増加傾向にあるM&A
2023年版『中小企業白書』によれば、中小企業のM&Aは増加傾向にあり、その目的も事業承継だけではなく、売上や市場シェアの拡大、人材の獲得など成長戦略の一つとして捉えられてきています。そのため、複数のM&Aを実施する中小企業も見受けられるようになりました。
ところで、M&Aにより取得した子会社株式は、貸借対照表では資産の部に計上され、原則として、費用にはなりません。言い換えれば、配当や子会社との取引による利益により投下した資金の回収をしても、これに対応して計上する費用はないため、投資効率が悪いとみることもできます。
税制による後押し
そこで、2024年度税制改正により、成長意欲のある中堅・中小企業が、複数の中小企業を子会社化し、グループ一体となって成長していくことを後押しするため、既存の「中小企業事業再編投資損失準備金制度」が拡充されました。この制度は、一定の要件を満たした子会社株式の取得について、その取得価額のうち一定額を損金算入する制度です。
既存の制度
もともと、M&Aにより経営資源の集約化を図る中小企業者等が簿外債務など買収後に顕在化するリスクに備えるために、この制度は設けられました。具体的には、2027年3月31日までに事業承継等事前調査(実施する予定のデューデリジェンスの内容)に関する事項が記載された経営力向上計画の認定を受けた中小企業者等が、株式取得によってM&Aを実施する場合に(取得価額10億円以下に限る)、株式等の取得価額として計上する金額(取得価額及び取得に要した費用の合計額)の70%相当額を「中小企業事業再編投資損失準備金」として積み立てたときは、これを損金算入でき、5年経過後に当該準備金額を5年間で均等に取崩して益金に算入する課税の繰延制度です。
2024年度税制改正
2024年度税制改正により、既存の制度に加え、過去5年間にM&Aを実施した中堅・中小企業が、産業競争力強化法において新設された特別事業再編計画の認定を受けて株式取得によるM&Aを実施した場合には、認定後1回目のM&Aにおいては株式取得価額の90%、2回目以降は100%の金額を準備金として積み立てた場合に、これを損金算入するという新制度が設けられました。
この新制度を適用するためには、①改正産業競争力強化法の特別事業再編計画の認定を受けること、②その計画に基づいて株式を取得(取得価額100億円を超える金額又は1億円に満たない金額である場合及び一定の表明保証保険契約を締結している場合を除く)し保有していること、③取得価額の90%(2回目以降は100%)以下の金額を準備金として積み立てることが必要です。また、益金算入を開始する期間が、5年経過後から10年経過後に延長されました。
このように課税の繰延効果が一層増したことにより資金繰りに寄与するメリットは大きいでしょう。
さらに、新制度を適用できる法人は、過去5年以内にM&Aを実施したことのある中小企業者等又は中堅企業者(いずれも常時使用する従業員数が2,000人以下の会社及び個人)も対象とされた点も見過ごせません。
手続の流れ
①M&Aの相手方が決まったタイミング(基本合意後等)を目途に、事業を所管している省庁に事前相談をします。これには約2カ月程度かかる見通しです。
②基本合意後、クロージング前までに、特別事業再編計画の認定を受ける必要があります。その認定には、申請から1カ月程度かかります。なお、デューデリジェンスは、申請後に行わなければなりません。
③認定後にM&Aのクロージングを実施し、その旨を主務大臣(所管省庁)に報告し、確認書を受領します。
④税務申告書に、上記②の認定書と③の確認書を添付しなければなりません。なお、事後に、実施状況の報告が必要で、公表されます。
余裕を持ったスケジュールで
特別事業再編計画は、5年以内の計画で、成長要件、財務健全性要件など、多くの記載事項が求められています。さらに、特別事業再編計画の認定には、事前相談から認定まで最短でも3カ月程度は要するため、本制度の適用に当たっては、余裕を持ったスケジュールで臨む必要があります。本制度の適用を受けるためには、専門家と綿密に連携することが望ましいです。適切な助言と支援を受けながら、慎重かつ計画的に実行することをお勧めします。
本コラムは以上となります。
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事業承継・M&Aに関する基礎知識関連情報は、下記の記事をご参照ください。
1.M&A用語集
2.M&Aと税金
3.株式譲渡
4.株式交換
5.第3者割当増資
6.合併
7.M&A後の譲渡企業
8.M&Aの流れとスキームの種類
9.会社分割
10.事業譲渡