パチンコ業界 2024年のM&A振り返りと2025年以降

パチンコ業界の2024年振り返りを、専門コンサルタントより解説いたします。

1.2023年と2024年の成約事例比較

2024年は28件のパチンコM&Aが成立。2023年度のパチンコM&Aは約50件でしたので、それから成約件数を大幅に減らす傾向となったのが2024年のパチンコM&Aでした。その理由は、(買い手目線で)魅力的な売り案件が減っていること。加えて、買い手の立場ではM&A案件を選び易い状況が進行しているためです。パチンコ関連M&Aは、年々、買い手有利の状況が時流となっていますが、その時流に加えて、いよいよ「売り物になる良物件がない」という状況に突入してきたとも考えられます。

また、2024年度パチンコM&Aの特徴としては、いわゆる「法人としてのパチンコ事業からの完全撤退」が半数以上を占めました。2023年度は、いわゆる防衛買い(競合法人の出店阻止も兼ねて近隣店舗をM&Aで取得する)が目立ちましたが、その傾向が一変しております。今までは、いわゆる店舗譲渡が主。しかし、2024年を境にパチンコM&Aは法人譲渡が主流になる。そんな潮目を感じさせたのが2024年度パチンコM&Aの実績です。

 2.「叩き売り」より「業績アップ」で時期を待つのも一案

店舗譲渡から法人譲渡に潮目が変わったといえども、買い手有利の状況は加速してます。M&A成立を目指すならば、売り手様は、納得できない譲渡対価で叩き売ることを承諾することも必要。パチンコ事業から卒業できたことを良しとするという割り切りが要る状況と思います。ただ、売り手様の本音ではこの心境を受容するのは辛い。ので、現時点では、既存店の再投資をしながら、力相応に業績アップを模索するのが最も有効と思います。もちろん、条件に合う買い手様とのご縁があれば全力を尽くされるべき。ただ「売らざるを得ない」とご自身を追い込まず「条件が合わないならば業績を伸ばす」という気持ちを強く持ち、売り手様はM&A成立を模索することが肝要と思います。

幸い、2023年に比べた2024年のパチンコ市場はいくらか市場拡大傾向が出ています。パチスロへの投資など、投資先を間違えなければ業績アップの果実を得られるのも事実です。2025年度はパチスロBT機の発売など、パチンコ業界としての新たな試みもあります。設備投資の高騰傾向や、資金調達が困難となっている状況など、パチンコ業界全体の閉塞感が目立ちますが、ただ、その閉塞感を打開するような取り組みも少しずつ出てきそう。個人的には、コロナ禍を経験した皆様ならば、パチンコ業界全体を覆う閉塞感を打開するような状況を手繰り寄せれるとも思っております。 

3.パチンコ業界の閉塞感打破に向けた一手とは?

パチンコ人口の減少。設備投資の高騰傾向。大手法人の寡占化。特に中小法人には、先行き不安要素といえますが、ただ、このような傾向は、パチンコ業界に限らず、他の業界においても起こり得ていることのようです。例えば、年々、ビール販売数量(発泡酒なども含む)が減少している中、ビールメーカー各社においては、苛烈なシェア争いにしのぎを削り、短期的な売上のための施策を乱発することもあったとのことです。市場縮小が続いているにも関わらず、自社のシェアアップのために、持続可能でない販売手法から脱却できない。ただ、ビールメーカーの中には、その悪循環から脱却すべく下記のような考え方に改められる傾向が出てきているようです。

  • 年々減り続けている販売数量におけるシェア争いにこだわらない。アルコールの常飲者に向けて、さらに摂取量を増やすような戦略から卒業。飲める人も飲めない人もアルコール(ノンアルコール飲料含む)を楽しんでもらえる環境づくりやお客様を増やすことに注力する
  • 従来のヒット商品の模様や二番煎じではなく、お客さま(消費者)にとって「今まで提供してこなかった価値」を追求した新商品を開発。新たな世界観を価値提供することで、アルコール常飲者以外の顧客層からの支持獲得狙う

ちなみに、アルコール常飲者は約2000万人と言われます。「販売数量が減っているにも関わらず、苛烈にシェア争い」というのは、その約2000万人の財布中身奪い合い。それから卒業しなければ、アルコール依存症問題も解消されないかもしれないし、アルコールを通じてどんどん不健康者を作ってしまうことにもなってしまいかねない。その悪循環は卒業するべきというのは、とても理解ができることです。そうではなく、アルコール常飲者以外の約7000万人(たしなむ程度の顧客層含む)に楽しんでもらう取り組みを重視することで、新しい市場を創造し、自社の存在価値を高めていく(≒業績を伸ばす)。ビールメーカー各社の中には、このような考え方も起こっているようです。

そんなビールメーカー各社の取り組みをお聞きする中で、パチンコ業界に長年携わっている私としては、非常に身につまされるような思いを抱いた次第です。ただ、同時に「パチンコ業界も閉塞感打破のために同じようなムーブメントが起こるはず」と思いました。パチンコ業界においても優秀な人材が揃っていますし、パチンコ業界に関わるほぼすべての立場の方々が、この閉塞感打破をしなければならないと認識しているからです。ビールメーカー各社のように、パチンコ業界のお手本となるような先進事例もあります。必ず、パチンコ業界も閉塞感打破のムーブメントは起こるはずです。

4.2025年以降は経営者の使命感が問われる年に

ただ、パチンコ業界にて、そんなムーブメントが起こったとしても、経営者には、その使命感が問われることになるのは2025年以降の経営環境といえます。日本全体の人口が減少し、そして、例えば、円安が更に進行すれば、日本の市場は更に縮小する可能性が高い。日本の市場における企業経営は益々難易度が上がることが想定されるからです。「新たな価値提供」「より多くの雇用創出」など、経営者が社会から求められていることに応えられない限り、パチンコ業界にムーブメントが起こったとしてもその享受は難しいと思います。

ただ、「新たな価値提供」「より多くの雇用創出」といえども、難しく考える必要もないかと思います。パチンコ事業を中心とした事業拡大戦略ならば対象エリアを広げる。パチンコ事業の一本足打法からの脱却を目指すならば、模索している対象業種を戦略的に広げる。もしくは大手資本へのグループイン(M&A)による資本と経営の分離を考える。2024年まで試行錯誤で模索していた取り組みを戦略的に大きく展開する。そんな決断からスタートすれば良いのでは?と思います。

要するに近年の“お試し期間”は2024年で終了。2025年以降はいよいよ“本番”です。そして、その“本番”に挑んでいる法人には、業界全体の閉塞感打破のムーブメントが追い風になるかもしれない。そのように考えれば、様々なチャレンジができるかと思います。是非、2025年を良い年に。皆様のご健勝・ご多幸を心からお祈りいたします。

パチンコ・アミューズメントのM&Aに関する詳細な情報は、こちらをご参照ください。

1.パチンコ・アミューズメントM&AのTOPへ
2.パチンコ業界 2024年のM&A振り返り
3.パチンコホールの売却を検討する時に知っておくべき20の情報
4.パチンコホール店舗M&Aの評価事例
5.船井総研あがたFASが目指す価値提供とは~パチンコ業界M&A~

最後に「売主が必ず読む本」を下から無料でダウンロードいただけます。ぜひご覧ください。

奥野 倫充

(株)船井総研あがたFAS ディレクター

1996年に船井総合研究所に入社。1998年よりパチンコ業界のコンサルティングに従事している。2019年にパチンコ法人のM&A仲介案件を経験。その後、レジャー産業事業者向けM&Aコンサルティングに従事している。

奥野 倫充

(株)船井総研あがたFAS ディレクター

1996年に船井総合研究所に入社。1998年よりパチンコ業界のコンサルティングに従事している。2019年にパチンコ法人のM&A仲介案件を経験。その後、レジャー産業事業者向けM&Aコンサルティングに従事している。