基礎知識

M&Aの税金で泣かないために|手取りを最大化する節税の極意と2027年増税リスク

この記事では、M&A(会社売却)にかかる税金の仕組みから、手取り額を最大化するためのプロの節税テクニック、そして将来的に懸念される増税リスクへの対策までを解説します。

読了後には、あなたの会社を売却した際にいくら手元に残るのか、その額をどう守るべきかが明確になります。

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1. そもそもM&Aの税金とは?スキームで変わる「天国と地獄」

M&Aといっても、その手法(スキーム)によってかかる税金の種類や税率は天と地ほど違います。

「売却額」ばかりに目が行きがちですが、重要なのは「税引き後の手取り」です。まずは基本の「2つの道」を理解しましょう。

M&Aにおける税金についてはこちらのコラムもおすすめです。

【株式譲渡】オーナーの手取りが一番多い「王道」の仕組み

中小企業のM&Aにおいて、最も多く選ばれているのが「株式譲渡」です。

これはオーナー個人が持っている株式を譲受企業に売り渡す方法です。

この手法の最大のメリットは、税率が一律20.315%(所得税15.315%+住民税5%)で固定されている点です。

これを「申告分離課税」といいます。

例えば、本業の役員報酬がどんなに高くても、株式の売却益にかかる税金は増えません。

株式譲渡による所得は、累進課税(所得が高いほど税率が上がる仕組み)の影響を受けないため、数億円単位の売却益が出るM&Aでは、オーナーの手元に最も多くの現金を残せる「王道」の選択肢となります。

株式譲渡についてより詳しく知りたい方はこちら

【事業譲渡】会社にお金が入るが「二重課税」のリスクあり

一方、「事業譲渡」は会社の一部(または全部)の事業を売る方法です。

この場合、お金を受け取るのは「オーナー個人」ではなく「会社」になります。

ここに落とし穴があります。

会社に入った売却益には、まず約30%〜34%の「法人税」がかかります。

さらに、その残ったお金をオーナー個人に移そうとして配当を出すと、今度はオーナー個人に「配当所得(最大約55%の総合課税)」がかかります。

つまり、法人と個人のダブルで税金を取られる「二重課税」の状態になりやすく、最終的なオーナーの手取りは株式譲渡に比べて大幅に減ってしまうケースが多いのです。

さらに、事業譲渡には「消費税」も課されるため、譲受企業側の負担も重くなりがちです。

事業譲渡についてより詳しく知りたい方はこちら

【一覧表】あなたの会社はどれ?手法別・税率早見表

項目株式譲渡事業譲渡
売却主体株主(個人オーナー)会社(法人)
主な税金所得税・住民税法人税・消費税
税率一律20.315%法人税 約34% + 配当時の所得税 
課税方式分離課税(給与と合算しない)総合課税(法人の利益と合算)
手取り多い(有利)少ない傾向(不利)

「特にこだわりがない限り、譲渡企業にとっては株式譲渡が有利」というのが、我々専門家の共通認識です。

2. 【緊急提言】将来的な「M&A増税」の足音!動向を注視せよ

ここからは、今まさにM&Aを検討しているあなたにとって、重要な「時間の話」をします。

現在、富裕層に対する金融所得課税の強化が議論されており、将来的にM&Aにかかる税金が増える可能性があります。

「1億円の壁」打破へ。富裕層を狙い撃ちする金融所得課税の強化

これまで、株の売却益はいくら稼いでも一律約20%でした。

しかし、これが「金持ち優遇だ」として問題視され(いわゆる「1億円の壁」問題)、政府の税制改正大綱などで見直しの議論が進んでいます。

具体的には、超高所得者(年間所得が数十億円規模など)に対して、実質的な税負担を引き上げる「ミニマムタックス」等の導入が検討されています。

「自分はそんな大富豪じゃない」と思うかもしれませんが、M&Aで会社を売れば、一時的に数億円〜数十億円の所得が発生します。

制度設計次第では、対象範囲が広がる可能性もゼロではありません。

高額売却を目指すなら「増税リスク」は無視できない

現時点の議論では、売却益が数億円程度であれば影響を受けない可能性が高いですが、今後の改正で基準が引き下げられたり、税率そのものが一律で見直されたりするリスクは常にあります。

もし仮に税率が数%上がるだけでも、売却額が大きければ数千万円単位で手取りが変わってきます。

「いつか売ればいい」と先延ばしにしている間に、税制というルールそのものが変わってしまうリスクがあることを認識しておくべきです。

早期の検討が「吉」と出る可能性

税制は基本的に「年度単位」で変わります。

もし増税が決まったとしても、その適用開始前にM&Aを完了(クロージング)させれば、現行の有利な税率が適用されます。

M&Aは、相手探しから交渉、契約まで半年〜1年はかかります。「増税が決まってから慌てて売る」では間に合わないのです。

リスクを最小限に抑えるには、有利な税制が確実な今のうちに動き出すことが賢明な判断といえるでしょう。

3. 手取りを確実に増やす「M&A節税」の3大奥義【専門家直伝】

増税リスクへの心構えをお伝えしたところで、次は現行制度の中で手取りを増やす「攻め」の節税テクニックを解説します

【奥義①】「役員退職金」を活用して手取りを最大化する

これはM&Aの現場で最もよく使われる、効果絶大のテクニックです。

売却代金の全額を「株式の譲渡代金」として受け取るのではなく、一部を「役員退職金」として受け取るのです。

退職金には「退職所得控除」がある上、課税対象額が1/2になるという強力な税制優遇があります。

そのため、同じ金額を受け取るなら、全額を株の売却益にするよりも、退職金を組み合わせた方が税金が安くなるケースが多いのです。

さらに、譲受企業にとってもメリットがあります。

株式の取得代金は経費になりませんが、退職金は会社の損金(経費)にできるため、法人税を圧縮できるのです。

まさに譲渡企業よし、譲受企業よしの交渉カードです。

役員退職金についてより詳しく知りたい方はこちら

【奥義②】「第三者割当増資」で税金ゼロの資本提携を結ぶ

「会社は売りたいが、完全に手放したくない」「資金を入れて会社を成長させたい」という場合は、株式譲渡ではなく「第三者割当増資」という手があります。

これは新株を発行して譲受企業に引き受けてもらう方法です。お金はオーナー個人ではなく「会社」に入ります。

この場合、オーナー個人は株を売っていないので、税金は1円もかかりません。

※ただし、株価の設定が不適切だと「有利発行」とみなされ、贈与税などがかかるリスクがあるため、専門家による株価算定が必須です。

株価算定についてより詳しく知りたい方はこちら

【奥義③】会社分割で不要資産を切り離す(スリム化)

譲受企業企業が「本業は欲しいが、会社が持っている社宅や高級車、積立金はいらない」と言うケースがあります。

これらを会社に残したまま売ると、その分だけ株価が上がり、税金も高くなってしまいます。

そこで、M&Aの前に「会社分割」を行い、不要な資産や負債を別会社(オーナー個人が保有する資産管理会社など)に移します。

身軽になった「本業だけの会社」を売却すれば、株価が適正化され、譲受企業も見つかりやすくなり、結果として無駄な税金を払わずに済むという高等テクニックです。

4. プロはここを見る!税務調査で否認されない「退職金」の黄金ルール

先ほど紹介した「役員退職金」は強力な節税策ですが、やりすぎると税務調査で「否認(=追徴課税)」されるリスクがあります。

ここからは、国税も納得する「守り」のルールをお教えします。

「高すぎる」と否認されないための「功績倍率法」の計算式

退職金はいくらでも払えるわけではありません。「社会通念上相当な額」を超えると、その過大分は経費として認められません。

実務上よく使われるのが「功績倍率法」です。

 適正退職金額 = 最終報酬月額 × 在任年数 × 功績倍率

社長の場合、功績倍率は一般的に「3.0倍」程度が目安とされています。

例えば、月給100万円で30年社長をやったなら、100万×30年×3.0=9,000万円までは安全圏、というロジックです。

これを超えて設定する場合は、特別な功績(特許取得や上場など)を証明する準備が必要です。

辞めたふりはバレる!「実質退職」と認められるための3条件

M&A後も「会長」や「顧問」として会社に残るケースは多いですが、ここに落とし穴があります。

形式上退任していても、実質的に経営を支配しているとみなされると、退職金は否認されます。

税務署はここを見ています。

  1. 常勤していないか?(毎日出社していないか)
  2. 経営の重要事項に関与していないか?(銀行交渉や人事採用に口を出していないか)
  3. 報酬が多すぎないか?(現役時代と変わらない額をもらっていないか)

退職金を受け取るなら、潔く経営の第一線から退く覚悟が必要です。

株主総会議事録と辞任届は「命の紙」と思え

税務調査は数年後にやってきます。

その時、「いつ決めたのか?」「本当に辞めたのか?」を証明できなければ負けです。

必ず「株主総会議事録」で退職金の支給決議を残し、本人の「辞任届」を保管してください。

これらは単なる紙切れではなく、あなたの資産を守る「命の紙」です。

M&Aのクロージング時には、これらの法務書類が完璧に揃っていることが絶対条件です。

5. 【事例解説】M&Aの税金対策、成功と失敗の分岐点

最後に、私が実際に見てきた「天国」と「地獄」の事例をご紹介します。

成功例:退職金を組み合わせて譲受企業の負担も減らした「Win-Win」交渉

建設業のA社長(60代)の事例です。

当初、株価5億円での譲渡を希望していましたが、譲受企業は「4.5億円が限界」と難色を示していました。

そこで税理士が入って提案したのが、「株価3億円+退職金1.5億円」のスキームです。

A社長にとっては、退職所得控除のおかげで手取り額は株価5億円の時と同等以上になりました。

一方、譲受企業にとっても、1.5億円を経費計上できるため、法人税削減効果で実質負担額が下がり、交渉は一発で成立しました。

税務知識が交渉の突破口になった好例です。

失敗例:知らずに「みなし配当」が発生し、最高税率55%を持っていかれた悲劇

こちらはIT企業のB社長の失敗談です。

M&Aの前に株主を整理しようと、会社のお金で自社株を買い取りました(自己株式の取得)。

単純な売買だと思っていたB社長ですが、これが税務上「みなし配当」と判定されてしまいました。

結果、株式譲渡(20%)ではなく配当所得(総合課税)として扱われ、住民税と合わせて約55%もの税金がかかってしまったのです。

事前にスキームを確認していれば防げた事故でした。

みなし配当についてより詳しく知りたい方はこちら

顧問税理士任せは危険?M&A専門税理士が必要な理由

多くの社長が「うちは顧問税理士がいるから大丈夫」と言います。

しかし、これは危険です。

内科医に脳の手術を頼まないのと同じで、「毎月の記帳が得意な税理士」と「M&Aや組織再編に強い税理士」は完全に別物です。

顧問の先生を立てつつ、M&Aの税務に関しては専門のセカンドオピニオンを入れるのが、賢い経営者のリスク管理です。

6. 【まとめ】M&Aの税金対策は「準備」が9割

M&Aの税金について解説してきましたが、最も大切なのは「準備」です。

契約直前になってから「税金を安くしたい」と言っても、できることは限られます。

しかし、1年前から準備していれば、退職金の活用、株価の調整、組織再編など、あらゆる手を打つことができます。

特に将来の増税リスクや、複雑な組織再編税制に対応するためには、今から動き出すことが、あなたの手取りを数千万円単位で守ることにつながります。

会社の未来と、あなたの引退後の人生を守るために、まずはM&Aの税務に強い専門家に相談することから始めてください。

事業承継税制についてより詳しく知りたい方はこちら

その分野(テーマ)については弁護士、税理士、司法書士、行政書士のうち、「M&A実務に精通した税理士(公認会計士)」に相談すべきです。

弁護士は契約書、司法書士は登記が専門であり、手取りの最大化に向けた税務戦略を描けるのは税理士だけだからです。

船井総研あがたFASでは、業種・業界の知見が豊富な税理士集団が、貴社の状況に合わせた最適な承継プランをご提案します。

まずは下記より、各業界に特化したM&A・事業承継に関する資料をダウンロードして、検討の第一歩を踏み出してください。

◤号外◢知らないと損をする?2026年M&A税制改正レポート
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M&Aの税金についてよくあるご質問

Q: M&Aで会社を売ると税金はいくらかかりますか?

A: 株式譲渡なら売却益の約20%、事業譲渡なら法人税約34%に加え配当時に最大55%の税金がかかります。手取りは株式譲渡が圧倒的に有利です。

Q: 役員退職金を出すとM&Aの税金は安くなりますか?

A: はい。退職金は「退職所得控除」と「1/2課税」の優遇があるため、株の売却益で受け取るより税負担割合が下がることがあります。譲受企業も買収価額を抑えることができるため交渉に有利です。

Q: 2027年からM&Aの税金が上がるというのは本当ですか?

A: 富裕層への金融所得課税強化が議論されており、将来的に税率が20%から引き上げられるリスクがあります。早めの検討をお勧めします。

Q: 赤字会社を売却する場合、税金はどうなりますか?

A: 株式譲渡なら利益が出れば課税されますが、事業譲渡なら会社の赤字(繰越欠損金)と売却益を相殺でき、法人税をゼロにできる可能性があります。

Q: M&Aの税務相談は誰にすべきですか?

A: 一般的な顧問税理士ではなく、組織再編税制やM&A実務に精通した「M&A専門の税理士・公認会計士」に相談すべきです。

多賀谷 博康

株式会社船井総研あがたFAS 取締役

2002年2月米国公認会計士試験合格。2009年7月米国公認会計士License取得。2013年2月税理士登録。2014年3月あがたグローバル税理士法人 社員 東京事務所長に就任。2021年8月あがたグローバル税理士法人 代表社員 東京事務所長、及び あがたグローバルコンサルティング株式会社 代表取締役常務に就任(現任)。2025年1月、株式会社船井総研あがたFASの取締役に就任。

多賀谷 博康

株式会社船井総研あがたFAS 取締役

2002年2月米国公認会計士試験合格。2009年7月米国公認会計士License取得。2013年2月税理士登録。2014年3月あがたグローバル税理士法人 社員 東京事務所長に就任。2021年8月あがたグローバル税理士法人 代表社員 東京事務所長、及び あがたグローバルコンサルティング株式会社 代表取締役常務に就任(現任)。2025年1月、株式会社船井総研あがたFASの取締役に就任。