この記事では、事業譲渡における税金の仕組みから、法人税・消費税の計算方法、さらには手元資金を最大化するための高度な節税戦略までを解説します。
読了後には、あなたの会社にとって最適な譲渡スキームを判断できるようになります。
◤号外◢知らないと損をする?2026年M&A税制改正レポート
【特別解説動画】2027年M&A税制改正を読み解く:M&Aオーナーが直面する増税のインパクト
1. 事業譲渡の税金とは? 譲渡企業と譲受企業にかかる4つの税金を完全解説
事業譲渡は、会社そのものを売る「株式譲渡」とは異なり、会社の一部(事業)を売買する取引です。
そのため、かかる税金の種類や計算方法も独特で、ここを理解していないと「手取りが思ったより少ない」という事態に陥りかねません。
ここでは、譲渡企業と譲受企業、それぞれの立場にかかる税金を整理します。
【事業譲渡を行う譲渡企業の税金】法人税と消費税の仕組み
事業譲渡を行う「譲渡企業企業」にかかる主な税金は、「法人税等」と「消費税」の2つです。
まず「法人税等」です。
事業を売却して得た利益(譲渡益)は、会社の利益として計上されます。
そのため、決算時に他の事業利益と合算され、法人税の課税対象となります。実効税率は約30%〜34%程度です。
計算式は以下の通りです。
(譲渡対価 - 譲渡資産の簿価) × 法人税率 = 法人税額
もし、会社全体が赤字であったり、過去からの繰越欠損金がある場合は、この譲渡益と相殺することで法人税を抑えることが可能です。
次に「消費税」です。これは譲渡企業が負担するものではありませんが、譲受企業から預かって納税する義務があります。
建物や設備、在庫などの「課税資産」の譲渡対価に対して10%の消費税が上乗せされます。
譲渡企業は、この受け取った消費税を決算時に国に納める必要があります。
【譲受企業の税金】消費税・不動産取得税・登録免許税の負担

事業を譲り受ける「譲受企業企業」には、主に3つの税負担が発生します。
- 消費税: 譲渡企業に対して、譲渡代金とともに支払います。後述しますが、土地などは非課税ですが、建物や「のれん」には消費税がかかります。
- 不動産取得税: 工場や店舗などの不動産(土地・建物)を取得した場合にかかります。税率は固定資産税評価額の3%〜4%です。
- 登録免許税: 不動産の所有権移転登記などを行う際にかかります。
事業譲渡は、必要な資産だけを選んで買えるメリットがありますが、その分、一つ一つの資産移転に対してこうした流通税がかかる点がデメリットともいえます。
株式譲渡の税金との決定的な違い(総合課税と分離課税)
多くの経営者が迷うのが「事業譲渡」にするか「株式譲渡(会社売却)」にするかです。
税金の観点から見ると、両者は全く異なります。
- 株式譲渡(個人): 個人の「分離課税」です。売却益に対して一律20.315%(所得税+住民税)の税金で済みます。
- 事業譲渡(法人): 法人の「総合課税」です。前述の通り、利益に対して約34%の法人税がかかります。さらに、そのお金を会社から個人(オーナー)に移す場合、配当や役員報酬として課税(最大55%の累進課税など)されるため、トータルの税負担は重くなりがちです。
単純な税率比較では株式譲渡が有利ですが、譲受企業側の事情や、会社を残したいという意向がある場合は事業譲渡が選択されます。
次章からは、事業譲渡特有の税務論点を深掘りします。
2. 事業譲渡の消費税・のれん・営業権の取り扱い

事業譲渡の代金総額には、消費税がかかるものと、かからないものが混在しています。
これらを正しく区分しないと、納税額の計算を誤ったり、税務調査で指摘を受けたりするリスクがあります。
課税資産と非課税資産の区分けリスト
事業譲渡契約書を作成する際は、資産の内訳を明確にし、それぞれに消費税がかかるかを判定する必要があります。
| 資産の種類 | 消費税の 課税・非課税 | 具体例 |
| 有形固定資産 | 課税 | 建物、機械装置、車両、備品など |
| 無形固定資産 | 課税 | 特許権、商標権、ソフトウェアなど |
| 棚卸資産 | 課税 | 商品在庫、材料など |
| 営業権(のれん) | 課税 | 超過収益力、ブランド価値 |
| 土地 | 非課税 | 土地、借地権など |
| 債権・有価証券 | 非課税 | 売掛金、貸付金、株式など |
「株式譲渡」の場合は、株式という有価証券の売買であるため、消費税は一切かかりません(非課税取引)。
しかし、事業譲渡は「資産の売買」の集合体であるため、上記のように細かく判定が必要です。
営業権(のれん)にかかる消費税は見落とし厳禁

特に注意が必要なのが「営業権(のれん)」です。
事業譲渡では、純資産額に色をつけて(プレミアムを乗せて)売却することが一般的ですが、このプレミアム部分は「営業権」という資産の譲渡とみなされます。
例えば、純資産1億円の事業を3億円で売却した場合、差額の2億円は「営業権」です。
この2億円に対して10%、つまり2,000万円もの消費税が発生します。
譲受企業にとっては、純資産1億円を構成する資産のうち、課税資産があれば、それに対しても消費税が課されます。
つまり、2000万円では済まないということになり、資金調達の計画に大きく影響します。
交渉段階で「税込みか税抜きか」を明確にしておかないと、後で大きなトラブルになります。
のれん(営業権)の評価方法など詳しく知りたい方は、こちらのコラムも参考にしてください。
無償事業譲渡や赤字事業の売却でも消費税は発生するのか?

「赤字事業をタダ同然(1円など)で譲渡する場合、税金はかからない」と考えるのは危険です。
たとえ譲渡価格が低くても、その対価の中に「課税資産」が含まれていれば、その時価に対して消費税が課される可能性があります。
また、負債付きで事業を譲渡する場合(負担付贈与)、引き継ぐ負債の額が譲渡対価とみなされ、その額に応じた消費税が発生することもあります。
無償や低額での譲渡こそ、税務上の「みなし譲渡」認定リスクがあるため、専門家の確認が不可欠です。
3. 事業譲渡で「手取り」を最大化するプロの戦略
ここからは、教科書的な解説ではなく、私が現場で提案している「手取り最大化」の実践的な戦略をお話しします。
「事業譲渡は税金が高い」と諦める前に、検討すべきスキームがあります。
税率34%の法人税負担を軽減する「役員退職金」の活用スキーム
事業譲渡で会社にお金が入っても、それをオーナー個人が受け取るには、再び税金がかかります。
そこで有効なのが、「役員退職金」の活用です。
退職金は税務上、非常に優遇されています。
「退職所得控除」という大きな控除がある上、控除後の額をさらに1/2にして課税されます(分離課税)。
例えば、事業譲渡で得た利益をそのまま配当で受け取ると最大約55%の税金がかかる可能性がありますが、退職金として受け取れば、実効税率を10%〜20%程度に抑えられるケースも少なくありません。
プロの視点:
このスキームを使うには、オーナーがそのタイミングで「退職」する必要があります。事業譲渡を機に引退する場合や、M&A後に会社を清算する場合に最も効果を発揮します。
役員退職金の活用について詳しく知りたい方はこちら
「二重課税」の誤解と配当控除を使った資金還流テクニック

「事業譲渡は、法人税を取られた後に所得税も取られるから二重課税だ」という声を聞きますが、厳密には制度上の救済措置があります。
それが「配当控除」です。
会社が事業譲渡後に、残った現金を株主(オーナー)に配当する場合、受け取る個人側で確定申告を行えば、配当所得の一定割合(最大10%など)を税額から控除できます。
確かに株式譲渡の一律20%に比べれば負担は重いですが、配当控除や前述の退職金を適切に組み合わせることで、「二重課税」感をかなり緩和し、手取りを確保することは可能です。
譲受企業にもメリットがある? 税務効果を交渉材料にする方法
実は、事業譲渡は「譲受企業にとっても節税メリットがある」取引です。
譲受企業は、取得した「のれん(営業権)」を5年間にわたり減価償却費として計上できます。
これにより、譲受企業は買収後の法人税を圧縮できるのです(株式譲渡では、のれんの償却による節税はできません)。
交渉のアドバイス:
「御社には、のれん償却による将来的な節税メリット(タックスシールド)がありますよね。その分、譲渡価格を少し上乗せしてくれませんか?」
このように、相手の税務メリットを理解していれば、強気の価格交渉が可能になります。これはM&Aのプロがよく使うテクニックです。
4. 税務調査で否認されないための「現場の注意点」

スキームを作っても、後から税務調査で否認されては元も子もありません。
ここでは、現場でよくある失敗事例と対策をお伝えします。
「名ばかり退職」とみなされないための具体的条件(役員関与の制限)
退職金を使って節税をしたはずが、税務署から「実質的に退職していない」と判断され、退職金が否認される(給与課税される)ケースがあります。
これを避けるためには、以下のポイントを徹底する必要があります。
- 代表権・取締役を辞任する: 形式上の辞任だけでなく、登記も変更する。
- 経営に関与しない: 取締役会に出席したり、人事や資金繰りの指示を出したりしない。
- 出社頻度・待遇: 毎日出社したり、現役時代と同じ個室や社用車を使い続けたりしない。
「少しアドバイスするくらいなら…」という油断が命取りになります。
退職金の税務メリットを享受するなら、潔く身を引く覚悟が必要です。
みなし配当が発生するケースと株主集約のリスク管理
M&Aの準備段階で、分散した株式を会社が買い取る(自己株式取得)ことがあります。
この時、譲渡企業である株主に「みなし配当」という課税が発生することがあります。
これは、株式の売却益の一部を「配当を受け取った」とみなして課税される制度で、予期せぬ高額な税金(総合課税)がかかる原因となります。
自己株式の取得を行う場合は、事前に税理士によるシミュレーションが必須です。
場合によっては、会社ではなくオーナー個人が買い取る形にするなど、対策を講じる必要があります。
自己株式取得の手続きや注意点(みなし配当)については、こちらの記事で詳しく解説しています。
納税は翌年! 資金管理で失敗しないための鉄則

事業譲渡で大金が入ってくると、つい気が大きくなって使い込んでしまう経営者がいます。
しかし、忘れてはいけません。税金の支払いは「翌年」やってきます。
特に消費税や法人税は金額が大きいため、入金された譲渡代金のうち、納税予想額は別の口座に移すなどして、絶対に手を付けないように管理してください。
「資金が足りなくて納税できない」という事態は、黒字倒産や資産の差押えに直結します。
5. 【まとめ】事業譲渡の税金対策は「準備」と「交渉」で決まる
事業譲渡の税金は複雑ですが、正しい知識を持っていれば、手取りを増やし、リスクを回避することができます。
- 消費税: 課税資産(特にのれん)を把握し、譲受企業と負担を合意する。
- 手取り最大化: 役員退職金の活用や、株式譲渡との比較検討を行う。
- リスク管理: 退職の実態作りや、納税資金の確保を徹底する。
M&Aは「売って終わり」ではありません。
税金を支払い、手元に残ったお金で次の人生を歩み出すまでがゴールです。
自己判断で進めず、早い段階でM&Aに強い専門家に相談することをお勧めします。
船井総研あがたFASでは、業種・業界の知見が豊富な専門家が、貴社の状況に合わせた最適な承継プランをご提案します。
まずは下記より、各業界に特化したM&A・事業承継に関する資料をダウンロードして、検討の第一歩を踏み出してください。
◤号外◢知らないと損をする?2026年M&A税制改正レポート
【主導権を握れるうちに、一度プロの視点で「最良の出口」を可視化しませんか?】
事業譲渡の税金についてよくあるご質問
Q. 赤字決算の会社でも株価はつきますか?
A. はい、つきます。M&Aでは「正常収益力」を見るため、役員報酬や一時的な損失を足し戻すことで黒字評価になるケースが多くあります。また純資産に価値があれば評価されます。
Q. 税理士が出した株価とM&Aの株価が違うのはなぜですか?
A. 目的が違うからです。税理士が出すのは「相続税評価額」で低くなる傾向がありますが、M&Aは「時価(経済的価値)」で評価するため、将来性を含み高くなる傾向があります。
Q. 役員退職金はいくらまでなら税務署に否認されませんか?
A. 「最終報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率」が目安です。功績倍率は役職や業種によりますが、社長なら一般的に2.0〜3.0倍程度が妥当とされることが多いです。
Q. 株券が見つからない場合、M&Aはできませんか?
A. そのままではできませんが、公告手続きや株主名簿の整備を行うことで解決可能です。M&Aのデューデリジェンス前に、司法書士等の専門家へ相談し対策を行う必要があります。
Q. 株価算定にはどれくらいの期間と費用がかかりますか?
A. 簡易算定なら無料〜数十万円で数日程度です。しかし、M&A実務用の詳細な算定(バリュエーションレポート)は、規模により数十万〜数百万円、期間は2週間〜1ヶ月程度かかります。