タクシー業界のM&Aのメリット・デメリット

1、タクシー業界のM&Aのメリット

タクシー業界では、M&Aが様々な場面で行われています。もちろん、タクシー業界においては、「営業区域」というものを、M&Aで一気に拡大させるメリットがあることが特徴です。船井総研グループでは、企業運営において、以下の「差別化の8要素」を提唱しています。

  • 立地
  • 規模
  • ブランド力
  • 商品力
  • 販促力
  • 接客力
  • 価格力
  • 固定客化力

また、一般的には、上記1~3については、戦略的差別化(=直ちに変更することが出来ない)、上記4~8については、戦術的差別化(=企業努力で、短期的に変えることが出来る)としており、営業区域のあるタクシー業界においては、「1、立地」が非常に重要な点であることに間違いはありません。

それに加えて、長期目線では、「2、規模」「3、ブランド力」を戦略的に高めていくこと、短期・中期目線では、「4、商品力」「5、販促力」「6、接客力」「7,価格力」「8、固定客化力」を戦術的・戦闘的に高めていく必要もあり、追求すべき理想のタクシー事業運営を、自社単体で行うことが可能なのか、M&Aを活用することで、理想のタクシー事業運営に到達することを目指すのかの比較検討も重要になって参ります。 

多くのタクシー会社が、人材採用、人材教育等で、「6、接客力」や「8,固定客化力」を磨き上げていらっしゃるかとは思いますが、それ以外の多くの点において、差別化が難しいと思われるタクシー業界においては、「M&A」も重要な戦略の一つであると考えています。 

その中で、タクシー業界においては、コロナ禍という短期的に乱高下した需要が、今後は回復・継続することを期待するだけの経営を行うのか、アフターコロナからの長期的な目線で、選択肢としての「M&A」をしっかりと検証した経営を行うのか、自社の大きな分岐点となり得る、非常に重要なタイミングであると考えます。

2、タクシー業界のM&Aのデメリット

タクシー業界に限った話ではないかもしれませんが、M&Aには、一定の投資資金が掛かることから、そのリスクを負担する必要があることがデメリットとして挙げられます。

また、M&Aの検討を進めるなかで、M&Aの「成約」を重要視するばかり、想定以上の高値で譲り受けしてしまうことや、M&A前に行う買収監査(デューディリジェンス)を形式的に行ってしまうこと、簡易に済ませてしまうことで、粉飾決算や簿外債務等が、譲受後に判明してしまうようなケースで、投資した金額の回収が、計画通りに進まないことが挙げられます。 

更に、よく事業には、「導入期」「成長期」「成熟期」「移行期」「安定期」のライフサイクルがあるとよく言われますが、そのライフサイクルに応じて、M&Aにおける取引環境・市場環境も大きく変化するものであり、一般的には以下のような環境変化で推移すると言われています。

  1.  「導入期」は、ベンチャー期として、業績・実績ではなく、ビジネスモデル、技術などに着目
  2. 「成長期」は、売手有利のM&Aが進みやすく、高い株価での取引が成立することが多い
  3. 「成熟期」は、中堅大手による中小企業買収など、買手主導・買手有利のM&Aが進む
  4. 「移行期」は、中堅大手の再編が進み、業界再編として動き出す
  5. 「安定期」は、業界再編が一巡、業界内M&A終了、再編後に残った企業で業界が安定推移

タクシー業界は、まだまだ大手の寡占化が進んでいるという状況にはなく、事業としては「成熟期」になりながらも、業界再編等については遅れているような業界であると思われます。 

その理由は、やはり「営業領域」という既得権に一定程度守られている業界特有の事情から、このように業界再編が進んでいないのではないかと推察しています。もちろんこれは業界のメリットでもあるのですが、もし今後、業界の規制が、大きく変更になった場合や、新型コロナのような外的要因がまた発生した場合には、業界環境が大きく様変わりすることも予想されます。

3、M&Aの「時流」を、今後は十分に考慮してください。

このように、M&Aにはメリットとデメリットがあるとともに、加えて「時流」とは、密接な関係があり、実際の「企業価値評価」「株価」「取引対価」等の条件面だけではなく、「提携・M&Aの相手先の探索」「相手先とのマッチング」にも大きな影響を与えるものであります。

自分たちのビジネスが、ライフサイクルのどこに位置しているのか、また自分たちのビジネスが時流の中で、どのようなポジションを担っているのかを把握することが、日常のビジネス運営はもとより、M&Aの実行の判断でも、今後ますます重要になってきます。

M&Aが全ての企業において、重要な常套手段となっており、自社の成長戦略のため、また成長のための「時間を買う」という観点から、M&Aというものを改めて検討するひとつのきっかけになれば幸いです。

松本 武

(株)船井総研あがたFAS チーフコンサルタント

大学卒業後、ノンバンクへ入社。 営業・法務・管理部門を担当する中、当該ノンバンクが投資ファンドに買収されたことにより、その後、投資ファンド側でのM&A(企業買収・売却)や事業再生支援に従事、買収企業でのハンズオン支援などにも携わる。 2019年船井総合研究所に入社。M&A部門にてエネルギー業界、人材派遣業界、サービス業等幅広い業界でM&A成約のサポートを行っている。

松本 武

(株)船井総研あがたFAS チーフコンサルタント

大学卒業後、ノンバンクへ入社。 営業・法務・管理部門を担当する中、当該ノンバンクが投資ファンドに買収されたことにより、その後、投資ファンド側でのM&A(企業買収・売却)や事業再生支援に従事、買収企業でのハンズオン支援などにも携わる。 2019年船井総合研究所に入社。M&A部門にてエネルギー業界、人材派遣業界、サービス業等幅広い業界でM&A成約のサポートを行っている。