今回、長野に根差した印刷事業を営む中央プリント様が、同エリアで印刷事業を手掛ける中外印刷様へ株式譲渡されたことについて、中央プリント元代表取締役・現中外印刷相談役である佐野修一様と、中外印刷の代表取締役である倉田英彦様にお話をお伺いさせて頂きます。
M&A後、相談役として中外印刷様でご活躍されているとのことですが、譲渡し後の働き方について教えて下さい。
佐野氏:2018年8月に中外印刷に株式譲渡しまして、同年11月に中外印刷の工場に会社ごと引っ越しし、そこから半年間2人社長体制で引継ぎを行い、その後中外印刷と合併しました。合併後は、業界の組合関係の対外対応を中心に、中外印刷の相談役として籍を置いております。今は3か月に1回程度、組合の例会に参加しており、愛着のある業界ともつながりを持っている形ですね。
譲渡時点で65歳を迎えていたこともあり、譲渡後バリバリ働くことは難しいと感じていた為、有難い形での働き方、グループインが出来たと感じています。
佐野様が残っていただけるグループイン型でのM&Aとなりましたが、率直なご感想をお聞かせください。
倉田氏:佐野さんがいていただいたおかげで、円滑な引継ぎが出来ました。中央プリントの従業員は当然のこと、長年の中央プリントのお客様も、佐野さんがいていただいたことで皆様安心してくださり、スムーズに中外印刷への引継ぎが出来たと思います。
佐野様は今年でご勇退されるということですが、経営者人生を振り返ってみて如何でしょうか。
佐野氏:正直ほっとしています。自分の周りを見ても65歳で引退している人が多く、自分も「事業承継」という、社長業において最も重要な仕事が出来たことは良かったと思っています。また、社長は引退しましたが、相談役として残る中で、中央プリント時代のお客様とも付き合いがあり、人間関係含めてとても豊かだと感じています。
今年10月に、松本で関東大会があり、この大会を最後に新しい世代に繋いでいければと思い相談役も退くことにしましたが、安心して引退できます。
佐野様がご勇退されることについて、ご感想を聞かせて下さい。
倉田氏:やはりもう少しいてほしいですね。組合関係でもたくさん助けていただいていますし、何より仲間ですので寂しい気持ちがあります。
話を戻して、佐野様がM&Aを検討され始めたきっかけについて教えて下さい。
佐野氏:中央プリントは先代からあがたさんに顧問に入っていただいていたのですが、先代から私に経営権が移ったタイミングで既に私は60歳を迎えていました。業界が縮小しているということもあり、親族にも幹部にも承継するのは難しいなと感じていました。そんな折、大小田さんから「10年後どうするおつもりですか」という、先々を見据えた質問を頂いて、事業承継について考え始めるようになりました。
大小田さんからは、事業承継は5年くらいはかかるから早めに検討を進めて行きましょうとアドバイスをもらい、事業承継に向けた企業価値向上や心の準備を始めていきました。
事業承継の話を始めてから5年経ったタイミングで、利益がしっかり出る体制になり、自分の年齢も65歳と引退が現実的な年齢となってきて、具体的に動き始めました。さらに言えば、従業員の高齢化、知り合いの資材屋さんや紙屋さんの事業整理や合併などをよく聞くようになり、自分もいよいよ動き始めるタイミングだなと思い、お相手探しを始めました。
承継候補企業はいくつかあったかと思いますが、中外印刷様に感じた印象を教えて下さい。
佐野氏:中外印刷は会社の評判も良かったんですね。しかも中外印刷で働く従業員の評判が良かった。自社を褒める従業員は少ないと思うのですが、それほど良い会社なんだなと思いました。また、倉田社長がお若く、厳しい業界環境の中でも、一緒になれば成長を描けるのではないかと思いましたね。
倉田社長、中央プリント様に感じた印象について教えて下さい。
倉田氏:実は私も中央プリントの従業員から人づてに評判を聞いていました(笑)。従業員からの評判も良く、中央プリントを愛するお客様も多くて、魅力を感じました。
TOP面談や、お互いの工場見学も含め3回ほどお会いさせていただいて、佐野さんの温厚なお人柄にも惹かれました。また、小ロットの印刷に強みをお持ちで、シナジー効果が見込めること、当社は既にM&Aの経験もあり、譲受後の良いイメージが明確に湧いて是非譲り受けたいと感じました。
お二人にお伺いしたいのですが、グループイン前後のギャップはありますか。
佐野氏:あまりギャップはないですね。当時感じた印象通りの良い会社だと思います。同業種で、お互いの工場見学も行っていたので、ギャップが起きづらかったのかもしれません。
倉田氏:そうですね、私もあまりギャップを感じていません。譲受後もお互いの従業員同士でのコミュニケーションを頻繁に取っていきましたので、従業員のパフォーマンスが落ちなかったことも要因かもしれません。
理想的なM&Aだと感じるのですが、M&Aのプロセスの中で不安を感じられたシーンはございますか。
佐野氏:年配の責任ある立場の従業員がどう思うかは不安でしたね。裁量権がある従業員ほど、譲渡後の働き方に変化が出ると思うので。また、譲渡後は勤務場所も中外印刷の工場に変わることで、通勤距離の問題で従業員の離脱が増えるのではないかということも不安でした。
倉田氏:私はそこまで不安を感じていませんでした。既にM&Aの経験があったので、問題となりそうな部分も事前に確認できていましたし、譲受を決断してからのプロセスで不安はあまり感じませんでした。
佐野様は中外印刷様に中央プリントを譲渡することを決断されたわけですが、決断に際して最も大きな理由は何でしたか。
佐野氏:M&Aすることは自分の中で固まっていたので、お相手を誰にするかという部分が決断のポイントだったのですが、中外印刷は業績が良く、規模感もあって、縮小が続く印刷業でも成長できると感じたところです。倉田社長もお若く、従業員からも愛されている会社で将来の持続的成長に期待が持てたので、中外印刷に譲渡しようと決めましたね。
お二人にお伺いしたいのですが、今回のM&Aを振り返ってみて、当時のご自身の決断を、どう評価されますか。
佐野氏:いい決断をしました。中外印刷のお客様もいい会社さんばかりですし、安心感があります。私自身がとても満足しているので、自分と同世代同業の社長にも、事業承継に悩んでいるなら中外印刷と一緒になるのはどうかとアドバイスしたところ、本当にグループインすることになり、良いご縁を広げることもできて嬉しく思います。
また、中央プリントの従業員と、中外印刷の従業員が先日結婚しまして、それがここ最近では一番うれしい出来事ですね(笑)。
倉田氏:結婚の発表は嬉しかったですね(笑)。従業員同士の融和もよく、事業を譲り受けたことに間違いはなかったです。佐野さんも本当に穏やかで、引継ぎも円滑に進めていただき、素晴らしいM&Aを行えたと思います。
最後に、中外印刷様のこれからの事業展開について教えて下さい。
倉田氏:今まで5社M&Aと事業譲渡を行ってきました。そのすべてが良いご縁に導かれてのことです。今後も良いご縁があれば是非とも様々な会社様と手を携えていきたいと思いますし、会社全体をもっと成長させていきたいと思います。
最後に、事業承継、M&Aについてご検討されている方にメッセージをお願いできればと思います。
佐野氏:決断するのは早い方が良いですし、何よりもまず専門家に相談することが大事かなと思います。私はM&Aを行うと決断するまでに5年かかりました。その5年の期間に大小田さんと事業承継について様々な可能性を探ってきました。
事業承継は社長の最も大きな仕事だと思います。だからこそ早めに相談して、様々な可能性を探る期間を設けることが大事だと思います。皆さんの事業承継も善いものになることを祈念しています。
