基礎知識

資金調達不要!? 一般社団法人と信託を活用したMBO・事業承継の経営権移転スキーム【後継者の資金負担を大幅軽減】

はじめに:後継者の「資金問題」を解消するMBOストラクチャーの全体像

これまで、MBOの概要について、全体像、レバレッジ効果、レンダー等によるモニタリングについて解説してきました。最終回となる今回は、後継者の資金負担を軽減し得る、一般社団法人および信託を用いたストラクチャーの概要について取り上げます。

 

1. 議決権と経済的価値を分離! 一般社団法人・信託スキームの全体像

 まずは、本ストラクチャーの全体像について概説します。

創業家(後継者である新経営陣は含まない前提)が保有する株式(本稿においてはスーパーマジョリティを保有していることを前提)を、一般社団法人に対し譲渡(信託)します。

この際、創業家を委託者兼受益者(受益権=配当請求権【[1]】等)、一般社団法人を受託者とする信託契約を締結します。

これにより議決権等のみを一般社団法人に集約し、新経営陣は当該議決権を事実上管理・行使することが可能となります。

 

2. 【3STEPで解説】資金負担を抑えたMBOを実現する具体的な手順

STEP 1:一般社団法人の設立と支配

新経営陣が一般社団法人を設立し、その理事に就任します。

理事構成・議決ルールをあらかじめ設計することにより、一般社団法人の意思決定は、事実上新経営陣が掌握(コントロール)できる体制とします。

 なお、一般社団法人を創業家が設立し、その理事に新経営陣を選任する形とすることも可能です。この場合、信託ストラクチャー自体(議決権と経済的価値の分離)は変わりませんが、社員として一般社団法人を最終的に支配するのが誰かによって、「新経営陣がどこまで自立した支配権を持つのか」「創業家がどの程度セーフティネットとして関与を残すのか」が変わってきます。

 

STEP2:信託契約の締結と議決権の集約

創業家と一般社団法人が以下の内容の信託契約を締結することで、対象会社株式の議決権行使権限を一般社団法人に集約します。

  1. 委託者兼受益者:創業家
  2. 受託者:一般社団法人
  3. 信託財産:株式
  4. 受益権の内容:配当請求権 等(株式に内在する経済的価値)

以上の結果、株主名義(議決権行使主体)は一般社団法人側に移りつつ、経済的価値は引き続き創業家が享受する構造となります。

 

3. なぜ資金が不要に? 信託MBOストラクチャーの4大メリット

(1)最大の特徴:議決権と経済的価値の分離

 本ストラクチャーの最大の特徴は、株式の配当請求権などの「経済的価値」と「議決権」を分離できる点にあります。

  • 経済的価値(受益権):創業家に残る
  • 議決権(支配権):一般社団法人を通じて新経営陣が事実上掌握

 これにより、創業家は株式の経済的価値を維持しつつ、経営権(支配権)を次世代経営陣へ移転することが可能となります。

 

(2)後継者の資金負担の抑制

 新経営陣は株式を直接買い取る必要がないため、従来型MBOで想定される株式買取り資金を大きく抑制できる可能性があります。

 すなわち、支配権の移転を主眼としつつ、後継者側の資金負担を軽くできる点が本ストラクチャーの大きなメリットです。

 

(3)経営陣交代時の安定性

 将来、何らかの理由で新経営陣メンバーが交代する場合でも、対象会社の株主構成自体に変更は生じません。

 必要となるのは、一般社団法人における理事会メンバーの変更のみであり、信託契約や株主構成を大きく組み替えることなく、比較的スムーズな経営権の引き継ぎが可能となります。

 

(4)創業家における相続への対応

 創業家で相続が発生した場合、相続の対象となるのは原則として「信託受益権」のみです。

 そのため、一般社団法人による議決権行使(経営支配)には直接の影響が生じず、相続を契機とした株主構成の分散や支配権の不安定化を一定程度抑制できる点も特徴として挙げられます。

 

4. 【留意点】一般社団法人・信託活用スキームの導入に求められる専門性

本ストラクチャーは、導入にあたり個々の案件特性に応じた「テーラーメード」の慎重な検討が不可欠です。信託契約の内容、一般社団法人のガバナンス設計、会社法・税法・信託法等の観点からの検討など、法務・税務両面で高度な専門性が求められます。

弊社では、案件ごとの事情に応じて、弁護士・税理士等の専門家とチームを編成し、本ストラクチャーの組成から運用まで、総合的なご支援を行う体制を整えております。ご関心をお持ちの経営者様は、お気軽にお問い合わせいただければ幸いです。

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【参考文献】

神田秀樹 著「会社法 第27版」 2025年3月 株式会社弘文堂

牧口 精・斎藤 孝一 著 「事業承継に活かす持分会社・一般社団法人・信託の法務・税務(第2版)」 2018年10月 株式会社中央経済社


【[1]】株主の権利に関する補足:一般に次のように整理されています。

株主の権利=自益権+共益権

自益権=剰余金の配当請求権、残余材案分配請求権 等

共益権=議決権、会社の運営を監督是正する権利(株主総会決議取消訴権、取締役等の違法行為差止請求権等)

石ケ森 英俊

(株)船井総研あがたFAS 公認会計士

公認会計士 日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)

アーサー・アンダーセン監査部門(朝日監査法人)及びコーポレートファイナンス部門、KPMG FAS、あがたグローバルコンサルティング、独立系投資銀行、自己資金投資会社 等を経て、2025年、船井総研あがたFASに参画。法定監査、IPO支援業務等に11年間従事した後、約25年間に亘り、M&Aアドバイザリー(FA業務)、事業再生アドバイザリー業務、中期事業計画策定等の財務コンサルティング、企業内研修講師業務 等に従事。

石ケ森 英俊

(株)船井総研あがたFAS 公認会計士

公認会計士 日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)

アーサー・アンダーセン監査部門(朝日監査法人)及びコーポレートファイナンス部門、KPMG FAS、あがたグローバルコンサルティング、独立系投資銀行、自己資金投資会社 等を経て、2025年、船井総研あがたFASに参画。法定監査、IPO支援業務等に11年間従事した後、約25年間に亘り、M&Aアドバイザリー(FA業務)、事業再生アドバイザリー業務、中期事業計画策定等の財務コンサルティング、企業内研修講師業務 等に従事。