葬祭業の事業承継は、子どもや社員の誰に継がせるかを決める前に、会社をどの道に進めるかを選ぶところから始まります。道は大きく3つで、資本力のある会社へ譲渡する、周りの葬儀社を譲り受けて統合する側に回る、単独で続ける、のいずれかです。
どの道を選ぶにしても、譲渡までに何年あるかで今やるべきことが変わります。当社(株式会社船井総研あがたFAS)代表取締役社長の光田卓司の見立てでは、譲渡が10年先なら3〜5年は出店して件数を増やす時期で、譲渡が近いなら新しい会館の出店は控える時期です。
光田は2008年に株式会社船井総合研究所に入社し、20年近く葬祭業の経営コンサルティングに携わってきました。支援してきた葬儀社は約160社で、地域で一番手の葬儀社から上場企業まで、規模の違う会社の経営を見てきました。全日本葬祭業協同組合連合会(全葬連)や日冠連経営者協議会、エンディング産業展などで講演も重ねています。葬祭業のM&Aには20件以上携わり、2022年に同社のM&A支援部の部長、2026年3月に当社の代表取締役社長に就きました。
葬儀社の出口戦略を整理するための資料として、【葬儀業界】出口戦略パッケージをご用意しています。自社の状況を葬儀業界専門のコンサルタントと確かめたい場合は、出口戦略診断もご利用いただけます。


葬祭業の事業承継は、継ぐ人より先に会社の進む道を決めます
葬儀社の事業承継を考え始めるきっかけは、後継者がいないことと、大手の出店や単価の伸び悩みといった商圏の変化の2系統です。自分の代で会社をどうするかという問いは、そのどちらからも始まります。
質問サイトや案件掲載サイトに書かれた「継がせない」「継がない」
インターネット上の相談にも、葬儀社の承継をめぐる書き込みが見られます。質問サイトの「実家の家業が葬儀会社だったら、継ぎますか?」という質問に付いた回答の一つは、「愚息には、跡を継がさず、20年後を目安に、廃業を考えている」というものです。継ぐ立場から「簡素化が進んでいるためジリ貧ぽいので継ぎません」と書いたのも、同じ質問への回答です。
別の質問では、約20年葬儀社に勤めたという回答者が「大手が近隣に式場建設した瞬間から会社自体が危なくなる可能性もあります」という見方を示しています。M&Aの案件掲載サイトBATONZ(バトンズ)に載った葬儀社の案件には、譲渡の理由欄に「気力の限界」と記したものもあります。
後継者の問題と商圏の変化は、同じ会社で同時に起きることもある問題です。仮に子どもが継ぐと決まっても、会館の出店を続けるのか、どこかのグループに入るのかという判断は残ります。誰に継がせるかより先に、会社の進む道を決める必要があるのはそのためです。

業績が良い時期に、成長のために譲渡を検討する葬儀社もあります
M&Aと聞くと、経営がうまくいかなくなった会社が手放したと思われがちだと光田は話します。ところが、光田が支援してきた葬儀社では、業績が順調なときに、さらに成長するために譲渡を検討するケースのほうが多いといいます。
背景にあるのは出店の重さです。件数を伸ばすには会館を出す必要がありますが、光田によれば1件の出店に1億円近くかかり、建築費も上がっています。家族葬でも付加価値をつけて単価を確保し、出店費用を回収するのが、光田の見てきたこれまでの勝ち方でした。単価を上げにくくなった今は、投資の回収に時間がかかります。
そこで、自社で借入を重ねて出店を続けるより、資本力のある会社と組んで出店を進めるほうがよいと考え、M&Aを検討する社長がいます。この場合の譲渡は、会社を伸ばすための選択です。
親族内承継・従業員承継の論点は、業種を問わず共通です
子どもや社員に継がせる場合の論点は、株式を誰にどう移すか、税負担をどう見込むか、後継者をどう育てるかです。これらは葬祭業に限らず、事業承継全般に共通します。株式の移し方と税金は会社ごとの事情で結論が変わるため、具体的な判断は税理士に確認してください。
親族内・従業員・M&Aの3つの方法の違いは『事業承継の方法3類型を比較|親族内・従業員・M&Aの違いと選び方ガイド』で、葬儀社が承継先を検討するときの基本は『葬儀社を売却する際に検討しておくべき情報』で詳しく扱っています。

譲渡・譲り受け・単独継続で、承継後の葬儀社の姿はこう変わります
葬儀社の事業承継で選ぶ3つの道は、承継した後の会社の姿がそれぞれ違います。下の表は、光田の話をもとに違いを並べたものです。
| 道 | 承継後に変わること | 検討を始める状況 | 先に確かめること |
|---|
| 譲渡 | 資本力のある会社のグループに入り、出店の速度が上がる | 件数を伸ばしたいが、自社の資金で出店を続けるのは重い | 相手のタイプで評価のされ方と譲渡後の運営が変わる |
| 譲り受け | 周りの葬儀社をグループに入れ、地域で件数をまとめる | 地域で売上10億〜20億円規模になっている | 譲り受けた後に投資を回収できるか |
| 単独継続 | 経営の判断が自社に残り、成長の資金と人も自社でまかなう | 商圏の死亡数と競合の見通しを自社で立てられる | 市場環境が良くなる前提を置いていないか |
譲渡|資本力のある会社と組み、出店の速度を上げる
光田は、資本力のある会社と一緒になると出店の速度が上がり、地域での件数が増えることで生産性と営業利益率が上がると説明します。単価を上げなくても、営業利益を確保して出店の投資を早く回収する形に持っていけるという見立てです。
そのため光田は、件数を多く手がけている会社と組むことが、これからの葬儀社の伸ばし方になると見ています。ただし、譲渡した後に現場の運営や社員の処遇がどう変わるかは、相手次第です。

譲り受け|地域で10億〜20億円規模の葬儀社は、統合する側に回れます
承継の選択肢は、譲るか続けるかの2つだけではありません。光田によれば、上場会社どうしの統合のような大手の再編は落ち着きつつあり、地域で売上10億〜20億円の会社が1億〜5億円規模の会社をグループに入れる形が増えています。地域の会社どうしで連合をつくる動きだ、というのが光田の見方です。
統合が進む理由は、地域で件数を集めると利益が上がりやすいからです。光田は、年200件・売上2億円の葬儀社では、式場に通夜も葬儀も入らない日が年に少なくとも165日あると説明します。地域で年1,000件を手がける会社なら、毎日どこかで施行があり、人が売上を生まない日がなくなります。年200〜300件・売上2億〜3億円の会社の営業利益率が5%前後にとどまる一方、地域で1,000〜2,000件をまとめている会社では15〜20%、多いところで25%に上がるというのが、光田が支援の現場で見てきた目安です。
自社がすでに地域で一定の規模を持っているなら、後継者の問題を、周りの葬儀社を迎え入れて体制を厚くする機会として考えることもできます。譲り受ける側の判断は『葬儀会社の譲り受けで押さえること|出店との比較と引継ぎ後の運営』で扱っています。

単独継続|選んでよい道でも、市場環境の好転を前提にしない
単独で続ける道も、光田の見方では十分にありうる選択です。そのうえで光田は、今より市場環境が良くなることはあまり考えられないとも話します。死亡数が減っていく地域もあれば、死亡数は増えても競合が増えていく地域もあるからです。
全国の数字だけで自社の先行きを判断すると、見誤ることがあります。国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(令和5年推計)」では、全国の死亡数は2040年に約167万人まで増える見通しです。光田は、このピークを押し上げているのは人口が集中する首都圏で、地方都市にはいまがピークの地域や、2033年ごろにピークを迎える地域が多いと指摘します。
自社の商圏がどうなっているかは、全国の数字とは別に押さえておく必要があると光田は話します。単独だけで考えるのが難しい場合もあるため、ほかの選択肢も手元に持っておくべきだというのが光田の考えです。

葬儀社の事業承継は、譲渡までの年数で出店の判断が変わります
後継者不足をきっかけに譲渡を考え始めた会社にとって、会館の出店を続けるかどうかは早めに決めておきたい判断です。光田によれば、譲渡までに時間がある会社と時間がない会社では、打つ手が大きく変わります。
| 譲渡までの年数 | 出店の判断(光田の話から) |
|---|
| 10年程度ある | これから3〜5年は出店し、件数を増やす |
| 近い | 新しい会館の出店は控える |
| すでに出店した | 会館の事業計画を作り、それをもとに交渉する |
譲渡まで10年あるなら、3〜5年は出店して件数を増やす
譲渡を10年後に考えている会社なら、光田はこれから3〜5年は出店を進めて件数を増やしたほうがよいと話します。出店すれば借入も増えますが、その分を返していけばよいという考え方です。
光田によれば、土地を探して建物を建てる出店は手間がかかるため、譲り受ける側から見ると式場が最初からそろっている会社は価値が高くなります。増やしておいた件数と式場は、譲渡のときの評価の材料にもなります。
譲渡が近いなら、新しい会館の出店は控える
反対に、譲渡が近い会社にとって新しい会館の出店は得策ではない、というのが光田の考えです。葬儀会館は出してから回り始めるまでに時間差があり、地域に知られるまでの1年目は件数が入りにくいからです。
譲渡の話を進める段階で稼働の浅い会館を抱えていると、その会館がこの先どれだけの件数を生むのかを示しにくくなります。出店の計画があるなら、譲渡の時期と並べて見直すのが先です。
出店した後に譲渡を考えるなら、事業計画を作って交渉に臨む
出店した直後だからといって、企業価値がつかないわけではありません。光田は、その会館がこれからどう稼働していくかを示す事業計画を作り、それをもとに譲り受ける側と交渉することを勧めています。

譲渡の相手によって、評価のされ方と準備が変わります
葬祭業の事業承継で譲渡を選ぶ場合、同じ会社でも相手によって評価のされ方が違う点に注意が必要です。光田は、5年後でも10年後でも譲渡を考えているなら、どの相手を想定するかを決めて、今から準備を組み立てておくよう勧めています。
ファンドが相手なら、借入に対する現金の厚みを見られます
光田によれば、ファンドが企業価値を見るときの方法はマルチプル法です。マルチプル法は、類似する上場企業と比べて価値を出す方法で、EBITDA(営業利益に減価償却費を足した数値)の何倍かという形で表します。
この方法では最終的に、手元の現金が借入金よりどれだけ多いかも評価に影響すると光田は説明します。ファンドへの譲渡を考えているなら、現金を積み増しておくことが準備の中心です。
事業会社が相手なら、純資産を厚くしておく
同業の葬儀社などの事業会社は、年買法で見ることがあり、マルチプル法と両方を使う場合もあります。年買法は、時価で見た純資産に、利益の数年分を足して価値を出す方法です。
事業会社への譲渡を考えているなら、利益をしっかり出して純資産を厚くしておくことが評価につながり、結果として現金も増えると光田は話します。会館の土地建物の扱いも相手で分かれ、光田によれば、互助会は自社所有のほうを、ファンドは賃借で資産を持たないほうを高く評価します。価格の決まり方は『葬儀社の売却相場と企業価値|評価を左右する会員数・会館・粗利率』で詳しく扱っているので、あわせて確かめてください。

社長に頼った運営は、引継ぎの体制まで含めて準備する
譲り受ける側が見るものの一つが、会社が社長一人にどれだけ頼っているかです。光田は、社員も顧客も、お寺などの宗教者も社長についている会社で、譲渡後に社長が抜けてしまうと、それまで保っていた件数が一気に下がることがあると指摘します。宗教者からの紹介も、関係を築いてきたのは社長であることが多いと光田は話します。
そのため、社長が譲渡後にどの立場でどれくらい残るかは、交渉の段階で決めておくべき事項です。光田は、譲り受ける側が社長に残ってもらい、2〜3年かけて引き継ぐ提示をしてくるかどうかを見るよう勧めています。屋号・社員・紹介の関係が相手によってどう変わるかは、『葬儀会社の売却先の選び方|屋号・社員・地域の紹介はどう変わるか』を参照してください。
葬祭業の事業承継の相談は、決める前の段階で十分です
葬祭業の事業承継で、譲渡するか、譲り受けるかを急いで決める必要はないと光田は話します。ただ、業界が変わっていくことは前提に置くべきです。かつて家族葬など考えられないとしていた地域でも、今はほとんどが家族葬になっていると光田は話します。
決める前の段階で選択肢を並べておく意味は、そこにあります。利益が出ているかどうかに関わらず、相談は5年後・10年後に会社をどうしたいかという話からで十分です。
光田は、M&Aがいちばんよい選択であればそう伝え、自社で伸ばすほうがよい会社には、そのまま自社で続けるよう伝えると話しています。相談先を選ぶときは、M&Aを前提にせず単独継続も含めて比べてくれるか、会館・件数・出店の回収といった葬儀社の経営の中身を踏まえて話をしてくれるかを確かめてください。

【まとめ】葬祭業の事業承継は、譲渡までの年数を決めることから始まります
葬祭業の事業承継は、誰に継がせるかの前に、譲渡・譲り受け・単独継続のどの道を進むかを選ぶ話です。次の順で整理を始めてください。
- 3つの道を並べ、自社の規模と商圏でどれが現実的かを書き出す
- 何年後に判断するか、譲渡するならいつごろかの目安を決める
- 自社の商圏の死亡数の見通しと、競合の出店の状況を確かめる
- 決めた年数に合わせて出店計画を見直し、想定する相手に合わせて現金や純資産の準備を始めます
業界全体でいま何が起きているかについては、『葬儀・葬祭業のM&A|業界再編の今と価格・相手選びの考え方』で整理しています。
売主向けの解説書・企業価値算定シート・事業承継の診断シートをまとめた【葬儀業界】出口戦略パッケージを無料でお届けしているので、選択肢を整理する材料としてお使いください。どの道が自社に合うかを決める前の段階でも、ご相談を承っています。
M&A・事業承継の無料レポート一覧
当社では、葬儀業界専門のコンサルタントがM&Aをサポートしています。


よくある質問
Q. 葬祭業の事業承継にはどんな選択肢がありますか?
葬祭業の事業承継には、資本力のある会社へ譲渡する、周りの葬儀社を譲り受けて統合する側に回る、単独で続ける、の3つの道があります。このほか、子どもや社員に継ぐ親族内承継・従業員承継もあり、株式の移し方や税負担は業種を問わず共通の論点です。出店を続けるか控えるか、現金と純資産のどちらを厚くするかといった今やるべき準備が道ごとに違う点も、早めに道を決めておく理由です。
Q. 後継者がいない葬儀社は廃業するしかないのですか?
後継者がいない場合でも、廃業のほかに、資本力のある会社へ譲渡する道や、周りの葬儀社を譲り受けて統合する側に回る道が候補になります。当社代表取締役社長の光田卓司によれば、地域で売上10億〜20億円の会社が1億〜5億円規模の会社をグループに入れる形が増えており、光田が支援してきた葬儀社では、業績が順調なうちに成長のために譲渡を検討するケースのほうが多いといいます。廃業を決める前に、3つの道を並べて比べるのが先です。
Q. 葬儀社の事業承継はいつから準備すればよいですか?
葬儀社の事業承継は、譲渡を考える時期の10年ほど前から準備を始めると、打てる手が多くなります。当社代表取締役社長の光田卓司は、譲渡が10年先なら3〜5年は出店して件数を増やし、譲渡が近いなら新しい会館の出店は控えるよう話しています。会館は出してから地域に知られるまでの1年目は件数が入りにくく、譲渡の直前に出すと稼働の見通しを示しにくくなるためです。
Q. 新しい会館を出したばかりの葬儀社でも譲渡できますか?
新しい会館を出した直後でも、譲渡の話を進めることはできます。当社代表取締役社長の光田卓司は、出店したから価値がつかないということはないとしたうえで、その会館がこれからどう稼働していくかを示す事業計画を作り、それをもとに譲り受ける側と交渉することを勧めています。葬儀会館は地域に知られるまでの1年目は件数が入りにくく、決算書の数字だけでは会館の見込みが伝わらないためです。
Q. 葬儀社を売却した後、社長はどうなりますか?
葬儀社の譲渡後も、社長が一定期間会社に残り、宗教者からの紹介の関係を引き継ぐ形が選択肢の一つです。当社代表取締役社長の光田卓司は、社長が築いてきた紹介の関係が途切れると件数が下がるおそれがあるため、譲り受ける側が2〜3年かけて引き継ぐ提示をしてくるかを見るよう勧めています。譲渡後に社長がどの立場でどれくらい残るかは、交渉の最初の段階で決めておくべき事項です。
葬儀社のM&Aを動画で見る
葬儀社のM&Aや事業承継について、当社代表取締役社長の光田卓司が話す動画をYouTubeで公開しています。画像を押すと、YouTubeで再生が始まります。

再生リスト「葬儀業界向け事業承継・M&A」
動画は順次追加します。
▶ YouTubeで再生リストを見る