はじめに
前回コラムでは、MBO(LBOローン活用ケース)の概要をお伝え致しました。
今回は、LBOローン活用によるレバレッジ効果(投資効率のアップ)について、簡略化した数値モデルを用いて、できるだけ具体的にお伝えしたいと思います。
シナリオ①
まず、LBOローンを活用しないケースを想定してみます。
投資実行時における投資対象会社の企業価値が100、投資先の株式譲受け資金は全額手許資金で賄った(即ち、LBOローンなし)とします。なお、エクイティ出資者はPEファンド、対象会社(投資先)経営陣・(幹部)従業員です。
下記概念図のように、投資実行後、4年間で企業価値を100から150に向上させ、4年後に、150で投資回収(IPO(株式公開)または第三者への株式譲渡(新たな資本提携))を図ったと想定します。
①概念図 (SPC(特別目的会社(株式譲受けの受皿会社))の時価(Fair value:公正価値)BSのイメージ。以下、全てのシナリオにおいて同様。)

②投資効率(投資収益率)
上記のシナリオのもとでは、投資額100は4年後に1.5倍(=150÷100)となり、また、IRR(内部収益率)は下表のとおり、10.7%となります。
なお、IRRとはInternal Rate of Return(内部収益率)の略で、投資効率を測るための指標です。初期の投資額と将来のキャッシュフローの現在価値を等しくする「割引率(利回り)」のことです。誤解を恐れず、あくまでもイメージを掴んで頂くために簡単に申し上げますと、「投資額を毎年複利運用する場合の年率利回り」とも言えます。

シナリオ②
次に、上記のシナリオ①のもと、LBOローンを活用した場合を想定してみます。
投資実行時の資金100を、ローンで60、手元資金40で賄い、かつ、ローンは投資回収時に一括返済するものと想定します。

②投資効率(投資収益率)
このシナリオ②の場合、投資額40が4年後に90(2.25倍)になり、また、IRRは下表のとおり、22.5%と、シナリオ①に比べ、IRRが凡そ2倍に改善することなります。これがレバレッジ効果と呼ばれるものです。

シナリオ③
最後に、上記シナリオ②に、ローンを毎年△10返済する事(原資は投資先のフリー・キャッシュフロー)を追加的に想定してみます。
この場合、ローンが40減少し(=△10×4年)、その分、エクイティへの配分額が130(=90+40)に増えます。

②投資効率(投資収益率)
投資額40は、4年後に130(3.25倍)になり、また、IRRは下表のとおり34.3%へと、シナリオ②に比べ11.8%(=34.3%-22.5%)改善することとなります。つまり、ローンを活用すると共に、投資先のフリー・キャッシュフローを原資として、できるだけ早めに返済を行った方が、IRRが高くなる、即ちレバレッジ効果がより大きくなる、ということです。
ちなみに、PEファンドが期待するIRRは、凡そこの水準(30%~40%程度)です。

ローン活用における留意点
上記のようにレバレッジ効果を上げるには、留意点があります。
MBOという大きな節目に借入を増やすことから、財務リスクが従来よりも相応に高くなります。一方で、収益性やキャッシュフロー獲得力も改善する等のシナリオ(事業価値向上策)を用意するとはいえ、従来よりも緻密に経営計画、資金収支計画等を練り上げると共に、投資実行後の経営管理も高度化(モニタリング体制を強化)する必要があります。
今回のまとめ
MBOに際してLBOローンを活用する場合、投資効率を向上させることができる一方で、財務リスクが高くなる為、レンダー(金融機関等の貸付人)もモニタリングの水準を、通常のコーポレート・ローンに比べて高く設定します(借入契約に盛り込まれるコベナンツ(誓約)条項も多岐に及びます)。
次回のコラムでは、レンダー等からどのようなモニタリングを受けることになるかについて、お伝えしたいと思います。
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事業承継・M&Aに関する基礎知識関連情報は、下記の記事をご参照ください。
1.M&A用語集
2.M&Aと税金
3.株式譲渡
4.株式交換
5.第3者割当増資
6.合併
7.M&A後の譲渡企業
8.M&Aの流れとスキームの種類
9.会社分割
10.事業譲渡