不動産仲介業界(売買)において成功するM&Aのポイント

本稿では、不動産仲介業界(売買)におけるM&Aを成功させるためのポイントを、譲渡(売り主)側の視点に重点を置きながら解説いたします。

1. 不動産仲介業界におけるM&Aの類型

不動産仲介業界(売買)におけるM&Aには、以下のような類型があります。

水平型M&A

同業他社とのM&Aです。規模の経済を追求し、市場シェアの拡大やコスト削減を目的とします。例えば地域密着型の不動産仲介会社同士のM&Aや、大手不動産仲介会社による中小不動産仲介会社の買収等がこれに該当します。

垂直型M&A

不動産仲介業と関連性の高い事業を行う企業とのM&Aです。例えば、不動産開発会社、不動産管理会社、金融機関などとのM&Aが考えられます。事業の垂直統合により、シナジー効果の創出や事業の安定化を目的とします。例えば、不動産仲介会社が不動産管理会社を買収、不動産開発会社が不動産仲介会社を買収等が当たります。

集中型M&A

既存事業との関連性を強化するM&Aです。例えば、特定の地域に特化した不動産仲介会社を買収することで、地域におけるシェア拡大を図るなどが考えられます。都心部に強い不動産仲介会社が郊外の不動産仲介会社を買収するケース等です。

複合型M&A

異業種とのM&Aです。例えば、IT企業やコンサルティング会社などとのM&Aが考えられます。新規事業への進出や新たなビジネスモデルの構築を目的とします。

2. M&Aを成功させるためのステップ

不動産仲介業界(売買)におけるM&Aを成功させるためには、以下のステップを踏むことが重要です。

M&Aの目的を明確にする

M&Aを成功させるためには、まず「なぜM&Aを行うのか」という目的を明確にすることが重要です。目的が曖昧なままM&Aを進めてしまうと、適切な相手探しや交渉が難航し、失敗に終わる可能性が高まります。例えば、譲渡(売り主)側のM&Aの目的としては、以下のようなものが考えられます。

・後継者不足の解消
・事業の拡大・成長
・経営基盤の強化
・企業価値の向上
・従業員の雇用維持・待遇改善
・キャッシュアウト
・新規顧客の獲得

これらの目的の中から、自社にとって最も重要なものを明確化し、M&Aの方向性を定めることが成功への第一歩となります。後継者不足によりM&Aを選ばざるを得ない状況に置かれる前に、また業績が良いうちに、第三者への承継を検討することが、重要なポイントとなります。

適切なM&Aアドバイザーを選ぶ

M&Aは、専門的な知識や経験を必要とする複雑なプロセスです。M&Aアドバイザーには、証券会社、銀行、コンサルティング会社など、様々な業種があります。
不動産仲介業界に精通したM&Aアドバイザーを選ぶことがM&Aを成功させるためのポイントとなるでしょう。業界特有の慣習や法規制、市場動向などを理解しているアドバイザーであれば、より的確なアドバイスを受けることができるためです。

財務状況を把握し、企業価値を算定する

M&Aにおいては、自社の財務状況を正確に把握し、適切な企業価値を算定することが重要です。企業価値は、M&Aの交渉における重要な要素となるため、客観的な視点で評価する必要があります。企業価値の算定には、DCF法、時価純資産法、類似会社比較法など、様々な手法があります。M&Aアドバイザーと相談しながら、自社に適した手法で企業価値を算定する必要があります。

譲渡条件を明確にする

M&Aの交渉では、譲渡価格だけでなく、従業員の雇用維持、ブランドの継続、事業の継続性など、様々な条件を検討する必要があります。譲渡条件は、M&A後の事業運営に大きな影響を与えるため、事前にしっかりと検討しておくことが重要です。譲渡条件を明確にすることで、M&A後のトラブルを防止することができます。また、譲渡条件を整理しておくことで、M&Aの交渉をスムーズに進めることができます。

買い手候補の選定と交渉

M&Aアドバイザーの協力を得ながら、自社の譲渡条件に合致する買い手候補を選定します。買い手候補の選定にあたっては、企業規模、事業内容、財務状況、経営理念、企業文化など、様々な要素を考慮する必要があります。買い手候補との交渉では、譲渡価格、譲渡条件、M&A後の事業計画などを協議します。交渉は、M&Aの成否を左右する重要なプロセスであるため、M&Aアドバイザーのサポートを受けながら、慎重に進める必要があります。

契約締結とM&A後の統合

交渉が成立したら、M&A契約を締結します。M&A契約書には、譲渡価格、譲渡条件、M&A後の事業計画など、M&Aに関する重要な事項が記載されます。契約締結後は、M&A後の統合プロセスに移行します。M&A後の統合プロセスでは、組織、人事、システム、文化などを統合し、新たな体制を構築していきます。統合プロセスは、M&Aの成否を左右する重要なプロセスであるため、綿密な計画と準備が必要です。

3. 譲渡(売り主)側の注意点

不動産仲介会社がM&Aを検討する際には、以下の点に注意する必要があります。

顧客情報の保護

顧客情報は、不動産仲介会社にとって最も重要な資産の一つです。M&Aの過程において、顧客情報が適切に管理されるよう、買い手候補との間で秘密保持契約を締結するなど、必要な措置を講じる必要があります。個人情報保護法や関連法規を遵守し、顧客のプライバシー保護に最大限配慮する必要があります。

従業員の雇用維持

従業員は、不動産仲介会社にとって貴重な人材です。M&A後も従業員の雇用が維持されるよう、買い手候補と交渉する必要があります。従業員の不安を解消し、円滑な統合を進めるためには、M&Aに関する情報共有やコミュニケーションを密にすることが重要です。

ブランドの維持

長年かけて築き上げてきたブランドは、不動産仲介会社にとって重要な資産です。M&A後もブランドが維持されるよう、買い手候補と交渉する必要があります。場合によっては、ブランドの存続を譲渡条件に含めることも検討する必要があります。

地域社会への貢献

不動産仲介会社は、地域社会に密着したビジネスを展開しています。M&A後も地域社会への貢献を継続できるよう、買い手候補と交渉する必要があります。地域社会との良好な関係を維持することは、M&A後の事業展開においても重要です。

不動産仲介業界(売買)におけるM&Aは、経営課題を解決し、企業の成長と発展を実現するための有効な戦略です。M&Aを成功させるためには、目的の明確化、適切なアドバイザー選び、財務状況の把握、譲渡条件の明確化、買い手候補の選定と交渉、契約締結とM&A後の統合など、様々なプロセスを慎重に進める必要があります。

M&Aを検討する際には、専門家であるM&Aアドバイザーに相談することを強くお勧めします。

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大西 由訓

(株)船井総研あがたFAS シニアコンサルタント

中小企業サポートのエフアンドエムにて個人事業主・法人の支援をした後、雑貨企画販売業のシンシアの財務担当役員に就任。船井総合研究所に入社後は、不動産業を中心に複数の案件成約に携わり、現在は不動産・建設M&Aを統括。

大西 由訓

(株)船井総研あがたFAS シニアコンサルタント

中小企業サポートのエフアンドエムにて個人事業主・法人の支援をした後、雑貨企画販売業のシンシアの財務担当役員に就任。船井総合研究所に入社後は、不動産業を中心に複数の案件成約に携わり、現在は不動産・建設M&Aを統括。