この記事では「事業承継税制特例」について、制度の仕組みから、現場のプロしか知らない活用リスク、さらには退職金を活用した手取り最大化の秘策まで解説。
読了後には、自社がこの制度を使うべきか否かが明確に判断できるようになります。
M&Aにおける税金の種類や対策について詳しく知りたい方はこちら。
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1. そもそも事業承継税制(特例措置)とは? 贈与税・相続税が「実質ゼロ」になる仕組み
「今の株価だと、相続税だけで会社が傾くかもしれない…」
多くのオーナー経営者が抱えるこの不安を、一挙に解決する可能性を秘めているのが「事業承継税制の特例措置」です。
本来、後継者が自社株式を引き継ぐ際には、その評価額に応じた多額の贈与税や相続税が現金で課税されます。
しかし、この特例措置を活用し、一定の要件を満たすことができれば、その納税が100%猶予(先送り)されます。
さらに、後継者が次の代へ事業を承継する際や、万が一の事態が発生した場合には、その猶予されていた税額が全額免除されるのです。
つまり、実質的なキャッシュアウトなしで、次世代へバトンを渡せる画期的な制度と言えます。
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自社株承継の税負担を100%猶予する「期間限定」の特例

この制度の最大のポイントは、「期間限定」の特例であるという点です。
従来の制度では、納税猶予の対象となる株式数に上限があったり、猶予割合が80%だったりと、どうしても一部の納税が発生していました。
しかし、2018年の改正で登場した特例措置では、これが抜本的に拡充されています。
対象株式数: 上限撤廃(全株式が対象)
納税猶予割合: 100%(贈与税・相続税ともに)
これにより、数億円規模の株価がついている優良企業であっても、理論上は税負担ゼロで承継が可能になりました。
ただし、この特例を受けるための贈与・相続は2027年12月31日までに行う必要があります。
「一般措置」との違いは? 雇用要件の緩和と対象株数の拡大
「制度を使いたいが、従業員を雇い続けられるか不安だ」
従来より一般措置では、雇用確保要件として承継後5年間(認定有効期間)における常時使用従業員数の平均(当初規定は隔年における常時雇用従業員数)が相続開始時又は贈与時の常時使用従業員数の8割を維持できなければ認定取り消しのリスクがあり、猶予されたに利子税を付して納付する必要があります。
この硬直的な雇用確保要件は、人手不足やAI化が進む現代の経営者にとって、あまりに重い『足枷』となっていました。
しかし、現在の特例措置ではこの運用が大幅に柔軟化されています。
特例措置では、この雇用要件が実質的に撤廃されました。
仮に雇用が減少しても、正当な理由(経営環境の変化など)を報告し、認定支援機関の指導を受ければ、猶予は継続されます。
また、対象となる後継者も最大3名まで拡充され、親子だけでなく、複数の後継者候補への承継にも対応しやすくなっています。
【2026年3月末まで】「特例承継計画」の提出がすべてのスタートライン

ここで最も重要な期限をお伝えします。
この特例措置を受けるためには、2026年3月31日までに、都道府県知事に対して「特例承継計画」を提出し、認定を受ける必要があります。
この計画書は、「いつ、誰に、どのように会社を継がせるか」を示すもので、認定経営革新等支援機関(税理士や商工会議所など)の所見が必要です。
この期限を1日でも過ぎれば、どんなに要件を満たしていても特例措置は使えません。「まだ先の話」と思わず、今のうちから準備を始めることが不可欠です。
2. 税理士も提案しない「退職金×事業承継税制」の黄金比率
ここからは、パンフレットには載っていない、実務家だからこそ知る「手取り最大化」の戦略をお話しします。
多くの経営者は「事業承継税制を使えば税金はゼロだ」と考えがちですが、実はそれだけでは片手落ちです。
「役員退職金」を組み合わせて株価そのものを下げることで、オーナーの手元に残るお金を最大化し、かつ将来のリスクを減らすことができます。
いきなり株を渡さない! まず「役員退職金」で株価を下げろ

自社株の評価額が高い状態でそのまま贈与すると、猶予される税額も巨額になります。
これは裏を返せば、「万が一猶予が取り消された時の借金」が巨額であるということです。
そこで私たちは、まずオーナー経営者に適正な「役員退職金」を支給することを提案します。
会社から多額の現金を退職金として支払うことで、会社の純資産(内部留保)が減少し、結果として自社株の評価額が下がります。
株価を下げてから事業承継税制を適用すれば、猶予対象となる税額自体を圧縮でき、制度特有の「将来の納税リスク」を物理的に小さくすることができるのです。
「税率55%」の贈与税 vs 「税率約25%」の退職金課税
なぜ退職金がお得なのか。それは税率の仕組みにあります。
贈与税・相続税: 最高税率は55%。累進課税のため、資産が多いほど半分以上持ってかれます。
退職所得: 勤続年数に応じた控除があり、さらにその残額の「2分の1」にしか課税されません。
分離課税のため、実効税率は概ね20%〜30%程度で済みます。
退職金支給による自社株評価の引き下げと節税メリット
ここまでの内容をまとめるとオーナー企業の事業承継やM&Aにおいて、退職金の活用は税負担を軽減するための重要な検討事項となります。
主なメリットとして以下の点が挙げられます。

1. 贈与税負担の軽減と一族のキャッシュアウト抑制
現オーナーが株式贈与の前に退職金を受け取ることにより、会社の利益や純資産が減少するため、結果として株式評価額を引き下げることが可能です。
これにより、後継者に課される贈与税額が抑えられ、一族全体としてのキャッシュアウトを減らすことにつながります。
2. オーナー個人の所得税負担の軽減
退職金は所得税法上の優遇措置があるため、役員報酬や配当として資金を受け取る場合に比べて、現オーナー個人の税負担が軽くなるメリットがあります。
受贈者(後継者)側は、会社から支払われる退職金によって会社保有の現預金が減るため、直接的な資金の引き出しは制限されます。
しかし、前述の通り贈与税の自己負担額が減少するため、結果として現オーナーと受贈者の双方にとってメリットが生じます。
3. M&Aにおける売主の税負担軽減
M&Aのスキームにおいても、退職金を活用することで、売主側(オーナー)の税負担を軽減できる場合があります。
3. 【警告】「とりあえず特例」は危険! 専門家しか知らない"猶予打ち切り"の地雷原
「税金がゼロになるなら、とりあえず申請しておこう」
これは極めて危険な思考です。
事業承継税制は、一度適用を受けると、長期間にわたり厳しい要件を守り続けなければなりません。
ここでは、実際に現場で起きている「認定取り消し(=一括納税)」の悲劇について解説します。
引退後に会社を支配してはいけない具体的ライン
特例を受けるためには、先代経営者は代表権を返上し、退任する必要があります。
しかし、形だけ代表を降りて、実質的に会社を支配し続ける「院政」は、税務調査で真っ先に狙われます。
- 退任後も毎日のように社長室に出社している。
- 取締役会や重要な経営会議に出席し、発言している。
- 採用面接に立ち会い、合否を決定している。
- 銀行との融資交渉に同席している。
これらはすべて、「実質的に経営に関与している」とみなされ、退任の事実を否認されるリスクがあります。
否認されれば、特例適用は取り消され、猶予されていた税金に利子税を加えて即時納付しなければなりません。
「心配だから口を出したい」という親心が、会社にとって致命傷になることがあるのです。
準備段階の「自己株式取得」に潜む「みなし配当」の罠
事業承継の準備として、分散した株式を整理するために、会社が株主から自社株を買い取る(金庫株)ケースがあります。
この時、最も注意すべきなのが「みなし配当」です。
会社が株を買い取る際、資本金等の額を超える部分は「配当」とみなされ、最大で約55%の総合課税(所得税+住民税)が課されることがあります。
通常の株式譲渡益課税(約20%)だと思って安易に行うと、後から莫大な税金を請求されることになります。
M&Aや承継準備における自社株対策は、必ず専門の税理士によるシミュレーションが必要です。
「猶予=借金」である事実。後継者を縛る「5年間の足枷」とは
忘れてはならないのは、この制度はあくまで「納税猶予」であり、「免除」ではないということです。
要件を満たし続ける限り国が待ってくれているだけで、頭の上には常に「巨額の税金」という借金がぶら下がっている状態です。
後継者は、承継後5年間は代表取締役を続けなければならず、株を売ることも、廃業することも簡単にはできません。
「やっぱり経営に向いていなかった」と思っても、辞めるに辞められないのです。
この精神的な重圧、いわば「5年間の足枷」を息子や娘に背負わせる覚悟があるかどうかも、重要な判断基準です。
4. それでも「事業承継税制特例」を使うべき経営者、使うべきではない経営者
これまでのリスクを踏まえた上で、どのような企業がこの制度を使うべきなのでしょうか。
向いている会社:株価が高騰しすぎて納税資金が枯渇している場合
「自社株の評価額が数億円あり、相続が発生したら会社や個人の資産をすべて売り払っても納税できない」
このようなケースでは、事業承継税制特例の活用が必須(マスト)です。
リスク云々以前に、使わなければ会社が潰れてしまうからです。
この場合は、早急に特例承継計画を策定し、認定支援機関と共に鉄壁の防衛体制を構築してください。
向いていない会社:将来的なM&Aによる売却を少しでも考えている場合
「今は息子が継ぐと言っているが、業界の先行きが不安なので、将来的には大手と提携(M&A)するかもしれない」
このように、将来的な株式譲渡の可能性がある場合は、安易な適用は避けるべきです。
制度適用中に株式を譲渡(売却)すると、その時点で猶予が打ち切られ、納税義務が発生します。
売却代金で税金を払えれば良いですが、もし株価が下がっていた場合、「売却益よりも税金の方が高い」という本末転倒な事態になりかねません。
顧問税理士が「やりたがらない」本当の理由と対策

「うちの顧問税理士に相談したが、あまり良い顔をされなかった」
よく聞く話ですが、これは無理もありません。
事業承継税制は手続きが非常に煩雑で、かつ一度ミスをして認定が取り消されると、損害賠償請求に発展しかねない高リスクな業務だからです。
一般的な顧問税理士(記帳代行や法人税申告がメイン)にとって、この制度は専門外であることが多いのです。
もし顧問税理士が消極的な場合は、無理にお願いするのではなく、事業承継や資産税に特化した専門税理士やコンサルティング会社にセカンドオピニオンを求めることを強くお勧めします。
5. まとめ:事業承継税制は「劇薬」。用法用量を守り、最適な専門家と二人三脚を
事業承継税制特例は、納税をゼロにできる強力な効果を持つ反面、副作用も強い「劇薬」です。
「税金が助かるから」という理由だけで飛びつくのではなく、退職金活用による株価引き下げや、後継者の覚悟、将来のM&Aの可能性まで含めて、総合的に判断する必要があります。
2026年3月の計画提出期限まで、残された時間は多くありません。
「自社にとって最適な選択は何か?」
その答えを出すために、まずは弁護士、税理士、司法書士、行政書士など多くの専門家がいますが、事業承継税制の活用と株価対策については、「資産税・事業承継に特化した税理士」または「事業承継の実績豊富なコンサルティング会社」にご相談ください。
もちろん、船井総研あがたFASも事業承継の実務経験が豊富ですので、お気軽にご相談ください。
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事業承継税制特例についてよくあるご質問
Q. 事業承継税制(特例措置)の期限はいつまでですか?
A. 特例を受けるための「特例承継計画」の提出期限は2026年3月31日までです。実際の贈与・相続は2027年12月31日までに完了する必要があります。期限を過ぎると特例は適用できないため、早めの着手が必要です。
Q. 事業承継税制を使うとM&Aで売却できなくなりますか?
A. 売却は可能ですが、株式譲渡の時点で納税猶予が打ち切られ、猶予されていた税額+利子税の一括納付が必要になります。将来的にM&Aの可能性がある場合は、制度適用を慎重に判断すべきです。
Q. 従業員が減ったら納税猶予は取り消されますか?
A. いいえ、特例措置では雇用要件が実質撤廃されています。従業員数が8割を下回っても、正当な理由を記載した報告書を提出し、認定支援機関の確認を受ければ、認定は取り消されません。
Q. 先代経営者が退任後も会社に関わるとどうなりますか?
A. 代表権のない会長や顧問としての関与は可能ですが、実質的な経営権(人事決定や融資交渉など)を行使しているとみなされると、「院政」として認定が取り消されるリスクがあります。
Q. 事業承継税制と退職金はどちらが得ですか?
A. どちらか一つではなく、「退職金で株価を下げてから、残りの株に事業承継税制を使う」のが最も手取りを最大化できる方法です。退職金は税率が低いため、現金を確保する手段として有効です。