スクールのM&Aとは、学習塾・英会話・プログラミング・音楽・フィットネスといった各種スクールの経営権や事業を第三者へ引き継いでもらい、事業を続けてもらう手法です。たしかに教室単体のM&Aは規模が小さく、件数も限られます。
それでも、後継者不在で行き場を失いかけた事業を別の経営者へ託すことは十分にできます。そのうえ、生徒も講師も守ったまま、創業者が引退後の資金を手にする道があります。
英会話やプログラミングなどの習い事スクールは、実際のところ市場が縮小しています。
にもかかわらず「市場拡大・案件急増」とだけ語る情報が少なくありません。
本記事はスクール業の実態をありのままに示したうえで、それでも承継は実現できる根拠を、実際の成功事例とともに解説します。
経営の正解は、一つではありません。 まずは出口戦略の『選択肢』を可視化する診断ツールを手に取り、 次なるステージへの展望を具体化する準備を始めてください。 プロの目利きで自社の『真価』を知ること。それが、後悔のない決断への第一歩です。
スクールのM&Aとは何か――学習塾・英会話・フィットネスまで対象になる
スクールのM&Aの対象は学習塾だけではありません。
英会話、プログラミング、音楽、フィットネス、書道やそろばんといった習い事まで、月謝や受講料で運営する教室はすべて譲渡の対象になります。
とはいえ、業態ごとに市場の勢いも案件の出やすさも大きく違います。まずはこの違いを理解することが出発点です。

スクール業が「売れる」理由と買い手が増えている背景
スクールが第三者に引き継がれる最大の理由は、後継者不在です。
1980〜90年代の習い事ブームで開業した世代が、いま60代から70代を迎えています。
子どもは別の道を選び、体力的にも続けるのが難しくなっています。
廃業すれば生徒も講師も行き場を失います。
買い手の側にも動きがあります。
同業のスクール事業者が近隣エリアを固めるために教室を引き継ぐ、いわゆる水平統合が中心です。ゼロから教室を立ち上げると、生徒募集も講師採用も時間がかかります。
これに対して既存の教室を引き継げば、その日から生徒も講師も立地もそろっています。
つまり、買い手が動く一番の理由は「速さ」だといえます。
一方で、明確にしておくべき点があります。
英会話やプログラミングのような習い事スクールは、教室単体で見ると譲渡の規模がきわめて小さいのが実情です。仲介会社が表立って関わる案件はそう多くありません。
だからこそ、件数の少ない案件を確実に成立させる進め方が問われます。
M&Aの対象になる業態一覧(学習塾・英会話・プログラミング・音楽・フィットネス・その他)
スクールのM&Aの主な対象を業態別に見ると、それぞれ市場の状況が異なります。
学習塾・予備校:件数が最も多く、同業による承継が活発な領域です。
英会話スクール:2015年頃の英語教育改革による追い風が頭打ちになり、コロナ禍のダメージからコロナ前の水準に戻りきっていない教室が少なくありません。市場はダウントレンドにあります。
プログラミング教室:市場規模は英会話のさらに10分の1ほどです。1教室20〜30人規模が中心で、単独店で成り立つ教室は限られます。
音楽・フィットネス・カルチャー系:設備や講師への依存度が業態ごとに違い、評価の考え方も変わります。
このように、プログラミング教室は教室単位だと「無償でも引き取ってもらえるか」という水準になることもあります。
本記事では教室単体の譲渡が小規模で件数が限られるという実態を前提に、それでも成立する承継の形に絞って解説します。

株式譲渡と事業譲渡の違い――個人教室と法人で選ぶスキーム
スクールのM&Aで使う手法は、株式譲渡と事業譲渡の2つが基本です。
株式譲渡は会社の株式ごと引き継いでもらう方法で、法人格はそのまま残ります。
賃貸借契約も雇用契約も会社に紐づいたまま継続するため、引き継ぎの手続きが少なくて済みます。
一方の事業譲渡は、教室という事業だけを切り出して引き継いでもらう方法です。
引き継ぐ資産や契約を買い手が選べる反面、賃貸借契約や雇用契約を一つずつ結び直す必要があります。個人事業で教室を運営しているオーナーは株式がないため、事業譲渡が選択肢になります。
実務上は株式譲渡が選ばれることが多いです。
教育事業どうしがくっつくケースが大半で、法人ごと引き継いだほうがスムーズだからです。もちろん、教育部門だけを切り出して引き継いでもらうケースもあります。
スクールのM&Aの譲渡価格相場と価値算定の仕組み
スクールのM&Aの価格は、感覚や立地の良さだけで決まるものではありません。
土台になるのは損益、つまりPLです。
価格算定の骨組みを最初に押さえておくと、自社の教室がいくらで評価されるのかの見当がつきます。
業態別の評価の違い――学習塾とフィットネスではなぜ相場が変わるか
価格の基本形は共通しています。
営業利益の約3年分(営業権)に、貸借対照表上の時価純資産を足します。年倍法と呼ばれる考え方で、一教室から数教室の規模では営業利益の3倍前後が一つの目安になります。
一般的な相場とほぼ同じ水準です。
ただし業態によって評価のクセは変わります。
フィットネスや音楽教室は設備投資が重く、その償却負担が利益を圧迫しやすくなります。
一方で、学習塾や英会話は設備が軽い分、利益がそのまま評価に乗りやすい傾向です。
とはいえ最終的に買い手が見るのはPLです。
立地や口コミがどれほど良くてもPLが伴わなければ買い手はつきません。
逆に伸びている市場、たとえば都市部の中学受験のように顧客ニーズが拡大している領域は高く評価されやすいです。
実際の事例では、売上数億円規模で営業赤字だったプログラミング教室が、十数億円という通常の算定ではあり得ない金額で大手企業に引き継がれたことがあります。
買い手がその業態とノウハウを「どうしても欲しかった」とき、価格は上振れします。
これは例外であって相場ではありませんが、買い手との相性が価格を動かすことの分かりやすい証拠です。
月謝収入・前受金・チケット未消化が評価額に与える影響
スクール業の評価で見落とされがちなのが、月謝や受講料の前受金です。
年払いや半期払いで受講料を先に受け取っている場合、まだレッスンを提供していない分は会計上の負債にあたります。買い手は引き継いだ後にレッスンを提供する義務を負うからです。
未消化のレッスンチケットも同じ性質を持ちます。
回数券を販売している教室では、消化されていない分が将来の役務提供義務として残ります。
そのため、これらが財務書類に正しく計上されているかは、評価額に直接響く論点です。
前受金の具体的な処理方法はそれぞれの契約内容で変わるため、デューデリジェンスの段階で一件ずつ確認します。
競合のスクール業界のM&A記事でこの負債性に触れているものはほとんどありません。
だからこそ、譲渡を考える側はここを整えておくと評価がぶれにくくなります。
教室数・在籍生徒数・継続率が評価の軸になる理由
在籍生徒数や継続率は重要です。ただし、それ単体で価格が決まるわけではありません。
生徒数も継続率も、最終的にはPLに反映される要素として見るのが実務の考え方です。
継続率が高ければ収益が安定し、結果として利益が伸びるから評価が上がります。
順序はあくまで生徒数や継続率がPLを押し上げ、そのPLで価格が決まるという流れです。
教室数は規模の目安になります。複数教室を展開していれば管理体制が整っているケースが多く、引き継ぎもしやすくなります。
一方で教室が増えるほど、確認すべき賃貸借契約や雇用契約も増えます。
なお、在籍生徒数の月次推移を数年分そろえておくと、買い手が収益の安定性を判断しやすくなります。

講師・インストラクターへの依存度が価値を下げるケースと対策
スクール業の商品は、突き詰めれば人です。
特定のカリスマ講師に生徒が付いている教室は、その講師が抜けた瞬間に生徒が離れるリスクを抱えます。買い手はこの依存度を慎重に見ます。
依存度が高いと評価が下がりやすくなります。
だからこそ対策として、譲渡を考え始めた段階から指導を標準化し、複数の講師で回せる体制をつくっておきます。
一人の看板講師に頼った教室より、チームで指導品質を担保している教室のほうが、引き継ぎ後の業績が安定します。
価値を下げないための準備は、譲渡の1年前から始めても早すぎることはありません。
スクールのM&Aを譲渡する流れと各ステップでやること
スクールのM&Aは、相談から成約まで段階を踏んで進みます。
各ステップで何をするかを把握しておくと、想定外の遅れを防げます。
期間は知り合い同士のマッチングなら半年程度で進むこともありますが、一般的には6か月から1年程度を見ておくと安全です。
譲渡の準備――財務データ・生徒在籍情報・賃貸借契約の整理
最初にやることは、譲渡する教室の状態を整えることです。
まず直近1年のPLを整え、不要な経費を削り、利益が見えやすい状態にしておきます。
譲渡の1年前から準備を始め、いわば1年かけて数字を整えるイメージです。
次に整理するのが、生徒の在籍情報と各種契約です。
在籍生徒数の月次推移、月謝の前受金、教室ごとの賃貸借契約、講師の雇用契約をひととおり一覧化します。
離職率を下げる取り組みも、譲渡の1年前から始めておくと評価につながります。
人材が価値の源泉である以上、講師が定着している教室ほど高く評価されるからです。
買い手探しと仲介会社の選び方
準備が整ったら、買い手を探します。
スクール業の買い手は同業が中心で、近隣エリアで事業を広げたい事業者が少なくありません。エリアは基本的に同一商圏です。東京の法人が大阪の教室を引き継ぐといった飛び地は、全国規模の大手を除けばほとんどありません。
仲介会社を選ぶときは、教育業界の実績があるか、そして成約して終わりの「売り切り型」になっていないかを確認します。
というのも、スクール業は引き継いだ後の運営、つまりPMIが成否を分けるからです。引き継ぎ後まで伴走してくれる相手でないと、新オーナーが苦労します。
基本合意から最終契約まで――スクール業ならではのデューデリジェンス
買い手が決まると、基本合意を結び、デューデリジェンス(譲渡対象の精査)に入ります。
スクール業では、前受金や未消化チケットの負債、賃貸借契約の引き継ぎ可否、講師の雇用条件、フランチャイズ加盟の有無などを重点的に確認します。
このとき買い手が必ず見るのが、エリアの将来人口です。
5年後に子どもの数が大きく減るエリアは、それだけで評価のマイナス要因になります。
とりわけ地方都市では人口動態の数字が大きく影響します。こうして確認を終え、条件をすり合わせたうえで最終契約を結びます。
受講生・保護者への通知タイミングと退会リスクの抑え方
受講生や保護者への通知は、最終契約を結んだ後が原則です。契約前に情報が漏れると、不安から退会が広がりかねません。通知では「指導も料金も変わらない」ことをはっきり伝えます。
実務では、講師の顔ぶれが変わらないことが定着の最大の鍵になります。
退会リスクを抑えるには、引き継ぎ後しばらくは運営のルールを大きく変えないことです。
少なくとも受講料や指導方針の改悪はしません。
こうして生徒と保護者が「何も変わらない」と感じられる状態を保つことが、成約後の在籍維持につながります。
デューデリジェンスで準備する資料には、業種を問わず共通する部分があります。
売り手が用意する資料と進め方については、こちらのコラムもおすすめです。
『デューデリジェンス(DD)チェックリスト|売り手が準備すべき資料と進め方』。
スクール固有の確認項目は、次の章で取り上げます。

スクールのM&Aのデューデリジェンスで確認すべき論点
スクール業のデューデリジェンスは、製造業や小売業とは見るべき場所が違います。
人と契約に紐づくリスクが多いからです。
ここでは実務で頻繁に問題になる4つの論点を整理します。ここの確認が甘いと成約後にトラブルが起きやすくなります。
前受金・未消化レッスンチケットの負債確認
最初に確認するのが前受金です。年払いや学期払いで受講料を先に受け取っている場合、レッスンを提供する前のお金は将来の義務として負債にあたります。
買い手はその義務ごと引き継ぐため、未提供分がいくら残っているかを精査します。
未消化のレッスンチケットも同様です。
回数券方式の教室では、販売済みで未消化のチケットが負債として残ります。そのため、これらが帳簿に正しく載っているかで、買い手の負担が変わります。
具体的な金額や処理方法は契約ごとに違うため、一件ずつ突き合わせて確認します。
フランチャイズ加盟の場合――本部への変更申請と加盟権承継手続き
フランチャイズに加盟しているスクールの場合、譲渡には本部の許可や承認が必要になるのが通例です。加盟契約に、経営権を第三者へ移す際には本部の事前承諾を要するという条項が入っていることが多いからです。
本部が承認しなければ、加盟ブランドや教材、システムが使えなくなるリスクがあります。
実際、本部自身が引き取る、あるいは別の加盟者へ引き継がせるケースも珍しくありません。
承認の手続きや期間は本部ごとに異なるため、M&Aの初期段階で加盟契約書を確認し、本部へ早めに相談します。
手続きの詳細は本部の規定によるため、一般的な実務として早期確認を徹底することが安全です。
教室の賃貸借契約――オーナーへの承諾取得と名義変更
スクールの教室は賃貸物件が大半です。事業譲渡を選ぶと、教室ごとの賃貸借契約は自動では引き継げません。賃貸人の承諾を得て、買い手の名義で結び直す必要があります。
承諾取得が遅れると、成約のスケジュール全体が後ろにずれます。
実際、賃貸人が承諾を渋るケースや、保証金の積み増しを条件にするケースもあります。
そのため、デューデリジェンスの段階で賃貸借契約書を全件確認し、承諾を得られるかを事前に洗い出しておきます。なお、株式譲渡なら法人格が変わらないため、契約はそのまま続きます。
講師・インストラクターの雇用契約と引継ぎ合意
講師の引き継ぎは前提です。雇用条件を譲渡のタイミングで変えると、ほぼ確実に反発を招きます。
実務では、雇用も指導体制もそのまま引き継ぐのが原則です。
アルバイトや非常勤を「方針が違うから」と入れ替えることは、現場の混乱を招くため避けます。
引き継ぎ直後は、何も変えない以上ほぼ全員が残ります。
その後、3年ほどかけて徐々に体制を整えていく、という時間軸で考えるのが現実的です。
講師に譲渡を伝えるのは契約締結後で、運営を担う講師陣に向けて「何も変わらない、金銭面の条件は絶対に変えない」ことを伝えます。

スクールのM&Aのメリットと譲渡側・譲受側それぞれの目的
スクールのM&Aのメリットは、譲渡する側と引き継ぐ側で異なります。
双方の目的が噛み合ったときに取引が成立します。実務上、両者の利益が一致する形を設計できるかどうかが、仲介の腕の見せどころです。
譲渡側のメリット――事業承継・従業員雇用継続・引退後の資金確保
譲渡する側の最大のメリットは、廃業せずに事業を続けてもらえることです。
廃業すれば生徒は通う場所を失い、講師は職を失います。
譲渡なら教育サービスは止まらず、講師の雇用も引き継いでもらえます。
加えて、引退後の資金を確保できることも大きな魅力です。
長年かけて育てた教室の価値を、譲渡対価として受け取れます。
一方で廃業では原状回復費用などのコストがかかるうえ、手元には何も残りません。
後継者がいない経営者にとって、譲渡は廃業の代わりではなく、事業を未来へ渡す前向きな選択です。
譲受側のメリット――顧客基盤・ブランド・立地の即時取得
引き継ぐ側は、生徒という顧客基盤、地域で築いたブランド、確保済みの立地を一度に手に入れられます。
ゼロから教室を立ち上げると、生徒募集に時間がかかり、単月黒字化まで年単位を要することもあります。
一方で既存教室を引き継げば、初月から売上が立つ状態で始められます。
立地や集客のノウハウも引き継げます。
地域の保護者心理に合った運営や、口コミで積み上げた信頼は、お金だけでは買えない資産です。
同業による拡大では、既存ブランドを残したまま生徒数とエリアを広げる狙いが多く見られます。
M&Aが向いているケースと向いていないケース
スクールのM&Aが向いているのは、後継者がいない、引退を考えている、利益は出ているが将来の市場縮小が見えている、といったケースです。
とりわけ業界がダウントレンドにある今は、同じことを続けるだけで利益が下がっていきます。譲渡を考えるならできるだけ早く動くことが望ましい理由がここにあります。
逆に向いていないのは、PLが慢性的な赤字で改善の見込みが立たないケースです。
立地や口コミが良くてもPLが伴わなければ買い手は付きにくくなります。
この場合は、まず1年かけて数字を整えてから譲渡に臨むほうが、結果的に良い相手と巡り合えます。

スクールのM&Aの成功事例――プログラミング教室と事業承継の実例
ここまでの論点が実際にどう機能するのかを、当社が支援した成功事例で示します。
小規模なスクールでも承継は実現できるという、何よりの証拠です。
後継者不在のICTスクール4校を若き経営者へ(2024年成約事例)
2024年に成約した事例です。譲渡したのは、関東を商圏に4校を展開していた複合型のICTスクールでした。
大人向けパソコン教室からスマホ教室、そしてキッズプログラミング教室へと事業を広げてきた事業者です。
譲渡の動機は後継者不在と、年齢的・体力的な限界でした。
一方、引き継いだのはスポーツ事業を手がける事業者です。
このように、複数校を運営する小規模なスクールでも、条件が噛み合えば事業承継は成立します。この事例はそれを示しています。
買い手側が重視した「スポーツ事業との親和性」とは
引き継いだ事業者が評価したのは、自社のスポーツ事業との親和性でした。
義務教育における部活動の地域移行が進む中で、民間スクール事業の成長余地を見込んでいたのです。
地域に根ざしたICTスクールと、地域でスポーツを支える事業——両者は子どもと地域コミュニティという接点で重なります。
店舗展開で培った立地選びや集客のノウハウも、引き継ぐ価値のある資産でした。
買い手が「この事業をどう活かせるか」を具体的に描けたことが、成約を後押ししています。
M&A成約後に大切にされた「事業を継続する」という条件
この譲渡で核心にあったのは「従業員や顧客、取引先を守り、事業を継続していく」という条件です。元代表が最も重視したのはこの一点でした。
価格だけで相手を選ばず、生徒と講師と取引先を守れる相手かどうかを見極めたのです。
スクールのM&Aの成否は、引き継いだ後にどれだけ現場が安定するかで決まります。
だからこそ、引き継ぎ後しばらくは運営を大きく変えず、信頼関係を築いてから少しずつ整えていきます。
この時間のかけ方が、生徒の定着と講師の継続を支えます。価格の高さより、事業を続けられる相手を選ぶことです。それが、スクールのM&Aで失敗しないための前提になります。

スクールのM&Aを成功させるために押さえる3つの実務ポイント
スクールのM&Aの成否は、成約前の準備と成約後の引き継ぎで決まります。
実務で特に効果を生む3つのポイントを挙げます。
口コミ・地域ブランドを毀損しない譲渡プロセスの設計
スクールは地域の口コミで成り立っています。
譲渡の話が外部に漏れると「あの教室はなくなるらしい」という噂が広がり、それだけで生徒が離れます。
だからこそ情報管理を徹底し、受講生や保護者への通知は最終契約後に行います。
秘密保持を最優先に進めることが、ブランドを守る第一歩です。
通知の際は、講師も指導内容も料金も変わらないことを丁寧に伝えます。
地域で積み上げた信頼を引き継ぐためにも、譲渡のプロセスそのものを静かに、整然と進める設計が欠かせません。
複数教室を一括譲渡する場合の契約・交渉の進め方
複数の教室をまとめて譲渡する場合、教室ごとに賃貸借契約や雇用契約の状況が異なります。
すべてを一覧化し、引き継げる契約と結び直しが必要な契約を仕分けておくと、交渉がスムーズに進みます。
エリアは同一商圏でまとまっていることが多く、近隣で展開する同業が引き継ぎ先になりやすいといえます。
教室ごとの収益にばらつきがある場合は、好調な教室と不振な教室を切り分けるのか、一括で引き継いでもらうのかを早い段階で方針として固めておきます。
M&A後の運営移行期――受講生定着に向けた引継ぎ計画
引き継いだ後の移行期が、最も気を使う局面です。
鍵は現場の講師とのカルチャーフィットです。新オーナーのやり方が講師に合わないと、モチベーションが下がり、生徒数の減少につながります。
実務で定着している進め方は2つあります。
一つは、買い手の経営陣と現場の幹部が最初の2年ほどよく交流し、信頼関係を築くことです。
もう一つは、2〜3年は運営のルールを大きく変えず、待遇の改悪をしないことです。
そのうえで、信頼ができてから変化を加えていきます。実際、評価制度を整えて現場のやる気が上がり、生徒数が伸びた事例も実在します。
スクールのM&Aの仲介会社・相談先の選び方
スクールのM&Aを進めるには、仲介会社や専門家の支援がほぼ欠かせません。
ただし、どの相手を選ぶかで結果は大きく変わります。選び方の軸を3つに絞って解説します。
スクール業に特化した仲介か、教育業界に実績があるか
スクール業には、前受金の処理、講師の引き継ぎ、フランチャイズ本部の承認といった固有の論点があります。
これらに対応できるかは、担当者が教育業界を知っているかどうかで差が出ます。
そこで、教育業界の案件を手がけた実績があるか、スクールの現場を理解しているかを、最初の相談で確認します。
汎用の仲介会社でも対応はできますが、業界固有の論点への精度は担当者によって差が大きくなりがちです。実績の中身まで踏み込んで聞くことが、相手を見極める近道です。
費用体系(着手金・成功報酬)と契約形態の確認ポイント
仲介会社の費用は成功報酬型が一般的です。成約金額に応じて料率が下がるレーマン方式が広く使われています。
最低報酬額が設定されている場合が多く、小規模なスクールでは譲渡額に対して手数料の割合が大きくなることもあります。
着手金の有無、中間金の発生条件、成功報酬の計算方法を、契約前に書面で確認します。
とはいえ費用の安さだけで選ぶと、交渉力やサポート体制で差が出ます。
複数社に相談し、費用と支援内容のバランスで判断することを勧めます。
譲渡側にとっての秘密保持と情報漏洩リスクへの対処
スクールのM&Aでは情報漏洩が大きな痛手になります。
譲渡の検討が生徒や保護者、講師に漏れると、不安が退会や離職を招きます。
仲介会社との間で秘密保持契約を結び、社内でも情報を知る人を最小限に絞ります。
買い手候補へ情報を開示する際も、段階を踏みます。まず社名を伏せた概要だけを示し、関心を持った相手とのみ秘密保持契約を結んでから詳細を開示します。
この手順を守れる仲介会社かどうかも、選定の判断材料です。
仲介会社の見極め方をさらに詳しく知りたい方は、こちらのコラムもおすすめです。
『学習塾のM&Aの仲介会社・手数料の選び方|種類・費用・PMI伴走まで実務で解説』

【まとめ】スクールのM&Aは「生徒と講師の未来」から逆算して設計する
スクールのM&A、とりわけ英会話やプログラミングなどの教室単体の譲渡は、規模が小さく件数も限られます。市場がダウントレンドにある業態も少なくありません。この実態から目をそらすべきではありません。
それでも、後継者不在で行き場を失いかけた事業を別の経営者へ引き継いでもらうことは十分にできます。
2024年に成約した、関東の複合ICTスクール(4校)の事業承継が、その証拠です。
価格の土台は営業利益の約3年分に時価純資産を足した水準で、最終的にはPLで決まります。
前受金や講師の引き継ぎ、フランチャイズ本部の承認といったスクール固有の論点は、一般的なM&Aの情報だけでは押さえきれません。
業界がダウントレンドにある今、先送りするほど売り物件が増え、相対的に価値が下がっていきます。だからこそ、動くなら早いほうがよいでしょう。
最初の一歩は、スクールの現場と教育業界のM&Aの両方を知る専門家へ、自社の教室がどう評価されるかを相談することです。
あわせて、引き継いだ後のPMIまで伴走してくれるかどうかを、最初の相談時に確認してください。
スクールのM&Aのご相談は船井総研あがたFASで承っています。
自社の教室の価値をおおまかに知りたいという段階からでも対応します。
業種別の資料は こちらからダウンロードできます。
学習塾のM&Aの全体像については、こちらのコラムもおすすめです。
『学習塾のM&Aで知っておくべき全知識|売却・買収・事業承継の流れと価格相場を網羅』
経営の正解は、一つではありません。 まずは出口戦略の『選択肢』を可視化する診断ツールを手に取り、 次なるステージへの展望を具体化する準備を始めてください。 プロの目利きで自社の『真価』を知ること。それが、後悔のない決断への第一歩です。
【業界専門コンサルタントが担当】「出口戦略」診断で自社の価値を正しく守る。ベストな承継を実現するための第一歩。

よくある質問
Q. スクールのM&Aとは何ですか?廃業とどう違いますか?
スクールのM&Aとは、学習塾・英会話・プログラミング・音楽・フィットネスなどの教室の経営権や事業を第三者へ引き継いでもらい、事業を続けてもらう仕組みです。廃業では生徒が通う場所を失い、講師は職を失い、譲渡対価も得られません。M&Aなら事業が継続するため、生徒と講師を守りながら創業者が引退後の資金を受け取れます。後継者不在の経営者にとって、廃業の代わりに事業を未来へ渡す前向きな選択です。
Q. スクールの譲渡相場はどのように決まりますか?
価格の基本は、営業利益の約3年分(営業権)に貸借対照表上の時価純資産を足した水準です。一教室から数教室の規模では営業利益の3倍前後が一つの目安になります。ただし在籍生徒数や継続率、立地はそれ単体で価格を決めるのではなく、最終的にはPL(損益)に反映される形で評価されます。立地や口コミが良くてもPLが伴わなければ買い手は付きにくく、PLを整えてから譲渡に臨むのが実務の基本です。
Q. プログラミング教室や英会話教室のような小規模スクールでもM&Aはできますか?
できます。ただし教室単体のM&Aは規模が小さく、件数も限られるのが実態です。英会話はダウントレンドにあり、プログラミング教室の市場は英会話の10分の1ほどで、1教室20〜30人規模が中心です。それでも、後継者不在の事業を引き継いでもらう承継は十分に成立します。2024年には関東のICTスクール4校が別の経営者へ引き継がれた実例があり、小規模でも承継は可能です。
Q. フランチャイズに加盟しているスクールでも譲渡できますか?
譲渡できますが、フランチャイズ本部の許可や承認が必要になるのが通例です。加盟契約に、経営権を第三者へ移す際は本部の事前承諾を要するという条項が入っていることが多いためです。本部が承認しなければブランドや教材、システムが使えなくなるリスクがあり、本部自身が引き取るケースや別の加盟者へ引き継がせるケースもあります。M&Aの初期段階で加盟契約書を確認し、本部へ早めに相談することが安全です。
Q. スクールのM&Aの相談はいつ始めるのがよいですか?
なるべく早い段階で始めるのが望ましいです。スクール業はダウントレンドにある業態が多く、同じ運営を続けるだけで利益が下がっていきます。先送りするほど売り物件が増えて相対的に価値が下がるため、後継者不在や引退を意識し始めた時点が相談のタイミングです。譲渡の1年前から直近のPLを整え、離職率を下げておくと希望価格に近づけやすくなります。利益が出ているうちに動くほうが、良い相手と巡り合えます。