大手電力会社・大手ガス会社を中心とするエネルギー業界においては、様々な目的を持ったM&Aが進んできており、注目が集まっている業界となっています。
例えば、大手エネルギー事業者においては、国内需要の縮小等を補うため、M&Aという手段を活用して、以下のような成長戦略を進めています。
水平統合
事業エリアの拡大を企図した、一般的には水平統合と言われるM&Aの手法で、特にエネルギー業界では、LPガス業界において、M&Aが活発に行われています。
LPガスの国内需要は減少していくなかで、一定程度のシェアを獲得することで、配送効率の維持向上、価格競争力を確保することが出来るため、その目的に資するM&Aが多く行われています。
垂直統合
業務プロセスを拡大していくための、一般的には垂直統合と言われるM&Aの手法で、特にエネルギー業界では、太陽光発電事業者によるパネル製造事業の買収等、いわゆる「川上」分野への進出が散見されています。
周辺事業の拡大
既存事業エリアの周辺領域に進出することを目的としたM&Aの手法で、特にエネルギー業界では、これまでは太陽光発電等の再生可能エネルギー事業への進出などに際して、M&Aを活用する事例が散見されました。
再生可能エネルギー分野においては、太陽光発電だけではなく、洋上風力、バイオマス、水素、アンモニア等の次世代クリーンエネルギーや、蓄電池・電気自動車等の周辺商材への先行投資を行うような事例も増えてくるものと思われます。
新規事業への進出
安定的な顧客基盤を有する大手エネルギー事業者においては、顧客層に対してのアプローチが可能という強みを梃子にし、非エネルギー分野への進出を企図した、M&Aも多く行われています。
特にエネルギー業界においては、住宅事業を中心とする不動産事業や建設事業等とは親和性が高く、業界を横断したM&A・提携は、今後も増加するものと考えられます。
さらには、1の事業エリア拡大(水平統合)とも重複はするのですが、エネルギー業界においては、海外進出・海外シェア拡大を企図したM&Aというのも、多く行われています。
それでは、本コラムのお題目である「同業者M&A」と「異業種M&A」について、当該業界の特性も含めて記載させて頂きます。
同業者M&Aの注意点
まず、「同業者M&A」につきましては、前述の「Ⅰ、水平統合」「Ⅱ、垂直統合」「Ⅲ、周辺事業の拡大」が、基本的には該当し、M&Aの中でも多くの事例が存在します。
その理由としては、譲渡側・譲受側のいずれにおいても、業界知識や業界慣習等を理解していることで、M&Aのプロセスも円滑に進むことが多く、また、M&A後の引継ぎや統合が想像しやすく、相互の強み弱みを理解することで、シナジー効果を創出しやすいことが挙げられます。
M&Aによるシナジー効果としては、以下のようなものが想定され、エネルギー業界でも業種によって、その違いはあるものの、M&Aの目的には含まれるものと想定されます。
A) 販売シナジー
譲渡側・譲受側の相互が有する販路や、ブランドを活用することで、クロスセル等、売上高増加を期待。
B) 原価・コスト改善シナジー
スケールメリットによる仕入単価や各種費用の削減が期待できる。また、これまで外注等に依存していた業務を内製化することによる原価改善等も期待。
C) 研究開発シナジー
技術・ノウハウ等を共有することによる研究開発の進捗スピードの早期化を期待。
D) マネジメントシナジー
優秀な経営者・管理者のノウハウ等を活用することによる、戦略的な経営ならびに組織マネジメントの効率化を期待。
E) 財務シナジー
スケールメリットによる資金調達力の向上、調達コストや担保等の条件交渉力向上も期待。但し、これらシナジー効果については、以下のようなリスクがあります。
M&Aの検討プロセスにおいては、M&Aを成約させることに注力してしまい過ぎることで、これらシナジー効果について、過度に楽観視してしまい、実現することが難しい事業計画をもとに、バリュエーションをしてしまうリスク。
M&A成立後、実際の統合業務(PMI Post Merger Integration)において、譲受側の強制的・支配的な、過剰なまでの関与による混乱や内部対立発生による、キーマンの離職等でのアナジー効果。
信頼関係が構築されないまま、自走・経営委任という、いわゆる「放置」により、譲渡側・譲受側、それぞれ独自単体での経営となってしまい、期待していたシナジー効果創出に至らないリスク。
同業者M&Aだからとはいえ、やはり長年に亘り、異なる文化のものと経営されてきた2つの企業がM&Aで統合するということは、様々なハレーションリスクがあり、シナジー効果は、M&Aの検討プロセスにおいては保守的に算段し、PMIにおいては細部に亘る配慮をしながら、慎重に進める必要があるものと思われます。
異業種M&Aの注意点
次に「異業種M&A」について、前述では「Ⅳ、新規事業への進出」が該当し、以下のような注意点が挙げられます。
業界知識・業界慣習等の把握が難しく、M&Aプロセスだけでなく、M&A成立後の引継ぎや統合においても、ハレーションが起きやすい。
M&Aプロセスにおいて、事業の強み・弱み、将来性等について、誤った見立て(予測)をしてしまい、バリュエーションにおいても、過度に楽観思考で高値掴みをしてしまうリスクや、逆に過剰にリスクを取り過ぎることで、低い金額提示しか出来ず、M&Aが破談となる可能性が高い。
同業者M&Aでは、比較的創出しやすいシナジー効果についても、ひとつ一つ慎重に考慮し、手続きを進めないと、想定していたシナジー創出に至らないケースが多い。
但し、このような異業種M&Aの最大のメリットは、ゼロから新規事業を立ち上げることに比べて、圧倒的に「時間」を短縮することができ、新たな事業に必要な、インフラ・ノウハウ、人材を早期に獲得できることが挙げられます。
よく、「M&Aにはリスクが多い」という表現をされることもありますが、新規事業を立ち上げることに対してのリスクとの比較をきっちりと行うことが重要であります。
「M&Aを良く見聞きするから」、「仲介会社から話があったかた」、「周りでもM&Aをした人がいるから」というようなことから、M&Aを検討し、お買い物思考・ギャンブル的思考で、M&Aを行うことのリスクは非常に大きいものと思われます。
「なぜ、このM&Aをするのか」という問いに、明確な答えが出来ないM&Aは、本来避けるべきであり、それが、異業種M&Aであれば尚更であります。
しかし、異業種M&Aは、シナジー効果が生まれないというものではなく、固定観念を打破した先には、新たなビジネスモデルのチャンスや、イノベーションを起こすきっかけにもなり得るものであります。
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