまま続きます。

この点も手法選びに影響する実務上の要素です。

講師の引き継ぎ——条件を変えず体制を維持する

事業譲渡では、講師との労働契約も自動では承継されず、引き継ぐ側との契約を結び直すことになります。

ここで条件を動かすと現場が動揺します。

雇用も指導体制もそのまま引き継ぐのが原則で、当面はほぼ全員に残ってもらう前提で設計します。

正規講師だけでなく、授業を実際に回しているアルバイト・非常勤講師も同じ姿勢で臨みます。

科目・曜日・担当生徒ごとに講師が入れ替わると、指導の継続性が崩れ、生徒の満足度に直結するためです。

早い段階で全講師リストを把握し、契約締結後に「何も変わらない」と一人ひとりへ伝えることが、引き継ぎ後の安定を作ります。

デューデリジェンスで見るべき学習塾固有の財務リスク

学習塾固有の財務リスクとして3点を確認します。

未払い残業代は、個人塾でリスクが高い項目です。

正規スタッフが実態と乖離した「みなし残業」の扱いを受けていると、引き継いだ後に未払い賃金の請求が来て損害が生じます。

次に、月謝の前払い金(前受金)は負債として計上が必要です。

年払い・半期払いの月謝を受け取っている場合、まだ授業を提供していない分は前受金として負債に計上すべきで、財務書類で正確に処理されているかを確認します。

最後に、エリアの将来人口です。前述のとおり、5年後に子どもが半減するようなエリアは、デューデリジェンスで将来人口まで踏み込んで見られます。

さらに、生徒数の水増し計上を防ぐ意味でも、表明保証条項で「在籍生徒数は正確に報告している」「未払い残業代は存在しない」ことを譲渡側に表明してもらい、違反時の損害賠償を定めておきます。

 


学習塾のM&Aの仲介会社と専門家の選び方——伴走体制と実績の確認ポイント

学習塾のM&Aを進めるには、仲介会社や専門家のサポートが実務上ほぼ必須です。

学習塾のM&Aを扱う仲介会社の種類と特徴

学習塾のM&Aに関わる仲介会社は、大きく3種類です。

大手M&A仲介会社は案件数が多く、引き継ぎ手候補のネットワークが広いです。

教育業界に特化しているわけではないため、FC本部承認や校舎賃貸借といった学習塾固有の論点への対応は、担当者によって差が出ます。

一方、業種特化型のM&Aアドバイザリーは、学習塾の現場を知るアドバイザーが担当するため、価格評価や交渉の精度が高い傾向があります。

そしてM&Aマッチングプラットフォームは、案件情報をネット上で公開して当事者が直接交渉するタイプで、費用は抑えられるものの、複雑な条件交渉や法務・税務のサポートは限定的です。

PMIまで伴走するか——「売り切り型」を避ける

学習塾は人材こそが価値の源泉です。

だからこそ、引き継ぎ後のPMI(統合プロセス)まで一緒に走ってくれる相手かどうかが、仲介会社選びの分かれ目になります。

特に注意したいのが「売り切り型」です。成約して終わりの伴走では、引き継いだ後の現場づくりが難しくなります。

引き継ぎ後にこそ難所が来るため、PMIを重視し、塾の文化を尊重してくれる相手を選ぶことをおすすめします。

なお、手数料は成功報酬型が一般的で、譲渡金額が大きいほど料率が下がるレーマン方式が広く使われています。

最低報酬額の設定がある会社も多いため、費用の安さだけでなく、引き継ぎ後まで面倒を見る体制があるかを確認してください。

仲介会社の選び方と手数料の詳細については、こちらのコラムもおすすめです。

『学習塾のM&Aの仲介会社・手数料の選び方』

 

学習塾のM&Aの主な事例——大手×中小・異業種・同業統合の3パターン

実際にどのような学習塾のM&Aが行われているか、公開情報をもとに整理します。

大手学習塾チェーンによる中小塾の譲受事例

早稲田アカデミーは個別進学館を子会社化し、個別指導の教室網を広げました。

英進館はビーシー・イングスを傘下に収め、九州エリアの展開を強化しています。

明光ネットワークジャパンはケイ・エム・ジーコーポレーションを子会社化しています。

これらに共通するのは、引き継ぐ側が既存ブランドを保ったままエリアや生徒数を広げている点です。

引き継いだ後も旧ブランド名を残すケースがあり、生徒・保護者への影響を抑える配慮がうかがえます。

異業種企業による学習塾のM&Aの事例

ヒューリック(不動産会社)はリソー教育を子会社化しました。

保有物件への塾誘致や新規物件開発への活用が期待された動きです。

ベネッセホールディングスはデジタルハリウッドを子会社化し、デジタルクリエイティブ教育へ広げました。

ナガセはダンロップスポーツウェルネスを傘下に収め、スポーツ教育への展開を図りました。

ただし、こうした異業種参入は全国規模の大手・上場企業に多く見られる形です。

中小規模の学習塾のM&Aでは、同業者による水平統合が主流だという点は押さえておいてください。

同業者による水平統合・小規模M&Aの動向

学習塾業界のM&Aの実態は、同業者がエリアを広げる水平統合が中心です。

引き継ぐ側は基本的に同一商圏でドミナント的に近隣へ広げます。

東京の法人が大阪の塾を引き継ぐような飛び地は、中小規模ではほぼありません。

学研やベネッセのような全国規模は別ですが、それは例外と考えてください。

譲渡額が数百万〜1,000万円程度の小規模案件も実在します。

この場合、引き継ぐ側には個人や独立志望の会社員が含まれ、自己資金と日本政策金融公庫等の融資を組み合わせて資金を作るケースがあります。

とはいえ小規模でも、FC本部承認・賃貸借引き継ぎ・講師の継続といった論点は同じように発生します。だからこそ、費用をかけてでも専門家のサポートを得ることを勧めます。

 

学習塾のM&Aを成功させるための実務チェックポイント

M&Aの成否は、成約前の準備と成約後のPMIで決まります。

譲渡前に整えておくべき3つの状態

まず、直近1年のPLを整えます。

販促費をかけてでも生徒数とPLを良い状態に見せ、接待交際費のような不要な経費は削ります。

「1年かけて数字を整える」つもりで、譲渡の1年前から数字を作り込むことが、希望価格に近づける近道です。

次に、離職率を1年前から下げます。塾は人材こそが価値の源泉ですから、講師が定着している塾ほど評価されます。

そのため、譲渡を視野に入れた段階から、講師との関係を安定させておくことが評価につながります。

最後に、財務書類を整えます。

3期分の決算書・月次試算表・在籍生徒数の月次推移データを揃え、月謝の前払い金が前受金として正しく計上されているかを確認します。

FC加盟塾は加盟契約書も用意します。この準備の有無で、デューデリジェンスの速度が変わります。

引き継いだ後のPMI——最初の2〜3年で何を優先するか

PMI(Post Merger Integration=M&A後の統合)は、学習塾のM&Aで最も失敗しやすいフェーズです。

鍵はカルチャーフィットです。

まず、最初の2〜3年は、ルールを大きく変えないことが原則です。

少なくとも待遇の下方修正はしません。

そのうえで、信頼関係を築いてから、必要な変化を少しずつ加えます。

実際、定着がうまくいく塾は、引き継ぐ側の経営陣と現場の幹部が最初の2年でよく顔を合わせている傾向があります。

懇親の場などで人間関係を築き、その上で評価制度などを前向きに見直した塾は、現場のやる気が上がり生徒数を伸ばしました。

契約締結後の早い段階で、講師との対話を始めます。

経営者が変わる不安を解消し、処遇・役割・方針が続くことを直接伝えます。

保護者へも教育方針の継続性を丁寧に伝え、退塾の不安を抑えます。

引き継ぎ後の現場づくりに不安がある段階でも、塾の現場を知る担当者に一度相談しておくと、PMIの優先順位を整理しやすくなります。

 


【まとめ】学習塾のM&Aは「塾の現場を知った専門家」に相談することから始まる

学習塾のM&Aで譲渡側が得られるのは、廃業では手にできない創業者利益と、生徒・講師への責任を果たすことの両立です。

引き継ぐ側にとっては、ゼロからの出店よりはるかに速く事業を軌道に乗せる手段です。

価格は営業利益の約3年分に時価純資産を足した額が起点で、最終的にはPLで判断します。

倍率を押し上げるのはブランドと合格実績で、人口が伸びるエリアほど高く評価されます。

また、講師の雇用は条件を変えずに引き継ぐのが原則で、当面はほぼ全員に残ってもらう前提で設計します。

そして、引き継いだ後の2〜3年でルールを急に変えないこと、PMIまで伴走する相手を選ぶことが、成功の条件です。

そして、タイミングはできるだけ早く動くことをおすすめします。

業界はダウントレンドにあり、同じ経営を続けるほど利益は目減りします。

譲渡案件が増えれば相対的に価値も下がるため、先送りするほど不利になりがちです。

最初の一歩は、塾の現場と教育業界のM&Aの両方を知る専門家へ相談することです。

財務・法務・税務をワンストップで扱え、引き継ぎ後のPMIまで伴走できる体制があるかを、最初の相談時に確かめてください。

船井総研あがたFASの学習塾のM&A相談は無料で受け付けています。

自社の塾の価値をおおまかに知りたいという段階からでも対応できます。業種別の資料は こちらからダウンロードできます。


経営の正解は、一つではありません。 まずは出口戦略の『選択肢』を可視化する診断ツールを手に取り、 次なるステージへの展望を具体化する準備を始めてください。 プロの目利きで自社の『真価』を知ること。それが、後悔のない決断への第一歩です。

【業界専門コンサルタントが担当】「出口戦略」診断で自社の価値を正しく守る。ベストな承継を実現するための第一歩。


よくある質問

Q. 学習塾のM&Aとは何ですか?廃業とどう違いますか?

学習塾のM&Aとは、塾の経営権または事業を第三者へ引き継いでもらい、事業を継続させる仕組みです。廃業では在籍生徒は行き場を失い、講師は職を失い、譲渡収入も発生しません。M&Aでは事業が続くため、生徒の学習機会と講師の雇用を守りながら、創業者が譲渡対価を受け取れます。原状回復や解雇補償といった廃業コストが発生しない点でも、後継者不在の経営者にとっては、廃業の代替ではなく事業を未来へ渡す積極的な選択です。

Q. 学習塾の譲渡価格はいくら程度ですか?

学習塾の価格は「時価純資産+営業権」で算定し、営業権の目安は営業利益の約3年分です。一教室から数教室規模なら営業権は営業利益の3倍程度に収まるケースが多く、規模が大きく実績のある法人ほど倍率は上がりやすくなります。最終判断はPL(損益)で行い、その地域トップ校への合格実績などブランド価値が高い塾は、価格が通常の算定を超えて伸びることがあります。正確な算定は企業価値評価の専門家へ依頼してください。

Q. 学習塾のM&Aにかかる期間はどのくらいですか?

学習塾のM&Aは、相談開始から成約・クロージングまで一般に6か月〜1年程度が目安です。もともと知り合い同士でマッチングがスムーズな場合は、半年程度で成約することもあります。一方、FC本部の承認や複数教室の賃貸借確認が必要な案件は1年以上かかることもあります。進学塾は入試直後の2〜3月に生徒が入れ替わるため、新学期前の4月や夏前を成立時期に選び、生徒数を安定させる判断をすることがあります。

Q. 学習塾のM&Aで講師が辞めてしまわないか不安です。どう対策しますか?

学習塾は人材が価値の源泉であるため、講師の雇用は引き継ぎが原則で、当面はほぼ全員に残ってもらうのが通例です。最大の対策は、雇用条件をこのタイミングで変えないことです。待遇の下方修正をせず、契約締結後に一人ひとりへ「何も変わらない」と直接伝えます。さらに最初の2〜3年はルールを大きく変えず、引き継ぐ側の経営陣と現場が時間をかけて信頼関係を築くことで、講師の定着と生徒数の安定につながります。

Q. フランチャイズ加盟の学習塾でもM&Aはできますか?

FC加盟塾でもM&Aは可能ですが、本部の承認が必要になります。FC加盟契約に「経営権の第三者譲渡には本部の事前承諾が必要」という条項が含まれていることが多いためです。本部自身が引き取る、または別のFC加盟者へ引き継がせるケースもあります。承認を得ないまま進めるとFC契約の解除リスクがあるため、まずFC契約書を確認し、M&A開始前に本部へ相談してください。本部による審査やロイヤリティの調整で時間がかかることもあります。

 


中野 宏俊

(株)船井総研あがたFAS 執行役員

財務コンサルティングの業務経験に加え、事業承継・事業再生コンサルティングの支援経験を多く持つ。2017年10月に船井総研入社後、M&Aコンサルティングにより34件の案件成約を担当。 現在、船井総研グループにおける事業承継・M&Aコンサルティングの中核的な役割を担う。

中野 宏俊

(株)船井総研あがたFAS 執行役員

財務コンサルティングの業務経験に加え、事業承継・事業再生コンサルティングの支援経験を多く持つ。2017年10月に船井総研入社後、M&Aコンサルティングにより34件の案件成約を担当。 現在、船井総研グループにおける事業承継・M&Aコンサルティングの中核的な役割を担う。